リリース:環境NGOら国際社会を軽視する日本の非鉄大手を批判

2025年7月28日、東京に事務所を置くNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)並びに認定NPO法人FoE Japanらは日本の非鉄大手企業である大平洋金属株式会社(以下、PAMCO社)に対して7月9日に送付した「『深海底』由来の鉱物資源取引に関する質問状」への回答を受けて、同社の国際社会を軽視し、国際法に違反しかねない姿勢を批判した。
              質問状:『深海底』由来の鉱物資源取引に関する質問状
              回答:『深海底』由来の鉱物資源取引に関する質問状(回答)

日本が批准している国連海洋法条約(UNCLOS)では公海における深海鉱物資源開発を規制し、資源開発許可を管理するのはジャマイカに本部を置く国際海底機構(ISA)であると定めている。それ以外に国家管轄権外区域における深海鉱物資源許認可を行う国際的に認められている機関は存在しない。しかし、2025年4月24日付で米トランプ政権は米国の「海洋重要鉱物資源の解放」に関する大統領令を発行し、米国民あるいは法人に対して米国の管轄外区域における深海鉱物資源開発を許認可する意向を表明した。これは明確な国際条約によって定められた独占的許認可機関が存在するにも関わらず、自国の領海外の資源開発に米国政府が許認可を一方的に発行するという国際法を軽視した行為に他ならない。米国はUNCLOSに加盟していないものの、UNCLOSは国際慣習法として位置づけられるべきものであり、非加盟国に対しても拘束力を持つとされている。

さらに、カナダに本社を置く民間鉱物資源開発企業であるThe Metals Company(以下、TMC社)は、その米国子会社を通じて同大統領令に基づいてクラリオン・クリッパートン断裂帯(CCZ)での商業鉱物資源開発の許可申請を行ったと発表した。同社は現在もISAを通じた正規の手続きによってCCZでの探査事業を引き受けている事業者であるため、ISAの役割を知らないはずもない。すなわち、短期的利益を実現するために意図的に国際法を軽視し、国際秩序を揺るがす行為である。

PAMCO社はかねてよりTMC社と深海底由来の鉱物ノジュールの精錬技術開発のパートナーシップを結んでいる企業である。TMC社は度重なる機会において深海底由来の鉱物を有効活用できる根拠としてPAMCO社とのパートナーシップを強調しており、その事実を根拠に運転資金の投資誘導を行ってきた。PAMCO社は直接深海での鉱物採掘行為に関わることがなくとも、TMC社に必要不可欠な技術を提供するパートナーシップを維持することでそれを幇助する関係にある。

この度、環境NGOによる質問状に対して、PAMCO社はTMC社の行為が国際法に違反しているとは認識していないとの回答を示したが、国際社会の認識は大きく異なる。

ISA事務局の立場からもレティシア・カルバーロ事務総長は以下のように述べ、ISAを軽視する米国とTMC社を非難している。

「いかなる国も深海底やそこに存在する鉱物資源に対して、所有権を主張すること・収得すること・主権の行使をすることはできない。よっていかなる国家、自然人や法人に対しても資源の占有と譲渡は禁止されている。」

事務総長だけでなくISAの重要事項を協議するISA理事会(Council)も2025年7月の会合にてISBA/30/C/19号決議を承認した。同決議で理事会は、TMC社をこの間の行動に基づいて調査対象とすることを決定した。この背景には、ISA管轄のもとで資源探査を行っていたTMC社が翻って米国に許認可を申請する行為は、UNCLOSの定める多国間主義による法的枠組みに違反する行為に当たる可能性があることを示している。

また、ISA理事会は当初目標とされていた今期中の国際規制枠組みの合意を見送っている。その一方で38カ国が今や深海鉱物資源開発への一時停止に賛同を表明するに至っている。これはまだ国家管轄外での深海鉱物資源開発を進められる状況にないということについて、国際社会が合意していることの証左である。各国の管轄内における資源開発に関しても国際枠組みに準拠することが求められていることに照らし合わせれば、国際社会は領海内での深海採掘に関しても容認できない立場にあるとさえ言えるだろう。

TMC社やその支持者らは深海鉱物資源の商業開発が目前に迫っているかのように主張するが、国際交渉の状況を見れば実態は程遠い。この認識のずれの下では、PAMCO社の国際的評判の低下は避けられない。しかし、問題はPAMCO社にとどまらない。

日本の「深海底鉱業暫定措置法」(昭和五七年)第45条では、「深海底」から経済産業大臣の許可を得ることなく入手した団塊について、それと知った上で故意に運搬し、保管し、有償もしくは無償で取得し、又は処分の媒介もしくはあっせんした者は、五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処すと定められている。

TMC社がISAによる開発許可を得ることなく深海由来の鉱物を入手し、PAMCO社がその精錬に関与したにもかかわらず、罰せられることがなければ、これは日本政府もTMC社の行為に対して暗黙の同意を寄せていることを示すだろう。その場合、日本全体が国際的な制裁の対象になる可能性も考えられる。

貿易に関する緊張関係のグローバルな高まりの中、鉱物サプライチェーンに関する悪評は、それ自体が日本の電気電子や自動車などの基幹産業に重大な影響を与えかねないだろう。

アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の田中滋は「現在TMC社が検討している深海鉱物資源開発はかつてない規模で海洋環境破壊を起こすと考えられています。これはグローバルな規模で直接漁業被害につながり、海を信仰の対象とする先住民族の権利を害する行為です。多国間主義を瓦解させる行為は環境をリスクにさらすことにもなります」と非難する。

国際環境NGO FoE Japanの開発と人権チーム担当の松本光は「PAMCO社が国際社会の懸念に真摯に向き合わない姿勢は容認できません。TMC社が強行しようとしている商業採掘は、広範囲な生態系に影響を及ぼし、生物多様性にとっても大きな損失となりえます。PAMCO社には、この地球規模の環境リスクに対する企業の責任を深く認識し行動することを強く求めます」とコメントした。

<本リリースに関するお問い合わせ>
特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター(PARC)/担当:田中
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11
03-5209-3455/office@parc-jp.org

 

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