COP30総括:「協働」の努力は実を結んだのか?国際協調がかろうじて守られたCOP
国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が、予定より1日遅く11月22日に閉幕しました。開催地であるブラジル・ベレンはアマゾン川の河口に位置する都市で、森林分野の取り組みの進展も期待されていました。COPに合わせて、「ピープルズサミット」も開催され、ブラジル全土、そして世界各国から市民、先住民族、若者らが集まり、環境レイシズム(人種的・社会的に弱い立場にある少数派の人々やコミュニティに不均衡に環境汚染や気候変動による被害が集中する状況)と不平等の終焉を求めました。
議長は、「今日世界的な危機に直面している多国間協調主義を守る」として、ポルトガル語で共同作業や協働を意味する「ムチラオ(mutirão)」をキーワードに掲げました。米国のパリ協定離脱や、各地で生じている気候変動対策へのバックラッシュ・後退など、分断も広がっている中、議長国の主導でパリ協定へのコミットや国連気候枠組みの重要性を再確認できたことは評価できます。「協働の精神」はどのように実際の議論や行動につながったのでしょうか。論点をまとめました。

グローバル・ムチラオ(Global mutirão)決定
議長国のリードで、分野横断的な「グローバル・ムチラオ決定」が採択されました。この決定文書は、特に関心が高かった気候資金等を含む議題について議長が二週間かけて各国とコンサルテーションを行った議論が反映されています。
この中に、2035年までに適応資金(気候変動による災害などへの適応策に対する資金支援)を3倍にすることや(当初、目標額やベースラインを2025年にするという案が書き込まれていたが最終的な文書では削除)、気候変動に関する一方的な貿易制限的措置(UTM)についてのイベントを行うことなども含まれました。一方、化石燃料からの移行、森林破壊停止、途上国向け資源動員に関する3つのロードマップへの言及は、最終決定文書から削除されました。
「気候変動に関する一方的な貿易制限的措置」は、特に途上国側にとって懸案のもので、昨年のCOP29でも、多くの議論が行われました。例えば欧州連合の「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」はEU域外から輸入される鉄鋼、肥料、セメント、アルミ、電力などの製品に対し、EU域内に相当する炭素価格を課す仕組みです。その措置により大量排出型の産業のEU域外への移転を防ぎ域内産業を守ることを間接的な目的としています。これは途上国にとってはEU市場への参入コストの増加、つまり貿易障壁となります。気候変動枠組条約(UNFCCC)の第3条5項は、各国内の気候変動対策が国際貿易を不当に制限する手段であってはならないことを定めており、途上国側はこの問題についての議論を長年求めてきました。今後、2028年のCOPでWTOなども招いたハイレベル会合が行われることになりましたが、問題が3年後に先送りされたともいえます。
公正な移行
市民提案(ベレンアクションメカニズム、BAM)が基になった「公正な移行」のための「ベレン・メカニズム(Belem Mechanism for Just Global Transition)」を設けることになったのは、今回のCOPのハイライトの一つといえます。途上国(G77)の結束と市民社会の積極的な働きかけにより、2026年の運用開始が決定されました。
1992年のリオ・地球サミットでは、先進国の植民地時代からの累積温室効果ガス排出量に対する歴史的責任(「差異ある責任」)や、途上国の開発の権利が認められ、それらの原則に基づいて気候変動枠組条約(UNFCCC)や生物多様性条約が採択されました。一方、先進国がそれらの合意を尊重し実行したとは言い難い面があります。しかし今日まで途上国のニーズに遠く及ばないレベルの資金・技術支援しか提供できていません。気候対策は防衛・軍事支出にシフトされ、開発支援も大幅な削減が相次いでいます。アメリカ政権の方針の急転換により産業界でも気候目標の取り下げ、化石燃料への回帰が見られ始めています。
