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ファクトシート:福島県の子どもたちの甲状腺がん 「悪性または疑い」152人に
リンパ節転移、肺転移など深刻な症状 しかし受診率は低下
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訂正:1巡目検査(先行調査)の数値を、2015年11月30日の委員会における福島県立医大の説明により、アップデートしました(2015年12月3日)。
11月30日、福島県県民健康調査委員会で、福島県の子どもたちの甲状腺がんの最新の状況が明らかになりました。
甲状腺がん悪性または疑いと診断された子どもたちの数は、1巡目2巡目合わせて152。2014年から始まった2巡目検査で甲状腺がんまたは疑いとされた子どもたちは39人。この中には、1巡目の検査で、問題なしとされた子どもたち37人が含まれています。
「スクリーニング効果」?
「疑い」とは、ここでは、細胞診において「甲状腺がん」と診断された人のことです。「確定」とは手術後に摘出した組織などを調べて診断した結果です。
国立がんセンターの統計データなどでは15~19歳の小児甲状腺がんは100万人に5人とされています。
現在、福島の子どもたちの甲状腺がんの率は、約30万人中100人以上で、国立がんセンターの統計データの数十倍レベルです。
一斉に甲状腺エコー検査を行うことにより、通常よりも前倒しで発見される効果を「スクリーニング効果」といいます。国際的な研究では「スクリーニング効果」は最大8倍とされています。
福島県県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会では、5月18日の委員会において、「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い」とする中間取りまとめを提出しています。ここで「有病数」(実際に病気をもっている数)という言葉を使っていることに注意が必要です。すなわち、県の公的な委員会でも、因果関係についてはさておいても、スクリーニング効果を考慮した上でも「多発」であると認めざるをえなくなったのです。
多いリンパ節転移や甲状腺外浸潤…破綻した「過剰診断」説
政府は、2巡目で甲状腺がんが見出されて以降も、「事故との因果関係は考えにくい」とし、一部の専門家たちが唱えている「過剰診断論」を盾にして新たな対策を取ろうとしません。
「過剰診断」とは、ここでは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」をさしています。すなわち、大したがんでもないのに、「甲状腺がん」と診断し、手術を行うことをさしています。
しかし、8月31日、手術を受けた子どもたちのうち96人の症例について、福島県立医大(当時)の鈴木眞一教授によるペーパーが公開され、リンパ節転移が72例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が92%にのぼることが明らかになりました。県民健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べています。すでにこの「過剰診断論」は破綻しているのです。
術式は、甲状腺全摘 6 例( 6 %)、片葉切除 90 例( 94 %) 術後病理診断では、軽度甲状腺外浸潤のあった14例を除いた腫瘍径10㎜以下は28例(29%)であった。リンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移のないもの(pT1a pN0 M0)は8例(8%)であった。 資料はこちらから>https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf |
鈴木眞一教授は、ずっと甲状腺がん検査の責任者でしたが、以前より、「過剰診断」という批判に対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」として、「放置できるものではない」としていました。
もっともこのあと県立医大からの手術症例に関する情報開示は途絶えており、 2 巡目の子どもたちの症例については不明なままです。
疫学の専門家が「本格的な多発はこれから」と警告
疫学の専門家で岡山大教授の津田敏秀氏は、今年10月6日に公表した論文で、福島での小児甲状腺がんの発生率について地区ごとの分析を行った結果、全国の小児甲状腺がんの罹患率と比べ、20~50倍の多発であると指摘しています。二巡目についても、十数倍の多発であるとしています。比較対象地域と比べて、放射性ヨウ素を含むプルームが流れた浜通りのいわき市や中通りの二本松市、郡山市、白河市などを含む地区の発生率が高いと分析しています。
チェルノブイリ周辺では、事故後4年後から小児甲状腺がんが急増しています。しかし、事故後1年後~3年後についても、統計的に有意に過剰な状況でした。津田氏は、福島の現状は、事故後1~3年後のチェルノブイリよりもさらに多発であり、今後さらに増加する可能性があると警告を発し、今から準備をするよう訴えています。
1巡目と2巡目の比較
福島県立医大は、2011年10月から2014年4月まで行われた1巡目の検査を「先行検査」とし、事故前の状況の把握と位置づけています。また、2014年4月からはじまった2巡目検査を「本格検査」として事故後の状況の把握としています。この両者を比較してみましょう。
1巡目調査 | 2巡目調査 |
( 2015 年 8 月 31 日委員会資料による)
・対象:平成 23 年 3 月 11 日時点で、概ね 0 歳から 18 歳までの福島県民。 367,685 人。 ・受診者 300,476 人( 81.7% ) ・悪性ないし悪性疑い 113 人 ・男性:女性 38 人: 75 人 ・平均年齢 17.3±2.7 歳( 8-22 歳)、震災当時 14.8±2.6 歳( 6-18 歳) ・平均腫瘍径 14.2±7.8 ㎜( 5.1-45.0 ㎜) 細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった 113 人の年齢、性分布(事故当時年齢)
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( 2015 年 11 月 30 日委員会資料による)
• 対象:先行検査における対象者に加え、事故後、2012年4月1日までに生まれた福島県民にまで拡大。 379,952人、
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< 第 20 回福島県県民健康調査委員会( 2015 年 8 月 31 日)資料、および第21回委員会(2015年11月30日)をもとに作成>
受診率の低下~リスク・コミュニケーションという名の不安対策の弊害
心配されるのは受診率の低下です。1巡目検査の受診率は81.7%であったのに比して、2巡目の検査の受診率は激減し、52.6%です。
ただでさえ、被ばくによる健康リスクについて考えたくない心理がある上に、政府の「被ばくは大したことはない」「不安に思うことのほうが健康に悪い」といった放射線安全キャンペーンが効を奏していると考えられます。
政府は、リスク・コミュニケーションといった不安対策に巨額の予算を投じるのではなく、個々の症例についての分析と、県外への健診の拡大、甲状腺がんのみならず、甲状腺の機能低下やその他の疾病も見据えた総合的な健診のあり方を真剣に検討すべきでしょう。
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