インドネシア環境団体が日本の官民に要請書を提出「アチェ州グリーンアンモニア製造事業の中止を」

2025年12月19日、インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)は、スマトラ島北部のアチェ州で計画されているグリーンアンモニア製造事業(Green Ammonia Initiative from Aceh:GAIA事業)への反対を表明し、事業の中止や融資検討の中止を求める書簡を東洋エンジニアリング(TOYO)、伊藤忠商事、国際協銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)に提出しました(書簡の要旨と全文)。WALHIは書簡の中で、エネルギー移行に向けた解決策と謳われている同事業が、実際には化石燃料利用を長引かせ、環境や地域コミュニティの安全に深刻な脅威をもたらすものであり、情報や参加に係る住民の権利も侵害している「誤った気候変動対策」に他ならないと指摘。一般市民に誤解を与える「グリーンウォッシュ」であると非難しています。
GAIA事業は、TOYOが経済産業省委託の「質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業」として調査を行い、2023年2月に最終報告書を発表。その後、TOYO、伊藤忠商事、インドネシア肥料公社により、2024年8月にアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)第2回閣僚会合で同事業の共同開発契約書が締結されたのにつづき、2024年11月には国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)に合わせて、同事業のJoint Venture Company設立に向けた株主間契約書が締結されました。また、2025年4月にはJBICが同事業の情報をウェブサイトに掲載し、融資の検討を始めています。
同事業では、TOYOが2000年代に設計・建設した既設アンモニアプラント(インドネシア肥料公社の子会社が保有)に水電解装置を併設し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を供給して製造したグリーンアンモニアを伊藤忠商事が船舶燃料として調達する計画となっています。
しかし、WALHIは2025年8月に声明を発出し、AZECの下で進められている同事業が、実際には化石燃料を使用する可能性が高いこと、また既設プラントのアンモニア漏洩事故で住民が深刻な健康被害を受けてきたにもかかわらず、事業地周辺の住民に適切な協議が一切行われていないことを指摘。日本の官民を含む事業関係者に同事業の中止を求めてきました。
今回、WALHIが新たに提出した書簡は2つあり、WALHIアチェが現地で行った同事業に係る周知状況および既設アンモニアプラントによる影響に関する調査報告書が添付されています。書簡の一つは同事業の関係企業であるインドネシア肥料公社、TOYO、伊藤忠商事に対して事業中止を求める要請書、もう一つはJBICに対してJBIC環境ガイドラインの違反を指摘し、同事業への融資検討を継続していることへの抗議文となっています。TOYO、伊藤忠商事、JBICは、現地からの強い批判を真摯に受け止め、同事業の開発中止や融資検討の中止に踏み切るべきです。
各々の書簡の要旨(企業への要請書、JBICへの抗議文)と全文(企業への要請書、JBICへの抗議文)は以下をご覧ください。
インドネシア肥料公社、TOYO、伊藤忠商事への要請書(要旨)
・化石燃料利用を長引かせる:
- 同事業の水素製造過程で使用される電力は、現在も98%を化石燃料に依存するアチェ州の電力網から供給されるため、同事業で生産されるのは「グリーン」水素ではない。再生可能エネルギー証書(REC)の取得は、実際に再生可能エネルギーが供給されることを保証するものではなく、単なる行政上の手段に過ぎない。
- 同事業のアンモニア製造過程で利用される既設のアンモニアプラントは、化石燃料ガスを原料として製造されるグレー水素も引き続き使用するため、同事業で「グリーン」水素と混流生産されるのはハイブリッドアンモニアであり、「グリーン」アンモニアにはならない。
・環境や地域コミュニティの安全に深刻な脅威をもたらす:
- 同事業で利用される既設のアンモニアプラントでは、この15年間でアンモニア漏洩事故が9件発生し、子どもや高齢者を含む約2,000人の住民が呼吸困難、吐き気、嘔吐、失神などの被害を受けてきた。既存の早期警報システムは機能しておらず、避難措置も適切に周知されていない。
- 沿岸地域が工業地帯となったため、小規模漁業者は沿岸へのアクセスを失い、伝統的な地引き網漁はできなくなった。また漁獲量の減少や漁業コストの増加による経済的損失も生じている。企業のCSRプログラムは根本的な解決とはなっていない。
