「石炭火力のバイオマス混焼やめて」 26の環境NGOがADBに公開書簡-森林や生物多様性、炭素蓄積、コミュニティを損なう
10月19日、Global Forest Coalitionなど、森林や気候、バイオマスの問題に取り組む26のNGOが、アジア開発銀行(ADB)総裁宛てに公開書簡を発出し、石炭火力発電所の「再利用」として、バイオマス混焼推進への支援を行うべきでないことなどを求めました。
書簡では、石炭火力へのバイオマス混焼は、石炭火力を延命させ、森林生態系や多様性を損ない、炭素蓄積、地域コミュニティに悪影響を与えることを指摘しています。 インドネシア政府は石炭火力へのバイオマス混焼を推進していますが、Trend Asiaの最近の報告書では、インドネシアの107基の石炭火力発電所で木質ペレットを10%混焼すると仮定すると、合計で年間1,023万トンのバイオマスが必要となり、これによるインドネシアでの森林破壊の予測は、年間210万ヘクタールにのぼるとしています。
ADB宛て公開書簡の全文(仮訳)は以下の通りです。>オリジナル(英文)はこちら。
アジア開発銀行(ADB)への公開書簡(仮訳)
アジア開発銀行(ADB)総裁 浅川雅嗣 様
2023年10月19日
石炭からの脱却は、誤った対策である木質バイオエネルギーへの支援を伴うものであってはならない
私たちは、アジア開発銀行 (ADB) が 「Energy Policy Supporting Low-Carbon Transition in Asia and Pacific」 (2021年9月/R-Paper)を策定を通じて、アジア太平洋において必要性の高いエネルギーセクターの移行に対応するため、エネルギー政策見直しの取組みを行っていることを歓迎する。一方で、私たちはまた、化石燃料、特に石炭の段階的廃止、エネルギー移行に向けた誤った対策や道筋の促進といった、エネルギー政策のいくつかの観点について深い懸念を表明する。私たちは、エネルギー移行メカニズム (ETM) の構築における今後のプロセスの曖昧さと不透明さについて、また、ADBがこの地域における「公正なエネルギー移行パートナーシップ」の構築支援を提供していることや、気候変動行動計画2023-2030に関する市民社会組織との協議のための作業草案が限定的にしか公開されていないことについても懸念している。
アジア・太平洋地域の開発途上加盟国(DMCs)による石炭の計画的な段階的廃止の達成を支援するため、石炭資源からの早期撤退と廃止措置に対してADBが支援を行う方向性は正しいが、その政策原則にあるバイオ燃料、二酸化炭素回収・利用・貯蔵、およびバイオエネルギー等への原料の利用に対する支援は非常に問題であり、公正なエネルギー移行の原則を損ない、世界の気温(上昇)を1.5℃に押えるためのパリ協定の道筋を守るものではない。
バイオマスの石炭火力発電への混焼は、石炭の段階的廃止を早めるのではなく石炭の利用を固定化し、政策の方向性と矛盾する。
バイオマスやバイオ燃料は、大規模プランテーションや天然林からもたらされ、気候と生物多様性の両方、そして地域コミュニティにとって問題であり、ADBのエネルギー政策の原則に盛り込んではならない。
IPCC「気候変動と土地」特別報告書 (2019年) は、大規模なバイオエネルギーとBECCS(バイオエネルギー及びCO2回収・貯留の組合せ)は 「免罪符にはならない」と強く警告した。
特に、木質バイオマスの燃焼からバイオエネルギーを生成することは、天然林、生態系、生物多様性、そして先住民族、多様な女性、地域社会に悪影響を及ぼすことが報告されている。
バイオエネルギーを供給するためのプランテーションの造成は、生物多様性のある自然生態系から単一栽培への転換を伴うため、生物多様性に悪影響を及ぼす。このプロセスは大量の即時排出を生み出し、造成されたプランテーションの炭素密度は低くなり、自然の炭素貯蔵に悪影響を及ぼす。
IPCCが「気候変動と土地」特別報告書で指摘したように、バイオエネルギーのための大規模な単一栽培プランテーションは、食料安全保障と水の利用可能性にも影響を及ぼす。
バイオマスの需要は、土地収奪を含む土地や森林資源をめぐる紛争を悪化させる可能性がある。これは、先住民族や部族の人々、女性、地域コミュニティの権利、利益、生命、生計手段、文化的価値を脅かす。
エネルギーを得るために木材を燃やすと、石炭を燃やすのと少なくとも同等の、通常はより多くの炭素が即時に大気中に放出される。そのため、大規模な集中型エネルギー発電への木質バイオマスの利用は、気候問題の対策として受け入れられない。また、 「排出削減対策」であるという主張は、空虚で誤解を招くものである。
