声明:GX脱炭素電源法(原発回帰の束ね法)の可決に抗議する

福島支援と脱原発2023.7.10

5月31日、「GX脱炭素電源法案」(原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたもの)が国会で可決成立しました。これを受けてFoE Japan、原子力規制を監視する市民の会は以下の共同声明を発出しました。

2023年5月31日
国際環境NGO FoE Japan
原子力規制を監視する市民の会

声明:GX脱炭素電源法(原発回帰の束ね法)の可決に抗議する

原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法など5つの改正案を束ねた、原発回帰の色濃い「GX脱炭素電源法案」が、本日、参議院で可決成立した。

原発事故の教訓を踏みにじり、将来に禍根を残すものだ。私たちは強くこれに抗議する。

 本法案は以下のように多くの問題点を抱えているが、衆議院でも参議院でも、それぞれ1か月足らずの期間で、束ね法として一気に審議が行われた。審議がつくされたとはいいがたい。

1.福島原発事故は終わっていない

福島原発事故は終わっていない。多くの人々がふるさとを失った。生業、人とのつながり、四季折々の自然の幸を分かち合う喜びを失った。断腸の思いで避難を強いられ、今もふるさとに帰れない人が多くいる。

原発事故に対する国および東電の責任は、あいまいにされたままだ。

今国会で、「万が一、原発の劣化によって事故が生じたとき、総理、あなたは責任をとれるのですか」という質問を受けた岸田首相は、回答を避けた。

次なる事故が生じたときに、原子力事業者だけは賠償金が払いきれず、再び、国による手厚い支援が行われ、そのツケは国民および将来世代にまわされるということがくりかえされるだろう。

2.消えゆく原子力産業を国民負担で救済

改定原子力基本法では、「国の責務」としつつ、実際は、国民の理解の促進、地域振興、人材育成、産業基盤の維持および事業環境整備などを含み、原子力産業を手厚く支援する内容を盛り込んだ。

本来、原子力事業者が自らの責任で実施すべき内容を、国が肩代わりすることになり、結果的に、原子力事業者を過度に保護するものとなっている。

これは斜陽化し、放置すれば消えゆくであろう原子力産業を、国民負担で救済することにほかならない。そもそも、不安定でリスクもコストも高い原子力にそのような価値があるのか。

政府は、原発はエネルギー安定供給、自律性の向上に資すると説明しているが、これは誤りだ。大規模集中型電源である原発の事故やトラブルは、電力供給に広範な影響を与えることは、福島原発事故後の状況が示している。ウラン燃料を100%輸入に依存している原発は、そもそも国産エネルギーとはいえない。

3.運転期間制限削除には、正当な理由がない

2012年当時、運転期間上限に関する定めは、明らかに「規制」の一環として原子炉等規制法に盛り込まれた。2012年6月26日付内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室の資料によれば、福島原発事故の教訓を踏まえた原子力安全規制の3本柱として、重大事故対策の強化、バックフィット制度とともに、40年運転規制の導入が挙げられている。

その後、運転期間の上限を撤廃する理由となる、新たな事象が生じたわけではあない。すなわち、これを削除する立法事実はない。

政府は、運転期間の上限は「利用側の政策」として整理したと説明し、その根拠として、原子力規制委員会の令和2年7月29日付「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化の関係に関する見解」をあげている。しかし、当該文書の主旨は、運転期間から長期停止期間を除外することに否定的な見解をまとめたものであり、策定過程において、運転期間の上限の撤廃の可否について委員の間で議論が行われたものではない。

運転期間の上限に関する規定を原子炉等規制法から電気事業法に移すことに伴い、原発の運転期間の延長についての認可権限は、原子力規制委員会から経済産業大臣に移管される。認可にあたっての基準は、劣化評価に基づく安全規制から、電力の安定供給を確保することに資するか、事業者の業務実施態勢を有しているか、など利用上の観点からの認可となるが、具体的な審査基準・審査手法については、今後制定される経済産業省令に任されている。

4.「規制が強化される」は詭弁

政府は、原子炉等規制法に30年を超える原発の劣化評価を規定することにより、規制は強化されるとしているが、これは詭弁だ。従来から、原子炉等規制法に基づく規則で、30年超の原発に対する10年ごとの劣化評価は、高経年化技術評価として行われてきた。今回、これを法律に格上げすることになるが、基本的には、従来の制度の延長線上であり、新しい制度というわけではない。審査対象も、いままでの「長期施設管理方針」が「長期施設管理計画」となり、添付文書であった劣化評価手法などが、本文に格上げされるにすぎない。

今回の改定は、原子力規制委員会の権限を縮小し、規制を緩和するものとなる。

5.審査で劣化は見つからない

劣化に対する審査は現状でも問題を抱えている。今年1月に発生した高浜4号機の制御棒落下事故に関しては、関電は数か月前に特別点検を行ったのにも関わらず、劣化を見つけることができなかった。これは限られた検査範囲から外れる箇所で生じた劣化は評価できないことを示している。

原子炉の中性子照射脆化を評価するための監視試験片の数も、40年という設計寿命が前提になっている。川内原発(鹿児島県)では原子炉に6つ入れられた監視試験片のカプセルのうち、すでに5つを取り出している。原子力規制委員会は、再生してもう一度入れるとしているが、熱影響部の監視試験片は小さく、再生は困難である。