途上国は既存の国際貿易・金融・経済体制に縛られる中、国内での気候対策や脱化石燃料政策に多大な経済的・財政的支出を求められています。開発や貧困対策費用を削り、気候・自然災害他の国内対策、対外債務の返済が国家予算の数割を占める中で、途上国が取れる気候対策は極めて限られている現状があります。
COP30の交渉の最終局面で議論となったムチラオ決定の「化石燃料からの移行に関するロードマップ」や「新規適応資金目標」の論争の背景には、先進国が進める民間資本の動員による途上国の市場開放により、途上国の温室効果ガス排出削減と先進国の経済優位性の維持促進を狙う姿勢が見え隠れしていました。途上国側は、開発と脱炭素を両立させるため、温室効果ガス排出削減だけではなく、移行により影響を受ける全てのアクターが参加でき、途上国が公正な移行を実行していくための国際的な支援や、国際的な障害をいかに克服するかを議論するための公正な移行メカニズムを一致団結して支持しました。経済移行への異なるビジョンがここで顕著に現れたとも言えます。
採択された決定では、締約国は「公正な移行メカニズムを構築すること」に合意し、「その目的は、国際協力、技術支援、能力構築、知識共有を強化し、公平かつ包摂的な公正な移行を可能にすることである」としています。次回のCOP31(2026年11月)でメカニズムの運用化プロセスを検討するため、2026年6月の第64回補助機関会合で中身の詳細を議論することも決まりました。
途中、草案には「鉱物の採掘と加工から生じるリスクを認識する」という段落が含まれていたものの、後に削除されました。鉱物への言及は失われたものの、市民社会団体や先住民族代表からは、鉱物資源採掘に伴う人権侵害や「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」の重要性が主張され、パラグラフ12において列記された公正な移行のために留意すべき点の中に、公平性の原則や、人権、先住民族の権利、FPICの重要性を認識することが含まれました。
緩和と化石燃料フェーズアウト
緩和(温室効果ガスの排出削減)については、ムチラオ決定の中で1.5℃目標維持のための行動の加速を謳う一方、そのための炭素予算が急速に枯渇しつつあると明記されました。 1.5℃の「オーバーシュート」が発生する可能性が高いことをCOP決定で認めたのは初めてとも言われ、オーバーシュートの範囲と期間の両方を「制限」する必要があると記されました。これにより排出削減の話とは別に、コストが高くリスクも未知数な大気中からの炭素除去(CDR)の推進が懸念されます。「1.5℃目標と排出削減のギャップ」問題は、ベレンで大きく取り上げられ、それに対応するため、COP議長国が主導する「地球規模実施アクセラレーター(GIA)」と「ベレン1.5℃ミッション」というイニシアチブが立ち上がりましたが、どの様な取り組みになるのか、その内容は決定文書では明確にされていません。ブラジル議長が閉会式中で言明した議長国の自主取り組みとしての化石燃料移行と森林破壊停止の2つのロードマップと併せ、次回COP31でその内容が再び議論される可能性があります。
なお、議長国による化石燃料からの移行のためのロードマップ策定の提案は、当初は正式な交渉の枠外で議論されていましたが、交渉の最終段階でコロンビアとEUがムチラオ決定にそれを盛り込もうとしたことで大きな争点となりました。最終的に、ムチラオ文書には反映されませんでしたが、コロンビア主導で「化石燃料からの脱却に関するベレン宣言」が発表され、2026年4月にオランダと共催で脱化石燃料に関する国際会議を開催することになりました。
化石燃料からの移行は、産油国・輸出国のみならず、化石燃料に依存する経済活動全般や社会全体へ深い影響を与えます。そのため、ロードマップに関して、歴史的に大量の温室効果ガスを排出してきた先進国からの財政・技術支援なしで移行の“加速”を国際的に押し付けられることは受け入れられないという認識が途上国に強くあったことは忘れてはならない点です。またこの煽りを受ける形で、森林減少停止のロードマップは、実質議論もなくムチラオ決定文書案から消えることとなりました。
