マレーシア市民団体による公開書簡「マレーシア政府はライナス社の事業が国際法に違反しないよう徹底すべき」

2026年3月に、豪のレアアース(希土類)大手ライナス・レアアース(ライナス社)が、米戦争省(国防総省)とレアアース酸化物の供給契約の締結に合意した1ことを受け、レアアースの加工処理が行われるマレーシアでは懸念の声が広がっています。
レアアースの用途はスマートフォンや電気自動車(EV)などの身近なものから、武器製造など多岐にわたります。特に、マレーシアで加工処理されるレアアースが、すでに重大な国際法違反が指摘されている複数の紛争や戦争において使用されることが危惧されています。さらに、加工処理施設における放射性廃棄物の管理やそれに伴う環境リスクについても、地域住民から長年にわたり強い反対の声があがっています。
ライナス社の事業には日本も深く関わっています。日本へのレアアース供給を目的に、双日株式会社と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC、経済産業省所管)は、2011年に共同設立した企業(日豪レアアース株式会社:JARE)を通じて、ライナス社に対し巨額の出融資を行ってきました。
このような状況を受けマレーシアの57の市民団体は、マレーシアにおけるライナス社の事業が、軍事サプライチェーンに関与し国際法に抵触することのないよう、マレーシア首相に対し徹底した対応を取ることを求める書簡を2026年4月に提出しました。現在、同問題に関する国際的な署名運動も続けられています。
詳細は、以下の公開書簡をご覧ください。
>原文マレー語、英訳はこちら >FoE Japanによる日本語訳はこちら
署名にもご協力ください。
>署名サイト(マレー語・英語) はこちら >署名内容の日本語訳はこちら
マレーシア首相への公開書簡
マレーシア政府はライナス社の事業が国際法に違反しないよう徹底するべきです
(原文マレー語の英訳をFoE Japanが日本語訳)
2026年4月13日
マレーシア首相 ダトゥク・セリ・アンワル・イブラヒム 様
私たち署名者は、ライナス・レアアース社(Lynas Rare Earths Ltd)が米戦争省と締結した、レアアース酸化物を供給する契約(以下「DoW契約」)に強く反対します。4年間で約9,600万米ドル相当となるこの取り決めは、マレーシア国内で行われる加工処理事業を、外国の軍事サプライチェーンに直接結びつけるものです。本契約は、国際人道法の重大な違反や国際人権法の深刻な侵害に関する信憑性の高い告発がされている武力紛争や軍事作戦に現時点で関与している国家の軍事活動に、マレーシアを巻き込むことになります。
私たちの懸念
平和と非同盟
マレーシアの外交政策は、非同盟の原則に基づいています。DoW契約は、現在複数の戦線で戦争や軍事作戦を展開している国家の軍事サプライチェーンに、マレーシアを組み込むことになりかねません。これは、平和への長年のコミットメントや、国際関係における武力行使に一貫して反対してきたマレーシアの姿勢と根本的に相容れないものです。こうした取り決めを容認すれば、多国間の場において独立した立場から発言するマレーシアの信頼性が損なわれ、パレスチナやイランなどにおける紛争に関する同国の原則的な立場が危うくなる恐れがあります。
国家主権
マレーシアの領土内における活動が、直接的か間接的かを問わず、外国の戦争遂行に資するような事態は、マレーシアの主権の独立を損なうものです。米戦争省への供給を目的としてゲベン(Gebeng)で行われる戦略的鉱物の加工処理は、実質的にマレーシアの産業インフラを他国の軍事的要請に従属させるものです。このことは、十分な精査や国民に対する説明責任が果たされないまま、マレーシアの規制・許認可の枠組みがいかにして外国の戦略的目標に資するよう仕向けられてきたかという点について、深刻な疑念を抱かせるものです。
環境への責任
ゲベンにあるライナス社の施設は、放射性廃棄物の管理やそれに伴う環境リスクをめぐり、長年にわたり地域住民からの反対に直面してきました。こうした事業が軍の供給網と結びつけられることになれば、同施設周辺の地域社会やマレーシア全体が負う倫理的負担はさらに増大することになります。
国際法違反への加担のリスク
DoW契約は、何もない状況に孤立して存在するものではありません。同契約は、米国の現在および近年の軍事行動を背景に評価される必要があります。これらの軍事行動は、複数の戦域において国際法違反の疑いがあるとして広範な非難を浴び、信憑性のある告発を喚起してきました。
ガザおよび被占領パレスチナ地域
