カルカシュー湖の漁業者を脅かすLNG開発ーアメリカ・メキシコ湾岸ガス開発現場視察報告(3)

脱化石燃料2024.7.5

アメリカ南東部に位置するメキシコ湾岸。その名の通り、海岸線はアメリカからメキシコへと伸び、湾を出るとキューバ、そしてカリブ海へと繋がっています。生物多様性豊かなテキサス州やルイジアナ州の沿岸地域は、近年巨大化するハリケーンの影響を顕著にうける地域であり、奴隷貿易や黒人奴隷が使役されていたプランテーションの中心地の一つでもありました。2023年10月末、アメリカのメキシコ湾岸周辺で急速にすすむ液化天然ガス(LNG)事業による地域への影響を知るために、FoEJapanはテキサス州とルイジアナ州を訪ねました。ブログシリーズの第三回目をお届けします。
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視察3日目、私たちはルイジアナ州に入りました。昨日、対岸から見たザビーンパスLNGの横を走り、湿地帯を通り抜けて東へと向かいます。

写真:ザビーンパスLNG付近にて。湿地が広がっている。

LNGターミナルは、港湾施設です。LNGは通常船で運ばれるため、ターミナルは海沿いに建設されます。

写真からもわかるように、ルイジアナ州南西部のLNG施設の周辺は豊かな湿地、そして海に囲まれています。この辺りに生息するアリゲーター(ワニ)は観光資源になっているようで、道すがらアリゲーターと触れ合うための施設もありました。ザビーンパスLNGはシェニエール・エナジーという企業が運営していますが、現地の人はバイユー(Bayou)と呼んでいます。シェニエールというのは湿地や沼を意味し、バイユーは、ルイジアナ周辺アメリカ南西部でゆっくりと流れる小川や湿地帯をさす言葉だそうです。

ザビーンパスを後にした私たちは、カルカシュー湖のあるキャメロンへと向かいます。

キャメロンでは、Better Bayouという団体の代表であるジェームズ・ハイアットさんはじめ、ルイジアナ・バケットブリゲード、シエラクラブのメンバーなどが迎えてくれました。

ジョン・アレアさんという方の土地にお邪魔し(アレアさんは当日不在でしたが快く訪問を受け入れてくれました)、みなさんの話を伺いました。

アレアさんは、長年ルイジアナの沿岸に住まわれている方で、普段この土地でバードウォッチングなどをして過ごしているそうです。不在のアレアさんにかわり、ハイアットさんが、この湿地がたくさんの生き物の住処となっていることを説明してくれました。

写真:アレアさんの土地で。LNGターミナルが目の前にみえる。夜間もフレアリング(ガスを焼却処分すること)が行われ、とても明るいという。

午後には、地元の漁師であるトラヴィス・ダーダーさんの船に乗って、カルカシュー湖の湖上からLNG施設を視察しました。

写真:トラヴィス・ダーダーさん。漁師。エビ漁を生活の糧としている。

ダーダーさんによると、カルカシューパスLNGが2022年に稼働を開始してからというもの、エビの漁獲量が激減したそうです。たくさんの船が行き交うので、カニのための罠も壊れてしまうそうです。ハイアットさんによると、地元の漁業者は昨年までと比べ、漁獲高が9割も減少したと話しているとのことでした。

ダーダーさんは、LNG施設のすぐ近くに住んでおり、建設作業時には家にその振動が伝わってくると言います。カルカシューパスLNGの横にはCP2という新たなLNG事業計画が進んでいます。ダーダーさんは「LNGプラントが全て立つ頃には魚がいなくなっているだろう。もしLNG事業がそんなにいいものなのなら、なぜ漁業は衰退し、(LNG企業の)重役ばかり金持ちになるのか?」とLNG開発を非難します。

カルカシュー湖周辺ではカルカシューパスLNGとキャメロンLNGがすでに運転していますが、それ以外に既存のカルカシューパスLNGの近くにCP2、コモンウェルスLNG、そして湖の北側にドリフトウッドLNG、レイクチャールズLNG、マグノリアLNGなどの建設・計画が進んでいます。キャメロンLNGは、拡張計画が進んでおり、日本の公的金融機関である日本貿易保険が拡張事業への付保を検討しています。

