【見解】バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)」ではない

バイオマス

本日、FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワークの4つの環境団体が、「バイオマス発電は『カーボン・ニュートラル(炭素中立)』ではない」とする見解を発表しました。

「見解」では、バイオマス発電は、燃料の生産にあたり、森林減少・劣化などを伴う場合があること、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルの各段階で温室効果ガスを排出することから、実際には、「カーボン・ニュートラル」とは言えないこと、とりわけ、海外からの燃料輸入を前提とした大規模バイオマス発電には注意が必要であることを指摘しています。

「見解」の発出に先立ち、FoE Jaapnでは、この問題をわかりやすく解説した動画を作成しました。あわせてご覧ください。


2020年11月11日

バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)」ではない

国際環境NGO FoE Japan
地球・人間環境フォーラム
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
バイオマス産業社会ネットワーク

1.概要

「カーボン・ニュートラル」はライフサイクルの中で、二酸化炭素(CO2)の排出と吸収がプラスマイナスゼロであることと定義されている。バイオマス発電は、燃料となる植物の燃焼段階でのCO2排出と、植物の成長過程における光合成によるCO2の吸収量が相殺されるとされ、「カーボン・ニュートラル」であると説明されることが多い。しかし、これは「燃焼」という一つの段階のみをとりあげ、燃料を生産した植生が元通り再生されるという前提にたっている。バイオマス発電は、燃料の栽培、加工、輸送といったライフサイクルにわたるCO2排出を考えれば、実際には、「カーボン・ニュートラル」とは言えない。また、燃料の生産にあたり、森林減少など土地利用変化を伴う場合がある。その場合、森林や土壌に貯蔵されていた大量の炭素が、CO2の形で大気中に排出されることになる。つまり、バイオマス発電の促進が、地表での重要な炭素ストックである森林や土壌を破壊し、むしろCO2排出の原因となってしまうこともある。さらに、燃料生産のために伐採した森林が、もとの状態に回復したとしても、回復には数十年以上かかることが多く、それまでは森林に固定化されていた炭素が燃焼により大気中に放出されるため、大気中のCO2の増加に寄与していることになる。

2.森林減少による炭素ストックの減少

バイオマス発電の燃料の生産にあたり、森林の伐採や農地転換などの土地利用転換を伴う場合もある。皆伐したあと、もとの森林に再生しない場合、もしくは天然林を伐採して植林や農地に転換するなど、もともとの植生(土壌も含む)が貯蔵していた炭素ストックが大幅に減少する場合、これは炭素中立とは言えず、植生による炭素貯蔵が減少した分はCO2の排出とみなされる。すなわち炭素中立ではない。例えば、熱帯林を造成して開発されたアブラヤシ農園で生産されたパーム油は、その後に造成された農園による炭素吸収分を差し引いても、膨大なCO2の排出を伴うこととなる。EUが委託した研究によれば 、泥炭地および熱帯林をアブラヤシ農園に転換して生産されたパーム油のCO2排出量は、土地利用転換分だけで231g CO2-eq/MJfeedstockに達する(注1)。これは石炭燃焼によるCO2排出量の2倍以上である。天然林の皆伐により生産された木質チップやペレットについても同様である。土地利用転換を伴うバイオマス燃料の場合、化石燃料による発電よりもはるかに多くのCO2を排出することがある。

一方で、土地利用転換を伴わない伐採である場合、森林が貯蔵している炭素量がどのくらいの時間で回復するかが問われる。皆伐もしくは森林劣化を伴うような伐採である場合、森林が元の状態に回復したとしても、伐採から数十年から100年以上かかる場合もあり、その間は伐採した燃料を燃やした結果生じたCO2は大気中のCO2の増加に寄与することとなる。

3.栽培、加工、輸送など各段階でのCO2排出

上記の土地利用変化の考慮に加え、栽培、加工、輸送、燃焼といったライフサイクルの各段階でのCO2排出も当然考慮されるべきである。たとえば、日本には、カナダから多くの木質ペレットを輸入している。その輸送にかかるGHG排出量は膨大で、17.2g- CO2/MJにも及び、ライフサイクル全体でのGHG排出の7割以上を占める。(注2)パーム油の場合、栽培、加工におけるCO2排出量も大きい。栽培段階での除草剤や肥料の投入、加工段階における蒸熱、乾燥、脱色などにかかるエネルギーおよびメタン排出が大きく寄与していると考えられる。

4.認証は免罪符になるか

FITでは、燃料生産の合法性・持続可能性を認証等によって確認することを認定の要件にしている。特に森林減少に寄与するリスクが高いパーム油に関しては、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証などを認定要件としている。木質ペレットについては、企業は海外から輸入する場合は、FSC(森林管理協議会)などの認証を受けたものを輸入していることが多い。しかし、RSPOにしろ、FSCにしろ、バイオマス燃料を想定して制度設計されたものではなく、生産段階におけるGHG排出削減の努力を求めているにせよ、加工・流通段階にもおよぶ定量的なGHG排出評価をしているわけではない。双方とも、保護価値の高い生態系の開発を禁止しているが、いずれもある時点以降のみの開発を対象としているので、それ以前の森林開発は許容されてしまっている。なお、現在のFITの事業計画策定においては、林野庁「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(平成18年2月)を参照することとされているが、同ガイドラインは、第三者認証だけではなく、「関係団体による認定」「個別企業の独自の取組」も許容している。これでは、バイオマス燃料生産のために天然林が皆伐されるような状況を防ぐことはできない。

5.結論

バイオマス発電は、「カーボン・ニュートラル」ではない。バイオマス発電を再生可能エネルギーとして促進するのであれば、森林減少・劣化を伴うものは除外すべきである。またライフサイクルにわたるGHG評価を行い、十分GHG削減が見込めるもののみを対象とすべきである。

以上

注1) ECOFYS Netherlands B.V., “The land use change impact of biofuels consumed in the EU -Quantification of area and greenhouse gas impacts", 27 August 2015

注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「バイオマス燃料の安定調達・持続可能性等に係る調査」(平成31年2月)p.108

【関連資料】
「バイオマス発電をめぐる要請書 FIT法の目的である『環境負荷の低減』の実現を」
「バイオマス発電に関する共同提言」
何が問題? H.I.S.のパーム油発電Q&A
声明:FITバイオマス発電に温室効果ガス(GHG)排出評価を!――学識者ら276人

 

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