インドネシア・西パプア州タングーLNG拡張計画とは?

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タングーLNG 拡張計画 事業概要

1. 事業概要

1.事業の概要

目的:ガスおよび液化天然ガス(LNG)生産(生産分与契約(PSC)2055年末まで) 
・3鉱区(ベラウ鉱区、ウィリアガール鉱区、ムツリ鉱区)のガス田統合開発
    =3鉱区確認埋蔵量14.4兆立方フィート
 ※(拡張計画)ウバダリガス田開発(約3兆立方フィート増加予定)
・ガス液化設備の建設・操業
 生産能力=年間約1,140トン (380万トン x 3系列)(2026年時点)
  -第1、2系列年間760万トン(380万トン × 2系列)(Train 1、2)
  -第3系列年間380万トン(Train 3)
※(拡張計画)第4系列(Train 4)
※(拡張計画の一環)炭素回収・利用・貯留(CCUS)設備の導入(生産中のヴォルワタガス田におけるガス
増進回収(EGR)を目的としたものを含む)

サイト位置:西パプア州トゥルク・ビントゥニ県およびファクファク県(ビントゥニ湾)

総事業費:
・ガス田開発およびTrain 1、2=総額約50億米ドル(ガス田開発約14億米ドル、ガス液化設備約35億米ドル)
・Train 3=不明
※(拡張計画)UCC(Ubadari, CCUS, Compression)計画=総額約70億米ドル

事業実施者:英bpをオペレーターとするコンソーシアム
コンソーシアムの権益構成  
(約46%の権益は日本企業6社と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が保有) 

・bp 40.22%
・MI Berau 16.3%(三菱商事、INPEX)
・中国海洋石油総公司(CNOOC)13.9%
・日石ベラウ石油開発 12.23%(ENEOS Xplora、JOGMEC)
・ケージーベラウ石油開発 8.56%
(JOGMEC、三井物産、ENEOS Xplora、三菱商事、INPEX )    
・Indonesia Natural Gas Resources Muturi Inc. 7.35%
(エルエヌジージャパン(住友商事と双日の折半出資会社))
・ケージーウィリアガール石油開発 1.44%(三井物産)

オフテーカー:
・インドネシア国有電力会社(PLN)=Train 3で生産されるLNG年間約280万トン含む
・関西電力=2014年から22年間。年間最大約100万トン
(Train 3生産開始後はTrain 3で生産されるLNG年間約100万トン)
・東北電力=2010年から15年間。年間約12万トン
・その他、中国、韓国、北米など

 融資機関: 

<ガス田開発およびTrain 1、2>

 国際協力銀行(JBIC)、アジア開発銀行(ADB)、民間銀行団(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、BNPパリバ銀行、フォーティス銀行、ING銀行、スタンダードチャータード銀行)

<Train 3>

JBIC、ADB、韓国産業銀行(KDB)、ドイツ復興金融公庫(KfW)、民間銀行団(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、新生銀行、中国銀行、中国建設銀行、DBS銀行、ユナイテッドオーバーシーズ銀行、BNPパリバ銀行、クレディ・アグリコル銀行、オーバシー・チャイニーズ銀行、PT. Bank Mandiri (Persero) Tbk.、PT. Bank Negara Indonesia (Persero) Tbk.、PT. Bank Rakyat Indonesia (Persero) Tbk.、PT. Indonesia Infrastructure Finance(IIF))

* IIFへの出資割合:PT Sarana Multi Infrastruktur 34.3%、ADB 16.9%、国際金融公社(IFC)16.9%、KfW 16.9%、三井住友銀行14.9%出資

* アジアインフラ投資銀行(AIIB):インフラ債務証券Bayfront Infrastructure Capital IVへの投資を通じて関与

保証・保険機関:JOGMEC、日本貿易保険(NEXI)

2. 日本との関わり

公的機関

<ガス田開発およびTrain 1、2>
・JBIC=協調融資総額約26億米ドルのうち約12億米ドル(限度)の融資(2006年8月に融資決定)
・NEXI=民間金融機関が行う融資に対してエルエヌジージャパンが供与する債務保証をカバーする保険引受(2007年11月)
・JOGMEC=3社(日石ベラウ石油開発、ケージーベラウ石油開発、ケージーウィリアガール石油開発)の借入のための債務保証約3億米ドル(見込額)

<Train 3>
・JBIC=約12億米ドル(限度)の融資(2016年6月に融資決定)
・NEXI=民間金融機関が行う融資に対してエルエヌジージャパンが供与する保証債務相当額に係る非常危険をカバ
ーする保険引受(2016年11月)
・JOGMEC=3社(日石ベラウ石油開発、ケージーベラウ石油開発、ケージーウィリアガール石油開発)の借入の
ための債務保証約4.16億米ドル(見込額)

<拡張計画/UCC計画>
・日本貿易保険=付保検討中(2026年1月~)

日本企業

・三菱商事、INPEX、ENEOS Xplora、双日、住友商事、三井物産=事業の権益保有
・関西電力=LNG購入に関する長期売買契約を締結(2014年から22年間。年間最大約100万トン)
・東北電力=LNGを購入に関する長期売買契約を締結(2010年から15年間。年間12万トン)