・情報や参加に係る住民の権利を侵害している:
- 今日に至るまで、既設のアンモニアプラントの敷地周辺に暮らすコミュニティは同事業に関する説明を一度も受けておらず、地方政府関係者すら同事業に関する十分な情報を得られていない。
- この状況は、インドネシアの環境管理法や情報公開法で規定されている住民の情報や参加に係る権利を明らかに侵害している他、インドネシアがコミットしたパリ協定(2015年)やリオ宣言(1992年)にも反する。
・同事業は公正なエネルギー移行に向けた解決策ではなく、グリーンウォッシュ行為に寄与するもの。持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定、環境・社会・ガバナンス(ESG)原則に対する各企業の国際的なコミットメントと矛盾する。
・以上を踏まえ、インドネシア肥料公社、伊藤忠商事、東洋エンジニアリングに対して、同事業の即時中止を要求する。
国際協力銀行(JBIC)への抗議文(要旨)
(・上段の関係企業への要請書でも指摘されている問題点を指摘。)
・JBICは融資検討対象が水素の製造のみで、アンモニアの製造過程を含まないと主張しているが、JBICの融資を受けて製造される水素がアンモニア製造過程で使用されることが同事業で前提とされていることから、JBICの責任をアンモニア製造に係る環境社会影響と切り離すことはできない。
・同事業は、以下の点で『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(JBICガイドライン)を遵守できていない。
- JBICは同事業をカテゴリC(環境への望ましくない影響が最小限かあるいは全くないと考えられる事業)に分類しているが、現地での環境社会影響の実態とリスクは明らかに異なる。
- アンモニア製造に係る潜在的影響を最小化・軽減するための措置(早期警報システムの整備、避難計画の策定、効果的な苦情処理メカニズムの設置等)が整っていない。
- 同事業が水素の製造過程で化石燃料由来の電力に依存したり、アンモニアの製造過程でグレー水素との混流生産になる実態を踏まえた実際の温室効果ガス(GHG)排出量と気候変動への影響が考慮されていない可能性がある。
- 同事業では被影響住民の意味ある参加と情報への権利が侵害されており、「社会的合意」が確保されていない。
- アンモニア製造過程を含め、同事業の環境社会影響の最小化・軽減措置について、社会的弱者に配慮しながら、被影響住民との意味ある協議が行われていない。
・以上を踏まえ、JBICに対して、同事業への融資検討を直ちに中止するよう強く要請する。
インドネシア肥料公社、TOYO、伊藤忠商事への要請書(全文)
>PDFはこちら
(原文はインドネシア語。以下は、WALHIによる英訳のFoE Japanによる和訳)
2025年12月19日
インドネシア肥料公社 取締役社長 Rahmad Pribadi 様
東洋エンジニアリング株式会社 取締役社長 CEO 細井 栄治 様
伊藤忠商事株式会社 代表取締役会長CEO 岡藤 正広 様
要請書:化石燃料エネルギーへの依存を長引かせ、地域コミュニティと環境の安全を脅かす誤った気候変動対策を促進し、地域コミュニティの情報と参加の権利を侵害するアチェ州グリーンアンモニア製造(GAIA)事業の中止を
インドネシア環境フォーラム(WALHI)は、アチェ州グリーンアンモニア製造(GAIA)事業に対する拒否の意思表明として本要請書を提出する。私たちは、インドネシア肥料公社(PT Pupuk Indonesia)およびその国際パートナーである伊藤忠商事株式会社と東洋エンジニアリング株式会社に対し、本事業を直ちに中止するよう要求する。エネルギー移行に向けた解決策として推進されているGAIA事業は、実際にはインドネシアの化石燃料依存を長期化させ、地域コミュニティの安全に深刻な脅威をもたらし、環境に損害を与え、法律で保障された市民の情報と参加に係る権利を侵害するものである。
伊藤忠商事と東洋エンジニアリングがGAIA事業に参画していることで、いまだに化石燃料エネルギーに依存していることが明白なこの取り組みはさらに強化されている。この事業がグリーン水素を生産するという主張は実証不可能である。なぜなら、電解プロセスに使用される電力は、現在も98%を化石燃料に依存するアチェ州のPLN電力網から供給されるためだ。この主張の根拠とされる再生可能エネルギー証書(REC)は、実際に再生可能エネルギーが供給されることを保証するものではなく、単なる行政上の手段に過ぎない。また、既設のアンモニアプラントは、アンモニアの製造工程において化石燃料ガス由来のグレー水素を引き続き使用する。したがって、生産される製品はハイブリッドアンモニアに過ぎず、主張されているようなグリーンアンモニアではない。両日本企業による関与は、公正なエネルギー移行に向けた解決策の一環というより、むしろ一般市民に誤解を与えるグリーンウォッシュ行為に寄与するものであり、持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定、環境・社会・ガバナンス(ESG)原則に対する彼らの国際的なコミットメントと矛盾している。