また、過去2年間合意できずにいたUAE対話の運用が決まりました。UAE対話とは、COP28で行われたパリ協定の全体進捗評価(GST-1)の結果を2年間毎年フォローアップするという内容で、緩和・適応や資金、途上国支援まで議論の対象は広範に及びます。その中で先進国と小島嶼国はとりわけ化石燃料からの移行、移行燃料、再エネ・省エネ世界目標、原発、水素、炭素隔離利用(CCUS)、森林破壊・劣化の停止等が触れられた部分に注目しており、UAE対話の議題でもまた、今回の化石燃料移行ロードマップと似た議論が再燃する可能性があります。
森林・バイオマス
今回のCOP30は”Forest COP”, “Nature COP”と銘打っており、森林破壊に歯止めをかけるアプローチが期待されていましたが、交渉では森林に関する本質的な議論に踏み込むことなく、幕が閉じてしまいました。
特に緩和について、今回のCOPで「森林」に焦点を当てた作業計画を議論することが事前に決められていましたが、実際は実施の進捗を図るデジタルプラットフォームの創出に多くの時間を割き、残念ながら、具体的な「緩和作業」の議論が展開されることはありませんでした。
また、前述の通り、気候変動対策の全体の進捗評価を行うグローバル・ストック・テイク(Global Stock Take、GST)の1パートであるUAE対話において、今後2年間でGSTのエネルギー移行の実施状況について対話の機会を設けることが合意されました。COP28で採択されたエネルギー移行パッケージの中で「再生可能エネルギー容量を3倍に増やす」ことが合意されていますが、この「再生可能エネルギー」の中にバイオマスが含まれているため、次回以降のCOPではより注目して見ていく必要があるでしょう。
森林破壊停止のロードマップについては交渉外での検討を続けていくこととなり、COP31で再登場する可能性があるため、引き続き注視する必要があります。
適応
今回のCOPで「ベレン適応指標」が採択されました。採択にあたっては、当初100の指標が掲げられていましたが、議長国案で59に削られ、途上国・先進国双方からプロセスが不透明だと強い異議が挙がりました。また先進国が反対する資金提供の指標も含まれており、6月の補助機関会合で精査する旨を議長が明言してその場を収めました。今後は新設された「適応に関するベレン–アディスビジョン」の下で、指標の試用や各指標の方法論を詰めて行くことになります。COP28で合意された7つのテーマ別と4つの政策的な指標は、水資源、食糧・農業生産、健康、生態系、インフラ、貧困、生計手段、文化遺産など人々に極めて重要な分野を含み、気候変動の影響や損失被害、適応の進捗を世界全体で評価できるようになります。これらの指標は全ての国が国連への各種報告で活用するためのもので、日本政府が採用するかどうかについては環境省で今後精査・検討される模様です。
また、パリ協定7条の適応世界目標を運用化する「UAE枠組み」のもとで、指標以外の課題に合意するための「バクー適応ロードマップ(BAR)」の延長が決まり、次回のグローバルストックテイク(GST-2)が終わるまでの3年間の活動方針が定まりました。COP30の重要成果として期待されていた途上国の効果的な適応行動を後押しする前進と言えます。
また、前述の通り適応資金3倍が合意されたものの、具体的な金額目標はなく、COP29で合意された民間資金が主体の2035年目標(NCQG)の一部として扱われます。また「変革的適応」については、適応活動の利益ビジネス化を警戒する途上国の懸念もあり、決定文書で直接言及されずに終わりました。
気候資金
気候資金については、前回のCOPで特に議論されました。2010年COP16カンクン会議で合意された、先進国が途上国に対して2020年までに年間1千億ドルの気候資金を拠出するという資金目標に次ぐ新たな目標として、2035年までに年間3000億ドル(国際開発金融機関による支援、途上国による支援も含む)、官民合わせて1兆3000億ドルという気候資金に関する新規合同数値目標(NCQG)が、アメリカや先進国の意見を反映して合意されました。しかし、これは民間資金と多国間開発銀行などを主体とした動員で、先進国の公的な資金の責任・役割が明確でないことから、途上国の間では政府間資金支援が予測できず、自国で国際金融から調達を迫られる「自分でやれ(DIY – Do It Yourself)」資金目標とも呼ばれています。
