Q&A 原発の運転期間の延長、ホントにいいの?

原発2022.12.23

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政府は、現在、「原則40年、1回に限り20年の延長可能」と規定されている原発の運転期間について、停止していた期間を除外し、60年を超える運転延長を可能にする方針を示しました。次の通常国会で、原子炉等規制法や電気事業法などを改正するとみられています。この問題に関するQ&Aを作成しました。

Q:政府はどのような改正を行おうとしているのでしょうか?
Q:現在の運転期間に関する規定は、どのようにして決まったのですか?
Q:なぜ「原則40年」とされたのですか? 当時の国会審議の内容は?
Q:老朽化した原発はなぜ危険なのですか?
Q:原発は止まっていれば劣化は進まないのですか?
Q:原子炉圧力容器の劣化などの評価は十分行われているのでしょうか?
Q:原子力規制委員会は、30年を超えた原発について、審査を行うので、むしろ規制としては厳しくなると言っていますが…
Q:老朽化した原発について、原子力規制委員会が審査を行えば、安全は確保できるのではないでしょうか?

Q:政府はどのような改正を行おうとしているのでしょうか?

現在、老朽化した原発の安全確保のために、原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法には2つの仕組みが盛り込まれています。
1つめは原発の運転期間を原則40年とするルール、原子力規制委員会の審査を合格した場合、1回に限り20年延長できます。

現在、原子炉等規制法に基づき定められている制度

2つめは、30年を超えた原発について10年ごとに審査を行うルールです(注1)。

現在提案されているのは、この1つ目の運転期間に関するルールを、「原子炉等規制法」から削除し、経済産業省が所管する「電気事業法」に移し、停止期間を除外できるようにする規定を盛り込む、というものです。除外できるのは、東日本大震災発生後の新規制基準制定による審査やその準備期間、裁判所による仮処分命令その他事業者が予見しがたい事由によって生じた運転停止期間などとしています。
「電気事業法」に移すことにより、原子力を規制する立場の原子力規制委員会ではなく、原子力を利用する立場の経済産業省が、原発の運転期間に関する決定権をもつことになります。

現行 vs. 提案されているであろう新制度

2つ目の30年を超えた原発に関して原子力規制委員会が定期的に審査を行うという制度は、基本的には従来のまま残すものと思われます。[TOP]

Q:現在の運転期間に関する規定は、どのようにして決まったのですか?

2012年、福島第一原発事故を踏まえ、原発の利用と規制の分離や安全規制の強化が議論されました。それまで明確な規定がなかった原発の運転期間の上限について、「原則40年、1回に限り、原子力規制委員会が認める場合は20年延長できる」とした原子炉等規制法の改正が与野党合意のもとに成立しました。(第四十三条の三の三十二)[TOP]

原子炉等規制法
(運転の期間等)
第四十三条の三の三十二発電用原子炉設置者がその設置した発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉について最初に第四十三条の三の十一第三項の確認を受けた日から起算して四十年とする。
 前項の期間は、その満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて、一回に限り延長することができる。
3 前項の規定により延長する期間は、二十年を超えない期間であつて政令で定める期間を超えることができない。
4 第二項の認可を受けようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、原子力規制委員会に認可の申請をしなければならない。
5 原子力規制委員会は、前項の認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、その第二項の規定により延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則で定める基準に適合していると認めるときに限り、同項の認可をすることができる。

Q:なぜ「原則40年」とされたのですか? 当時の国会審議の内容はどのようなものだったのでしょうか?

原発を構成する設備や機器の設計寿命が40年とされていること、システム自体が年数がたって古くなっていくことがあげられます。

原子炉等規制法を改正して運転期間ルールを制定した2012年の国会審議において、当時の担当大臣(環境大臣)の細野豪志氏は、「作動するそのそれぞれの機器の耐用年数というものも考慮にした中で40年というところの数字を導き出した」「例えば電気製品をとっても、車を見ても、40年前の技術で今そのまま通用するものは、逆に言うとほとんどない」(注2)と説明しています。また、原子炉圧力容器に中性子が当たって劣化することに加え、「システム自体の古さ」も挙げ、「そういったことを考えれば、40年の運転制限制度というのは必要である」としました。(注3

さらに、参考人として招致された田中俊一氏(初代原子力規制委員会委員長、当時は候補)は、「40年運転制限制は、古い原子力発電所の安全性を確保するために必要な制度」「40年を超えた原発は、厳格にチェックし、要件を満たさなければ運転させないという姿勢で臨むべき」と述べました。[TOP]

Q:老朽化した原発はなぜ危険なのですか?