さらに、GAIA事業は、PT Pupuk Iskandar Muda(PIM社)の地域コミュニティ安全対策における乏しい実績と切り離せない。2010年から2025年にかけて、アンモニア漏洩事故が9件記録されており、約2,000人の住民が深刻な健康被害を受けた。症状は呼吸困難、吐き気、失神から集中治療を要する重篤な状態まで多岐にわたる。WALHIアチェが作成した「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」は、現行の緊急対応システムが著しく不十分であることを明らかにしている:避難措置が存在せず、使用されるサイレンは日常的な工場のサイレンと混同され混乱を招き、住民は自力で対処せざるを得ない状況だ。子ども、高齢者、妊婦などの脆弱な立場に置かれた人々は、十分な保護がないままより大きな健康リスクに直面している。同社のCSR(企業の社会的責任)プログラムも効果を上げておらず、象徴的な支援が中心で根本的な問題に対処できていないばかりか、地域レベルで社会的不平等を生み出している。
沿岸の地域コミュニティへ与える経済的影響もまた非常に現実のものとなっている。沿岸地域が工業地帯へと転換されたことで小規模漁業者は海岸線へのアクセスを失い、伝統的な地引き網漁は姿を消し、企業の液体廃棄物による海洋汚染の疑いから漁獲量が減少している。集魚装置(ルンポン)を失ったことで(より遠くへ)漁に出るコストが増大する一方、企業が提供する補償は被った損失に見合わない。同社の存在がもたらす経済成長は不均等なもので、すべての住民が工場での雇用機会を得られるわけでも、CSRプログラムから直接的な恩恵を受けるわけでもない。地域コミュニティの企業支援への依存度が高まる一方で、他のグループ、特に小規模漁業者らが被る環境影響による潜在的な経済的損失も生じている。
さらに懸念されるのは、WALHIアチェが作成した「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」が明らかにしている通り、GAIA事業がTambon Tunong、Tambon Baroh、 Paloh Gadeng、 Blang Neleung Mameh、Keude Krueng Geukueh村など、北アチェ県デワンタラ郡にある PIM社のプラント敷地周辺に暮らすコミュニティへの透明性や意味ある参加を欠いたまま実施されてきた点である。今日に至るまで、これらの村の住民は、アンモニア漏洩やその他の環境影響のリスクに最も脆弱なコミュニティであるにもかかわらず、GAIA開発計画に関する公式の説明を一度も受けていない。北アチェ県地方政府も同様に公式の情報を得ておらず、事業計画をメディア報道を通じて知ったに過ぎない。WALHIアチェが北アチェ県地方開発計画庁(BAPPEDA)に実施した聞き取り調査では、担当者はPIM社の施設におけるグリーンアンモニア開発計画について十分な情報を得ていないと述べた。これは、地域社会に直接的な影響を及ぼすあらゆる開発事業の基本をなすべき「情報への権利」と「意味ある参加」の原則に明らかに違反している。
法的観点から、透明性と参加を確保していないGAIA事業の実施は、複数の規定に違反している。環境管理法(2009年法律32号)は、すべての人が良好かつ健全な環境を享受する権利と環境管理への参加権を有することを明記している(第65条)。同法はまた、環境に影響を及ぼすあらゆる開発プロセスにおける情報公開 と市民参加を義務付けている。さらに、情報公開法(2008年法律14号)は、市民が生活に直接影響する開発事業に関する情報を含め、情報を得る権利を保障している。加えて、意味ある参加の原則は、環境と開発に関するリオ宣言(1992年)や、公正かつ包摂的なエネルギー移行の重要性を強調するパリ協定(2015年)へのインドネシアのコミットメントにおいても認識されている。これらの権利の侵害は、GAIA事業が技術的・生態学的に問題があるだけでなく、法的・倫理的にも瑕疵があることを示している。
以上の事実と法的根拠を踏まえ、私たちはこのGAIA事業の即時中止をインドネシア肥料公社、伊藤忠商事、東洋エンジニアリングに要請する。これら企業に対し、あらゆる事業において住民の情報と参加の権利を尊重し、地域コミュニティの安全を最優先に保障するよう強く求める。真のエネルギー移行は、生態学的正義、透明性、そして地域コミュニティの積極的な参加という原則を通じてのみ実現可能であると確信している。これらの原則が欠如しているGAIA事業は、不公平を永続させ、環境と地域コミュニティの生活に対する脅威を増大させる誤った対策に他ならない。
署名団体:
インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)本部