このNCQGをどのように達成するかについて示したのがCOP30開催前に前回の開催国アゼルバイジャンとブラジルが発表した「バクー・ベレン・ロードマップ」ですが、民間資金を動員する要素が大きいものの、国際金融市場の改革など途上国が求めていた内容も残されているなど評価できるところもあります。しかしこの資金ロードマップの実施について明確なCOP決定はなく、実効性にも疑問が残ります。
今回のCOPでは、先進国から途上国への公的な気候資金の供与(パリ協定9.1)に関する2年間の新たな作業計画が立ち上がりました。しかし、この作業計画が実際の資金供与につながるかはまだ不透明であり、途上国は引き続き闘い続けることになります。
ブラジル議長国のアクションアジェンダ
気候アジェンダは、2014年から毎回COP期間中に行われ、正式な国際交渉とは別に、議長国主導で官民・非政府アクターの自主的気候アクションの取り組みを様々なイベントで紹介するものです。年々、企業万博の様相を呈するようになっていますが、今回のアクションアジェンダはブラジル政府の「実施のCOP」の名の下で、近年にない組織化されたものになりました。上述の議長国の気候資金の自主報告「1.3兆(ドル)へのロードマップ」、市民社会や先住民族団体から非難を受けて結局COP30の決定文書では言及されなかったブラジル主導の熱帯林永続ファシリティ(TFFF)、一連の化石燃料からの移行イニシアチブ、持続可能な燃料を4倍とする宣言、官民の国際炭素取引市場のルール調和や拡大、「自然を活用した解決策(NbS)」など、市民社会が誤った対策と呼ぶ一連のイニシアチブを含む一方、再エネの拡大、鉱物資源の問題など重要なテーマを多く含んでいます。COP30終わりに取りまとめの報告書が出され、今後1年間議長国であるブラジルがそのフォローアップを進めるとしています。アクションアジェンダ自体は採択されたムチラオ決定文書に言及されてはいませんが、議長国の意向として同決定に盛り込まれた「地球規模実施アクセラレーター(GIA)」や「ベレン1.5℃ミッション」に編入され、次回COPで公式な交渉の場で議論される可能性があります。
日本
日本政府は2025年2月に次期NDCを提出していますが、パリ協定の目標達成のためにはまだ不十分な内容に留まっています。
COP30に参加した石原環境大臣は、日本は混焼を含めた水素やアンモニアを活用する方針であり、脱化石燃料ロードマップと食い違うとして、議長国等が提案した化石燃料の移行に関するロードマップには賛同しませんでした(大臣による記者への回答を参照のこと)。また日本政府がCOP30で発表した「日本の気候変動イニシアティブ2025」にはJCM(Joint Crediting Mechanism、二国間クレジット制度)を含む市場メカニズムの活用先端技術などの「ソリューション」が含まれています。
JCMは、日本がパートナー国において削減に貢献する活動、もしくは吸収量の増大に貢献する活動を行い、削減の成果を両国で分け合う制度です。FoE Japanは、以前から、気候危機が急速に進み、日本政府がすべき削減努力が足りていない中、カーボンオフセットを目標達成に活用すべきではないと主張してきました。また、二国間クレジットや国際市場メカニズムの活用は国内での削減には繋がらず、むしろ購入したクレジットによってさらなる排出を許すものです。(参考:https://foejapan.org/issue/20240614/18014/, https://foejapan.org/issue/20231127/15082/, )
今後
次回のCOP31はオーストラリアが準議長の扱いでトルコが開催議長国になり、COP32はアフリカのエチオピアで開催されます。また、日本政府は2027年のIPCC総会の誘致を表明していますが、2027年のIPCC総会では二酸化炭素の回収・貯留(CCS)や除去(CDR)といったテーマが扱われる予定で、こちらも注目です。
参考
- COP30で決定された文書はこちら