インドネシア・ジャワ1ガス火力発電事業で漁民に甚大な影響――現地漁民グループとNGO、JBICに環境ガイドライン違反を指摘する書簡を提出

――「今日も数匹しか獲れなかった。自分は小学生の頃から漁に出ているが、この事業が始まってからは以前の漁獲量とは程遠い。」
――「工事中に大型作業船がたくさん来て、海にパイプラインが敷設されることを初めて知った。パイプラインに漁網が引っかかることはしょっちゅうで、そこを避けようと迂回すると、今度は燃料費が嵩んでしまう。」
2026年3月9日、インドネシア西ジャワ州で日本の官民が推進してきたジャワ1ガス火力発電事業に関し、漁獲量が大幅に減少するなど多くの漁民が厳しい生活を強いられているとして、現地の漁民グループらが国際協力銀行(JBIC。日本政府全株式保有)に対し、適切な対応を求める書簡を提出しました。
書簡を送付したのは、同事業の影響を受けてきた西ジャワ州カラワン県およびスバン県の漁民グループGKNKS(カラワン・スバン漁民連合。300名を超える漁民が参加)と、彼らを支援しているインドネシア環境フォーラム(WALHI)です。同書簡では、同事業の建設開始前に適切な住民協議が行われていなかったこと、また漁民たちの生活が改善するどころか以前の水準に回復していないことから、同事業が『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(ガイドライン)に違反していると指摘しています。
漁民たちの生活苦の訴えに対して事業者が適切な対応を取ってこなかったことから、漁民グループは2025年12月、カラワン県地方裁判所において集団訴訟を提起し、現在も審理が続いています。漁民グループは、事業者であるPT Jawa Satu Power(JSP。丸紅40%、双日20%出資)に対し、同地域の海洋生態系に重大な影響を及ぼしている事業活動を停止し、汚染された海洋環境を修復するよう求めるとともに、漁民がこれまでに被ってきた損失に対する損害賠償の支払いを求めています。
同ガス火力発電事業は、アジア初の「Gas-to-Power」事業(発電施設とガス関連施設の一体開発)で、2024年に商業運転を開始しました。燃料となる液化天然ガス(LNG。西パプア州タングーLNGから調達)をガス火力発電所(1,760MW)へ供給するため、浮体式貯蔵気化設備(FSRU)や輸送パイプライン(海底約14km)が近海域に設置されました。アジア開発銀行(ADB)や民間銀行とともに協調融資を行っているJBICは、同事業への最大の融資供与者(約6億400万米ドル)となっています。
同書簡では、「JBICは同事業に融資を行うべきではなかった」としてJBICの責任を追及しています。同事業によって被害を受けている漁民たちの声と要求に真摯に耳を傾け、迅速かつ適切な対応をとることがJBICに求められています。
詳細は以下をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら)
>PDFはこちら(和訳)
>ジャワ1ガス火力発電事業の概要と問題点はこちら
インドネシア西ジャワ州ジャワ1ガス火力発電事業に係るJBIC責任と環境社会ガイドライン違反について
(原文はインドネシア語。以下は、FoE Japanによる和訳)
2026年3月9日
国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
私たちは、貴行が2018年10月18日に融資金額約6億400万米ドル(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結[1]した、インドネシア西ジャワ州における「ジャワ1Gas-to-Powerプロジェクト」(ジャワ1ガス火力発電事業。以下、同事業)の影響を受けてきたカラワン県およびスバン県の漁民グループとその支援を行ってきた現地NGOです。
貴行が同事業に対して最大の融資を供与していることから、私たちは本書簡をお送りすることにしました。私たちが貴行に対して最初にお伝えしたいのは、貴行が同事業に融資を行うべきではなかった、ということです。というのも、同事業により深刻な影響を受けている多くの漁民に対し、建設前に適切な協議が行われていなかったからです。また、貴行を含む金融機関の融資供与により同事業の建設が進み、稼働している現在、それらの漁民の生計手段は、事業以前の水準において改善もしていなければ回復すらしていません。私たちは、このような事実が貴行自身の『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(以下、ガイドライン)に違反していると理解しています。