表:カルカシュー湖周辺のLNG事業

事業名ステータス事業者主な日本の関わり
キャメロン稼働中センプラ三菱商事などが出資JBICによる融資支援
カルカシューパス稼働中(コミッショニング中)ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
CP2審査中ベンチャーグローバルJERAがLNGの購買契約
コモンウェルス許可取得=延期コモンウェルスLNG
ドリフトウッド許可取得済テルリアン
マグノリア許可取得=延期マグノリアLNG
レイクチャールズ許可取得=再申請エナジートランスファーSMBCがフィナンシャルアドバイザー

図:メキシコ湾岸で進むLNG建設。青=稼働中、緑=建設中、黄色=許認可、オレンジ=審査中、*=拡張計画あり(出典:グリーンピース

カルカシューパスLNGは2022年に稼働を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードのモニタリングレポートによると、稼働する181日のうち、71日はフレアリングが行われ、その後ベンチャーグローバル社自らが報告した分も足し合わせると、181日中115日フレアリングが行われていたことがわかりました。実に稼働期間の63%にあたります。環境影響評価ではフレアリングはこのように頻繁に行われる想定ではなかったとのこと。

全米で第4位の輸出容量(14.5mtpa)を誇るキャメロンLNGは2019年にLNG輸出を開始しました。ルイジアナ・バケットブリゲードの調査によると、稼働を開始して以来、2023年1月までの時点で既に67回、つまり月に2度もの漏出事故を起こしていています。これらの事故のうち48件は、熱酸化装置のトリップが原因で、事故はいずれもメタン、揮発性有機化合物、がん発症を誘発するベンゼン、その他の有害汚染物質の漏出につながっていました。ルイジアナ州の規制当局が2度調査を実施し、キャメロンLNGが大気汚染に関する許可証に違反したという結論が出されましたが、なんの罰金も課せられていません。

ダーダーさんの船で航行する間、船の横には数多くのペリカンが飛び交い、イルカたちが自由に泳いでいました。

写真:カルカシュー湖のイルカたち。たくさんのイルカが群れをなして泳いでいた。

ハイアットさんは「湿地は食料品店のようなものです。何世代にもわたって私たちに恵みをもたらしてきたのです。しかし私たち人間は絶え間なく汚染を続け、終わりがないかのように採掘や搾取を続けていますが、それを続けていくことはできません。人々ではなく、利益だけを追求したら何が起きるでしょうか。私たちが化石燃料に対する依存を断ち切れないことで将来子どもたちに降りかかる重荷について考えています。」と話してくれました。

日本の官民はアメリカでのLNG開発に多額の資金を投じています。

一方、2023年1月26日、米バイデン政権が化石燃料の一種である液化天然ガスについて輸出許可申請がされている事業に対する許認可の判断を一時停止すると発表しました(参照:FoE Japanブログ「バイデン政権によるLNG輸出許可一時停止の意味とは」)。その間に認可の際の判断基準の改訂をするとしています。気候危機を食い止め、環境や地元の人々への影響を考えると、バイデン政権は正しい第一歩を踏み出したと言えます。しかし日本政府は日本のエネルギー安全保障が脅かされることを懸念しています。

一方で、現在の第6次エネルギー基本計画においては、2030年のエネルギーミックスにおけるガスの割合を2019年の37%から20%に減少させるとしています。バイデン政権の決定は、すでに許認可を得ているLNG事業には影響がないため、短期的には日本へのLNG供給に影響はないと見られています。したがって、今回の決定が短期的に日本のエネルギー安全保障を脅かすとは言い難い状況です。

長期的に見ても、気候危機回避のためには、ガスを含む全ての化石燃料からの脱却が必要とされています。世界の平均気温の上昇を1.5℃以下に抑えるというパリ協定の目標の達成のためにも、地域の人々の綺麗な空気への権利を守るためにも、今、エネルギー転換を考えなければなりません。

(深草亜悠美)

 

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