WALHIアチェ
連絡先:
インドネシア環境フォーラム(WALHI)/FoEインドネシア本部
住所:Jl. Tegal Parang Utara No 14, Jakarta Selatan 12790. INDONESIA
電子メール:informasi@walhi.or.id
添付資料:
“Laporan Assessment Dampak Produksi PT. PIM Di Aceh Utara Dan Kota Lhokseumawe “ (「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」(WALHIアチェ/2025年11月))(インドネシア語)
国際協力銀行(JBIC)への抗議文(全文)
>PDFはこちら
(原文はインドネシア語。以下は、WALHIによる英訳のFoE Japanによる和訳)
2025年12月19日
国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
WALHIから国際協力銀行(JBIC)への抗議文:
誤った気候変動対策を促進し、化石燃料への依存を強め、地域コミュニティへの不正義を永続させるアチェ州グリーンアンモニア製造(GAIA)事業への融資を行わないで
インドネシア環境フォーラム(WALHI)は、JBICがアチェ州グリーンアンモニア製造事業(GAIA)への融資を検討していることについて、正式な抗議をここに提出する。本事業はインドネシア肥料公社(Pupuk Indonesia)が同社傘下のPT Pupuk Iskandar Muda(PIM社)を通じて、伊藤忠商事株式会社および東洋エンジニアリング株式会社と提携して実施するものである。JBICが自身の公式な環境ガイドラインである『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(JBICガイドライン)に基づき、本事業をカテゴリC(重大な環境社会影響を及ぼさないとみなされる事業)に分類した決定について、私たちは現地の実情と一致しておらず、事業現場周辺の地域コミュニティおよび環境に深刻な影響を及ぼす可能性があると判断している。
また、2025年9月11日のWALHIとの会合において、JBICが融資の検討対象は電解装置の設置による水素製造の過程のみに限定され、アンモニア製造の過程は含まれないと主張したことについても、私たちは特筆しておきたい。JBICの融資を受けて生産されることになる水素は、依然としてPIM社のアモニア生産過程で使用されるためだ。これは重大な説明責任の齟齬を生じさせる。JBICが自らの責任を行政的なものに限定しようとしている一方で、その水素の使用がもたらす社会・環境への影響は、アモニア生産の全工程に組み込まれた状態であり続けるからだ。つまり、JBICは化石燃料エネルギーへの依存を長引かせるリスクがあり、地域コミュニティの安全を脅かす事業に引き続き貢献するということである。
PIM社の実績を見ると、2010年から2025年の間にアンモニア漏洩事故が9件発生し、約2,000人の住民が呼吸困難、吐き気、嘔吐、失神などの深刻な健康被害を受け、一部は集中治療を必要とする事態となった。この事実は、地域コミュニティの安全に対するリスクが極めて現実のものとしてあり、無視できないことを示している。WALHIアチェが作成した「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」によれば、PIM社の既存の早期警報システムは効果的に機能しておらず、使用されているサイレンは日常的な工場のサイレンと混同されやすい他、避難措置は一般市民に適切に周知されておらず、緊急対応は住民自身の自主性に大きく依存していることが判明した。子ども、高齢者、妊婦などの脆弱な立場に置かれた人々は、十分な保護がなければより深刻な健康リスクに直面する。
沿岸の地域コミュニティへ与える経済的影響もまた非常に現実のものとなっている。沿岸地域が工業地帯へ転換されたことで小規模漁業者は海岸線へのアクセスを失い、伝統的な地引き網漁は消え去った。さらに企業の液体廃棄物による海洋汚染が疑われ、漁獲量は減少している。集魚装置(ルンポン)を失ったことで(より遠くへ)漁に出るコストが増大する一方、企業が提供する補償は被った損失に見合わない。同社の存在がもたらす経済成長は不均等なもので、すべての住民が工場での雇用機会を得られるわけでも、CSR(企業の社会的責任)プログラムから直接的な恩恵を受けるわけでもない。地域コミュニティの企業支援への依存度が高まる一方で、他のグループ、特に小規模漁業者らが被る環境影響による潜在的な経済的損失も生じている。