事故が起きてからでは遅い。運転期間の制限撤廃は原発事故のリスクをたかめ、人々の生命と暮らしを危険にさらすものだ。

6.「運転停止期間の除外」には合理性がない

今回、電気事業法に運転期間の延長に関する認可が移管されることに伴い、延長申請の際、①関連法令の制定・変更に対応するため、②行政処分、③行政指導、④裁判所による仮処分命令、⑤その他事業者が予見しがたい事由――によって運転停止を行っていた期間については運転期間に上積みできることとしている。

運転停止が事業者にとって予見できない事由に起因するものであったとしても、当然、経年劣化は進行する。

利用側の観点にたったとしても、過去においての運転停止の事情は、将来的な電力需給とは関係ない。あげられている運転停止事由に関しては、当時、運転停止を命令もしくは要請すべき社会的なあるいは法令上の要請があり、法律に基づく権限により、それぞれの行政機関あるいは司法により判断されたものである。「運転停止の必要がなかった」と経済産業省が認定することは適切ではない。

7.被災者の声、国民の声が反映されていない

GX基本方針は「案」が固まってから、年末年始にパブリックコメントが行われ、3,966件が寄せられた。しかし、そのほとんどは反映されなかった。

経済産業省は今年1月から3月にかけて、札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、富山、広島、高松、福岡、那覇で、「説明・意見交換会」を開催した。参加者からは、原発推進政策、とりわけ運転期間延長に関して、批判や疑問の声があがった。しかし、経済産業省は、「ここでだされた意見は、GX基本方針に反映されるわけではない」と発言した。

4月14日の衆議院の参考人質疑で、FoE Japanの満田夏花事務局長は、本法案の問題点を述べるとともに、国民の意見が反映されていないことを指摘。福島での地方公聴会開催を求めた。また、5月22日には、元福島大学学長の今野順夫氏ら9名が、福島での地方公聴会を要請。5月25日の参議院の参考人質疑でも、原子力資料情報室の松久保肇事務局長が、「福島の声が反映されていない」と指摘した。しかし、これらはいずれも無視されてしまった。

GX脱炭素電源法の可決成立は、福島原発事故の教訓を蔑ろにし、国民の安全を脅かし、未来世代に大きな負担を負わせることになる。将来にわたって禍根を残す。

現在でも原発の矛盾は各地で噴出している。原発を国民負担で救済することはゆるされない。私たちは強く抗議する。

以 上

【解説】GX脱炭素電源法案とは?

今期国会にかかっている原発推進GX法案は2つあります、(1)GX推進法案、(2)GX脱炭素電源法案(※)です。※原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたもの
(1)については、詳しくは⇒「GX推進法案を通してはならない5つの理由
(2)については、以下をご覧ください。

1.原子力基本法の改悪:「原発の活用」を国の責務に

第二条の2に、電気の安定供給の確保、脱炭素社会の実現などのために原子力を活用することを、国の責務として盛り込みます。
また、原発立地地域の住民や国民の理解の促進、地域振興などを促進することも盛り込んでいます。
さらに第二条の3に、原子力にかかる人材の育成、産業基盤の維持、強化、再処理等、使用済燃料の貯蔵、廃止阻止の円滑な実施のための地方公共団体との調整などを盛り込んでいます。
「国の責務」として盛り込むということは、税金その他公的資金を、上記のような原発推進のために投入するということです。初期段階にあり、これから伸びていく、社会的にも望ましい産業を育てるためであれば、国費を投じていくこともありうるでしょう。しかし、すでに開始から50年以上も経過しており、斜陽産業である原子力にここまで手厚い保護をすることに合理性はあるのでしょうか。

2.原子炉等規制法から運転期間の上限に関する定めを削除し、電気事業法に移す

現在、老朽化した原発の安全確保のために、原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法には2つの仕組みが盛り込まれています。
1つめは原発の運転期間を原則40年とするルール。原子力規制委員会の審査を合格した場合、1回に限り20年延長できます。
2つめは、30年を超えた原発について10年ごとに審査を行うルールです。
この1つ目の運転期間に関するルールを、「原子炉等規制法」から削除し、経済産業省が所管する「電気事業法」に移すというものです。
「電気事業法」に移すことにより、原子力を規制する立場の原子力規制委員会ではなく、原子力を利用する立場の経済産業省が、原発の運転期間に関する決定権をもつことになります。

3.運転停止している期間を、運転期間から除外できるようにする

除外できるのは、東日本大震災発生後の新規制基準制定による審査やその準備期間、裁判所による仮処分命令その他事業者が予見しがたい事由によって生じた運転停止期間などです。

4.30年を超える原発についての劣化評価を、法律に格上げする

今までも、「高経年化技術評価」として、30年を超えた原発について10年ごとに劣化評価に基づく審査を行っていました。これは、原子炉等規制法の下の規則により位置づけていました。これを、原子炉等規制法に格上げし、若干の変更を行います。たとえば、いままで「10年ごと」としていましたが、「10年を超えない期間ごと」としています。
政府は、これをあたかも新しい制度を盛り込むかのような説明をしており、メディアもそのように報じていますが、30年を超える原発の劣化評価は、従来も行ってきた制度であることに注意が必要です。

原発の運転期間については、こちらもご覧ください👉「Q&A 原発の運転期間の延長、ホントにいいの?

 

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