Q&A 電力需給ひっ迫のホントのこと

原発2022.12.28

近年、老朽化した発電所の休廃止にともない「電力需給が厳しくなっている」と言われています。2022年は、3月と6月に電力需給がひっ迫する状況が起こり、企業や市民にも節電の取り組みが求められました。2022年度冬にも、節電要請が出されています。また、こうした状況を背景に「原発の再稼働や新増設・リプレースが必要である」とも言われています。需給ひっ迫とはどのような状況なのか、原発が解決策になるのか、Q&Aにまとめました。

Q:夏や冬の電力需給が厳しいと言うけれど、供給力が足りないの?
Q:真夏や真冬でない時期の電力需給ひっ迫は、どうして起こる?
Q:電力需給の調整って具体的にはどうするの
Q:電力需給ひっ迫は原発再稼働で解決する?
Q:短期的な解決策は?長期的な解決策は
Q:デマンド・レスポンスって何?
Q:再生可能エネルギーは不安定?
Q:私たちにできることは?

Q:夏や冬の電力需給が厳しいと言うけれど、供給力が足りないの?

図1:月別最大電力の推移(電気事業連合会資料より)

必要な電力は、季節によって、また1日のうちでも時間によって変化しています。
季節では真夏の8月と真冬の1月に、電力需要が大きくなります(図1)。年間での最大電力需要は、夏(7月~9月)の、時間帯では15時ごろが多くなっています。ただし、最近では太陽光発電が増えてきたために、晴れた日には昼間の出力の1割程度が太陽光発電になっています。また2018年、2021年、2022年では、最大電力需要は1月で、午前と夕方が高くなっています(図2)。

図2:最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移(電気事業連合会資料より)

例えば「1月の電力供給が厳しい」と報道などで言われる場合、毎日が厳しいということではなく、月の中でも特に気温が低い日の、その中でも電力需要(もしくは残余需要)が高まる時間帯のことを指しています。そのような時間帯は、年間でみても数時間から数十時間と限られています。
また太陽光や風力などの変動性再エネを除いた部分を「残余需要」と呼びますが、そのピークは夕方に来ています(図3)。

図3:夏の一日の電気の使われ方(歌川学さん資料より)

電力需給の逼迫状況を表す指標として、電力の予備率がよく使われます。これは電力の供給余力に対して、電力需要で消費した分の残りの余裕分がどの程度あるかを示したものであり、これが広域で5%未満になると「電力需給逼迫注意報」、3%未満になると「電力需給逼迫警報」が発令されます。

2022年度冬季は、6時点の需給見通しでは1月や2月の最も需要が高まる時間帯に3%を切り、需給ひっ迫が起きると報じられましたが、9月には再計算によって3%以上の予備率を確保することとなりました。

Q:真夏や真冬でない時期の電力需給ひっ迫は、どうして起こる?

図4:国内の発電所の稼動・停止状況(発電情報公開システムより)

一般に、電力の需給逼迫は、電力の需要の急な増加や供給能力の急な低下が原因で、需要が供給能力を超えてしまいそうになる時に生じます。とくに夏の猛暑や冬の寒さで、冷房や暖房による電力の使用が集中する時間帯で問題になりますがや、近年では太陽光発電の出力が減る夕方の時間帯でもが要注意です。

今年(2022年)の3月22日と6月末には、ピーク期でないにも関わらず、需給ひっ迫が起こりました。
6月末の東京電力パワーグリッド管区内における需給ひっ迫は、真夏の電力需給が高まる季節に備えて、定期点検などで停止していた発電所が多い時期に、季節外れの猛暑が襲い、予想以上の電力需要が発生したために起こりました。6月下旬には停止している発電所が多く、7月に向け稼働が進んでいったことがわかります(図4)。

電力需給ひっ迫は、単純に供給能力が足りないから起こるわけではありません。異常気象により通常の予想を超えた需要が発生し、電力需給のバランスが間に合わないときにも発生します。つまり、必要とされるのは需給バランスなのです。[TOP]

Q:電力需給の調整って具体的にはどうするの

電力の需給調整とは、需要と供給を一致させる「同時同量」が重要です。このバランスが大幅に崩れると、大規模停電を起こす可能性もあります。季節や天候、曜日や時間に応じて、需要(消費電力、kW)や供給(発電出力、kW)を予測し、調整を行います。

寒波や熱波などで電力需要の方が大きくなりそうな時には、出力を増やしたり需要を抑制したりして調整します。

逆に、晴天による太陽光発電の稼動などで電力供給の方が大きくなりそうな時には、他の電源の出力を抑制したり揚水動力で水を汲み上げたり蓄電池を充電したりします。[TOP]

Q:電力需給ひっ迫は原発再稼働で解決する

原発はたしかに一基あたりの出力が大きい電源です。しかし、止めたり動かしたりすることが簡単にはできず、出力調整も難しいという特徴もあります。また、いったん急停止すれば広範囲に大きな影響をもたらします。地震やトラブルで止まれば、かえって需給ひっ迫リスクを高めてしまうとも言えます。

原発のように調整がきかない、大規模な電源に依存するのは、そのコストやリスクを考えれば合理的な解決策ではありません。今後必要なのは変動する需要に対応した、きめ細かな需給調整の仕組みづくりです。つまり、原発の稼働は解決にはなりません。[TOP]