この状況は、当該地域における化学産業のリスク管理の不備を示すとともに、JBICのカテゴリ分類の根拠となっている「影響は最小限」という主張に事実上の根拠がないことを示している。GAIA事業が既設のアンモニアプラントを引き続き利用することを考慮するならば、JBICガイドラインが要件としている潜在的影響を最小化・軽減するための措置の実施が必要である。これらの措置には、早期警報システムの整備、避難計画の策定、効果的な苦情処理メカニズムの設置が含まれる。こうした取り組みはすべて、影響を受ける地域コミュニティとの意味ある協議を通じて実施され、特に社会的弱者に配慮すべきである。しかし現在まで、GAIA事業ではこれらの措置が実施されていない。したがって、GAIA事業はJBICガイドラインを遵守していないことになる。
さらに、GAIA事業がグリーン水素を生産するという主張は実証できない。使用される電力はアチェ州のインドネシア国営電力会社(PLN)の電力網から供給されるが、この電力網は現在も98%を化石燃料に依存しており、生産される水素が真にグリーンとは言えないことを意味する。同主張の根拠とされる再生可能エネルギー証書(REC)は、実際に再生可能エネルギーが供給されることを保証するものではなく、むしろ本事業がインドネシアの化石燃料エネルギー依存を長期化させる現実を覆い隠す単なる行政上の手段に過ぎない。さらに、既設のアンモニアプラントは、アンモニアの製造工程において化石燃料ガス由来のグレー水素を引き続き使用するため、依然として化石燃料エネルギーに依存したハイブリッドアンモニアしか生産できない。こうした状況下で、GAIA事業は国際的な認証の取得を通じて「グリーン」事業であると謳おうとしているが、上記の事実が示す通り、そのような「グリーン」という主張は見せかけに過ぎないことを理解しなければならない。つまり、GAIA事業は温室効果ガス排出量の規模を過小評価するリスクがある。本来であれば、実際の排出量と気候変動への影響を考慮すべきであり、JBICもガイドラインに基づきこれを確認しなければならない。
さらに、WALHIアチェが作成した「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」はまた、GAIA事業が、Tambon Tunong、Tambon Baroh、 Paloh Gadeng、Blang Neleung Mameh、Keude Krueng Geukueh村など、北アチェ県デワンタラ郡にあるPIM社のプラント敷地に最も近い場所で生活しているコミュニティへの透明性や意味ある参加を欠いたまま実施されてきたことを示している。今日に至るまで、これらの村の住民は、アンモニア漏洩やその他の環境影響のリスクに最も脆弱なコミュニティであるにもかかわらず、GAIA開発計画に関する公式の説明を一度も受けていない。北アチェ県地方政府も同様に公式な情報を受け取っておらず、事業計画をメディア報道を通じて知ったに過ぎない。WALHIアチェが北アチェ県地方開発計画庁(BAPPEDA)に実施した聞き取り調査では、担当者はPIM社の施設におけるグリーンアンモニア開発計画について十分な情報を得ていないと述べた。これは、地域社会に直接的な影響を及ぼすあらゆる開発事業の基本をなすべき「意味ある参加」と「情報への権利」の原則に明らかに違反しており、GAIA事業がJBICガイドラインで要件とされている「社会的合意」を確保できていないことを示している。
以上の事実を踏まえ、JBICがGAIA事業への融資を継続して検討する判断を下すのであれば、それはJBICが生態学的正義、地域社会の安全、真の持続可能性へのコミットメントを欠いていることを示すものであると私たちは確信している。この事業は真のエネルギー移行ではなく、むしろ化石燃料への依存を長期化させ、地域社会の安全への脅威を増大させ、また人々の参加と透明性に関する権利を軽視するリスクを伴う、グリーンウォッシュの一形態かつ誤った対策である。私たちはJBICに対し、JBIC自身で制定したガイドラインを遵守できていないGAIA事業への融資検討を直ちに中止するよう強く要請する。影響を受ける地域コミュニティや市民社会組織が意思決定プロセスに意味ある形での参加を認められていない事実が、これ(ガイドライン不遵守)を如実に物語っている。
JBICの配慮と迅速な対応を期待する。
署名団体:
インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)本部
WALHIアチェ
連絡先:
インドネシア環境フォーラム(WALHI)/FoEインドネシア本部
住所:Jl. Tegal Parang Utara No 14, Jakarta Selatan 12790. INDONESIA
電子メール:informasi@walhi.or.id
添付資料:
“Laporan Assessment Dampak Produksi PT. PIM Di Aceh Utara Dan Kota Lhokseumawe “ (「北アチェ県及びロークスマウェ市におけるPIM社の生産活動の影響に関する評価報告書」(WALHIアチェ/2025年11月))(インドネシア語)