国際司法裁判所が「南アフリカ対イスラエル」訴訟においてジェノサイドの「もっともらしい」リスクを示唆する暫定措置を命じたことや、国連の独立国際調査委員会が2025年9月に、イスラエルがガザ地区のパレスチナ人に対してジェノサイドを行ったと認定したにもかかわらず、米国はガザおよびその他の被占領パレスチナ地域における作戦のために、イスラエルへの武器供与および軍事支援を続けています。2被占領パレスチナ地域の人権状況に関する特別報告者を含む複数の国連専門家は、イスラエルへの武器移転を継続することは、供給国がジェノサイドを含む国際法違反行為の共犯者となる恐れがあると明言しています。
ベネズエラ
2026年1月3日、米国はベネズエラ全土で攻撃を行い、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束しました。この作戦は、国連安全保障理事会の承認も、国連憲章第51条に基づく自衛権の信憑性のある主張もないまま実施されたものです。国連事務総長、国連人権高等弁務官、および多数の政府は、この行為を国連憲章第2条4項に基づくベネズエラの主権および領土保全の侵害であるとして非難しました。3
イラン
2026年2月28日、米国とイスラエルは、イランの指導部、軍事施設、および核関連施設を標的とした一連の攻撃を開始しました。最高指導者アリ・ハメネイ師や軍関係者、民間人の死者を出したこの攻撃について、法専門家や複数の政府は、国際法の下でのイランの主権侵害にあたると指摘しています。その後、紛争は激化し、民間インフラへの攻撃、非武装状態にあったイラン海軍艦艇の撃沈、さらには潜在的な地上作戦の実施に向けた準備にまで及んでいます。首相、あなたはこれらの攻撃を「普遍的な原則に反する」と述べ、公の場で強く非難されました。
こうした状況下において、ゲベンの施設で加工されたレアアース酸化物を米戦争省に供給することは、マレーシアの管轄権および規制当局の下で事業を行うライナス社が国際法違反に加担することになるという、現実的かつ予見可能なリスクを伴います。レアアース酸化物は、精密誘導兵器、高性能兵器システム、軍用車両、防衛用電子機器に使用される永久磁石に不可欠な原材料です。したがって、マレーシアで精製されたこれらの材料が、国際人道法の重大な違反や国際人権法の深刻な侵害のある、あるいはその信憑性のある疑惑が存在する兵器システムに組み込まれる可能性があります。
国際法上のマレーシアの義務
マレーシアは、国際法を遵守し、かつ原則として支持する姿勢を一貫して示してきました。これには、2001年に国連総会で採択された「国際違法行為に対する国家の責任に関する条文(ARSIWA)」に反映されている、国家責任に関する国際法も含まれます。4
マレーシア政府は、国連総会、人権理事会、および安全保障理事会において、ガザにおけるイスラエルの行為をジェノサイドおよび国際人道法、国際人権法に対する重大な違反と断定し、責任の追及と民間人の保護を求めてきました。
つい先月、首相は議会において、「イスラエルと米国によるイランへの攻撃を強く非難する」緊急動議を提出されました。その中で、マレーシアは「イランに対する継続的な攻撃は普遍的な原則に反するものであり、これに強く反対する」と表明し、即時かつ無条件の停戦と交渉への復帰を求めました。
政府は「ビジネスと人権に関する国家行動計画 2025–2030年(NAPBHR)」において、国際法および条約に基づくマレーシアの責務と整合する形で、企業による人権尊重を確保する義務があることを認めています。また、政府は人権に関する枠組みを継続的に改善していく必要性も認識しています。
国際法上の義務の一環として、マレーシアは、自国の管轄下で活動する全ての主体が、国際人道法や国際人権法を含む国際法を尊重し、保護し、かつ履行することを確保しなければなりません。ARSIWA第16条に基づき、マレーシアは、戦争犯罪、人道に対する罪、またはジェノサイドなど、自国が行えば違法となるような国際人道法の重大な違反や国際人権法の重大な侵害を他国が行うにあたり、それを知りながら援助または支援してはなりません。
マレーシアの規制および許認可の枠組みを通じて、マレーシア国内でこのような商業活動が行われる以上、政府は自国の領土や制度的インフラがどのような目的で利用されているかについて無関心でいることはできません。上述の事実があるにもかかわらず、十分な精査を行うことなくライナス社にDoW契約の履行を認めることは、マレーシアにとって、良く言っても国際法上の義務怠慢であり、悪く言えば国際違法行為への加担というリスクに対する意図的な黙認に等しいと言えます。
要望
