会計検査院に対し国際協力銀行に対する適切な会計検査を要請 国際協力銀行融資事業に汚職

 本日、国内外の環境NGOは、会経検査院に対し、株式会社国際協力銀行(以下、JBIC)の融資事業や融資先企業で汚職が生じている案件について情報提供を行い、適切な会計検査を行うよう求めました。

 会計検査院の検査対象であるJBICは、日本の政策金融機関として、海外における資源開発事業や日本の産業が国際競争力を維持および向上するための事業に投融資を行っています。

 一方、JBICが投融資を行う事業には、事業が実施される地域における人権侵害や環境破壊が報告されるものが少なくなく、さらには汚職が関係するものも存在します。

 JBICは贈賄防止への取り組みの中で、「わが国の輸出企業やJBICが貸付等を行う政府・企業等を含む国際商取引を行う当事者は、贈賄に係る自国の法令への理解及び遵守が求められる」としています。しかし、2024年3月28日にJBICが貸付契約を締結したシンガポール共和国法人Trafigura Pte Ltdは、ブラジルにおける贈賄で米国海外腐敗行為防止法違反が確定しています。

 また、JBICは2017年4月18日、インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電所拡張事業に対し、約731百万米ドル(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結しましたが、この案件についても、2019年から贈収賄疑惑が指摘されてきました。2023年3月には、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が同拡張事業に係るケースを含む一連の収賄・マネーロンダリング事件に関して、元チレボン県知事を起訴。2023年8月に同拡張事業に係る収賄のケースを含め、元チレボン県知事に有罪判決が言い渡されています。貸付等の実行後に汚職が発覚した場合、JBICは 捜査当局への情報提供、強制期限前弁済などの適切な措置を取るとしていますが、このような処置がなされたのか明らかになっていません。

 JBICによる融資事業に関連して汚職が複数報告されている背景を鑑み、また行財政の透明性、説明責任の向上や事業運営の改善のため、会計検査院はJBICに対し貸付実行の正当性について検査を行うべきです。

 詳しくは会計検査院に提出した資料(下記)をご覧ください。

国際協力銀行(JBIC)が融資する事業に関する汚職についての情報提供及び JBICに対する適切な会計検査の要請

2024年6月27日
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Oil Change International

 会計検査院の検査対象である株式会社国際協力銀行(以下、JBIC)は、日本の政策金融機関として、海外における資源開発事業や日本の産業が国際競争力を維持および向上するための事業に投融資を行っている。

 一方、JBICが投融資を行う事業には、事業が実施される地域における人権侵害や環境破壊が報告されるものが少なくなく、さらには汚職が関係するものも存在する。

 JBICは贈賄防止への取り組みの中で、「わが国の輸出企業やJBICが貸付等を行う政府・企業等を含む国際商取引を行う当事者は、贈賄に係る自国の法令への理解及び遵守が求められる」としている[1]。JBICによる融資事業に関連して汚職が複数報告されている背景を鑑み、また行財政の透明性、説明責任の向上や事業運営の改善のため、会計検査院はJBICに対し貸付実行の正当性について検査を行うべきである。特に、以下2案件(シンガポール共和国法人Trafigura Pte Ltdへの貸付契約、チレボン石炭火力発電所の拡張事業に対するプロジェクトファイナンス)について情報提供を行う。

JBICによるシンガポール共和国法人Trafigura Pte Ltdへの貸付契約

 2024年3月28日、JBICは、シンガポール共和国法人Trafigura Pte Ltd(以下、トラフィギュラ)との間で、日本へのLNG輸入支援のため、融資金額390百万米ドル限度(JBIC分)の貸付契約を締結した[2]。同日、Trafigura Beheer B.V. はブラジルにおける贈賄で米国海外腐敗行為防止法違反が確定している[3]

 トラフィギュラは、米国およびスイスにおいて犯罪捜査の対象となっている。2023年12月、複数のメディアが、米国およびスイスの当局が、トラフィギュラがアンゴラの公務員に対し長年賄賂を渡していたかどで告発したことを報道。トラフィギュラは2009年4月から2011年10月までの間に、アンゴラの石油産業におけるトラフィギュラに優位な契約の見返りに500万米ドルを超える支払いをアンゴラの政府関係者に対し行っていた。この贈賄によりトラフィギュラが得た利益は1億5,000万米ドルだと推計されている[4]。加えて米国司法省はブラジルにおけるトラフィギュラの贈賄捜査も行っており、2024年3月28日に米国海外腐敗行為防止法違反が認められ[5]、トラフィギュラは米国政府に対し1億2,700万米ドルの罰金を支払うことに合意した[6]