まず、同事業の建設および稼働により、漁民の生活がいかに厳しい状況に置かれているかについて説明します。
本書簡に署名したGabungan Kelompok Nelayan Karawang-Subang(GKNKS:カラワン・スバン漁民連合)に参加する漁師は現在300名を超えます。漁船の所有の有無や年齢にかかわらず、同事業が開始される以前から漁業を生業としてきました。長年の経験を有する漁師の多くは小学生の頃から漁に出ており、その生活の糧は親の世代から若い世代へと受け継がれています。漁法を使い分けながら、魚類、カニ、イカ、エビの漁を続けてきました。漁師の家族の女性たちも重要な役割を担っており、漁網づくりや漁網の手入れに日々勤しんでいます。
しかしながら、同事業の建設が始まって以降、漁師の世帯は漁獲量の大幅な減少に悩まされ続けています。半減、あるいはそれ以上の減少を訴える漁師が大半を占めています。その要因として複数の可能性が考えられますが、私たちは、その主たる原因が同事業に関連したものであると考えています。つまり、浮体式貯蔵気化設備(FSRU)まで延びる海底パイプラインの敷設と発電所の稼働に必要な海域での取水口・排水口の設置です。
パイプラインや取水口・排水口の設置のため、建設時には漁場で海底の浚渫や掘削土砂の投棄が行われていました。これらの作業は、海洋環境に重大な影響を及ぼした可能性があります。さらに、発電所の商業運転の開始後は、取水口から大量の海水が取り込まれるため、プランクトンから中小型魚類などまで海洋生物に影響が生じています。排水口から海域に放出される温排水が海洋生物に与える影響も看過できないものだと考えています。同事業が始まって以降、当該地域での漁獲量は減少し続けており、今やゼロ、あるいは、数匹という漁獲量を漁師が繰り返し経験せざるを得ない惨状は、重大な問題として受け止められるべきです。
また、海底パイプラインの存在により、これまでに数え切れないほどの漁網が損傷または喪失してきたことを特筆しておきます。パイプラインが海底に埋設されていないため、漁師が海で仕掛けた漁網がパイプに引っかかってしまうのです。漁師がいくら注意を払っていても、漁網が潮流の影響でパイプ付近へと流されてしまうこともあります。こうしたことは今日まで頻繁に起きています。発生頻度は数年で数回、年に10回、あるいは週に複数回に及ぶケースなど、漁師によって幅はあるものの、ほぼすべての漁師が経験してきました。漁網が破損したり、そのまま喪失してしまえば、材料を購入し、時間と労力をかけて漁網を修理したり、新しく作ったりしなくてはなりません。しかし、これらの被害について、どこに苦情を申し立てるべきか、あるいは、この損失を誰かが補償してくれるのかさえ明確ではないまま、漁師への負担は増大するばかりです。
こうした状況の中、パイプライン付近を避けるために迂回して漁場に向かったり、あるいは、漁獲量を最大化するためにより遠方に漁に出たりするなど、漁一回当たりの燃料費の支出が嵩んでいる漁師もいます。漁獲量の減少、漁網の破損による支出増加、燃料費の支出増加から、生活に十分な収入を得られなくなった漁師の中には日々借金を余儀なくされ、債務の悪循環に陥っている世帯もあります。また、漁船の維持・修繕費用を捻出できず、やむなく漁船を手放した漁師もいます。
このように同事業による甚大な影響を受けているにもかかわらず、漁民グループの多くの漁師は、同事業の海底パイプラインの敷設について、建設期間中に実地で直に知りました。つまり、建設時に多数の大型作業船が海域に現れ、パイプラインを敷設し始めたのを目にしたり、耳にしたりして初めて知ったということです。これは、この漁民グループの漁師たちに対して、建設前にSocialisasiと呼ばれる説明会が行われなかったことを意味しています。多くの漁師が、建設工事の開始前に同事業やその影響に関する協議を受けておらず、海域でのパイプラインや取水口・排水口の設置などによって生じうる影響に対して懸念や反対の意見を表明する機会を与えられていなかったのが実態です。
本書簡に署名した漁民グループは、2025年12月、カラワン県地方裁判所において集団訴訟を起こしました。なぜなら、貴行が融資を行った事業者が、これまで影響を受けてきた漁民に対して適切な対応をまったく取っていないからです。漁民グループは、事業者であるPT Jawa Satu Power(JSP)に対し、同地域の海洋生態系に重大な影響を及ぼしている事業活動を停止し、汚染された海洋環境を修復するよう求めるとともに、漁師がこれまでに被ってきた損失に対する損害賠償の支払いを求めています。
