生物多様性と森林
企業の生物多様性に関する活動の評価基準案を作成
プレスリリース
2009年2月28日
企業の生物多様性に関する活動の評価基準検討委員会
2009年2月28日、FoE Japan が主催する「企業の生物多様性に関する活動の評価基準検討委員会」(委員長:上田恵介立教大学教授)は、企業の社会的責任(CSR)としての生物多様性保全への取組みを評価する基準案を作成した。
本基準案は、平成20年度環境省請負事業である「企業の生物多様性に関する活動の評価基準作成に関するフィージビリティー調査」を実施するために、平成20年10月にFoEが独自に設置した委員会が試験的に作成したものである。基準案の作成には6回の審議を経ている。
この基準案自体は環境省とは独立したものであり、ステークホルダーである市民(消費者を含む)やNGOが企業の生物多様性保全への取組みを客観的に評価するためのツールとすることが目的である。また同時に、企業が生物多様性保全への取組みを自己評価する際にもこの基準案を用いることができるため、今後多くの企業がこれを活用することが期待される。
地球上に種々さまざまな生物が存在することを表す「生物多様性」という言葉は、地球温暖化に続き一般社会だけでなく経済界でも急速に注目を集める環境問題のキーワードである。現在、人間活動の影響により、生物の多様性が地球レベルで急速に失われつつあり、その保全の必要性が叫ばれている。この生物多様性は、地球温暖化問題とも深い関係にある。それは、豊かな生物多様性を有する森林生態系は、温暖化を食い止めるための二酸化炭素の重要な吸収源であり、また、成長過程で二酸化炭素を吸収するので相殺されて排出量が結局ゼロになるとされるバイオ燃料などの生物資源への移行が生物多様性へ与える影響も懸念されているからだ。
生物多様性を保全するための条約である「生物多様性条約(CBD)」は、1992年のリオサミットで気候変動枠組条約と同時に各国政府の署名が開始されたものである。日本ではこの条約の第10回締約国会議が来年(2010年)名古屋で開かれることもあり、特に注目される分野である。ドイツのボンで行われた前回(2008年)の第9回締約国会議では日本企業9社を含む民間企業が、保全への「リーダーシップ宣言」に署名しており、次回の開催国である日本の企業の生物多様性への取組みには注目が集まるところだ。
しかし実際、個々の企業の事業活動が生物多様性にどんな影響を与えているのかは、生物多様性という概念自体、二酸化炭素などと違い定量化が非常に困難なこともあり評価が難しい。「エコ」流行の昨今、テレビや広告で「環境に優しい」と謳わない企業はないほどであるが、そのような宣伝広告で実際の生物多様性保全への貢献度を正確に記載している例はほとんどないだろう。また企業にとって生物多様性保全という概念は比較的新しく、保全をどう実行していくべきかがわからないという企業が多いが、同時に自らの活動が適切に評価されることを望んでいるところもあるようだ。実際、欧米ではすでに、環境問題の専門家が集まるNGOとのパートナーシップを組んで取組みを始めている企業が多々ある。
こうした背景のもと、FoE Japan は、平成19年度の環境省の「NGO/NPO・企業等政策提言」の公募に対し「生物多様性保全のための企業とNGO のパートナーシップ形成支援政策」を提言した。この提言が優秀提言に選ばれたことから、まずは市民が企業を適切に評価できるようにするため、平成20年度環境省請負事業として評価基準作成のフィージビリティー調査を行った。その調査の一環としてFoE Japanで独自の検討委員会(委員長:上田恵介 立教大学教授)を設置し、この委員会において評価基準案を作成した。環境省では同時期に、企業が生物多様性の保全と持続可能な利用のための活動を自主的に行う際の指針となる「生物多様性企業活動ガイドライン(仮称)」を策定中である。しかし今回FoEで作成した基準案はあくまで市民やNGOなど外部のステークホルダーが企業を評価する際に独立して使用することを目的としている。このことからも、FoE Japanではできるだけオープンなプロセスでこの基準案を作成するため、有識者やNGOの専門家を集めた検討委員会でどのような基準がふさわしいかの議論を行うとともに、議論は公開とし一般市民からの意見も聞いて来た。
「生物多様性」という概念は、生物多様性条約に基づくと「種」、「遺伝子」、「生態系」の3つのレベルでの多様性を指している。「種」の多様性は、ほ乳類の1/4が絶滅の危機に瀕するという事実とともに発表された2008年のIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト(絶滅危惧種のリスト)を見るまでもなく、激減が深刻な問題となってから久しい。「遺伝子」と「生態系」の多様性は異なる個体間や生息地間のものを指している。また生物多様性条約では遺伝資源から得られる利益の公正かつ衡平な分配という点も重要なポイントとなっている。さらに、地域の生態系保全に重要な役割を果たす先住民族や地域住民への配慮が生物多様性保全に組み込まれることが求められている。日本では、この生物多様性条約を受け、既に、生物多様性基本法、生物多様性国家戦略などが制定されている。
この検討委員会では、企業活動をマネジメント(経営努力)とパフォーマンス(企業活動の影響)に分けて評価基準案を検討した(マネジメント分科委員長:足立直樹 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、パフォーマンス分科委員長:田中章 武蔵工業大学准教授)。マネジメント評価基準では、生物多様性保全の理念が適切に環境管理方針や計画だけでなく、経営方針そのものに組み込まれているか、保全活動がPlan - Do - Check - Act のサイクルで行われているか、またそのサイクルの中で地域住民やNGOなどステークホルダーの参加を確保しその意見を反映させているか、などを基準に定めた。
パフォーマンス評価基準では、生物多様性に与える影響を直接的なものと間接的なものに分けて考え、土地の改変など直接的なものの場合には、欧米ではすでに法制度の中で取り入れられている、(負の)影響を可能な限り回避、最小化し、その後に残る影響は他の土地における生物多様性の回復・保全(正の影響)によって相殺(オフセット)することによってネットでの影響(負の影響と正の影響を合計した影響)をゼロ(ノーネットロス)または正(ネットゲイン)とすることを評価基準とした。また、地域社会への影響に是正措置を講じているか、NGOなどのステークホルダーの様々なプロセスへの参画を確保しているか、生物資源から得られる利益を公正かつ公平に分配しているか、サプライチェーンやバリューチェーンにおいても保全に責任を持っているか、などを基準に定めた。
こうした項目はある意味、市民社会から見た際の企業活動の「理想像」である。「あまり厳しい基準を作成されると取組みへのモチベーションが失われる」「目指す地点がわかってもどうやってそこまで到達すればいいのかがわからない」などの企業からの意見も予想されることから、評価基準案では5段階にレベル分けした表を作成した。企業は、このレベル表を用いることによって、現実的な目標を段階的に設定できるし、また、自らの生物多様性保全への取組みの評価にも用いることができる。