先住民族の権利や豊かな自然を破壊するガス開発 - 日本の官民は撤退を

脱化石燃料2024.7.5

日本の官民が関わるガス開発に反対し、弾圧されている先住民族がカナダにいることをご存知ですか?

温室効果ガスの排出が石炭と比べ少なく、再生可能エネルギーが普及するまでの「つなぎ」とみなされることが多いガス。しかし、ガスも化石燃料であることから、気候変動対策にはなり得ません。それ以外にも、たくさんの課題があります。

カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州で進められている大規模な新規ガス開発現地には、人権や環境を脅かすこの開発に長年反対してきた先住民族がいます。「太古の昔から、私たちは大地と調和のとれた関係を保ってきました。私たちは大地に生かされており、大地を守る責任があるのです。…彼らは私たちを私たちの土地から抹消しようとしています。」2019年4月、国連先住民族問題に関する常設フォーラムで先住民族のフレダ・ヒューソンさんはそう演説しました。現地で何が起きているのでしょうか。

カナダ最大規模の大型LNG事業

カナダはこれまで、採掘したガスの多くをアメリカに輸出してきました。しかし、アメリカ国内でガス生産が増加していることに加えアジアでのガス需要の増大を見越して、液化天然ガス(LNG)をアジアに輸出するカナダ初の大型LNG事業が進んでいます。この事業は主に3つの部分で構成されています。

(地図出典:Coastal Link Gas Pipeline)

1)ガスを採掘するためのモントニー・シェールガス開発事業(地図右上部、Dawson Creekあたり。)

2)採掘場から輸出ターミナルにガスを運ぶためのコースタル・ガスリンク・パイプライン事業(CGL事業)

3)ガスを液化、貯蔵、そして輸出するためのLNGカナダプロジェクト(地図左側、Kitimatエリア)

三菱商事、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力銀行(JBIC)がモントニーでシェールガス開発事業に関与し、同じく三菱商事が出資するLNGカナダプロジェクトに対してもJBICが融資の検討を行っています。また、BC州で新規の大型ダム(サイトCダム)の建設も進んでおり、この事業はガス開発に電力を供給するために進められているとも言われています。

先住民族の権利を無視した開発

この大型ガス開発では、特に670キロメートルのパイプライン敷設事業に関して強い反対の声が上げられてきました。パイプライン事業は、先住民族Wet’suwet’enの土地を通過する計画ですが、Wet’suwet’enの伝統的酋長らは同パイプライン事業に合意してません。

2019年1月7日、BC州最高裁判所が先住民族の反対運動を違法とみなし、パイプライン建設を認める判決を下しました。この判決は、先住民族の土地に関する決定権は先住民族にあるという過去の判例をそもそも無視しているとの指摘もありました。しかし、この判決を根拠に建設を進めようと、数十名の武装した警官が反対運動を続ける先住民族に弾圧行為を加えたのです。警官はチェーンソーで障害物を破壊して強制的に土地に侵入し、14名を逮捕しました。

先住民族の権利が侵されている事態に対し、国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)は2019年12月13日付けで、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent)」が得られるまで、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業、トランス・マウンテン・パイプライン事業、サイトCダムの建設を即時中止するようカナダ連邦政府に求める決議を発表しました。

しかし、翌年の2020年2月6日現地時間朝3時すぎ、再び数十名の武装した警官が非暴力行動を続ける先住民族を強制退去させようとし、28人を逮捕しました。この件はカナダ全土で大きく報じられ、カナダ国内外70都市以上で先住民族の人々への連帯を示すアクションが行われました。こうした状況をうけ、連邦政府・BC州・先住民族(Wet’ensuwet’en)の間で、「Wet’ensuwet’enの土地に係る権利を認める」とする覚書が結ばれました。それにもかかわらず、この覚書には一連のガス事業についての言及はなく、その後も、パイプライン建設は継続されてしまっています。

カナダ連邦政府は「先住民族の権利に関する国際連合宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples, UNDRIP)」を2016年に採択しており、BC州も同宣言を実施する決議を行っています。先住民族の土地への権利はカナダの最高裁で認められているにもかかわらず、その反対の声や平和的な抗議活動が武装した警官によって抑圧されているのが現状なのです。

環境負荷の高いシェール開発

フラッキングという手法を使って採掘されるシェールガスには多大な環境影響が伴うことも問題です。シェールガスは地下数百から数千メートルに存在する頁岩(けつがん)層に含まれます。その採掘のために頁岩層まで掘削を行い、岩に割れ目(フラック)を作り高圧で水を注入し破砕する(水圧破砕法またはフラッキング)必要があり、高い環境負荷が生じます。地震誘発、フラッキングのために注入する水による水質汚染、大気汚染、メタン排出による地球温暖化などのリスクが指摘されています。このような問題のため、フラッキングは2011年にフランスで禁止され、2012年にはブルガリア、その後ドイツやアイルランドでも禁止されています。モントニーでも過去にフラッキングが誘発したと見られる地震が発生し、一部で操業の一時的停止措置がとられています。

ガスはつなぎのエネルギー?

ガスは、石炭火力よりもCO2排出が少ないことから、再エネに転換されるまでの「つなぎのエネルギー」と言われることがありますが、大きな間違いです。

気候変動に関する国際条約であるパリ協定は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力目標を掲げており、これを達成するためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要があります。つまり新たなガス田の開発や採掘、ガス関連施設を建設することは、新たな温室効果ガスの排出を長期にわたり固定(「ロックイン」)することに繋がり、パリ協定の目標とも合致しないのです。LNGカナダプロジェクトは2024年度中から40年稼働が計画されており、計画通り進めば2050年を超えて運転することになり、パリ協定と整合しません。

さらに最近国際エネルギー機関(IEA)が発表したレポート(「Net Zero by 2050 A roadmap for the global energy sector」)は、パリ協定の達成のために新規のガス開発投資もやめるべきであると示し、大きな注目を集めました。

三菱商事を含む企業、そして融資に参加する銀行は、今すぐ先住民族の権利侵害への加担をやめ、事業から撤退すべきです。

★事業の詳細はこちら
★先住民族グループからJBICに対して送付された書簡はこちら

写真は全て(C) Michael Toledano

(深草亜悠美)

 

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