マレーシアの市民社会・個人が米政府へのレアアース供給反対のアクションを実施ー戦争への不関与を要求

アクション当日の様子ーFoEマレーシア提供

2026年7月6日、マレーシアで行われるレアアース(希土類)酸化物の加工処理に懸念を示す市民団体や個人50人強が集まり、首都クアラルンプールにあるマレーシアの国会前で、アクションを行いました。半数以上の参加者は、このアクションの理念や目的に賛同した一般市民でした。

レアアースはスマートフォンや電気自動車(EV)、風力発電施設などだけでなく、武器の製造時にも使用される鉱物資源で、用途が幅広くごく少量で重要な効果があることから「産業のビタミン」とも呼ばれています。

アクション当日は、レアアースのサプライチェーンに関する透明性や説明責任が呼びかけられ、首相や投資貿易産業(MITI)大臣、外務大臣等マレーシア政府に宛てられた書簡と共に、現在も集められている署名が複数の国会議員に手渡されました。署名は9月12日時点で5,961筆集まっています。

何故マレーシアでレアアースの加工が行われるのか

レアアースの採掘は西オーストラリアのMount Weld鉱山で行われた後、船でマレーシアのKuantan港に運ばれ、その後陸路でPahang州Gebengに輸送され加工処理が行われます。これは、GebengがKuantan港近くに位置することや、ガス、水、化学薬品の供給が容易に確保できること、熟練労働者も手配可能であることが理由として挙げられています。

しかし真の理由として、マレーシアの環境規制や計画策定に関する規定が他国に比べて緩やかであるためという指摘もなされています。例えば、ライナス社が扱う、レアアース鉱石を選鉱した後にさらなる精製を必要とする「ランタノイド精鉱」が挙げられます。マレーシアとオーストラリアではこの中間原料に関する規制の厳格度が異なります。つまり、加工プロセスにおいて排出される廃棄物の管理等に関して適用される環境・安全上の要件も異なるため、マレーシアで加工処理を行うことは、ライナス社にとって許認可取得や経済的コストの面でメリットが大きいと言えるのです。

レアアースの加工に伴う環境・社会影響

レアアースの加工処理施設から出る放射性廃棄物について長年地域住民から強い反対の声が上がっています。レアアースの加工処理に伴い、施設の周辺地域には大量の放射性廃棄物が残されることとなり、地域住民の健康被害や自然環境への汚染といったリスクが非常に高まっています。

マレーシアで加工処理されたレアアースを戦争のために使わないで

今回のアクションで一番強く訴えられているのは、「マレーシアで加工処理されたレアアースを戦争の目的で使用しないでほしい」ということです。2026年3月、豪企業ライナス・レアアースは、米戦争省(国防総省)とレアアースの供給契約の締結に合意しました。[1]この契約により、4年間で約9,600万ドル(約150億円)相当もの資金が投じられ実施されます。仮にマレーシアで加工処理されたレアアースが、パレスチナ・ガザ地区を含む世界各地で行われている戦争に使用されてしまえば、マレーシアも事実上戦争に加担したことになってしまいます。これは、マレーシアがこれまで尊重し守ってきた国際人道法や国際人権法に違反することを意味し、市民も含めマレーシア全体に大きな倫理的負担がかかることになります。実際、マレーシアはこれまで、平和で中立的な立場を維持してきました。国として、パレスチナ支持も表明しています。

アクション当日の様子ーBrandon Tan氏提供

マレーシアの平和的な姿勢や主権、国際的な評判が脅かされないためにも、まずはレアアースを戦争の目的で使用しないという保証がなされなければなりません。そして、そのような使用を未然に防ぐことができるような有効な法的手段等がマレーシアで確立される必要があります。この文脈においてアクションでは、ライナス社に米戦争省とのレアアース供給契約をキャンセルし、全てのレアアースの供給を停止すること、この取引がマレーシアの政策と法に則っているか確認する独立調査を行うことが求められました。

日本とも大いに関係

この事業は日本の企業や公的機関も無関係ではありません。双日株式会社独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC、経済産業省所管)は、2011年に共同で設立した日豪レアアース株式会社(JARE)を通じて、日本へのレアアースの供給を目的に、ライナス社に巨額の出融資を行ってきました。[2]つまり、日本の資金がライナス社を大きく支えているのです。

事業スキーム図ーJOGMECのホームページより引用 [3]

マレーシアの市民社会が政府に求めるていること

マレーシアの市民社会は以下のことをマレーシア政府に求めています。

1.ライナス社が国際法に違反していないことを確保する
事業、契約、サプライチェーンが国際人道法や国際人権法を遵守し、ジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪などの国際的な違法行為に寄与しないことがしっかりと確認されるべきです。このような要件は、マレーシア政府がライナス社に付与する操業許可の条件として盛り込むべきです。

2.ライナス社に対する監査
レアアースの最終用途および最終利用者に対するリスクに焦点を当てた、厳格かつ独立した人権および国際人道法上のデュー・デリジェンス監査をライナス社に課すべきです。

3.国内法の制定および執行
マレーシアで事業を行う企業が国際犯罪に加担し、国際人権法や国際人道法に抵触しないよう、明確な国内法や規制要件を採択・執行するべきです。特に、軍事関連や紛争の影響を受けやすいサプライチェーンについては、より強化された人権デュー・デリジェンスの実施を義務付けるべきです。

アクション参加者によるコメント

私たちは長年、道徳的かつ人道的に正しい側に立ってきました。しかし、ライナス社が「白紙委任状」を突きつけた際、我々の指導者たちはどう対応したのでしょうか。今日、私たちは腐敗し、不正に加担する指導者たちに対し、マレーシアは血にまみれた金に手を染めることを断固として拒否するのだというメッセージを突きつけます。ーBrandon Tan氏

アクション当日の様子ーFoEマレーシア提供

詳しくは、マレーシア首相に提出された以下の公開書簡(マレー語原文の英訳をFoE Japanが日本語訳)をご覧ください(FoE JapanのホームページPDF)。

現在もライナス社による米国防総省へのレアアース供給に反対を求める署名を集めています。署名はこちらのページ(マレー語・英語)から。

(佐藤万優子)

注釈
[1] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM160KG0W6A310C2000000/
[2] https://www.jogmec.go.jp/news/release/release_00280.html、https://www.jogmec.go.jp/news/release/release_01090.html、https://www.jogmec.go.jp/news/release/release_01075.html
[3] 脚注2に同じ

 

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