【声明】ミャンマーで軍を利する問題事業に出資する官民ファンド、損失を公表 問われる監督官庁の国土交通省の人権擁護の責任
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2024年6月28日
【声明】
ミャンマーで軍を利する問題事業に出資する官民ファンド、損失を公表
問われる監督官庁の国土交通省の人権擁護の責任
メコン・ウォッチ
国際環境NGO FoE Japan
ミャンマーで3つの都市開発事業に出資や債務保証をしている株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)は6月26日、2023年度決算における当期純損失が約799億円にのぼるとホームページの情報を更新する形で公表しました[1]。そのうち約179億円がミャンマーでの都市開発3事業で計上された損失でした[2]。
JOINは国土交通省が所管する2014年に設立された官民ファンドですが、「官民」とは名ばかりで、現在公開されている2023年3月末現在の株主情報では、民間出資は全体の3%にも満たない約60億円しかなく、国の財政投融資特別会計からの支出が2,188億円と97%以上を占めます[3]。つまり、実質的には公的資金で運用されているファンドです。
今回公表されたミャンマーに関する損失約179億円は、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで建設の進む以下の3事業についてです。
・ヤンキン都市開発事業(投資額最大57億円+債務保証額約137億円)
・ヤンゴンランドマーク事業(別名称ヨマセントラル事業。投資額最大45億円)
・ヤンゴン博物館跡地再開発事業 (通称Yコンプレックス事業。投資額最大56億円+債務保証額約47億円)
JOINのこのような投資は、日本の国民に損害を与えるのみならず、重大な人権問題とも関係しています。
3事業の一つ、Yコンプレックス事業は、軍事博物館の跡地に大規模複合不動産を建設・運営する事業です[4]。施設はミャンマー軍の管理する土地で建設中であり、その土地の賃料の支払い先が兵站局であることから[5]、私たちはこの事業がミャンマーで市民に残虐行為を続けるミャンマー軍を利するものとして、問題にしてきました[6]。Yコンプレックス事業には、出資と債務保証を行うJOINに加え、財務省所管の輸出信用機関である国際協力銀行(JBIC)も融資を行なっています[7]。
米国、英国、カナダは、2021年12月に兵站局を制裁対象としました。英国は、兵站局が国軍のための弾薬、爆弾、ジェット燃料などの調達にきわめて重大な役割を果たしており、文民の弾圧を可能にしていると指摘しています[8]。問題の指摘に対しJOINもJBICも、兵站局が国防省内にありミャンマー政府の一機関であるため、土地賃料の支払いによってミャンマー軍を利することはないと説明してきました。しかし、2023年6月21日には、米国が「数十年にわたり抑圧的な軍事支配を行い、2021年のクーデター後にそのような支配を暴力的に復活させたミャンマー軍を指揮し支配している」として、ミャンマー国防省も制裁対象としたことで[9]、その説明の根拠も崩れています。
それにもかかわらず、JOINは今回公表した文書の中で未だに、「本事業については、JOINとしても、共同出資者たる日本企業とともに、状況を見ながら事業の実現や事業価値の向上に取り組むこととしている」とし、今後もこの事業に関わる姿勢を見せています。ミャンマー情勢の深刻さを正しく認識しているとも思えません。UNICEFによれば、現在ミャンマーには310万人の国内避難民(IDP)がおり、1800万人以上が人道支援の必要な状況に陥っています[10]。
また今回公表された情報によれば、「国土交通省がJOINの多額の損失計上を踏まえて、抜本的な対応策を第三者かつ専門的な観点から検証・検討するため、官民ファンド、金融実務、海外プロジェクト、組織ガバナンス等の学識者・専門家から構成される有識者委員会を設置し、JOINの役割、在り方、経営改善策等幅広い論点について、年内を目途にとりまとめを行う」とあります。しかし、JOINがミャンマーで抱える人権問題について意見ができる専門家が有識者に含まれるようには見えません。
そもそも公表された情報は、単に損失について触れているだけで、ミャンマーで自らが抱えている問題について、JOINは何らコメントしていません。その上、共同で事業に出資をしていた企業は、2022年に既に損失を計上し、それを公にしています[11]。一方、JOINの発表は2024年の今となっており、公的資金を扱う上で国民や納税者に対する説明責任を果たしていません。
さらにJOINは、「既存事業については、上記の有識者委員会の検証を待つことなく、モニタリング体制の強化や政府機関等との連携強化、広報対策の強化等に着手する。また、有識者委員会での検証の結果が出るまでは、新規支援決定を見合わせる」としておきながら、この損失公表の前日の6月25日に、駆け込みのごとくベトナム社会主義共和国・ハイフォン大規模住宅都市開発事業への支援に240億円を出資することを明らかにするなど[12]、不誠実な対応も目につきます。
さまざまな問題を抱えるJOINについて、国土交通省は今回、以下の対応を取るべきです。
- 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「OECD多国籍企業行動指針」で求められている責任を果たすため、少なくともYコンプレックス事業に関しては、JOINの出資を引き揚げること。ヤンキン都市開発事業とヤンゴンランドマーク事業については、ミャンマー軍を利することがないか人権デューデリジェンスを行い、その結果を公表すること。
- ミャンマーのように人権リスクの高い国での事業の支援を決める前には、十分な人権デューデリジェンスを行う必要がある。今回のYコンプレックス事業を教訓に、これまでの体制を評価し、その結果に基づき人権デューデリジェンスの体制を整備すること。また、人権デューデリジェンスの検証・評価、体制整備に関し、知見を有する専門家を今回の有識者会議に加えること。