Q:短期的な解決策は?長期的な解決策は

短期的には、電力ひっ迫が起きそうなタイミングでの需要の調整ができれば、需給ひっ迫に対応することができます。季節外れの寒さや暑さが予想されるときには、政府から企業等に予め節電要請を行い、ピーク需要(最大電力量)を減らしたり、ずらしたりする対策が行われています。空調の設定温度の調整や照明等の一部消灯などでも、大きな効果があります。

2022年3月22日の需給ひっ迫の際には、商業施設や鉄道駅などで、空調を20℃や22℃にしたり(つまり、普段はもっと高い温度に設定されていたということ)、支障のない範囲でディスプレイなどを一部消したりといった対策が取られました。ただし、こうした行動は単なる「要請」ではなく、本来は経済活動の中に組み込まれることが適切です。本来、節電や省エネは我慢や努力ではなく、適切な投資と合理的な行動によって、よりエネルギー効率の高い製品やシステム・運用に変えていくことが望ましい姿です。

長期的には、機器の効率化や建物の断熱性能の向上、エネルギー需要のあり方を大きく変えることとともに、再生可能エネルギーを中心とした電力需給システムに大きく転換することが必要です。太陽光や風力など変動する再生可能エネルギーを、貯めたり融通したり、出力の多い時間帯に使うようなインテリジェントな制御を行うことなどで、大規模電源に頼らない電力需給ができるようになります。[TOP]

Q:デマンド・レスポンスって何?

デマンド・レスポンス(DR)とは、電力供給の状況にあわせて、経済的なインセンティブをともなって需要を変化させることを言います。例えば、天気がよく太陽光による出力が多い昼間に電気を使ったり蓄電したり(上げDR)、逆に需給が厳しくなる夕方に電力使用量を減らしたり(下げDR)します。

需要のピーク時に電気料金を高くしたり、市場価格に連動した電力料金で、ピーク時の節電や需要シフトを呼びかける方法もあります。市場原理によって、できるだけ電気料金の低い時間に電気を使うよう促すことで、結果的に電力需給のバランスをとることができます。[TOP]

Q:再生可能エネルギーは不安定?

「ずっと同じ出力を一定に保たなければならない」という考え方自体が古いものです。これまで見てきたように、電力需要には、一日のうちでも季節によっても波があります。したがって、変動する需要に合わせて発電所の出力を調整して電力供給することがこれまで基本でした。しかし、需要の調整やエネルギー貯蔵によって、需要自体を供給にあわせて変化させることも可能です。

再生可能エネルギーの中でも現在発電電力量が増えつつあり、今後のポテンシャルが大きい太陽光発電や風力発電は、天候や季節によって出力が変化します。くもりや雨、そして風が吹かない時には確かに出力は減りますが、気象予測で事前に分かれば、需要シフトやエネルギー貯蔵などによって対策を行うことも可能になります。電気自動車のバッテリーをインテリジェントに充放電させて活用するのも、可能性の一つです。[TOP]

Q:エネルギーの効率化はどこまで可能?

節電・省エネには、電力需要のピークを抑えること(kWの削減)と、消費電力量やエネルギー消費全体を減らすこと(kWhの削減)と、2つの側面があります。

電力需要のピークを抑える節電は、「短期的な対策は?長期的な対策は?」で見たような方法があります。
消費電力量やエネルギー消費全体を減らすこと(kWhの削減)の可能性は、いくつかのシナリオで具体的に示されています。例えば、「レポート2030ーグリーン・リカバリ―と2050年カーボンニュートラルを実現するための2030年までのロードマップ」に示されています。☞https://green-recovery-japan.org/

建築物は、建て替えのタイミングで、車や機器は買い替えのタイミングで効率の良いものに切り替えていくことで、消費電力量は2030年に28%、2050年に32%、最終エネルギー消費は同38%、60%(いずれも2013年度比)削減することが可能としています。経済活動量については2015年の政府の長期エネルギー需給見通しを参照しているため、ここを見直せば更なる削減の可能性は大いにあります。[TOP]

Q:私たちにできることは

「夏や冬に電気が足りなくなる」「火力発電の休廃止が続いて発電設備が足りなくなる」「だから原発が必要だ」とメディアなどで言われています。
しかしこれまで見てきたように、大規模な発電所に頼ることこそがリスクであり、今後は出力の変化する再エネを主体として、需要も柔軟に変化させるシステムへの変更が必要なのです。「原発の再稼働が必要」という情報に、惑わされる必要はありません。省エネルギーと再生可能エネルギーへのシフトこそ望んでいるのだということを、自信を持って意思表示していきましょう。
また、「電力需給ひっ迫のおそれ」などとニュースで言われているときも、一般家庭、特に高齢者などが、無理に冷暖房を控える必要はありません。企業などがもっと大規模な対策を取ることができるのです。

一方、無理のない範囲で私たちも需要シフトをすることができます。例えば、洗濯や掃除など電気を使う家事は、週末の昼間に行ったり、夕方のピーク時に電気よりガスで調理するなどです。
特に、再エネを重視する新電力を選んでいる場合は、需給の厳しさと連動して電気の市場価格も高騰しています。節電や需要シフトは、再エネ新電力のためにも有効です。[TOP]


より詳しくはこちら
☞オンラインセミナー:「電力需給逼迫」と原発再稼働~望ましい解決策とは(2022年9月6日開催)
https://foejapan.org/issue/20220817/8901/

 

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