【プレスリリース】COP26直前の日本によるLNGカナダ事業への融資決定に抗議 ―世界の流れは化石燃料支援ストップへ
10月31日からイギリス・グラスゴーで開催されている気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、脱石炭だけでなく、脱化石燃料に向けた動きも活発化しています。しかし、日本政府はCOP26直前の10月29日に化石燃料事業への公的融資を決め、世界の「脱石炭」、「脱化石燃料」に向けた取り組みを蔑ろにし続けています。
11月10日、日本の市民団体は、「LNGカナダ・ターミナル事業 (*)」に対する融資(8億5,000万米ドル限度)を決定した国際協力銀行(JBIC)に対して抗議声明を提出するとともに、気候危機と先住民族の権利を無視した今回の融資決定を撤回するよう求めるアクションをJBIC前で行いました。抗議声明には世界30ヶ国93団体(11月12日更新:30ヶ国95団体賛同)が署名しています。
11月4日には、議長国であるイギリス政府のイニシアチブで、石炭だけでなく、海外の化石燃料エネルギー事業に対する公的支援の停止なども盛り込んだ声明が、アメリカやカナダを含む20ヶ国以上の賛同を得て発表されました。
一方、日本政府はこれまでJBICなど公的金融機関を通じて、あらゆる化石燃料事業に対して世界第2位の公的資金を提供しており、2018年から2020年までの平均で毎年109億ドルを提供してきました。2021年に入ってからも、JBICはオーストラリアのウェイトシアガス田ステージ2採掘事業、そして今回のLNGカナダ事業への融資を決め、さらに現在、オーストラリアのバロッサガス開発事業への融資を検討中です。
世界の取り組みが、すでに石炭だけでなく石油・ガス廃止の議論に移っているなか、いまだに国内外の石炭すら完全な停止の道筋を立てられていない日本は、益々世界の脱炭素の流れから取り残されようとしています。日本政府は、現地でも不要とされているインドネシア・インドラマユ石炭火力とバングラデシュ・マタバリ2石炭火力の支援中止を決断するとともに、石油・ガスへの公的支援停止の議論もすぐに始め、行動をとるべきです。
詳細は以下の抗議声明をご覧下さい。
> 抗議声明PDF版はこちら
2021年11月10日
【抗議声明】国際協力銀行及び民間銀行はLNGカナダ事業への融資撤回を!
COP26直前の気候危機、先住民族の権利を無視した公的融資決定に強く抗議
2021年10月29日、日本政府100%出資の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)が、「LNGカナダプロジェクト」(以下、LNGカナダ)に対する8億5,000万米ドルを限度とする融資支援を決定したことをプレスリリースで発表した(1)。
10月31日からイギリス・グラスゴーで開催される気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)を目前に控えたJBICの今回の決定は、議長国イギリスによる化石燃料への公的支援停止の呼びかけ(2)にも反し、日本政府の気候変動対策の取組みが依然として世界とかけ離れていることを示すもので、日本が再び国際的な非難の的になることは必至である。また、LNGカナダの関連事業では、先住民族の著しい人権侵害が国際的にも指摘されてきた。私たちは、気候変動への影響と先住民族の人権を無視した今回のJBICの融資決定に強く抗議の意を示すとともに、LNGカナダに関与している事業者及び金融機関に対し、同事業から即時撤退するよう求める。
LNGカナダは、ブリティッシュ・コロンビア州モントニーで採掘したシェールガスを、670キロメートルに及ぶコースタル・ガスリンク・パイプラインでキティマットまで運び液化し、アジア市場に対し輸出を行う計画である。出資者は三菱商事やロイヤル・ダッチ・シェルなどで、今回の同事業に対するJBICの融資は、民間金融機関との協調融資(18億5,000万ドル)となっている。どの民間金融機関が協調融資に参加しているかは明らかにされていないが、日本の三大銀行であるみずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行は、すでにコースタル・ガスリンク・パイプライン事業に融資を行っていることから、今回のLNGカナダへの協調融資にも参加している可能性が高い。
気候変動に関する国際条約であるパリ協定は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力目標を掲げており、これを達成するためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。今年5月に発表された国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするにはガス・石油を含む化石燃料への新規投資を即時に停止すべきだとしており(3)、化石燃料に対する公的融資を打ち切る必要性はこれまで以上に明らかである。また、LNGカナダは2024年度中から40年の稼働が計画されており、計画通り進めば2050年を越えてLNG生産が行われることになり、パリ協定に明らかに反する。
さらに、LNGカナダの不可分一体の事業であるコースタル・ガスリンク・パイプラインでは先住民族に対する深刻な人権侵害が今まさに起きており、開発事業者であるコースタル・ガスリンク・パイプライン社は先住民族Wet’suwet’enの権利を一顧だにせず、パイプライン敷設を強行している。直接的影響を受けるWet’suwet’enは、これまで一度も土地の権利を手放したことはなく、1997年にカナダ最高裁判所は、これらの土地に関する利用権は先住民族に属しているとする判決を出している(Delgamuukwケース)(4)。
国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)も、2019年12月13日付けで、先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent)」(FPIC)が得られるまで、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業、トランス・マウンテン・パイプライン事業、サイトCダムの建設を即時停止するよう連邦政府に求める決議を発表している(5)。つまり、国際的にもこのLNGカナダの関連事業でFPICが取得されていないことが指摘されており、今回のJBICの融資決定は、先住民族のFPIC取得を要件としている『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』に明らかに違反している。
