脱原発・エネルギーシフトに向けて
原子力損害賠償紛争審査会へレター提出
国際環境NGO FoE Japanと福島老朽原発を考える会は、本日付で、原子力損害賠
償紛争審査会の委員に、下記のレターを提出しました。
>PDF版のレター
>別紙1
線量が高い地域から「自主」避難をせざるをえなかった人々の声をきいてください
被害を小さくみせかけないでください
福島老朽原発を考える会
国際環境NGO FoE Japan
私たちは、福島の子どもたちを守るために活動を続けている市民団体です。9月21日の審査会での議論を傍聴し、このままでは、4月22日以降、放射線量が高い地域の方々が自らの判断で避難した場合、政府が極めて一方的に定めた「避難区域」の外であるというだけで賠償の対象とならないのではないかと、危惧と焦りを感じています。
私たちは活動を通じて、放射線量が高い地域の方々の声に接してきました。避難区域外であるというだけで半年以上も賠償の対象にならず、子どもを守るために借金覚悟で自主避難を決断する方も、母子だけで避難した方も、あるいは経済的な問題から、不安と罪悪感にさいなまれながら、とどまらざるを得ない方も多くいらっしゃいます(別紙1)。行政は住民を駆り出して除染を行っていますが、除染の効果はせいぜい1~2割で、除染しても雨が降ればまわりの山林から放射性物質が流れ込み、もとの黙阿弥という場所も少なくありません。自主避難した方も、経済的に苦しんでいらっしゃる方々もいます。
たとえば福島市の大波地区。住民は線量の計測を自主的に行い、事故直後から線量が高いことを危惧していました。国の測定でも比較的高い線量が観測されていましたが特に動きはありませんでした。福島市が6月17日と20日に行った計測では、地区内の2箇所で3マイクロシーベルト/時を超えました。国が7月に実施した自動車サーベイで、3.1マイクロシーベルト/時以上を計測した場所が多かったのにもかかわらず(別紙1:図1)、その後実施した詳細調査で3.1マイクロシーベルト/時を超えた場所がないことを理由に、国や市は同地区を避難勧奨地点には指定しませんでした(別紙1:表1)。説明会が開かれたのは9月3日で、事故から半年近くたっていました。3.1マイクロシーベルトは放射線管理区域基準(0.6マイクロシーベルト/時相当)の5倍以上の線量です。
伊達市や南相馬市では、子どもや妊婦への基準が設けられたのですが、福島市・大波地区では、子ども・妊婦を問わず同じ基準が適用されました。
9月3日開催された説明会で、福島市は「経済がダメになるから避難ではなく、除染を選択する」と大波地区の住民に説明しています。しかし、福島市の調査によれば、除染による効果は1m高で6.7%、50cm高で11.8%にとどまっています(別紙1:図2)。しかも周囲を山に囲まれており、雨のたびに山から放射能を含む土が流れ込む位置にあります。
大波地区の住民は、高い線量が観測されていながら半年近くも放置され、あげく「避難より除染を選択する」との姿勢により、子ども基準も設けられずに避難勧奨の指定から外され、なかなか効果が上がらない除染に駆り出され、被ばくを強いられるという状況に置かれています。
どうか想像してみて下さい。
一般人の立ち入りが禁止され、厳重に管理されている放射線管理区域(0.6マイクロシーベルト/時に相当)以上の環境が広がっている中、そこで自分たちの子どもを遊ばせ、学ばせ、そこでずっと生活させることに不安を感じることは無理からぬことではないでしょうか。これから子どもを産み、育てる女性が、そんな場所で出産を決断するでしょうか。
ましてや、現在、食品の暫定基準値がきわめて高く設定され、福島県下の学校で県産材がむしろ積極的に利用されてきた中、福島の子どもたちは、食品を通じた内部被ばくの危機にすらさらされているのです。
そうした地域から避難し、被ばくを可能な限り避けることは「合理的」ではないのでしょうか。
9月3日開催された大波地区における説明会で、住民は以下のように反発しています。
・「畑は4μを越える、畑で長い時間を過ごす人が多い。なぜ生活の場である畑を測らないのか?」
・「線量が下がってから測っている。指定されないのは納得できない」
・「法令で定められた年1ミリをもとに避難基準を設定すべきではないか」
・「子どもたちは既に内部被ばくをしている。すぐに避難させて欲しい」
・「すべての子どもたちの避難に補償を出して欲しい」
・「山や畑の除染は不可能ではないか?」
・「除染でさらに被ばくさせられるのは納得できない」
さらに、最後に「万が一、将来ガンになったときに、東電は補償してくれるのか?」という住民の問いかけに対して、居合わせた東京電力は、以下のように回答しました。
東電:因果関係が証明できない場合は、補償しない。
言うまでもなく、放射能の影響によってガンの発症率が統計学的に有意に高まったことが疫学調査により証明できたとしても、ある個人のガンの原因が、放射能の影響なのか、他の理由によるものなのかを区別することは不可能です。東電の回答は、すなわち補償しない、ということを明確に言い切ったこととなります。
このような状況に置かれた住民が、自らの身を守るために、避難を選択することは、合理的と言えるのではないでしょうか?
国が設定した避難基準(年20ミリシーベルト)は、現在までの日本の法令や国際的な常識に比してもあまりに高い基準です(別紙1:注)。現在までの日本の法令は社会的な合意のもとに制定されてきたはずであり、この20倍もの被ばくから住民が回避しようと行動することは、合理的と言えるのではないいでしょうか?
原子力安全委員会は、「現存被ばく状況にある(すなわち残留した放射性物質による被ばくが一定レベル以下に管理可能である。)ことについての判断の「めやす」を設定するに当たっては、予想される全被ばく経路(地表面沈着からの外部被ばく、再浮遊物質の吸入摂取による内部被ばく、飲食物等の経口摂取による内部被ばく等)からの被ばくを総合的に考慮しなければならない。この「めやす」の設定においては、空間線量率(μSv/h)、土壌の放射能濃度や表面沈着濃度(Bq/kg、Bq/m2)を使用することも考えられる。」(平成23年7月19日「今後の避難解除、復興に向けた放射線防護に関する基本的な考え方について」)としていますが、線量の基準には、内部被ばくや土壌汚染についての考慮は一切ありません。
またICRP の勧告に従えば、現存被ばく状況に適用されるバンドの 1〜20mSv/年の下方の線量を選定することになります。これは20ミリならばよいという意味ではなく、原子力安全委員会によっても、20ミリシーベルトは安全基準ではなく、これを安全だと認めた国側専門家は誰もいません。ICRPは、長期的には、年間1mSv を目標とするとし、そのためにあらゆる措置をとることを求めていますが、福島市や郡山市を含む現存被ばく状況にあるとされる地域において、住民は半年以上も放置され、自主避難を余儀なくされているのです。
線量の高い地域に暮らす住民が、経済的な事情が理由で避難を妨げられてはなりません。こうしている間にも、住民たちは被ばくを重ねているのです。これは人道上の罪です。
さらに「自主」避難した方々は、原発事故さえなければ、そのような避難をする必要はなかった点にもご留意ください。これは、原発事故が故の厳然たる被害なのです。
どうぞ以上の事情をご勘案の上、自主避難の賠償を幅広くお認めくださるようお願いいたします。