脱原発・エネルギーシフトに向けて
[セミナー報告]脱原発世界会議2 チェルノブイリから学ぶ
「チェルノブイリから学ぶ② 「放射線防護のための被災者支援のあり方とは 」
2012年12月15日16:00-18:00/東商ホール
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登壇者(敬称略):
満田夏花 …国際環境NGO FoE Japan
吉田由布子 …「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク
山田真 …子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク
中手聖一 …子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク
アレクセイ・ヤブロコフ …ロシア科学アカデミー
阪上武 …福島老朽原発を考える会
渡辺瑛莉 …国際環境NGO FoE Japan
本セッションでは、チェルノブイリの経験から学び取り、今後日本で必要とされる支援のあり方について考えることを目的に、チェルノブイリ事故後の人びとの健康被害とその対策、また、日本版チェルノブイリ法と言われる「原発事故子ども・被災者支援法」の理念を具現化するために必要な対策について、話し合いました。
はじめに、満田夏花から、日本の状況共有として、福島県県民健康管理調査の問題点と、子ども・被災者支援法の設立経緯と内容および課題についてお話しました。
県民健康管理調査の問題点として、そもそも目的が「不安解消」とされ、事故による放射線の影響が「極めて少ない」という考え方に立っていること、またチェルノブイリ事故の影響は小児甲状腺がんのみとしていることから、他の重要な検査がないこと、また内部被ばくの把握が不十分であることなどが挙げられました。加えて、問診票の回収率が2割にとどまる背景に、低線量被ばくの健康影響を軽視する実施主体に対する不信や一方的に調査されることへの不信があると指摘。このままでは、現状把握すら危ぶまれるような状況であることが示されました。
一方で、2011年度と2012年度にそれぞれ3万8114人、5万7840人が甲状腺検査を受け、2012年度の検査では、42%がA2判定(5mm以下の結節、20mm以下ののう胞)であり、B判定(0.5%)、C判定(1人)も見られたこと、A2判定の再検査は2年半後で、エコー検査の診断画像や医師の所見は複雑な情報公開請求を行わなければ受検者に知らされない問題、甲状腺機能を確認する血液検査がないこと、セカンドオピニオンを封じる動き、C判定の甲状腺がんの見つかった例では即座に事故との関係が否定されたことなどが問題提起されました。
チェルノブイリ事故から5年後の1991年の段階では、現場の医師たちから寄せられた疾患の報告に、IAEAなど国際機関は「国際的に認められた手法ではない」「科学的ではない」として無視していたが、その後認めざるをえなかったことからも、最初から事故の影響を少ないと仮定せず、「健康被害の未然防止」と「早期発見」を目的に、検査全体の見直し、低線量被ばくの影響を軽視しない実施主体、継続的な内部被ばく検査、甲状腺以外の疾患を考慮に入れた検査、疾患が出たときの治療、福島県のみならず幅広い検査、子どもだけでなく大人も、といった提言がなされました。
一方で、2012年6月に成立した「子ども・被災者支援法」は健康被害の未然防止や子ども・妊婦への特別の配慮などを掲げ、定期的な健康健診、特に子どもは生涯にわたる健診、医療費の減免などが定められていることを紹介。しかし理念法であり、具体的内容や支援対象地域は政府が定める基本方針において定められ、いまだに定まらない中で、現行の支援制度が打ち切られていくという厳しい状況を挙げ(2012年末をもって福島県外避難者の新規住宅支援打ち切り)、一刻も早く十分な内容の実現が急がれるとしました。
続いて、吉田由布子さんより、チェルノブイリ事故後の子どもたちの健康状態やその対策についてお話頂きました。ウクライナ、ロシア、ベラルーシでのさまざまなデータから、チェルノブイリ事故後、子どもたちの健康被害が世代を経て現在に至るまで継続している実態が報告されました。
IAEAは事故から20周年の報告書で「急性放射線障害3ヶ月以内に28人死亡、その後20年間に15人死亡」、「小児甲状腺がん4000人以上」、「白血病を含めその他の疾患の増加は確認されていない」、「チェルノブイリ事故により増加するガン死亡者数の推定は約4000人」などとし、事故による健康影響を過小評価していると指摘。一方、2011年3カ国がそれぞれ出したナショナルレポートでは甲状腺がん以外のさまざまな病気を報告。とりわけウクライナのレポートは幅広い健康影響を報告し、被ばくした子どもたちの全般的傾向として、発症の若年齢化、多系統・複数器官の病変、経過が長引き再発、小児期全体を通して低い健康レベルが継続などとしていることを紹介しました。
また、女性の健康への影響や、胎盤を通じて母体から胎児の臓器にセシウムが移行すること、また思春期での被ばくによる生殖健康への影響などを報告。ウクライナで被ばくした子どものうち健康な子どもの比率は1992年の24.1%から2008年には5.8%に減少、慢性疾患を持つ子どもの数が1992年に21.1%から2008年には78.2%に増加しているという衝撃的なデータも紹介されました。
一方で、3カ国で事故後、内部被ばくの包括的なモニタリングシステムや、複合的な健康増進プログラムや治療が行われてきていることも紹介され、日本でもとりわけ内部被ばくの測定システムの構築と、その動向にあわせた対応の必要性を訴えました。
2人の発表を受けて、山田真先生は、事故直後の国の動きが遅かったことにより詳しいデータを得て対策を立てることが難しくなったこと、それどころか被害隠しが行われていることを指摘。また、福島でも「大丈夫ムード」が広がり、事故が風化しつつあることに危機感を表しました。加えて、歴史的には第5福竜丸、水俣、東海村と犠牲者は切り捨てられてきたこと、先行きは暗いが、調査と病気の早期発見・治療のために一刻も早く動き出すべきであり、支援法の下でこうしたシステムを作らせ、それらを民間で監視する必要性を訴えました。
中手聖一さんは、待っていても国や県が健康被害の最小化を行ってくれるわけではないので、私たち市民がチェルノブイリの実態などを伝えていき、市民の力で国を動かしていくしかないと述べました。
ヤブロコフさんから日本の皆さんへのメッセージとして、「真実のために戦って。原子力産業や政府は情報を隠ぺいするもの。健康に関する包括的な独立パブリックモニタリングが必要」と述べました。
阪上武さんからは、県民健康管理調査の実施主体を交替すること、国が一元的に管理するセンターを設けること、国の安全キャンペーンに対してはチェルノブイリの実情をしっかり伝えることが提言されました。
満田からは、これらに加えて、監視機関に市民が参加していく形式が重要であると訴えました。
>[報告]チェルノブイリから学ぶ① 「低線量被ばくとIAEA・WHO」
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