また、民間銀行が署名している赤道原則でも、先住民族のFPIC取得及び「プロジェクト所在国の先住民族の権利と保護に係る当該国の法律、および当該国が国際法に則り履行する義務を負う法律遵守」を求めており、今回の融資決定はこれに明確に反している。先日10月19日にも、Wet’suwet’enをはじめとする世界の100を超える団体が日本の三大銀行を含む金融機関に対し、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業及びLNGカナダ事業に対する融資から撤退するよう求める要請書を出したばかりだった(6)。
私たちはLNGカナダへの融資を決定したJBIC及び民間金融機関に対し、改めて同事業への融資を即時撤回するよう強く求めるとともに、事業者である三菱商事にも同事業からの撤退を強く求める。
脚注
(1) 国際協力銀行(2021年10月29日)「カナダにおけるLNGカナダプロジェクトに対する開発資金を融資 日本のエネルギー資源確保に貢献」https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2021/1029-015352.html
(2) Climte Home News(2021年10月1日)「UK seeks alliance to end public finance for coal, oil and gas projects overseas」 https://www.climatechangenews.com/2021/10/01/uk-seeks-alliance-end-public-finance-coal-oil-gas-projects-overseas/
(3) International Energy Agency(2021年5月18日)「Net Zero by 2050: a Roadmap for the Global Energy Sector」https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
(4) CBC News(2020年2月14日)「’We still have title’: How a landmark B.C. court case set the stage for Wet’suwet’en protests」https://www.cbc.ca/news/canada/british-columbia/delgamuukw-court-ruling-significance-1.5461763
(5) Committee on the Elimination of Racial Discrimination(2019年12月13日)「Prevention of racial discrimination, including early warning and urgent action preceedure」https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CERD/Shared%20Documents/CAN/INT_CERD_EWU_CAN_9026_E.pdf?_ga=2.171294304.1158930249.1618 324061-1016472279.1618324061
(6) The Gidimt’en Checkpoint(2021年10月19日)「Indigenous-led campaign, endorsed by 100+ groups, urges global investors and banks to divest from and stop financing Coastal GasLink and LNG Canada; Financing violates racial justice commitments and reconciliation; Campaign builds on TMX campaign that saw 16 insurers drop the project」 https://static1.squarespace.com/static/5c51ebf73e2d0957ca117eb5/t/616e48f02d0094632c4c290a/1634617585249/211005-+Divest+from+Coastal+GasLink+Press+Release++-Canada.pdf
(以下、30ヵ国93団体賛同)(11月12日更新:30ヶ国95団体賛同)
呼びかけ団体:
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ
気候ネットワーク
賛同団体リスト:(PDF版をご覧下さい。)
(*) LNGカナダプロジェクトとは? ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)モントニーで採掘するシェールガスを670キロメートルに及ぶパイプラインでキティマットまで運んで液化し、主にアジア市場に対し輸出を行う事業。カナダはこれまで主に米国向けにガスの輸出を行ってきた。LNGカナダのターミナルがカナダにとって初めての大型LNG(液化天然ガス)輸出基地となる。
LNGカナダの事業者は三菱商事やロイヤル・ダッチ・シェルなどで、民間銀行からは、みずほ、三井住友、三菱UFJの3メガバンクが参加しているものと思われるが、明らかになっていない。
▼詳細はこちら https://www.foejapan.org/aid/jbic02/lngcanada/background.html
本件に関するお問合せ
国際環境NGO FoE Japan
info@foejapan.org
tel: 03-6909-5983 fax: 03-6909-5986