国会審議:石炭火力輸出支援は一切の例外なく停止を ―「座礁資産化のリスク等も考慮し、相手国の重荷にならない援助が必要」
日本政府は、国内外からの強い批判の声にもかかわらず、依然として海外の石炭火力発電所への公的支援を続けようとしています。
菅首相の4月訪米を前に、「脱炭素へ石炭火力の輸出支援停止 政府、米欧と歩調」(2021年3月29日記事)という報道も流れていますが、こうした日本政府の新しい方針が適用されない石炭火力発電所の建設計画があります。インドネシアのインドラマユ石炭火力・拡張計画(100万 kW)とバングラデシュのマタバリ石炭火力発電事業フェーズ2(60万 kW × 2基)です。
これら2案件は、まだ発電所の建設作業は始まっていません。両国政府からも発電所自体の建設工事に対する正式な円借款要請はまだありません。しかし、日本政府は、新方針が決定される以前から政府間合意があり、(準備調査や基本設計など)実施に向けた手続を行っている案件であるため、同2案件には新方針を適用しないとしています。つまり、これまでの方針の文言をいくら変更し、「輸出支援停止」を謡ったとしても、実態が伴わない状況が続くことになります。
3月23日、参議院「政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会」で、井上哲士議員(日本共産党)は、これら2案件が、気温上昇を1.5度に抑える長期目標を掲げたパリ協定と整合しない点を問題提起しました。また、脱炭素社会に向けて投資家による石炭関連事業からのダイベストメントの動きが世界で広がるとともに、両国で再生可能エネルギーのコスト低下がみられる中、この2つの発電所が建設したとしても座礁資産化し、援助どころか、かえってインドネシアやバングラデシュの重荷になる可能性を指摘しました。
これに対し、ODAの実施を担う政府機関である国際協力機構(JICA)北岡理事長は、「要請主義」、あるいは、「最終的な判断は相手国政府」という点を強調するなど、無責任な答弁が目立ちました。
インドネシアのインドラマユでは、石炭火力の建設で農地や漁場など生計手段を失う現地住民が、5年以上にわたり、発電所の建設に強く反対し、日本政府・JICAにも度々支援停止を求める要請を行なってきました。また、バングラデシュでは、JICA が支援中のマタバリ石炭火力フェーズ1の工事で住民移転を強いられたり、塩田やエビの養殖で生計を立てていた多くの住民が失業し、生活が苦しくなっています。
日本政府・JICAは、現地住民、そして国内外の声をしっかりと受け止め、「一切例外のない」石炭火力発電所への公的支援停止を方針として掲げるべきです。
以下、2021年3月23日の参議院・ODA等に関する特別委員会での質疑内容です。
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参議院・政府開発援助(ODA)等に関する特別委員会(2021年3月23日)
>インターネット審議中継の映像はこちら [発言部分 1:35:30~]
https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
●井上哲士 議員(日本共産党):
海外の石炭火力発電所への支援についてお聞きします。まず、外務大臣にお聞きしますが、パリ協定以来、温室効果ガスを多く発生させる石炭火力発電所を廃止する動きが強まっています。グテーレス国連事務総長は3月2日、脱石炭連盟サミットに寄せたメッセージで、気温上昇を1.5度に抑える目標を達成するためには、石炭火力発電についてOECD加盟国は2030年までに段階的に廃止することを求めました。さらに、主要排出経済国の指導者に対して、本年中の最も早い機会に石炭への自国の国際的な資金支援の終了を表明するよう求めています。 外務大臣は先日の所信で、気候変動問題については国際社会の取組みをリードしていくと、述べられました。逆に今、日本が主要7ヶ国の中で唯一輸出を支援している国としての批判も上がっています。国連事務総長のメッセージやこうした批判をどう受け止め、どう対応されるんでしょうか。
●茂木 敏充 外務大臣:
気候変動問題への取組み、今、国際社会、日本を含め主要国だけでなく各国が最優先で取り組むべき今喫緊の課題だと思っています。 昨年12月に決定したインフラシステム海外展開戦略2025におきまして、世界の実効的な脱炭素化に責任を持って取り組む視点から、今後新たに計画される石炭火力輸出支援の厳格化を行なったところです。また、海外で新設される石炭火力発電所に対するODAによる支援について、現時点でこの新方針が適用されるODAプロジェクトはない、このように理解しています。 いずれにしても、相手国のエネルギー政策や気候変動政策にエンゲージを深めることで脱炭素化を促すという基本方針を踏まえて取組みを進め、脱炭素社会の実現をリードしてまいりたいと思っています。 国際社会の声は私なりには十分理解しています。そして、そういった声にはしっかり応えていかなくてはいけないと思っています。
●井上議員:
