CCS事業法案の概要と問題点

気候変動2024.7.5

2024年2月13日岸田政権は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案(水素供給利用促進法案)」と「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS事業法案)」の二つを閣議決定した。水素やアンモニア、CCSは、日本政府が掲げる2050年までのネットゼロ達成のためのGX政策(グリーントランスフォーメーション)の一環としても推進されている。両法案は今国会に提出され、審議されている。ここでは、CCS事業法案(「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案」)の背景や問題についてまとめた。


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CCSとは

CCSとは工場や発電所から出た二酸化炭素を回収し地中に埋める技術を指す。日本では比較的大規模な実証実験として苫小牧で3年かけて30万トンの二酸化炭素を貯留した(日本の年間排出量は約11億トン。30万トンはその0.027%。設備建設費用は300億円)。しかし、CCSは世界的に見ても成功例や実施例は少なく、コストも非常に高く、技術的な困難も伴う。日本政府は2030年までにCCS事業を本格始動させるとしているが、その先行きは不透明だ。

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CCS事業法案の問題点

CCS事業法案は日本国内外でCCS事業を遂行するための枠組みなどを定めたもの。かねてから、貯留や運搬事業、分離回収、CCS事業によるクレジットの創出など、CCSに関連する様々な論点が複数の審議会等で議論されてきた。本法案は、主に輸送・貯留事業に関するもので、試掘権と貯留権を創出し、経産大臣が事業者に許可を与えること、貯留後のモニタリングのための資金を事業者が拠出することなどが示されている。

1)環境影響評価の欠如

 CCSを行う際には、陸上であれ洋上であれ、大規模な掘削工事等を伴うことから周辺環境や社会に大きな影響をもたらすことが予想される。しかし現法案には環境影響評価の手続きが明確に書かれておらず、通常発電所などを建設する際に行う法的アセスメントは想定されていない。貯留場所に関係する都道府県知事に協議する(6条1)とはあるが、合意は求められていない。

 さらに事業の許認可は区域ごととなっており、個別の事業をアセスすることも想定されていない。事業者については、経理的基礎や技術的能力に足るかどうかなどを見るとしているだけである。また貯留区域についても「二酸化炭素の安定的な貯蔵が行われることが見込まれること(5条3)」とされているのみで、具体的な基準は示されていない。CCS事業は一つ一つ異なる。どれだけ研究された地域であっても、想定外の地層の動きが確認されるケースもある(例:ノルウェーのスノヴィットやスレイプナーCCSなど)。

 また許認可が付与される前には、公衆に1ヶ月間の情報縦覧を行うとしているが(7条)、縦覧対象の情報は、代表者名や区域の図面、事業の概要、その他省令で定める事項となっており、地域住民や海洋CCSにおいては漁業者が十分な情報にアクセスできるのか疑問である。事業の概要のみを公開するのではなく、個別に環境アセスメントを行い、そのドラフト段階からアセスメント報告書を公開し、住民の意見も聴取すべきである。

2)経産大臣に権限が集中

 日本政府はかねてからCCSの推進を行ってきたが、現在その中心はエネルギー政策を司る経済産業省である。しかし、許認可権のほとんどは経産大臣にあり、海洋貯留の場合のみ環境大臣の同意を求めているのみで、CCS事業に対する客観的な判断がなされるのか疑問である。貯留事業ごとの環境影響評価を導入するだけでなく、推進と規制が分離されるよう、第三者による審査(規制委員会の設置等含む)を導入すべきである。

3)モニタリング責任の移転

 貯留後のモニタリングは、政府が100%出資するJOGMEC(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)に移管することが想定されており、モニタリング業務等に必要な資金を確保するため、事業者が拠出金を支払うことになっている。

 二酸化炭素の漏洩が発生した場合、事業者は措置を講じ、主務大臣に報告する、とあるだけで、罰則などの記載はない(48条)(JOGMEC移管後の漏洩についてはJOGMECが対応し、主務大臣に報告を行う。56条)。二酸化炭素の漏洩等によって他人に損害が発生した場合、JOGMECにモニタリングが移管した以降も、移管前の貯留事業者が損害賠償を行うことになっている(124条)。

 JOGMECに移管することの適切性についても疑問が残る。JOGMECは、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)など他の公的機関と同様に海外における化石燃料事業に直接出資や債務保証などを行っている。JBICやNEXIには環境社会配慮ガイドラインが設けられ、大規模な開発事業については環境影響評価が公開されるなど、最低限ではあるがセーフガードの仕組みが整えられているが、JOGMECにはこれがない。

 また移管の基準として、CO2の貯蔵状況が安定しており、それがかつ将来にわたって継続することが見込まれることとしているが(53条)、安定と判断するための詳しい基準が示されていない。移管後にJOGMECがどれだけの期間モニタリングを継続するのかも示されていない。またCO2を海外に輸出することも想定されているが、輸出先や輸出先への運搬中に漏洩が生じた場合に誰が責任をとるのか明確ではない。

 炭素除去の議論においては、CO2が大気から持続的に隔離されていることが重要となる。IPCCでは「Durably」(永続的に)と表現されている。国連気候変動枠組条約における炭素除去の議論においては、「durably」に明確な定義はないが、一案として少なくとも200~300年という提案もされている。このような長期にわたり隔離された炭素の維持を担保できる法制度は実際には不可能であり、事業者によるモニタリング終了後に国が責任を引き継ぎ、想定される大量の炭素管理を公費で賄うとすれば、問題を将来世代に先送りするだけである。

4)コストは市民が将来世代にわたり負担?

 IPCCにおいてもCCSはもっともコストパフォーマンスが悪い温暖化対策の一つとして示されている。日本政府はCCS事業から炭素クレジットを創出し、国際炭素市場でやりとりを行うことができる国際ルール作りに力を入れているが、そもそも、炭素に価格付けをし市場価値を付与することで、本来減らすべき二酸化炭素を、むしろ排出する方へと導いてしまう。

 いずれせよ、コストが高くコスト低減の見込みも示されていない今、2030年においても、またそれ以降も補助金がなければ継続できない分野になりかねず、化石燃料事業者の責任を納税者に転嫁するだけである。


参考

・経済産業省「CCS 事業法(仮称)の あり方について」、「CCS に係る制度的措置の在り方について」

 

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