最初にお伝えしたとおり、私たちは、貴行が同事業に融資を行うべきではなかったと考えています。しかしながら、同事業は貴行の融資供与を受けてすでに完成し、現在も稼働を続けています。事業者の責任は言うまでもありませんが、同事業を資金面で支援してきた貴行の責任も、私たちは看過できないものと考えています。というのも、貴行の融資判断およびその後のモニタリングにおける重大な過失の結果として、GKNKSの漁師たちは今日まで苦しい生活を強いられ続けているからです。
貴行は同事業への融資供与の決定にあたり、「本プロジェクトにより社会経済的な影響を受ける住民等への配慮について、対応計画が策定され、適切な措置が講じられている旨、確認されている。」[2]という判断を示しました。しかし、前述のとおり、本書簡に署名した漁民グループの漁師たちに対して、そのような対応計画が策定されたことも、適切な措置が講じられたこともありません。この事実は、生計手段への影響を受ける住民との協議が行われていなかった点を含め、ガイドライン違反の状況が明らかにあったことを示しています。貴行が融資可否の判断を行う過程において、本書簡に署名した漁民グループの漁師たちのような存在を見落としていた、あるいは無視していた可能性があるのではないでしょうか。私たちは、これを貴行の重大な過失であると考えます。
さらに、同事業への融資供与を行った貴行は、現在も同事業をモニタリングしているはずであるにもかかわらず、同事業において生じているガイドライン違反の状況に対して、これまで何ら有効な対応を取ってきていません。すなわち、GKNKSの漁師たちの生活が以前の水準において改善または回復していないというガイドライン違反の状況が続いているにもかかわらず、貴行はこれまで一切の対応を講じてきませんでした。私たちは、これもまた貴行の重大な過失であると考えます。
私たちは、同事業により甚大な影響を受けながらも、これまで適切な措置を受けてこられなかった漁民グループの要求、すなわち、これまでに被った損失に対する適切かつ十分な損害賠償および漁場環境・海洋生態系の原状回復が実現されるよう、貴行の責任として、迅速かつ適切な措置を講じることを強く求めます。
以上
署名:
Gabungan Kelompok Nelayan Karawang-Subang(GKNKS:カラワン・スバン漁民連合)
WALHI西ジャワ
インドネシア環境フォーラム(WALHI)
Cc:
財務大臣 片山 さつき 様
経済産業大臣 赤澤 亮正 様
外務大臣 茂木 敏充 様
株式会社 日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
国際協力機構 理事長 田中 明彦 様
アジア開発銀行 総裁 神田 眞人 様
丸紅株式会社 代表取締役 社長 大本 晶之 様
双日株式会社 代表取締役 社長CEO 植村 幸祐 様
株式会社商船三井 代表取締役 社長執行役員 橋本 剛 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役社長 グループCEO 木原 正裕 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
オーバーシー・チャイニーズ銀行 Group Chief Executive Officer Tan Teck Long 様
クレディ・アグリコル銀行東京支店 日本代表者 ベンジャミン・ランバーグ 様
ソシエテ・ジェネラル銀行東京支店 日本代表者 ブルーノ・ゴソーグ 様
【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
住所: Jalan Simphoni No. 29, Kel. Turangga, Kec. Lengkong, Kota Bandung, Jawa Barat 40264, Indonesia
TEL: +62 22 63175011
Email: walhijabar@gmail.com
[1] https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2018/1022-011485.html
[2] https://www.jbic.go.jp/ja/business-areas/environment/projects/image/60612_9.pdf