  1. 原発の複雑な機器、配管、電気ケーブル、ポンプ、弁などの各部品や材料が、時間の経緯とともに劣化します。この中には交換ができないものもあります。
  2. 設計が古くなることによる構造的な欠陥が、深刻な事故を引き起こす原因となります。
  3. 原子炉圧力容器が中性子をあびてもろくなる現象が生じます(中性子照射脆化)。圧力容器の材料である鉄が粘り気を失い、かたくなります。非常時には、緊急用の炉心冷却装置が作動し、高温の原子炉に冷たい水が大量に注入されます。すると原子炉圧力容器の内側が急激に冷やされ、最悪の場合、原子炉圧力容器が破損する可能性があるのです。[TOP]
中性子が照射され続けることにより、原子炉圧力容器の脆化が進むメカニズム

Q:原発は止まっていれば劣化は進まないのですか?

いいえ、劣化は進みます。原子炉圧力容器が中性子をあびて脆くなる現象(中性子照射脆化)は、原発停止中には進行しませんが、機器、配管、電気ケーブル、ポンプ、弁、コンクリートなどを含む、原発を構成するさまざまな部品や材料が、時間の経緯とともに当然のことながら劣化します。また、交換不可能な部品もたくさんあります。[TOP]

Q:原子炉圧力容器の劣化などの評価は十分行われているのでしょうか? 原子力規制委員会の審査は厳しく行われているのでしょうか。

たとえば原子炉圧力容器の中性子照射脆化の評価を行うために、炉内に運転当初から原子炉圧力容器の母材および溶接金属でできた監視試験片を入れています。電力会社は定期的にこの監視試験片を取り出し、衝撃を当てるなどの試験をおこなっています。しかし監視試験片は運転期間40年を前提としているため、もし40年以上運転し続けると監視試験片が足りなくなります。
運転開始後48年経過している高浜原発1号機(福井県)において、関西電力は、取り出しを4回しか行っていませんが、最近、1回の検査で「母材」もしくは「溶接金属」の試験片のどちらか一方しか取り出さず、どちらかしか試験を行っていなかったことが明らかになりました。「母材」と「溶接金属」は別々に評価すべきものなので、事実上、検査の頻度を下げていたことになります。[TOP]

Q:原子力規制委員会は、30年を超えた原発について、審査を行うので、むしろ規制としては厳しくなると言っていますが…

30年を超えた原発については、現在も10年ごとに高経年化(老朽化)対策の審査を行っています。原子力規制委員会が現在示している案は、この制度を維持するということでしかありません。[TOP]

Q:老朽化した原発について、原子力規制委員会が審査を行えば、安全は確保できるのではないでしょうか?

老朽化に関する原子力規制委員会の審査は電力会社の申請に基づくものです。実態は、確認すべきデータを確認しなかったり、事業者の甘い評価をうのみにしていたりと、問題が多いものです。
たとえば、前述の高浜原発1号機の原子炉容器の劣化を評価するための監視試験片に関して、原子力規制委員会は審査において、元データを確認していなかったことが明らかになりました(注4)。また、前述の母材と溶接金属を交互にしか取り出さない関西電力の手抜き検査についても容認してしまっています。[TOP]

※このQ&Aの作成には、滝谷紘一さん(元原子力技術者、原子力市民委員会メンバー)のご協力を頂きました。


注1)原子炉等規制法第43条3の22第一項(発電用原子炉施設の保全)の下の「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則」

注2)第180回国会衆議院環境委員会(2012年6月5日)

注3)第180回国会衆議院環境委員会(2012年6月15日)

注4)老朽原発40年廃炉訴訟(名古屋地裁、2016~)により明らかになりました。

 

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