インドネシア・ジャワ1ガス火力発電事業とは?

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1.事業の概要

 目的: ガス火力発電及び液化天然ガス(LNG)の貯蔵・再ガス化
     (Gas-to-Power=発電施設とガス関連施設の一体開発)
         -ジャワ-バリ系統管内への電力供給
         -燃料調達:主に西パプア州タングーLNG

  • 浮体式貯蔵気化設備(Floating Storage and Regasification Unit: FSRU)
    (貯蔵容量170,000m³、全長292.5m、全幅43.4m、再ガス払出能力3億立方フィート/日。LNG船からShip-to-Ship方式でLNGを洋上受入、貯蔵、再ガス化)
  • ガスパイプライン約21km(海底約14km、陸上約7km)
  • 海水取水・排水パイプライン
  • 桟橋(全長40m)
  • アクセス道路
  • ガス陸上受入施設
  • 発電所(1,760 MW)
  • 送電線52km・変電所設備等の建設・設置など

 サイト位置:

  発電所等=西ジャワ州カラワン県(発電所等約36.7ヘクタール) 
  FSRU=西ジャワ州スバン県沖合約8km地点
  送電線=西ジャワ州ブカシ県、カラワン県
  変電所=西ジャワ州ブカシ県         

 総事業費: 発電所=約14億米ドル
       FSRU=約4億米ドル

 事業実施者: 
  発電施設の建設・所有・操業:PT Jawa Satu Power(JSP)

  • 丸紅40%、双日20%、インドネシア国営石油会社(プルタミナ)40%の3社が出資する現地法人
  • インドネシア国有電力会社(PLN)との間で25年にわたる電力売買契約(PPA)を締結

  FSRUの建造・所有・操業:PT Jawa Satu Regas(JSR)

  • 丸紅20%、双日10%、商船三井19%、プルタミナ26%、その他25%が出資する現地法人

  EPCコンソーシアム:

  • General Electric Company=ガスタービン、発電機の納入
  • Samsung C&T=土木基礎工事
  • PT Meindo Elang Indah=ガスパイプライン敷設等

  FSRUの造船:

  • Samsung Heavy Industries

 融資機関: 国際協力銀行(JBIC)、アジア開発銀行(ADB)、
       民間銀行団(みずほ銀行、三菱UFJ銀行、オーバーシー・チャイニーズ銀行、
          クレディ・アグリコル銀行東京支店、ソシエテ・ジェネラル銀行東京支店他等)

 保険機関: 日本貿易保険(NEXI)

2.日本との関わり

 輸出信用機関:

  • 国際協力銀行
    • 協調融資総額約13億1,200万米ドルの約46%にあたる約6億400万米ドル(限度)の融資(プロジェクトファイナンス)(2018年10月に融資決定
    • 質高インフラ環境成長ファシリティ(QI-ESG)の一環
  • 日本貿易保険
    • 民間金融機関の融資(総額4億300万米ドル)に対する保険引受(2018年10月に付保決定。保険責任期間21年)
    • 出資金に対する投資保険引受(予定)(プラント建設時は民間金融機関のエクイティ・ブリッジローンに対する双日の保証債務に対する保険引受予定)

 日本企業:

  • 丸紅、双日
    • JSPへの出資
  • 丸紅、双日、商船三井
    • JSRへの出資
  • みずほ銀行、三菱UFJ銀行
    • 協調融資総額約13億1,200万米ドルの約31%にあたる4億300万米ドル融資の一部(2018年10月)

 国際開発金融機関(MDBs):

  • アジア開発銀行(日本は最大出資国の一つ)
    • 協調融資総額約13億1,200万米ドルの約23%にあたる3億500万米ドル融資(2018年8月承認)
    • うち1億2,000万米ドルはADB信託基金「アジアインフラパートナーシップ信託基金(LEAP)」(LEAPに対しては、国際協力機構(JICA)が2016年3月に15億米ドルの海外投融資による出資を承諾)

