【プレスリリース】米連邦控訴裁がテキサス原油輸出ターミナルの承認を取り消し 日本政府は対米投融資による化石燃料支援を再考すべき

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2026年8月12日、米連邦第5巡回区控訴裁判所は、テキサス州ブラゾリア郡沖に計画されているテキサス・ガルフリンク深海原油輸出ターミナル事業に対する米国海事局(MARAD:U.S. Maritime Administration)のライセンス交付決定を違法と判断した上でこれを取り消し、差し戻した(Citizens for Clean Air & Clean Water in Brazoria County v. U.S. Department of Transportation)。同事業は、日本政府がトランプ政権との関税交渉の結果約束した5,500億米ドル(約80兆円)規模の対米投融資の第1弾に含まれ、国際協力銀行(JBIC。財務省全株式保有 )と日本貿易保険(NEXI。経済産業省全額出資 )が今年4月に融資・付保を決定していた。加えてJBICおよびNEXIは8月14日に、日米合意に基づく対米投融資第2弾の事業への支援の決定、およびテキサス・ガルフリンク事業への融資上限の拡大を行っていたことを発表した

同事業実施の大前提となる許認可に不備が認められた以上、JBICとNEXIによる融資および付保決定前、また支援拡大の決定前の審査が適切に行われていたか真摯に問われなければならない。またテキサス・ガルフリンク事業は今回のような許認可の不備だけでなく、以下で示す多くの問題を抱えていることから、日本政府、JBIC、NEXIは、本事業への貸付実行および付保を直ちに停止し、対米投融資への日本の関与そのものを根本から再考するべきである。

今回の判決の概要

米深海港法(Deepwater Port Act)では、一つの申請区域内で承認されうる深海港は1つのみと定められている中、深海港であるテキサス・ガルフリンク事業が位置する申請区ではすでに別の深海港事業が承認されていた。しかし米国海事局は、テキサス・ガルフリンクの申請区域から沖合パイプラインを除外して区域を設定し、申請を許可した。テキサス・ガルフリンクの沖合パイプラインを除外しなければ、テキサス・ガルフリンクの区域は隣接する既承認事業シーポートオイルターミナルの計画パイプラインと交差することになり、1区域1港という要件に反するためである。このパイプラインを含め適切に申請していれば、法に基づいて同事業の申請は却下されなくてはならない。したがって控訴裁判所は、当該承認を違法と判断した。(詳細はEarth Justiceのプレスリリースを参照のこと)

巨額すぎる対米投融資にはらむ円安・事業不採算リスク

今回の判決により、同事業は遅延を強いられる可能性が高い。事業の建設、稼働開始が遅れれば、事業費の増加も避けられない。遅延と費用増加が現実のものとなったとき、日本はさらに公的資金を注ぎ込むのか。そしてその資金は本当に日本にとって払うべきものなのか、政府とJBIC、NEXIは、この問いに正面から答える責任がある

この財政面のリスクに加えて、対米投融資は、円安加速という点でも問題だ。昨今の高市政権の積極財政等の影響で円安が止まらず、物価高に至っているが、80兆円規模の投融資は大半がドル建てで実行されるため、その分大量のドルを購入する必要がある。1兆円のドル買いは1円ほどの円安につながるとされる中、ここまで大規模な円売りドル買いは、それ自体が新たな円安圧力となって家計を圧迫する。同テキサス・ガルフリンク事業も総事業費は約21億米ドルであり、日本円で3,386億円(1ドル=159円とした場合)と巨額である。

同事業はそもそも今回の判決が出る前から採算性が疑問視されていた。JBICは同事業について「バンカブルになった」、すなわち採算がとれるとするが、あるメガバンクが同テキサス・ガルフリンク事業を含む対米投融資第一弾の事業郡についてリスク分析を行ったところキャッシュフローが不足するリスクが高く、返済原資が不足する可能性が高いと判断したという報道もある。さらに米エネルギー情報局(EIA)は米国の原油生産量が2021年以来初めて減少に転じる(2027年に前年比約2%減)と予測しており、米国が輸出に回せる余力は縮小する見通しである。つまり、輸出に回せる余力がなければ、そもそもテキサス・ガルフリンク事業は必要ない。同事業が融資を返済できるほどの稼働率で稼動できるのか甚だ疑問である。今回の判決は、既に採算性が疑問視されている事業にさらに追い打ちを加えるものであり、同事業に融資決定を下したJBICや付保決定をしたNEXIがさらなる負担を強いられ、結果的に国民がその負担を賄うシナリオがさらに現実味を増すことを意味する。実際8月14日には同事業へのJBIC融資分を1億400万米ドルから1億3,800万米ドルへ増額したことを発表し、それに合わせNEXIも付保対象融資額を増額した。

