TICAD 9をアフリカ、そしてモザンビークにおける「開発」を再考する機会に

第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が2025年8月20日から22日に横浜で開催されました。日本でアフリカの開発が議論されるこの機会に、日本政府としての開発への関わり方を問う記事をJustiça Ambiental (JA!)/ FoE MozambiqueとFoE Japanで執筆しました。

過去に日本政府がモザンビーク政府、ブラジル政府と共に住民の同意なく強引に進め、中止に終わったモザンビークの「プロサバンナ事業」と、現在は一時中断していますが、多くの社会、環境、人権、経済的なリスクが指摘されながらも進められようとしている「モザンビークLNG事業」の事例について取り上げました。

8月22日に行われた日・モザンビーク首脳会談では、石破総理大臣が「LNG事業の再開と安定生産に向けた支援をチャポ大統領に要請」したと外務省が発表しています。現地では、多くの住民が事業により移転を余儀なくされ、生計手段や収入となる農業や漁業活動への制限を受けており、食料確保や日常生活に重大な影響が出ています。事業会社に約束されていた移転に対する補償も、被影響住民は未だ受け取れていません。

日本政府は「プロサバンナ事業」で得た教訓を忘れずに、「誰のための開発なのか」ということを第一に考え、開発への関わり方の見直し、判断を行うことが求められています。

本記事(英語原文)はCommon Dreamsに8月21日に最初に掲載されました。(記事のリンクはこちら
以下、FoE Japanによる日本語訳です。

横浜で開催されたTICAD:アフリカでの開発の真の意味を考える

モザンビークでの公的資金を用いた開発事業の事例は、地域の声を反映して進めなければ、コミュニティや環境に重大な影響を与えかねないことを示している。

第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が、日本政府、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)により、2025年8月20日横浜で開幕した。日本政府はこれまでアジアで培ってきた経験を基に、アフリカでも「高い質の」開発を促進する狙いがある。1993年に第1回アフリカ開発会議が開始されてから30年以上が経つが、アフリカに対する関心は未だ高く、だからこそ真の「開発」とは何を意味するかを改めて考える必要がある。

モザンビークでの事例は日本に重要な教訓を与えた。

「開発」について議論する前にまず、私たちは今日のアフリカで起きている深刻な危機が、かつての植民地支配と同じように、アフリカの人々と資源を搾取し続ける構造の下起きていることを認識しなければならない。公的な資金や多国籍企業が、このような搾取構造を継続させる大きな要因となっている。

モザンビークLNG事業は、この搾取構造を顕著に示すものである。アフリカ大陸で最も大規模なガス採掘事業とされており、フランスのエネルギー大手会社トタル・エナジーズの主導の下、日本はトップの金融支援国として名を連ねている。公的な銀行である国際協力銀行(JBIC)は、35億米ドル限度の貸付契約を締結し、公的な保険会社である日本貿易保険(NEXI)は事業費20億米ドルに対する融資保険を引き受けている。

JBICはこの事業に対し、世界的、特に新興国でのLNG需要量の高まりや、環境意識の高まり、そして日本のエネルギー安全保障を確保するために金融支援を行うとしている。しかし、事業実施者はアラブ首長国連邦に特別目的事業体のコンソーシアムを設立することで、本来であればモザンビーク政府に支払われるべき7億1,700万米ドルから14億8,000万米ドルもの税を回避している。さらに、「投資家と国との間の紛争解決(ISDS)」の仕組みが採用されており、事業の進行に何らかの支障が出た場合、モザンビーク政府が投資家に対して金銭的補償を提供するという取り決めが交わされている。これらの制約の下、モザンビーク政府は経済的負担を強いられている。

事業現場では、住民らの苦しみが続いている。8つ以上のコミュニティが影響を受けており、多くの家族が約束された補償の受け取りを未だ待ち続けている。また、農場や海へのアクセスを失った人々も多く、農業や漁業などの生活手段が確保されていない状況が続いている。地元の住民らは、事業者とのコンサルテーションの会合には軍の人が来ることが多く、抑圧的な空間の下、自由に発言することが難しいと話す。

2017年から、事業が位置するカーボ・デルガード州は暴力的な反乱に苦しんでおり、2021年には「不可抗力宣言」が出され事業は一時中断している。事業再開のため、ガス施設の警備を主な目的とした軍事力強化が行われた。事業の再開が示唆されたここ数週間で、再び反乱の勢いが増している。2025年3月には、事業によって人々が権利をはく奪されていると感じていることこそが、今後さらに反乱活動に拍車をかけるとの警告の指摘もあった。

この事業に係る環境、気候リスクも非常に高い。独立調査によると、提出された環境影響評価には、厳格な深海の生物多様性ベースライン調査が含まれていないなど、事業が起こしうる危害について低く見積もられているとしている。

このようなパターンー外部が地元の人々や環境を考慮せずに自身の計画を実行することーは珍しくない。

約10年前、日本によるモザンビーク北部での「プロサバンナ事業」でも同じことが起きた。2010年代初めに国際協力機構(JICA)がモザンビーク政府、ブラジル政府と共に開始し、モザンビークの広大な土地を、特に日本へ輸出する大豆の生産農地に転換するという計画であった。1970年代のブラジルのセラードの「緑の革命」のモデルを模倣し、モザンビークの農業、経済の発展に寄与するという目的の下進められた。

実際は、この事業はナカラ回廊の1,400万ヘクタールにも及ぶ土地を収奪し、小規模農家が移転を迫られるという結果になった。市民社会団体は、この事業に反対する農家と共に不透明な環境下で行われていた被影響住民との協議プロセスについて非難した。長年の奮闘の末、日本政府は提起された懸念を考慮し、2020年7月に事業の中止を正式に発表した。

モザンビークLNG事業とプロサバンナ事業の両方が、グローバルノースから押し付けられた「開発」が、いかにコミュニティと環境を傷つけるのかを示している。そこに公的な資金が含まれる時、起こりうるリスクとその責任はさらに大きいものとなる。

開発による良い結果を望むのであれば、有意義で、透明性が確保された協議プロセスを被影響コミュニティと持ち、デューデリジェンスの質を上げ、真の責任を追及する必要がある。これらが確保されなければ、開発は搾取というものに名前を変えるリスクがある。

TICADに多数のリーダーが集合しアフリカの未来を形作ろうとする中で、私たちは日本と全ての参加国政府、業界関係者に対しアフリカの人々のニーズや願望に応え、過去の過ちを繰り返すことなくーあるいは是正することーを求める。

この開発は本当は誰のためのものなのか?この問題はこれまでと同様に緊急性を帯びている。

 

関連する記事

モザンビーク・モザンビークLNGとは?

脱化石燃料

【プレスリリース】モザンビークの治安部隊が天然ガス事業地で犯したとされる深刻な人権侵害の疑惑を調査するよう国連に要請

脱化石燃料

【プレスリリース】米国の輸出入銀行がモザンビークLNGへの47億米ドルの融資を承認

脱化石燃料

トタル・エナジーズのモザンビークLNG施設付近でモザンビークの公安部隊が犯した一連の残虐行為の報告について直ちに公式調査を行うよう求める

脱化石燃料

【プレスリリース】126団体がLNGモザンビークへの支援を再考するよう金融機関に要請。深刻な人権侵害の疑惑があるモザンビークLNGに対し、金融機関は沈黙

脱化石燃料

伊エニは「ガスの呪い」を継続するための支援者を求めている(モザンビーク、コーラル・ノースFLNG事業)

脱化石燃料

関連するプロジェクト