バイオエネルギーをカーボンニュートラルであるとして、森林の再成長がしばしば引き合いに出されるが、実際には、そのような再成長、すなわち排出を補うための大気からの炭素の除去は、実際に実現したとしても、何十年、あるいは何百年もかかる。これは明らかにパリ協定のタイムフレーム外である。その一方で、バイオマスのための継続的な伐採は、森林劣化と森林減少をもたらし、炭素回収という名目を揺るがしている。
よって、私たちは、石炭火力発電を廃止することは優先事項であるが、木質バイオマスによる代替は誤った対策であることを強調する。
インドネシアに事務局が設置された「公正なエネルギー移行パートナーシップ」と、石炭火力発電所の早期廃止に関するADBの気候変動行動計画の限定公開されてきた草案に残されている曖昧さに注目していただきたい。
草案は、「大規模な石炭やその他の化石燃料発電所の廃止や再利用(repurposing)の加速化など、迅速かつ大規模な緩和と適応の影響を追求するための行動が優先されなければならない」と述べているが、気候変動行動計画の下での活動に適用する際、「再利用」が実際に何を意味するのかは明らかにしていない。私たちは、この 「再利用」 という言葉が石炭火力発電所の寿命を延ばすことになり、バイオマスやバイオ燃料などの利用を装った再利用が石炭を削減することになると主張され、したがって段階的廃止の範囲外とみなされることになると理解している。
インドネシアの「公正なエネルギー移行パートナーシップ」 (I-JETP) は、石炭火力発電所の段階的廃止とクリーンエネルギーの利用拡大という目標の方法について言及していないため、私たちは、「再利用」 の動向と起こりえる影響について深く懸念している。
インドネシア国有電力会社 (PLN) の2021-2030年電力供給事業計画では、PLNの戦略の一つとして、エネルギー源としてのバイオマス燃料の利用が言及されている。この目的のために、PLNはいくつかの石炭発電所 (PLTU) で、石炭と一緒にバイオマス燃料を燃やすこと、つまり混焼を熱心に推進している。ちなみに、PLNは国営であり、I-JETPプログラムの実施機関である。
Trend Asiaの報告書 「The Looming Deforestation Threat from Energy Wood Plantation」 はこの問題を取り上げている。本報告書によれば、PLNは2022年5月現在、石炭火力発電所32基で混焼を実施している。PLNは、バイオマス混焼により、2025年までに国のエネルギーミックスにおける新エネルギーと再生可能エネルギーの23%という目標を達成できると主張している。PLNは大量かつ持続的なバイオマスの供給を必要としている。PLNの当初の試算によると、52カ所で10%のバイオマス混焼を維持するためには、植林地から年間800万トン、いわゆる廃棄物から90万トンのバイオマスを調達する必要がある。Trend Asiaの計算によると、107基の石炭火力発電所で木質ペレットを10%混焼すると仮定すると、合計で年間1,023万トンのバイオマスが必要となる。
Trend Asiaは、必要なエネルギープランテーションの総面積は少なくとも233万ヘクタールであり、これはジャカルタ首都特別州の面積の35倍であると推定している。このような広大なプランテーションの開発は、森林破壊を加速させる危険性がある。107の発電所でバイオマスとの混焼を実施するためのインドネシアでの森林破壊の予測は、年間210万ヘクタールという驚異的なものであることが判明している。
混焼により、これらの発電所からのCO2排出が削減されるわけでもない。燃焼段階でのバイオマスからの排出量を、石炭からの排出量と一緒にエネルギー部門の勘定に含めないことは、実際にはバイオマスからの排出量がなくなるものではないが、排出を削減したという誤った印象を広めてしまうことになる。それを削減対策(abatement)であると主張する根拠はない。
ADBが石炭火力発電所の廃止ではなく再利用に向けた支援を通じてエネルギー移行を制限なしに支援していること、また、周辺の地域コミュニティの被害救済、包括的な生態の修復や再生を確保するために必要な資源とプロセスに対する配慮が欠如していることは、私たちにとって深い懸念である。このような石炭火力発電の再利用計画は、フィリピン、インドネシア、インド、カザフスタン、ベトナムに影響を及ぼす。石炭火力発電所を再利用したり、既存の石炭火力発電所でバイオマスを混焼したり、排出対策のとられていない石炭から「排出対策がとられている」石炭と称するものに転換して石炭を延命させることは、化石燃料による排出を継続させ、気候危機を悪化させ、自然生態系だけでなく、先住民族や多様な女性、地域コミュニティの生活や生業にも大きな影響を与える。
