COP29開幕直前!注目される論点は

気候変動2024.11.11

11月11日からアゼルバイジャンの首都バクーで国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が開催されます。今年のCOPは「資金のCOP」と呼ばれるほど、資金に関する議題が注目を集めています。注目が集まる背景などをまとめました。

気候危機に対し、圧倒的に足りない各国の対策努力

昨年は観測史上最も暑い年となりましたが、今年の日本の夏も記録を更新し、最も暑い夏となりました。大雨や台風、熱波等で大きな影響が出ています。インフラの損壊だけでなく、多くの命が失われています。今年5月から9月に、熱中症で救急搬送された人の数は過去最高の97,578名でした(総務省)。

気候危機を食い止めるためには、抜本的な排出削減や、すでに生じている被害への対応が必要です。しかし、国連気候変動枠組条約の事務局が10月に発表したNDC統合報告書(NDC=各国の気候変動対策)によると、各国が国連に提出した削減目標を積み上げても、2030年に2019年比でたった2.6%の削減にしか至らないことがわかっています。世界の気温上昇を1.5℃以内に抑えるというパリ協定の目標達成のためには2030年までに43%の削減が必要で、このままでは目標達成はほぼ不可能です。

各国政府は新しいNDCを来年2月までに提出する必要がありますが、日本を含め目標の強化が必要です

グローバル・サウスの行動を左右する資金支援

野心的な目標を設定することも重要ですが、設定した目標に向かって行動が伴わなければ意味がありません。また、その行動を可能にする一つの鍵が先進国から途上国への資金・技術支援です。

これまで、先進国が途上国に対し2020年までに年間1千億ドルの気候資金を拠出するという資金目標がありました(2010年COP16カンクン会議で合意)。しかし、この目標は達成されませんでした。OECDは2022年にこの目標が達成されたとしていますが、借款等が多く、むしろ途上国の財政を悪化させかねません。貧困問題に取り組む国際NGOオックスファムの調査によれば、贈与ベースでカウントすると、2022年、230-350億ドル程度の気候資金しか提供されていません。気候資金は公的な資金でかつ無償であるべきです。既存の開発課題の対応に加え、気候災害により大きな資金負担を強いられているグローバルサウスに対し、借款は新たな負担を産んでしまいます。また民間資金の動員が強調される傾向にありますが、民間資金は資金拠出の予測が難しく、また利益が出やすい事業に資金の流れが偏ることも懸念されています。

今回のCOPでは、すでに4年間議論している次の資金目標の合意(New Collective Quantified Goal on Climate Finance(NCQG)、気候資金に関する新規合同数値目標)に至れるかどうかが注目されています。もしCOP29で野心的な目標額に合意できなければ、グローバルサウスの国々が野心的なNDCを設定したり、設定したNDCを達成できないことも危ぶまれます。

オイル・チェンジ・インターナショナルの試算によれば、化石燃料への補助金をやめ、化石燃料企業に適切に課税をするなどを行えばグローバル・ノースの国々は年間5兆ドルの気候資金を捻出できるとしています。

また昨年のCOPでは、気候変動によりすでに生じている損失に対応するための基金(「損失と被害に関する基金、FRLD」)が立ち上がりました。しかし、この基金にはまだ7億ドル分の資金供出しか表明されておらず、基金が機能し、グローバルサウスの損失と被害のために資金支援が行われるようにするために、今回のCOPで先進国による拠出義務にどの程度踏み込めるかも注目される点です。

さらに11月5日の米国大統領選挙の結果、来年初頭からトランプ政権が始まり、米国は現政権下でも資金合意に加わらない可能性が高くなっています。またトランプ前大統領は、前政権発足初日にパリ協定から脱退を表明したことから、米国抜きでのパリ協定や国連の下での気候変動対策枠組み自体の存続の意義がCOP29の現場でも問われることになりそうです。

昨年のCOPで化石燃料からの脱却に合意したが…

昨年のCOPでは、グローバルストックテイク(世界の気候変動対策の進み具合を確かめる作業)に関する決定文書において化石燃料からの脱却(Transition away from fossil fuel)が盛り込まれました。これは、COPの歴史上画期的と言われた一方、原発や水素、CCSなどの技術も低炭素技術として盛り込まれ、市民社会からは強い懸念の声がでました。