 3.主な経緯

動き
2016年国際入札
2017年1月31日     JSP、25年間の長期電力売電契約(PPA)をPNLと締結
2018年4月10日第36回経協インフラ戦略会議でGas-to-Powerプロジェクトが「我が国の取り組むべき海外プロジェクトの一つ」とされる
2018年4月23日第2回日米第三国インフラ協力官民ラウンドテーブルで「日米インフラ協力案件の一つ」として発表
2018年6月5日インドネシア環境林業省、EIAを承認。環境許認可を発行
2018年8月29日ADB、融資承認
2018年10月18日JBIC及び民間銀行団がJSP及びJSRと約13億1,200万米ドルの貸付契約締結
2018年12月発電所部分の着工
2019年4月ADB、一回目の貸付実行
2024年3月29日商業運転を開始(当初は2021年開始予定だったが、遅延)
2025年3月28日住民グループ、ADBアカウンタビリティ・メカニズムの遵守審査パネルに異議申立て(プロセス中)
2025年12月10日漁民グループ、集団訴訟開始(公判中)

4.主な問題点

(1)海洋環境の破壊・汚染と漁民の生計手段への深刻な影響

 同事業の建設・操業により海洋生態系が深刻な損害を受け、漁業で生計を立てることが困難になっていることを地元の多くの漁民が報告している。

 建設時には、FSRUから14kmの海底ガスパイプライン、また同地域の河口沿岸部で取水・排水パイプラインを設置するため、海底の浚渫・投棄が行われた。この浚渫・投棄作業により海底が損傷した他、水質汚濁や堆積物の増加が生じ、海洋環境に重大な影響が及んだため、同地域での漁民の漁獲量は減少した。また建設作業関連の船舶の存在のため、漁民は同地域で最大限に活動を行うことができなくなった。

 漁民によれば、発電所の商業運転開始後も海水の取水・排出によって、海洋生物の食物連鎖に影響が及んでいるという。取水口では冷却水用に大量の海水が引き込まれるため、プランクトン、エビ、中小型魚類などに影響が及んでいる。また、温排水の海域への放出に伴い、カニ、貝、エビ類等の海洋生物の幼生や大型魚の餌が死滅している。さらに沿岸周辺も汚染され、豊富だった魚類は移動してしまった。したがって、同地域での漁獲量は減少し続け、時には全く漁獲量がないほどの状況になっているということだ。

 こうした状況の中、かつて沿岸地域を漁場としていた漁民は漁獲量を最大化するため、より遠方に漁に出たりするなど一回当たりの燃料費が嵩むようになっている。漁獲量の減少と燃料費の増加により、生活に十分な収入を得られない漁民の中には、日々借金を余儀なくされ、借金の悪循環に陥っている家庭も見られる。

 海底パイプラインの設置状況に問題があることも、漁民によって報告されている。パイプが海底に埋められていないことから、漁民の仕掛けた漁網が潮流の影響で移動し、パイプラインに引っかかることで損傷することも多い。パイプの固定装置が外れ、海面に浮遊した状況になっていたこともあったとのことだ。漁網被害を受けた漁民全員が補償を支払われているわけではなく、また補償が支払われた場合でも不十分な額でしかないとの報告がなされている。

 これらの漁民への悪影響に対して、これまで事業者は適切かつ十分な対応を講じていない。カラワン県チラマヤ・ウェタン郡ムアラ村及びスバン県ブラナカン郡チラマヤ・ギラン村の漁民グループは2025年12月、カラワン県地方裁判所で集団訴訟を起こした。同訴訟では、事業者であるJSPに対して、同地域の海洋生態系に重大な影響を及ぼしている事業活動を停止し、汚染された海洋環境を修復するよう求めるとともに、漁民が被ってきた収入減少と燃料費の増加に対する損害賠償の支払いを求めている。

(2)適切な住民参加の機会や情報周知の欠如

 同事業のESIA(環境社会影響評価報告書)によれば、インドネシア政府の規制に従い、FSRU施設やパイプラインの設置ルート上の半径500メートル内を漁業活動の禁止区域に設定することなどに言及しており、漁民の収入減少に係る影響評価が行われている。また、カラワン県チラマヤ・ウェタン郡ムアラ村やスバン県ブラナカン郡ブラナカン村を含む漁民グループはステークホルダーとして認識されており、2017年以降に実施されてきた同事業に係る住民協議やフォーカス・グループ・ディスカッションへの参加記録が残されている。