国際合意と科学が示す結論:新規化石燃料事業の余地は無い
そもそもテキサス・ガルフリンク事業のような新規の化石燃料事業は、気候変動に関する国際合意と科学的知見と相容れないものである。2022年G7エルマウ・サミットにて日本政府は、「​​各国が明確に規定する、地球温暖化に関する摂氏1.5度目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末まで」の終了にコミットした。JBICおよびNEXIによるテキサス・ガルフリンク事業の支援は、明確にこのG7合意に違反するものである。

2050年ネットゼロの道筋を分析した国際エネルギー機関の報告書では、1.5℃の目標達成のためには、石油、ガス、石炭の新規プロジェクト開発は必要ないことが再確認された。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書でも、既存の化石燃料インフラからの推定CO2排出量だけでも、1.5℃以上の温暖化につながってしまうと指摘されている。科学の結論は明確である。気候変動による最悪の影響を避けるためには、新規の化石燃料プロジェクトの開発を行う余地はもう地球上にはない。

さらに、JBIC等を通じた海外の化石燃料事業に対する公的資金支援は、既に莫大な温室効果ガス排出をもたらしている。FoE Japanの調査によれば、JBICによる温室効果ガス排出量は2024年に約4億800万トン(CO₂換算、GWP20、動員排出量)であり、JBICを国と見立てた場合、温室効果ガス排出量において世界第20位に相当し、フランス、イギリス、イタリア等の国々の年間排出量を上回る。

さらに、JBICの年間温室効果ガス排出の推移はIPCCが求める削減率(2030年までに、2019年比で「約43%」削減)と整合していないことも明らかになっている。仮にJBICが2025年以降に化石燃料ガス事業への投融資を一切しない前提でも整合しない。テキサス・ガルフリンク事業に融資すれば、1.5℃目標に整合する排出削減経路から一層乖離することになる。

現地住民の被害を繰り返してはならない

本事業が計画されるブラゾリア郡では、日本の公的・民間資金が支援するフリーポート液化天然ガス(LNG)事業が、すでに深刻な被害をもたらしてきた。LNG事業は、喘息をもたらす二酸化硫黄、すす、さらにはがんを発症させるベンゼンも排出する。フリーポートLNG近辺でも健康被害が判明しており、テキサス州保健福祉局の調査によれば、フリーポートLNG近辺では、既存の産業による汚染により、すでに高いがん罹患率が報告されており、LNGの稼働は、地元にさらなる健康被害をもたらす要因となる。さらに同事業は操業開始当初から毎月のように有害物質を排出するなど排出基準等の不遵守を繰り返しており、その回数は合計約800件に及ぶ。また、杜撰な管理体制が原因で2022年に爆発事故が起き、子どもを含む複数人が負傷した。現地住民らは今年5月に来日し、JBICやNEXI等に環境ガイドライン上必要とされている環境影響や累積的影響の適切な評価や、必要なモニタリングを怠ったなどとして異議申立書を提出している。同じブラゾリア郡で住民の声を聞かないまま新たな化石燃料インフラへの支援を進めることで、さらに現地住民が被害をうける可能性がある。

対米投融資そのものを再考する時
今回の米控訴裁による判決に加え、以上に挙げた諸問題は、対米投融資における化石燃料事業支援が抱える様々なリスクを浮き彫りにしている。日本政府、JBIC、NEXIは今回の判決を真摯に受け止め、テキサス・ガルフリンク事業について、これまでの環境社会影響や財務面でのリスク等を改めて評価し、市民に対し十分な情報公開を実施するべきである。加えて、日本政府は高リスクで、温室効果ガスの排出が莫大な事業に莫大な公的資金投入を余儀なくされる対米投融資の枠組み全体を再検証するべきである。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権として、80兆円規模の対米投融資を本当に継続するのか改めて議論するべきである。

 

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