見解:原発は気候危機対策を妨げる~COP28成果文書をうけて

本日(12月13日)のCOP28成果文書の採択を受けて、FoE Japanは以下の見解を発表しました。

オンライントーク「COP28と原発」(12月25日)

2023年12月13日

国際環境NGO FoE Japan

見解:原発は気候危機対策を妨げる~COP28成果文書をうけて

本日、ドバイでの第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)にて、グローバルストックテイクに関する成果文書が採択された。「化石燃料から脱却する」「2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍に拡大する」などの文言が盛り込まれた一方、「ゼロ排出・低排出技術」の一つとして原発も追加された[1]

原発は、その莫大なリスクとコスト、計画から稼働までの期間の長さなどを考えれば、気候危機対策として有効でも現実的でもない。世界の原発の発電量は横ばいもしくは微減であり、世界の発電量に占める原発のシェアは下落し続けている[2]。原発の多くが国有もしくは補助金などの公的資金により推進されているのにもかかわらず、原発の発電コストは上がり続け[3]、価格競争力はまったくなくなってきている。さらに原発の建設期間も長期化する傾向にある。

ウラン採掘から燃料加工、稼働、廃炉、核廃棄物の処分に至るまで、環境汚染や人権侵害がつきまとうことを考えれば、原発は、グリーンでもクリーンでもなく「気候正義」からはほど遠い。

COP28の会期中、アメリカや日本を含む一部の国々[4]が、「2050年までに世界の原発の発電容量を3倍にする」と宣言した[5]。しかし、アメリカや日本で原発の発電容量を3倍にするのは現実とはほど遠い。この宣言は、ロシア・インド・中国や途上国なども含め、宣言に加わっていない国々の原発建設をあてにしたものであると思われる。宣言の中には、「世界銀行、地域開発銀行(アジア開発銀行など)などの株主に対して、融資政策に原発を含め、積極的に支援することを奨励する」という文言も含まれている。公的資金により、経済的・社会的基盤がぜい弱な途上国に原発を押し付け、原発ビジネスにより原子力産業のみが潤うという構図が見て取れる。気候危機に便乗して、衰退する原子力産業を公的資金で救済する、そのリスクやコストを、発展途上国を含め、社会全体に負わせるという思惑はまったく許容できない。

原発を気候危機対策として位置づけることは、本来の対策である化石燃料削減や省エネ・再エネの促進から目を背けさせるだけでなく、固定的で初期コストが高い原発の導入は再エネや省エネの促進を妨げる。

気候危機を回避するための、都合のよい魔法の技術は存在しない。

化石燃料の段階的廃止、先進国の抜本的なエネルギー需要削減、および持続可能な再エネの促進こそが真の気候危機対策となる。原発をはじめとした「めくらまし」に時間と資金を費やす余裕はない。


[1] パラ28(e) Accelerating zero- and low-emission technologies, including, inter alia, renewables, nuclear, abatement and removal technologies such as carbon capture and utilization and storage, particularly in hard-to-abate sectors, and low-carbon hydrogen production;

[2] World Nuclear Industry Status Report 2023によれば、原発の発電量は2006年2,660TWhであったのが、2022年には2,546TWh。世界の総発電量に占める原子力の割合は1996年17.5%であったが2022年には9.2%に減少している。発電容量に関しては、1989年に311GWであったのが、2022年368GW、2023年7月364GWと横ばい状態である。

[3] Lazard, “Levelized Cost of Energy Version 15.0" 2021によれば、原発の発電単価(LCOE)は2009年123ドル/MWhであったが、2021年には167ドル/MWhに上昇している。2021年の太陽光は36ドル/MWh、風力は38ドル/MWhであり、その4倍以上となっている。

[4] アメリカ、ブルガリア、カナダ、チェコ、フィンランド、フランス、ガーナ、ハンガリー、日本、韓国、モルドバ、モンゴル、モロッコ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、イギリス、アルメニア

[5] At COP28, Countries Launch Declaration to Triple Nuclear Energy Capacity by 2050, Recognizing the Key Role of Nuclear Energy in Reaching Net Zero | Department of Energy

日時:2023年12月25日(月)14:00-15:30
オンライン(zoomミーティング)

・深草亜悠美/国際環境 NGO FoE Japan気候変動・エネルギーキャンペーナー
・満田夏花/国際環境 NGO FoE Japan 事務局長
質疑およびディスカッション

 

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