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原発輸出
英国・ウェールズへの原発輸出の問題
[last updated 2018.3.2]
イギリス・ウェールズ地方北部アングルシー島で、ホライズンニュークリアパワー(日立の子会社)が、二基のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)の建設計画であるウィルヴァニューイッド(Wylfa Newydd)原発事業を進めています。発電設備容量は合計で2,700MW。主な問題点をまとめました。
主な問題点など
*経緯や出典などを含んだファクトシートはこちら
莫大なコストと公的資金投入問題
イギリスでは1995年以降原発新設はなかったが、2008年に発表された原子力白書で、2030年までに12基新設する政策を掲げた。現時点で唯一ヒンクリーポイントC原発が建設許可を得、建設に進んでいるが、コストが非常に高く、事実上莫大な国民負担を強いる結果となっている。
ヒンクリーポイントC原発に対しては、イギリス政府による債務保証、差額調整契約制度(CfD)による電力価格の保証 がなされており、イギリス監査局(National Audit Office)の試算では、今後2030年までにCfDを通じて、約4兆5千億円(300億ポンド)の補助金が投入され、電気料金が年間最大2000円(15ポンド)ほど値上りする恐れがある 。
現在、ウィルヴァ原発に対しても、イギリス政府の債務保証スキーム適用検討に合意 。一方、ヒンクリーポイントC原発のコストが政治問題化していることからも、ヒンクリーポイントCで用いたスキーム以外を模索するとしており 、ウィルヴァ原発のファイナンシャルスキームや買取価格は今の所不明である。 日本の公的金融機関であるJBICおよびNEXIの関与(JBICによる事業への融資、およびNEXIによる民間融資部分に対する保険)が報道されている。原発のコストが莫大であることから、プロジェクトが頓挫し、貸し倒れすることがあれば、日本国民にも影響が及びかねないとも報道されている。
規制問題
イギリスはEUからの離脱(ブレグジット)と共に欧州原子力共同体(ユーラトム)からの離脱も決定しているため、今後規制体制の再構築が必要となっている。これまで、イギリス原子力規制局(ONR)が原子力の安全(Safety)と安全保障(Security)を管轄しており、保証措置(Safeguard)に関しては、ユーラトムを通じ査察等を受けてきた。現在保証措置については新たな法制度(Nuclear Safeguards Bill)を議論中であるが、ONRが保証措置についても管轄する方向性が打ち出されている。原発輸出への影響は不明だが、ユーラトムが行っていた査察などを国内機関に移すことは規制体制の改悪になるとの声もある。
電力需要減少と再エネの伸び
イギリスでは、近年一人当たりの電力消費量が減少している。老朽原発・石炭火力発電所の閉鎖で2030年までに30GW分の容量が失われると試算されている。しかし、現在の発電設備容量は97.8GW(うち原発は9GW)であり、2017年夏の電力需要ピーク時に使用したのは35GW前後であった。 風力発電の設備容量は、2016年時点で17GWと、ほぼ原発の2倍であり、基準価格も約57ポンド/MWhとコストが原発にくらべ、非常に低下している。
地元の反対とプロジェクトレベルの安全性
ウィルヴァ原発立地周辺の住民からは様々な懸念の声が聞かれている。
1. 安全性
アングルシー島と本土を結ぶ橋は2箇所にしかなく、事故時の避難に住民から懸念の声が出ている。なお原発サイトから対岸のバンゴーという町まで約30kmである。 イギリスでは、「詳細な緊急時計画区域(DEPZ)」の設定は原発サイトによって異なり、ウィルヴァ原発の場合1.6km圏内がDEPZに指定されている。1.6km圏内の、詳細な避難計画、備蓄に関する取り決め、ヨウ素剤配布計画などが決定されているが、1.6kmはIAEA勧告の3-5kmよりもかなり狭い。
2. 環境
原発立地の周辺はヘリテージ・コーストとよばれる自然保護区域の近く。海岸線のさらなる環境破壊や生物多様性への影響が懸念される。
3. 雇用・社会
アングルシー島は、ウェールズの中でも雇用状況が悪く、そのため地元議会はプロジェクトを歓迎している。ホライズン社は、ウィルヴァ原発の建設で約800の長期雇用、4000〜9000の短期雇用が創出されると説明しているが、人口7万人程度の島に新たに数千人の労働人口を受け入れることには、予想されるインフラへの負荷などから住民から懸念の声が寄せられており、また低賃金労働者が外部から流入し、地元の雇用には繋がらないとの指摘もある。
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