<ガス田開発およびTrain 1、2>
・みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行=協調融資総額約26億米ドルのうち10.66億米ドル(2006年8月)
・日揮=Train 1、2の設計・調達・建設(2005年)

<Train 3>
・みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、新生銀行(2016年)
・日揮=Train 3の基本設計(2014年)
・千代田化工建設=Train 3の設計・調達・建設(EPC)(2016年)

<拡張計画/UCC計画>
・日揮=陸上のガス昇圧設備、EGR圧縮設備、コンバインドサイクル発電設備等の設計、調達、建設および据付(EPCI)

国際開発金融機関(MDBs):

<ガス田開発およびTrain 1、2>
・ADB(日本は最大出資国の一つ)=3.5億米ドルの融資(2005年承認)

<Train 3>
・ADB=4億米ドルの融資(2016年承認)
・世界銀行グループ(日本は第二位の出資国)IFC=IIFへの出資

3. 主な経緯

※出典はPDFを参照のこと。

<ガス田開発およびTrain 1、2>

動き
1994年西パプア・ビントゥニ湾周辺でガスを発見
1999年住友商事など日本企業の参入
2002年10月インドネシア環境当局、AMDAL(環境影響評価)を承認し、環境許認可を発行
2002年10月中国福建省へ年間260万トンのLNGを供給する長期契約を締結
2004年7月韓国K-Power社及びPOSCO社へ合計年間115万トンのLNGを供給する長期契約を締結
2004年10月米のSempra Energy社(メキシコのLNG受入ターミナル向け)に年間370万トンを供給する長期契約を締結
2005年3月最終投資決定
2005年5月日揮等と液化プラント建設契約に関わるEPC契約を締結
2005年建設開始
2006年8月JBIC、民間銀行団、ADBと融資契約を締結
2009年6月LNG生産開始
2009年7月LNGの第一船を韓国南部の光陽LNG受入基地(POSCO社)へ出荷
2010年10月フル稼働開始
2013年12月関西電力、LNGを購入する長期売買契約を締結(2014年から22年間、年間最大約100万トンのLNG購入)

<Train 3>

動き
2012年インドネシア政府、タングーLNG拡張プロジェクト開発計画(Train 3)を承認
2014年8月インドネシア環境当局、タングーLNG拡張プロジェクトのAMDALを承認し、環境許認可を発行
2016年6月JBICと貸付契約を締結
2016年7月最終投資決定
2016年8月CSTSコンソーシアム(千代田化工建設、サイペム、トリパトラ、スルー・アルディ・エンジニアリング)とEPC(設計・調達・建設)契約を締結
2016年12月ADB理事会、融資を承認
2022年12月インドネシア政府、ベラウ鉱区、ムツリ鉱区及びウィリアガール鉱区それぞれの生産分与契約を20年間延長することを承認(2055年12月31日まで)
2023年9月LNG生産開始
2023年10月最初のLNGカーゴを出荷

<拡張計画/UCC計画>

動き
2021年8月CCUS事業を含む開発計画について、SKK Migas(インドネシア石油ガス上流事業監督執行機関)が承認
2023年9月中部電力、タングーLNGのCO2貯留地の活用に関する実現可能性調査のための協力協定を締結
2024年11月UCC計画(ウバダリガス田の開発、CCUSおよびコンプレッサー設置)の最終投資決定
2024年11月日揮、EGR/CCUSプロジェクトの陸上設備の設計、調達、建設および据付(EPCI)契約を締結
2024年12月伊SaipemおよびPT Meindo Elang Indah、EGR/CCUSプロジェクトの沖合施設の設計、調達、建設および据付(EPCI)契約を受注
2025年2月Train 4拡張およびCCUS、プラボウォ・スビアント現大統領任期中における大規模石油・ガス優先事業の一つとして言及
2026年1月NEXI、付保検討開始
2028年~UCC計画、生産・稼働開始予定

4. 主な問題点

(1)事業当初からの先住民族への環境・社会・人権影響

西パプア州ビントゥニ湾に位置するタングーLNGは2005年に建設が始められたが、2000年代当初から地域コミュニティとの意味ある協議や参加のないまま事業が進められた。例えば、環境影響評価(EIA)は地域コミュニティの参加なしに行われた。その結果、コミュニティにとって生態学的に重要な沿岸のマングローブ林が被害を受けるとともに、ガス田周辺の漁業など住民の活動も制限されている。

またタングーLNGに伴う土地収用によって、この地域で伝統的な生活を営んできた先住民族は移転を余儀なくされた。タングーLNGの敷地はフェンスで囲まれてしまったため、先住民族はサゴヤシなど自然の恵みや狩猟地へのアクセスを失っている。

地域コミュニティの優先雇用という約束も十分に履行されていないため、不満を抱える先住民族もいるが、事業者の苦情処理メカニズムが十分に機能していないという報告もなされている。