今ありましたこのインフラシステム輸出戦略の中で、輸出相手国の脱炭素化への移行方針が確認できない場合は原則支援しないということになりました。これは、国内外のいろんな声に応えたものだと思いますが、しかし抜け穴だらけという指摘もあるんですね。その大きなものが、現在進行中の案件には適用せずに支援を続けるということです。
JICAとして、今進行中の案件は一体何で、これはどうして継続をするんでしょうか。
●JICA北岡理事長:
私は平成30年から31年にかけてパリ協定と日本の経済成長をいかに両立させるかという委員会の座長をやっており、この問題の重要性は十分認識しているつもりです。そのときは、委員会の、懇談会の中の意見が十分まとまりませんで、必ずしも十分な明快な結論は出せなかったと記憶しています。したがって、昨年の10月に総理が新方針を打ち出されたというのは、大変明快で、私は歓迎、喜ばしいと思いましたし、また、私はかつて国連大使を務めていましたが、国連関係者からも歓迎のメッセージが届けられて、大いにちょっと面目を施した次第です。
ところで、その中で昨年12月にインフラシステム海外展開戦略2025が決定され、世界の実効的な脱炭素化に責任を持って取り組む視点から、今後新たに計画される石炭火力輸出支援については厳格に対応するという方針であるということを承知しています。
委員が抜け穴と言われたものの多分念頭に置いておられるのは、バングラデシュに対するマタバリ超々臨界圧石炭火力発電計画フェーズ2及びインドネシア円借款インドラマユ石炭火力発電計画ではないかと想定しながらお答えを続けたいと思うのですが、政府の方針が以上のものであるという中で、我々独立行政法人で政府が決めたことを何でもすぐその通りやるというわけではありません。それはちょっと実行困難だとか、少し事情が違いますよといって意見を申し上げることはあります。しかし、その政府との十分な協議の下にやっていくと。外務省及び政府との関係は大変順調、円滑にやっています。
また、もう一つ申し上げたいのは、我々、要請主義というものを取っておりまして、相手国からの要請に応じてやると、上から目線で押し付けるというような援助はしないという立場を取っています。言い換えれば、相手国との合意は守ると、やっていくというのが私どもの立場です。
インドネシアについては後ほど、より詳しい前インドネシア所長であった理事からお答えすることにし、バングラデシュについて申し上げると、バングラデシュはかつて世界最貧国と言われました。最貧国の一つでした。ところが、現在、2018年のレベルで一人当たりGNIが1750ドルまで来て、2026年には、後発開発途上国、LDCを卒業するという勢いでやってきているわけです。この成長の過程でやっぱり一定の電力が必要だというのは否定できない事実だろうと思うんですね。
ですから、そういう国からの要請があって我々話し合いはしますが、引き続き要請があるものを、すでに一度約束して進めているものをこちらから、あれは止めたいとはなかなか言えないというのは、あるいは、言うべきでないだろうと考えています。
●井上議員:
政府間合意、強調されるんですが、政府間の大筋合意後に相手から取消した例はあるわけですね。インドネシアとの関係で言いますと、過去、気候変動対策プログラムローンをフランスと3期にわたり協調融資した跡に、4期目についても大筋合意後にインドネシア側から突然取消されたということもありました。
両計画とも様々な工事に関わる環境や農業、漁業への深刻な問題もあるわけですが、もちろんODAは相手の要請が必要です。ニーズが必要です。しかし、こういう地球温暖化という国際的な課題で取組みも続いている中で、それだけでいいのかということが問われると思うんですね。
冒頭述べたように、OECD以外の国も40年までの石炭火力発電所の廃止が求められています。今の案件で言いますと、マタバリ2は2028年、インドラマユは2026年が稼働開始の計画になっているわけですね。そうしますと、2040年まで10数年しかありません。だから、それを超えて稼働させることになるとパリ協定の目標と整合しないんじゃないか、逆にそこで稼働停止となると座礁資産となり、売電収入のないままに数十年かけて返済をすることで国民の重い負担になると、こういう問題が起こると思うが、いかがでしょうか。
●JICA北岡理事長:
2040年までに途上国でも石炭火力発電を廃止する必要があるというのは、これは国際的な合意というよりは、そういう意見を持っている団体、方々もあるということだと思います。更に申し上げると、私は、地球温暖化というのはグローバルな課題であり、それぞれの国がそれぞれの国の立場に応じた責任を果たすということだと。これは国際合意です。
そうすると、より大きな責任を持っているのは、第一に、産業革命以来、膨大な二酸化炭素を排出してきた欧米の先進国、それから、現在、多くの二酸化炭素を排出している国々であって、現在途上国でまだ発展しつつある国の責任は割合小さいと。したがって、彼らにはまだ発展の権利があり、これに、二酸化炭素削減に協力する責任は相対的にあるとは思います。でも、相対的に少ないと考えられるわけです。 したがって、この我々の制度、非常に、石炭火力としては二酸化炭素排出の少ないものに取り組んでいくということを支援するのは、今のところ正当であると考えています。
●井上議員:
超々臨界と言っても、液化ガスの発電と比べると倍のCO2排出になるので、私はパリ協定と整合しないと思うんですね。それで、私が申し上げているのは、むしろそういうものを途上国の支援としてやっても、逆に座礁資産となって、その国にとってもプラスじゃないのではないかということを申し上げているんです。
今、ダイベストメントの動きが大きく広がっています。イギリスのスタンダードチャータードやイギリスHSBCは、ベトナムのビンタン3の融資から撤退しました。アメリカエネルギー経済・財務分析研究所によると、すでに世界で130以上の大手銀行、保険会社が石炭火力発電への関連投資に制限をかけていると、こう言われています。日本でも、三菱商事がベトナムでのビンタン3計画から撤退する方針という動きがあります。
結局、投資家は、将来を見通して、こういう国際的な批判があるものに投資するのがいいのか、そして事業としても、この再生エネルギーのコストが下がる中で成り立つのかと、こういう判断をして、投資すべきでないという投資家が声をあげていることが、こういうダイベストメントの背景にあると思うんです。 こういう流れを見れば、石炭火力発電所が座礁資産になると、こういう可能性は私は高いと思いますが、改めていかがでしょうか。
●JICA北岡理事長:
ダイベストの動きが非常に加速している状況はよく存じています。ですから、我々は国際会議ではこれまでやや肩身の狭い思いをしていたんですが、少しほっとしたという感じがあり、実は、先ほど申し上げた懇談会でも、ある委員の方が、御名前は出しませんが、自分ほどこれまで石炭火力を造ってきた人間はいないと思うと。しかし、これはもう無理だということを言っておられ、そういうトレンドがあったのはよく承知しており、今はそれが広がっているということは確かです。
ただ、先ほど要請国主義で申し上げたとおり、後ほどお尋ねがあるかもしれませんが、相手国とよく相談して、幸い、私ども、バングラデシュともインドネシアとも非常に良い関係があるので、お宅の将来にとって本当に何がいいかを一緒によく考えましょうということをやっていくと。これを併せてやりたいと思っています。
一方的にやるのは非常にまずいと思っていますし、外交関係からも、また、もし電力が必要だと、しかし石炭火力できないということになったら、彼らは違った国、違った方法で行くかもしれないと。それはやっぱり一緒に考えていくという姿勢は崩さないでやっていきたいと思っています。
●井上議員:
日本が撤退したら中国がということも言う方もいらっしゃるが、中国はバングラデシュでの石炭火力発電事業に投資することを撤退したと、先日報道もありました。
実際、2020年にイギリスのシンクタンクのカーボントラッカーが発表した分析では、バングラデシュとインドネシアを含むアジアの多くの国と地域では、新設の石炭火力よりも再生可能エネルギーの新設のほうが安いと、こう指摘をされているわけですね。
ですから、長期的に見ても、こういうコストがどんどん再生可能エネルギーが下がっているもとで、高い石炭火力をつくることが結果としては相手国の重荷にもなると、そういう立場から日本がこの見直しを図ることが相手国にとっても必要だと思うんですが、併せてどうでしょうか。
●JICA北岡理事長:
再生エネルギーがどれほど経済的かどうかは、その国のおかれた条件にも非常に関わり、ヨーロッパの特にオランダとかデンマークとかの辺りと日本とでは色々な条件が違うのはご存じのとおりです。
したがって、それから、先ほど中国と言われましたが、私は中国とは言っていませんが、他の国の他の方法、つまり原子力ということもあり得ます。いろんな方法で出てくる可能性もあるという、そういう外交的な配慮も私はするべきではないかと思っています。
いずれにしても、どちらがより長期的に効果的だということは、最終的に判断するのは向こうの政府です。よく相談して、我々はこういう方法ならこういう支援ができるということを相談しながらやっていきたいというのが我々の基本方針であり、また政府のご方針だと理解しています。
●井上議員:
インドネシアもバングラデシュも、この電気余剰というものもあるわけですね。本当に今必要なのかということが問われています。
イギリスは、昨年12月に海外の化石燃料プロジェクトへの公的資金の停止を宣言しました。日本も世界をリードしていくということであるならば、改めてこういう方向を、今の方向を見直して、再生可能エネルギーの推進こそ支援するべきだということを重ねて申し上げ、質問を終わります。
(以上)
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
200万kW(100万kW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(100万kW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、基本設計等のためにエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を締結(2013年3月)。現在もE/S借款の支払いを続けている。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。