例えば、CCSは炭素回収貯留のことで、発電所や工場からでるCO2を回収し地中に埋める技術を指します。しかし、コストが非常に高く、実現例も少なく、排出される全てのCO2が回収される訳ではありません。日本などでは、石炭火力発電所にCCSを設置して脱炭素化しようとする動きがありますが、必要なのは石炭火力からの脱却で、石炭火力発電所の延命ではありません。日本では、国内に貯留可能性が低いことから国内で回収したCO2をマレーシアやインドネシアに運んで捨てる議論もされています。

気候危機を食い止めるため、CCSや原発などの危険な技術に頼るのではなく、化石燃料に依存した社会から、公平な形で、労働者やコミュニティを取り残さず、かつ迅速で確実に転換していけるかが重要です。再生可能エネルギーの拡大やエネルギー効率の改善が重要ですが、グローバルサウスでも再生可能エネルギーを拡大するための先進国からの資金支援や技術支援、そして再生可能エネルギーの拡大の際に、再エネに必要な重要鉱物の採掘が人権侵害や環境破壊に繋がらないことなどを担保する必要もあります。

なお、日本政府は原発やアンモニア、CCSなどの「誤った気候変動対策」に力を入れるだけではありません。そもそも、化石燃料への公的支援をやめていないのです。日本を含むG7の国々は2022年G7エルマウサミットにて国際的な化石燃料事業への公的支援を2022年末までに停止するとしました。それにもかかわらず、日本は公的金融機関を使って化石燃料事業、特に液化天然ガス事業への支援を継続しています。2022年末以降、国際協力銀行(JBIC)が化石燃料事業に融資した額は39億ドルにのぼります。JBICが投融資を行う化石燃料ガス事業は気候変動を加速させるだけでなく、現地住民や生態系への悪影響も生み出しています。

炭素市場はCO2を減らさない

日本政府が力を入れて交渉している議題にパリ協定6条の市場メカニズムがあります。6条は削減したCO2排出量をクレジット化(金融商品化)し、国際的に取引するルールについて定めています。

炭素市場は基本的に、ある場所での排出削減量を買って他の場所でその分の排出ができる、いわゆる相殺(オフセット)のクレジット取引制度です。削減事業が追加的な削減に繋がっているのか(「追加性」の有無)厳格に審査されなければ、排出量は増加します。欧州委員会の報告書では、京都議定書のもとにおける市場メカニズムであるCDM事業のほとんどに追加性がないと評価しています。

炭素市場やオフセットクレジットがCO2の排出削減に繋がっていないだけでなく、むしろ地域社会や環境に悪影響を及ぼしたり、排出を促しているていることを示す調査が増えています。日経新聞の調査報道により実際の削減量を水増しして発行した疑いがある事業のクレジットがLNG(液化天然ガス)のネットゼロ(差し引き実質ゼロ)の達成を主張するために使われていたことが明らかになりました。

昨年のCOPでは炭素除去に関する方法論をめぐり議論が紛糾、交渉は決裂しました。6条4項に関する監督委員会は、除去事業に関する方法論(除去事業スタンダード)をまとめていますが、貯留された炭素がもし漏洩した場合に誰が責任をもつのか、陸地や海洋にCO2を貯留することで生態系にどのような影響があるのかなど、様々な課題や問題が残されています。

気候正義のために平和の実現を

今も世界では紛争や争いが続いています。パレスチナにたいするイスラエルによる軍事攻撃が続き、子どもを含めたくさんの人がなくなっています。気候正義の実現は平和や人権の尊重なくしてかないません。FoEグループは気候正義とともに停戦・平和も求めて活動していきます。(深草亜悠美)

アクションにもぜひご参加ください!

COP29アクション「再エネ増やしてホンキの気候変動対策を」浅尾環境大臣お願いします!
日時:11月15日(金)19:00~20:00
場所:新宿駅南口(LUMINE 2の近く)
主催:ワタシのミライ、Fridays For Future Tokyo、350.org Japan

 

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