- 事業で債務保証を行った場合、金額や対象者を明らかにした上で、今回の有識者会議を進めること。
- 財政投融資特別会計の資金は国債で調達された資金であるため、ここで損失を出した場合、国民負担で一般会計からそれが補填されるのか等、今後の処理に関しても情報を明らかにすること。
- 有識者会議の議論は、詳細な記録を残し、可能な限り公開すること。
以上
■本件に関する問合せ先
メコン・ウォッチ
東京都台東区台東1-12-11 青木ビル3F
Tel: 03-3832-5034
Email: contact@mekongwatch.org
[1] JOIN. 「補足資料:2023年度決算について」
https://www.join-future.co.jp/about/financial-statements/pdf/about-the-settlement_2023.pdf (2024/6/27閲覧)
[2] 注1と同じ。
[3] JOIN. 「株主情報」https://www.join-future.co.jp/about/shareholders/ (2024/6/27閲覧)
[4] JOIN. 「ミャンマー・ヤンゴン博物館跡地再開発事業 (2017/7/28) 」
https://www.join-future.co.jp/images/topics/1602825053/1602825053_10001.pdf
[5] “B.O.T System Land Lease Agreement," Appendix II, Environmental Impact Assessment Y COMPLEX PROJECT Dagon Township, Yangon, dated July 2019.
[6] 【共同要請書】日本政府はミャンマーに対する経済協力事業の全面的な見直しを (2021/6/1)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210601.pdf
【共同声明】ミャンマー:クーデターから半年 日本政府は国軍の暴挙を止めるための具体的な行動を(2021/8/1)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20210801.pdf
【要請書】ミャンマー:クーデターから10ヶ月 日本政府は国軍との経済的関係を断ち切ってください(2021/12/1)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20211201.pdf
【プレスリリース】日本の官民ミャンマー事業 Yコンプレックスの契約相手が米・英・加の制裁対象に(2021/12/13)
http://www.mekongwatch.org/PDF/pr_20211213.pdf
【公開書簡】米国がミャンマー軍政の国防省を制裁対象に 日本政府は直ちにYコンプレックス事業からの完全撤退をすべき(2022/7/25)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20230725_Ycomplex_J.pdf
【要請書】ミャンマー軍を利するODAと公的資金供与事業の停止を日本政府に求めます(2022/12/1)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20231201.pdf
[7] JBIC. 「ミャンマー連邦共和国において日本企業が実施する複合不動産の開発・運営事業に対する融資 (2018/12/18)」
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2018/1218-011714.html
[8] 【プレスリリース】日本の官民ミャンマー事業 Yコンプレックスの契約相手が米・英・加の制裁対象に(2021/12/13)
http://www.mekongwatch.org/PDF/pr_20211213.pdf
[9] 【公開書簡】米国がミャンマー軍政の国防省を制裁対象に 日本政府は直ちにYコンプレックス事業からの完全撤退をすべき(2023/7/25)
http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20230725_Ycomplex_J.pdf
[10] UNICEF. Myanmar Humanitarian Situation Report No. 4, 1 – 31 May 2024.
https://reliefweb.int/report/myanmar/unicef-myanmar-humanitarian-situation-report-no-4-1-31-may-2024 (2024/6/27閲覧)
[11] 東京建物. https://tatemono.com/ir/stock/pdf/204_internetkaiji_01.pdf (2024/6/27閲覧)
日本経済新聞.「ミャンマー、日系企業参画の不動産開発停滞 政変が影響(2022/7/24)」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM042JO0U2A700C2000000/ (2024/6/27閲覧)
衆議院.「海外交通・都市開発事業支援機構のミャンマーにおける事業の進捗に関する質問主意書(櫻井周議員提出)」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a211047.htm (2024/6/27閲覧)
[12] JOIN.「ベトナム社会主義共和国・ハイフォン大規模住宅都市開発事業への支援を決定」
https://www.join-future.co.jp/images/topics/1719220620/1719220620_10001.pdf (2024/6/27閲覧)