 トラフィギュラは米国輸出入銀行(US EXIM)からの支援も受けているが、同社が贈賄を含む事件の捜査の対象となっていることを理由に、2024年1月に米国のNGOらが支援の即時停止を求める書簡をUS EXIMに提出している[7]。US EXIMの汚職防止方針では、上記のような汚職・賄賂を禁止している。

 さらに、2024年5月10日、US EXIMの監察総監室(OIG)がレポートを公表し、トラフィギュラがスイス当局と米国当局により捜査を受けていることを認識したOIGが2022年にUS EXIMに対して情報提供をしていたにもかかわらず、US EXIMがOIGが提供した情報に基づいて行動しなかったことを明確に指摘している[8]

 JBICも贈賄防止への取り組みの中で、「わが国の輸出企業やJBICが貸付等を行う政府・企業等を含む国際商取引を行う当事者は、贈賄に係る自国の法令への理解及び遵守が求められる」としている。また、2019年3月にOECD理事会にて採択された「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)に基づき、誓約・確認の取得をするとしている。

 JBICによる貸付契約締結は2024年3月28日だが、前述の通り2023年12月の時点でトラフィギュラの贈収賄に関する報道があり、捜査が行われていることは公然であった。またOIGが2022年の時点でUS EXIMに情報提供を行うことができた状況を踏まえれば、JBICトラフィギュラの贈収賄リスクについて事前に情報を知ることができたはずである。また、米国で法律違反が確定した後も、当該企業との貸付契約を継続していることは不適切である。

 2024年5月、上記の背景もふまえ、JBICに対し国内の複数の環境団体から、JBICによる贈賄事件への認識、また本融資がOECD贈賄勧告違反ではないかどうか、また融資に踏み切った理由について問い合わせた[9]が、個別の取引の詳細については回答を差し控えるとの回答であった。

 なお、6月17日、米商品先物取引委員会(CFTC)は、Trafigura Trading LLCが内部告発を妨害したとして、5500万ドルの罰金の支払いも命じている[10]

2022年11月US EXIMの監察総監室(OIG)がUS EXIMに対して汚職に関する情報提供
2023年12月トラフィギュラの汚職疑惑について複数メディアが報道
2024年3月28日JBICが貸付契約締結
2024年3月28日トラフィギュラ、米国海外腐敗行為防止法違反が確定
2024年5月10日US EXIMのOIGがレポートを公表
2024年5月24日国内NGOによるJBICへの書簡提出
2024年6月17日米商品先物取引委員会(CFTC)がトラフィギュラに対し罰金命令
参考:時系列

インドネシア・チレボン石炭火力発電所の拡張事業への融資

 JBICは2017年4月18日、インドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電所拡張事業に対し、約731百万米ドル(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結した[11]。同案件については、2019年から贈収賄疑惑が指摘されてきた。2023年3月には、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が同拡張事業に係るケースを含む一連の収賄・マネーロンダリング事件に関して、元チレボン県知事を起訴。2023年8月に同拡張事業に係る収賄のケースを含め、元チレボン県知事に有罪判決が言い渡された。2023年3月から行われてきた30回以上に及ぶ公判では、巨額の収賄やマネーロンダリング(総額640億ルピア)に関して、起訴状や237人に上る証人らの証言によって、詳細な情報が明らかにされた。公判における証人の証言及び被告である元チレボン県知事の陳述では、同拡張事業の事業者であり、JBICからの直接の借入人であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR。丸紅が35%、JERAが10%出資)の元上級幹部が贈賄行為に関与していたことが言及された。なお、KPK 及び被告である元チレボン県知事は第一審判決の翌週にそれぞれ控訴したが、第二審判決(2023 年 10 月 17 日)でも有罪が言い渡された。現在、KPK 及び被告がそれぞれ上告したため、最高裁で審理中となっている(2024 年 6 月 18 日現在)。