よって、私たちはADBに対して、以下を要求する:
- 石炭資源からの早期撤退と廃止措置へのコミットメントは、石炭の段階的廃止を達成することであり、バイオエネルギーの混焼(木材と石炭を一緒に燃やす)による燃料転換への支援は、このコミットメントと矛盾し、混乱させることを認識すること。
- 特に木質バイオマスやその他の混焼オプションに依存する 「再利用」 スキームを通じて、石炭プロジェクト事業者が説明責任なしに老朽化資産や座礁資産の引き揚げを進めることに対する支援をしないようにすること。
- 新たな木質バイオマスプロジェクトへの支援を除外し、既存の木質バイオマスへの投資を引き揚げること。具体的には、1) 化石燃料プロジェクトの事業者が、バイオマスやその他の資源への「燃料転換」およびGHGの集約技術を通じた施設の 「再利用」 を可能にするプロジェクト、2) 森林からの木材 (森林残渣や植林からの木材を含む) からのエネルギー生産を伴うプロジェクト、3) BECCS、4) 木質バイオマス施設のための新たな原料サプライチェーン( (a) 木質ペレット、ウッドチップまたは丸太のための木材伐採プロジェクト、b) ペレット工場を含む)
- 木質バイオマスをリスクの高いセクターと特定し、石炭と木質バイオマスの燃焼の両方から融資を引き揚げるまでの間、木質バイオマス施設と原料サプライチェーンの両方の社会的・環境的影響 (自然生態系と生物多様性の劣化と破壊的影響、先住民族、多様な女性を含むコミュニティへの影響) を回避し、改善することを確実にするために、このセクターに対するすべての既存の支援について強化されたデューディリジェンスを実施すること。
Sincerely,
Asia Pacific Regional Biomass Working Group
Biomass Action Group (BAG), Australia
Bangladesh Working Group on External Debt (BWGED), Bangladesh
Coastal Livelihood and Environmental Action Network (CLEAN), Bangladesh
National Forum for Advocacy Nepal (NAFAN)
Forest, Environment Workers Union Nepal (FEWUN)
Environment East Gippsland inc, Australia
Fern (Brussels, EU)
NGO Forum on ADB (Regional)
Rivers without Boundaries Coalition
Oyu Tolgoi Watch Mongolia
Pakaid Organization ( Pakistan)
Sahabat Alam Malaysia (Friends of the Earth)
South Asia Just Transition Alliance (SAJTA), Regional
Aksi! for gender, social and ecological justice, Indonesia
Trend Asia (Indonesia)
Pivot Point, USA
HUTAN Group(JAPAN)
Africa Regional Biomass Working Group
Latin American Regional Biomass Working Group
Global Forest Coalition
FoE Japan
Mekong Watch
Mighty Earth
PACOS Trust
Healthy Indoor Environment
C.C.
Mr. Priyantha D.C. Wijayatunga, Senior Director, Energy Sector Office, ADB
Mr. Pradeep Tharakan, Director, Energy Transition, Energy Sector Office, ADB
Mr. Andrew Jeffries, Advisor, Just Energy Transition Partnership, Energy Sector Office, ADB