(2)パプアにおける市民社会スペースの抑圧

タングーLNGは、長年にわたる紛争と民族自決運動が続く地域で開発され、現在も操業を続けている。土地の権利と天然資源をめぐる闘いは、パプアにおける継続的な紛争の核心的な側面である。パプアの人々、メディア、活動家、人権擁護者の声を封じるため、抑圧的な措置と暴力が行使されてきた。

タングーLNGが国家重要施設(OBVITNAS)に指定されたことを受け、インドネシア政府は西パプア全域、特に鉱業や化石燃料ガスを含む天然資源を有する地域の警備を強化するため、軍の展開を拡大してきた。これは重要事業を保護する手段として位置付けられているが、現地における軍の存在は、市民社会スペースの縮小リスクを増大させ、先住民族の権利を侵害し、人権侵害の可能性を深刻化させる可能性がある。

(3)パリ協定1.5℃目標に不整合

2024年に最終投資決定(FID)が行われたウバダリガス田の新規開発は、パリ協定の1.5℃目標に整合していない。国際エネルギー機関(IEA)は2021年の時点で、2050年までにGHG排出のネットゼロを達成するには、新規の化石燃料採掘事業を行う余地はないことを示した。同結論は2023年報告書「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」でも繰り返されている。

さらに、日本政府は2022年のG7エルマウ・サミットにて、「​​各国が明確に規定する、地球温暖化に関する摂氏1.5度目標やパリ協定の目標に整合的である限られた状況以外において、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022年末まで」の終了にコミットした(G7合意)。しかし、Climate Action Trackerの分析によれば、化石燃料ガスを「移行燃料」として推進しているインドネシア政府の方針と取り組みは1.5℃目標に整合していない。したがって、JBICやNEXIが仮にタングー拡張計画を支援した場合、明確なG7合意違反になる。

なお、JBICについては、JBICが関与する1999〜2024年の化石燃料案件を網羅して分析した最近の研究報告書の中で、JBICが新規の化石燃料事業への支援を行わないと仮定した場合でも、メタンを含むJBICによる「ファイナンスド・エミッション(金融機関の投資先・融資先の温室効果ガス排出量)」が、1.5℃目標の達成のためにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が求める2030年までの削減率にすでに整合していないとの結果が出されている。つまり、JBICがタングーLNG拡張計画を支援すれば、JBIC自身がパリ協定の1.5℃目標に整合した道筋から一層遠ざかることになる。

(4)CCUSは誤った気候変動対策

CCS/CCUSは、重大な技術的および財務的課題、環境と健康のリスク、エネルギー非効率、長期貯蔵の問題など、すでに多くの問題が指摘されてきた。そもそも、CCS/CCUSは温室効果ガスの排出を前提とした技術であり、化石燃料利用の長期化につながる。CCS/CCUSによってすべてのCO2が回収されるわけではなく、実際の回収率は60〜70%に留まっている。また、回収されるのはCO2のみで、少なく見積もってもCO2の20倍以上もの温室効果をもつ強力なGHGであるメタンなどその他のGHGは回収されない。

タングーLNG拡張計画の環境影響評価報告書(EIA)補遺版(2024年)によれば、タングーLNGのガス液化設備(第1~第3系列)の稼働により年間800万トン(CO2換算)が排出されている一方、UCC計画におけるEGR/CCUSによって圧入・貯留される予定のCO2は2035年までに約3,000万トン(CO2換算)と記されている。つまり、タングーLNGに係るCO2排出のすべてが回収されないことは明らかで、仮に2055年までの生産分与契約に基づき操業が継続されるならば、UCC計画におけるCCUSの排出量削減効果が長期にわたる排出に比して、いかに小さいものであるかがわかる。

(5)インドネシアの化石燃料依存の長期化とエネルギー移行の遅延

タングーLNG3系列のガス液化設備によるLNG生産はインドネシア最大で、国内ガス生産量の約3分の1を占め、その年間生産量の約33%が国内消費向けである。主にインドネシア各地の14のガス火力発電所に、浮体式貯蔵気化設備(FSRU)を通じて供給されてきた。今後も、少なくとも5つの計画中のガス火力発電所にタングーLNGから燃料が供給される予定とされている。

ガス生産の増加や長期化を可能にするウバダリガス田やガス液化設備の第4系列の開発は、こうしたインドネシア国内の既設のガス火力発電所の稼働継続と新規のガス火力発電所の稼働開始に密接に関係している。2055年までの生産分与協定を考慮すれば、タングーLNG拡張計画を進めることは、間違いなくインドネシアの化石燃料ガスへの依存を長期化させ、インドネシアにおいて大量のGHG排出を長期にわたりロックインさせることになる。またCCUSは、実際にはガスの増産に使われ、GHG排出の削減効果が極めて限定的であるにもかかわらず、LNG利用の継続・増加を正当化するための口実となっている。これは、インドネシアの再生可能エネルギーへの迅速な移行を妨げるものである。

5. 現在の状況

・UCC計画に対する付保をNEXIが検討中(2026年1月~)。

・Train 4拡張とCCUSは、プラボウォ・スビアント現大統領の任期中における大規模石油・ガス優先事業の一つとされている。

 

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