 こうした背景を受け、インドネシア、および日本の環境・市民団体からJBICに対し、「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)に基づき、同拡張事業に対する貸付実行の停止措置を速やかにとること、またこれまでに実行した貸付については強制期限前弁済の措置をとることを求める書簡を提出している[12]。また、同拡張事業に係る贈収賄事件に関しては財務省NGO定期協議の場でも議論が行われてきた。2023年3月のKPKによる元チレボン県知事の起訴後、NGOからの「貸出停止、融資未実行残高の取り消し、強制期限前弁済を含む適切な措置をとるべき」との考えに対し、JBICは「守秘義務の関係があるため、融資契約の具体的な内容については答えられない」と回答[13]。さらに2023年8月に元チレボン県知事が有罪判決を受けた後も、JBICは「守秘義務の関係があるため、融資契約の具体的な内容については答えられない。」と回答[14]しており、贈収賄事件に係る起訴や有罪判決の後も同拡張事業に対する貸付実行をJBICが継続しているかは不明である。

 また、同拡張事業については汚職事件が明るみになる前から、環境許認可を巡り行政訴訟が行われていた。同拡張事業の開始前から、現地ではすでに稼働中の発電所1号機(660 MW。丸紅出資)により、小規模な漁業など住民の生計手段に甚大な被害が生じていたため、同拡張事業の環境社会影響についても懸念の声をあげてきた住民グループRAPEL(ラペル。環境保護民衆)は2016年12月6日、同拡張事業について「不当に環境許認可が発行された」と西ジャワ州政府を提訴。複数の公判開催の後、2017年4月19日のバンドン地裁での判決で、住民側の訴えが認められ、「環境許認可の無効」が言い渡された。その後、被告である西ジャワ州政府はすぐに控訴したが、8月に控訴を取り下げ住民の勝訴が確定した。しかし、JBICは、2017年4月18日、地裁の判決が出される一日前に融資契約を締結していた。

 環境影響や、訴訟リスクについて、地元の団体や住民、国内環境団体から、幾度にもわたりJBICに情報提供を行ってきたが、両案件とも、訴訟の判決の前日に貸付契約の締結に踏み切っている。JBICのデューディリジェンスのあり方について、またこれら事業への貸付契約の締結が適切であったかについて調査を行うべきである。


[1] JBIC「贈賄防止への取り組み」https://www.jbic.go.jp/ja/support-menu/export/prevention.html
[2] JBIC「シンガポール共和国法人Trafigura Pte Ltd に対する融資 日本企業によるLNGの安定確保に貢献」2024年3月29日 https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2023/press_00218.html
[3] US Department of Justice “Swiss Commodities Trading Company Pleads Guilty to Foreign Bribery Scheme” March 28 2024 https://www.justice.gov/opa/pr/swiss-commodities-trading-company-pleads-guilty-foreign-bribery-scheme
[4] Bloomberg “Trader Trafigura Targeted by US and Swiss Over Corruption” Dec 6 2023, https://www.swissinfo.ch/eng/trader-trafigura-targeted-by-us-and-swiss-over-corruption/49035944 https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-12-06/trafigura-charged-in-switzerland-over-alleged-angola-bribery
[5] See footnote 5
[6] Reuters, “Trafigura pleads guilty, agrees to pay about $127 million to settle US probe” March 28 2024 https://www.reuters.com/markets/commodities/trafigura-pay-127-million-over-us-doj-probe-2024-03-28/
[7] Bloomberg, “NGOs Say US Should Stop Backing Trafigura After Bribery Charges” Jan 24 2024 https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-01-23/trafigura-bribery-charge-ngos-say-us-should-withdraw-backing
[8] OIG, “Management Alert: Lack of Agency Action Related to an OIG Enhanced Due Diligence Referral” May 10 2024 https://eximoig.oversight.gov/reports/other/management-alert-lack-agency-action-related-oig-enhanced-due-diligence-referral
[9] FoEJapan等「JBICによるTrafiguraへの融資と贈賄防止違反の可能性について https://foejapan.org/issue/20240524/17759/ 2024年5月24日
[10] The Commodity Futures Trading Commission,  Number 8921-24 “CFTC Orders Trafigura to Pay $55 Million for Fraud, Manipulation and Impeding Communications with the CFTC First CFTC Action Against an Entity for Impeding Whistleblower Communications” https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/8921-24, June 17, 2024
[11] JBIC https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2017/1114-58532.html
[12] https://foejapan.org/issue/20230818/13915/
[13] 第80回財務省・NGO定期協議(2023年4月26日開催)議事録 P.27以降を参照 https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2023/06/mof80.pdf
[14] 第81回財務省・NGO定期協議(2023年11月21日開催)議事録 P.26以降を参照 https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2024/01/mof81.pdf

 

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