声明:GX脱炭素電源法案(原発束ね法案)の採決に反対 審議はつくされていない
「GX脱炭素電源法案」(原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたもの)が、5月中にも参議院で採決されようとしています。
これを受けてFoE Japanでは以下の声明を発出しました。
2023年5月29日
国際環境NGO FoE Japan
声明:GX脱炭素電源法案(原発束ね法案)の採決に反対
審議はつくされていない
参議院経済産業委員会で審議されている「GX脱炭素電源法案」(※)が30日にも委員会採決されようとしている。(※ 原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたもの)
衆議院でも参議院でも、それぞれ1か月足らずの期間で、「束ね法案」として一気に審議が行われた。しかし問題は多岐にわたる。
本法案は、原発推進への回帰を法定化するものであり、たとえば、原子力基本法に、国の責務として、原発立地地域の振興や原子力事業環境の整備など、原子力産業へのさまざまな支援が盛り込まれる。また、原子炉等規制法から原発の運転期間の上限に関する規定を削除して電気事業法に移し、運転期間延長の認可権限を経済産業大臣に移管する。また、長期停止期間を運転期間から除外するにより、60年を超える運転を可能とする。
一方で、原子力産業への国の支援が、原子力産業を特別扱いし、モラルハザードを生むこと、そもそも原子力にそのような価値があるのか疑わしいこと、運転期間規制を原子炉等規制法から削除することに関しては、立法事実がないこと、規制緩和につながること、電気事業法に基づく経済産業省による運転期間延長の審査基準、審査手法、審査体制が具体的に示されていないことなど、問題は多い(2023年4月27日付声明参照)。また、原子力基本法の改定案検討プロセスが明らかではないこと、原子炉等規制法の改正案に関して、本来所掌している原子力規制委員会ではなく、経済産業省が主導して改正案を策定したことも大きな問題である。
本国会においては、一部の野党がこれらの問題を追及したが、政府は真正面からこれに答えることをしなかった。
また、老朽原発の審査手法に関しては、原子力規制委員会において現在検討が行われているところであり、国会にその内容が具体的に示されたわけではない。原子力事業者の点検には限界があること、運転期間60年を超える原発の劣化にかかる実データは存在しないこと、原子炉評価のための監視試験片は設計寿命の40年を前提に入れられていることなどを考えれば、老朽原発の審査は万全とはいいがたく、40年運転規制を取り払い、停止期間を上積みできる法改定は、国民の生命・財産を危険にさらすことになる。
こうした点についても、審議はつくされていない。
同法の根拠となる「GX基本方針」については、年末年始パブリックコメントにかけられたが、形式的なものにとどまった。また、今年1月から3月にかけて、札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、富山、広島、高松、福岡、那覇で、経済産業省による「説明・意見交換会」が開催され、多くの批判的な意見が表明されたが、これらの意見が反映されないまま、今年2月10日閣議決定された。「GX脱炭素電源法案」については、公聴会は開催されないまま、2月28日閣議決定され、4月27日衆議院で可決。5月10日から参議院での審議がはじまった。このように、法案の成立過程において国民の声はまったく反映されていない。
5月22日、福島大学名誉教授ら9名が「福島での地方公聴会を開催すべき」という要請書を提出したが、実現には至っていない。
少なくとも、原子炉劣化評価に関する参考人招致、福島での地方公聴会の開催を実施すべきである。
以上の理由で、私たちは「GX脱炭素電源法案」の採決に反対する。
以 上
【解説】GX脱炭素電源法案とは?
今期国会にかかっている原発推進GX法案は2つあります、(1)GX推進法案、(2)GX脱炭素電源法案(※)です。※原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたもの
(1)については、詳しくは⇒「GX推進法案を通してはならない5つの理由」
(2)については、以下をご覧ください。
1.原子力基本法の改悪:「原発の活用」を国の責務に
第二条の2に、電気の安定供給の確保、脱炭素社会の実現などのために原子力を活用することを、国の責務として盛り込みます。
また、原発立地地域の住民や国民の理解の促進、地域振興などを促進することも盛り込んでいます。
さらに第二条の3に、原子力にかかる人材の育成、産業基盤の維持、強化、再処理等、使用済燃料の貯蔵、廃止阻止の円滑な実施のための地方公共団体との調整などを盛り込んでいます。
「国の責務」として盛り込むということは、税金その他公的資金を、上記のような原発推進のために投入するということです。初期段階にあり、これから伸びていく、社会的にも望ましい産業を育てるためであれば、国費を投じていくこともありうるでしょう。しかし、すでに開始から50年以上も経過しており、斜陽産業である原子力にここまで手厚い保護をすることに合理性はあるのでしょうか。
2.原子炉等規制法から運転期間の上限に関する定めを削除し、電気事業法に移す
現在、老朽化した原発の安全確保のために、原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法には2つの仕組みが盛り込まれています。
1つめは原発の運転期間を原則40年とするルール。原子力規制委員会の審査を合格した場合、1回に限り20年延長できます。
2つめは、30年を超えた原発について10年ごとに審査を行うルールです。
この1つ目の運転期間に関するルールを、「原子炉等規制法」から削除し、経済産業省が所管する「電気事業法」に移すというものです。
「電気事業法」に移すことにより、原子力を規制する立場の原子力規制委員会ではなく、原子力を利用する立場の経済産業省が、原発の運転期間に関する決定権をもつことになります。
3.運転停止している期間を、運転期間から除外できるようにする
除外できるのは、東日本大震災発生後の新規制基準制定による審査やその準備期間、裁判所による仮処分命令その他事業者が予見しがたい事由によって生じた運転停止期間などです。
4.30年を超える原発についての劣化評価を、法律に格上げする
今までも、「高経年化技術評価」として、30年を超えた原発について10年ごとに劣化評価に基づく審査を行っていました。これは、原子炉等規制法の下の規則により位置づけていました。これを、原子炉等規制法に格上げし、若干の変更を行います。たとえば、いままで「10年ごと」としていましたが、「10年を超えない期間ごと」としています。
政府は、これをあたかも新しい制度を盛り込むかのような説明をしており、メディアもそのように報じていますが、30年を超える原発の劣化評価は、従来も行ってきた制度であることに注意が必要です。
原発の運転期間については、こちらもご覧ください👉「Q&A 原発の運転期間の延長、ホントにいいの?」