 しかし、そうした住民協議や情報周知が適切かつ十分になされていたかは疑問である。多くの漁民によれば、建設工事の開始前に同事業やその影響に関する協議を受けたことはなく、海底パイプラインやFSRUの設置について、建設工事の開始後に知ったとのことであった。また、JSPが設けている苦情処理メカニズムについても、知らないと話す漁民は多い。

 JSPは特に漁民グループを対象とした漁獲調査を実施しているとされ、生計回復計画(LRP)も策定している。同計画では、10%以上の収入減少が予測される漁民275名が対象とされているが、同計画の目的であろう生計回復の実効性の問題に加え、そもそも、影響を受けるにもかかわらず対象外とされている漁民が多くいる実態から、影響住民の把握の段階で情報周知や住民の意味ある参加機会の確保に不備があったと言える。

 上述の集団訴訟を行っている漁民グループのリーダーが、これまでに地元の警察関係者による自宅への訪問を受けるなど、住民の自由な発言を抑制しようとする動きも懸念される。軍や警察など国家治安部隊の関与は、それがもたらす暗黙的および明示的な脅威によって影響住民の意味ある参加を著しく阻害する可能性があることを事業関係者は認識し、それを回避していく必要がある。

(3)気候変動への影響の過小評価

 同事業の関係者は、燃焼時により多くのCO2を排出する石炭等に比べ、ガスを燃料とする同事業がよりクリーンであり、温室効果ガスの削減に貢献すると喧伝している。例えば、出資者である双日は「CO2排出量削減(330万トン/年)に貢献」するとし、融資者であるADBも、「インドネシアはCO2排出量を177万トン削減できる」見込みであると説明してきた。同様に融資者であるJBICも「温室効果ガス等の排出削減又はその他地球環境保全目的に資する案件」を対象とする「質高インフラ環境成長ファシリティ(QI-ESG)」の一環として同事業への融資を行っている。

 しかし、こうした主張の中では、そもそも化石燃料であるガスを利用する場合と再生可能エネルギーを利用する場合の温室効果ガスの排出量について、比較検討を行っていない。また、発電所単体(燃焼段階)の直接排出量のみを考慮し、LNG開発の上流である採掘・生産段階で起きている大気中へのメタン(CH4)漏出を含む間接排出量を軽視している可能性が懸念される。つまり、同事業のサプライチェーン全体にわたる温室効果ガスの排出量を適切に考慮できず、気候変動への深刻な影響の過少評価につながりかねない。

 LNGの主成分であるメタンの地球温暖化への寄与を示す地球温暖化係数(GWP: Global Warming Potential)は、100年スパン(GWP100)ではCO2の29.8倍、20年スパン(GWP20)ではCO2の82.5倍とされている。そのため、比較的短期間で強力な温室効果を持つメタンの気候変動への影響を正確に評価するためには、一般に用いられるGWP100だけでなく、GWP20も合わせて考慮する必要性を科学研究も指摘している。同発電事業では、西パプア州タングーLNGから燃料調達が行われているため、このLNGの上流開発段階における温室効果ガス排出量も考慮に入れるべきである。 また、同発電事業は25年間の電力売買契約(PPA)を締結しているため、2049年まで操業する予定とされているが、その操業に必要なLNGの供給のために新規のガス上流開発が行われる可能性も考慮されるべきである。実際、同発電事業のLNG調達先である西パプア州タングーLNGでは現在、「タングーLNG拡張開発計画」が日本の官民によって進められている。国際エネルギー機関(IEA)が2023年の報告書で、2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにするためには、ガスを含む新規の化石燃料採掘を行う余地はないとの2021年報告書の結論を再び示していることからも、タングーLNG拡張開発のような動きがパリ協定の目標と合致していないことは明白である。

5.現在の状況

  • 多くの漁民が、同発電所の操業に必要な海水の取水・排出等による海洋生態系への影響が続いていると報告している。
  • 海底パイプラインとの接触による漁網の損傷を含め、漁民の生計手段への影響が続いている。
  • 同地域のムアラ村及びチラマヤ・ギラン村の漁民372名を代表する19名を原告とした集団訴訟が提起され、公判中である。(2026年1月時点)