DoW契約、およびライナス社のゲベン施設で精製された材料が、ジェノサイド、人道に対する罪、またはその他の重大な国際法違反の信憑性のある疑惑の対象となっている、あるいは今後対象となり得る軍事作戦に投入される兵器システムに使用されるリスクに鑑み、我々はマレーシア政府に対し、自らの義務を履行し、かつARSIWA第16条に基づく「援助または支援」を通じた加担を回避するために、以下の措置を講じるよう求めます。
- ライナス社が国際法に違反していないことを確保する
マレーシア政府はライナス社に対し、同社の事業、契約、およびサプライチェーンが、国際人道法の重大な違反、国際人権法の深刻な侵害、ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪を含む国際的な違法行為に寄与したり、これを現在から将来にわたり助長しないことを証明するよう求めるべきです。これには、DoW契約の条件、適用範囲、および意図された最終用途に関する完全な透明性を要求することや、マレーシアで精製された材料が、国際人道法や国際人権法の違反が行われている作戦の兵器システムには使用されないという法的拘束力のある保証を求めることが含まれます。こうした要件は、ライナス社に付与される操業許可の条件として盛り込まれるべきです。 - ライナス社に対する監査
マレーシアは、国際人道法および国際人権法の重大な違反が信憑性をもって指摘されている紛争への関与の可能性に特に留意しつつ、最終用途および最終利用者に伴うリスクに焦点を当てた、厳格かつ独立した人権および国際人道法上のデュー・ディリジェンス監査をライナス社に対して課すべきです。そのような違反への加担のリスクが特定された場合、マレーシアは、ARSIWA第16条が定める「国際違法行為」への意図的な援助や支援を防止するため、条件を課し是正措置の要求を行うか、あるいは必要に応じて関連する承認や許可の停止または取り消しを行わなければなりません。 - 国内法の制定および執行
マレーシアは、同国で事業を行う企業が国際犯罪の実行に加担したり、国際人権法や国際人道法に抵触することがないよう、明確な国内法および規制要件を採択・執行すべきです。こうした法制度においては、規制上の承認や事業許可の付与が、第三国による国際違法行為を援助・助長しないことを含む国際法上の義務の遵守を条件とすることを明記すべきです。また、軍事関連や紛争の影響を受けやすいサプライチェーンについては、より強化された人権デュー・ディリジェンスの実施を義務付けるべきです。
添付資料1の全団体が賛同しています。
CC: 科学技術イノベーション省(MOSTI)大臣 チャン・リー・カン 様
Menteri Kementerian Sains, Teknologi dan Inovasi (MOSTI)
Block C5, Aras 7, Presint 1, Pusat Pentadbiran Kerajaan Persekutuan
62000 Wilayah Persekutuan Putrajaya
Email: changlihkang@mosti.gov.my
- https://www.nikkei.com/article/DGKKZO95040120W6A310C2FFE000/?msockid=0640d54ccf4c6ff40cafc0a6cea66e3d ↩︎
- イスラエルがガザ地区のパレスチナ人に対してジェノサイドを行ったと結論付けた、国連の「東エルサレムを含む被占領パレスチナ地域およびイスラエルに関する独立国際調査委員会」による2025年9月の報告書を参照のこと。また、国際司法裁判所(ICJ)による「ガザ地区におけるジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約の適用(南アフリカ対イスラエル)」の件における、2024年1月26日、3月28日、および5月24日付の暫定措置命令も参照のこと。 ↩︎
- WOLA「ニコラス・マドゥロ権威主義的独裁者を排除するための米国の単独軍事介入は、国際法に違反し、同地域に危険な先例を作るものである」(2026年1月3日)、および国連安全保障理事会報告書「ベネズエラ:緊急会合」(2026年1月5日、S/2026/5)を参照。 ↩︎
- 2001年に国際法委員会が採択し、同年12月12日の国連総会決議56/83において推奨された「国家の国際違法行為に対する国家責任に関する条文」の第16条は次のように規定している。「ある国家が、他の国家による国際違法行為の遂行を援助し又は支援する場合、当該国家は、次の条件を満たすときは、その行為について国際的責任を負う。(a) 当該国家が、当該国際違法行為の状況を知りながらその援助又は支援を行うこと。(b) 当該行為が、当該国家によって行われたとしたならば国際違法行為となるものであること。」 ↩︎
>添付資料1はこちら