日本のエネルギー政策
第5次エネルギー基本計画案に意見を提出しました
第5次エネルギー基本計画案に対して、FoE Japanから以下の意見を提出しました。
<全般的意見>
1.公聴会を開催するなど、市民の意見の聴取および反映に努めるべきである
パブリック・コメントのみならず、全国で公聴会や討論会、公開ヒアリングなどを開催し、市民の意見の聴取および反映に努めるべきである。この件については、複数の市民団体が再三にわたり要請にしたのにもかかわらず、無視されつづけている。
パブリック・コメントについても、現在の基本政策分科会のメンバーではなく、新たにメンバーを選びなおして、寄せられた意見を分析し、反映する作業を行うべきである。
エネルギー政策の立案に関しては、市民参加が必要不可欠であるのにもかかわらず、本案策定のプロセスに、審議会メンバーのほとんどは、一般市民の声をほとんど考慮することなく、世論から乖離した発言を繰り返した。「ご意見箱」によせられた意見についても分析等はされなかった。
第4次エネルギー基本計画の際は、よせられたパブリック・コメントは、9割以上が脱原発を望む声であったのにもかかわらず、それらは無視されてしまった。
このようなプロセスは、我が国のエネルギー政策の非民主的性格をあらわすものである。「案」では、繰り返し「国民の信頼の回復」という言葉がでてくるが、これが是正されない限り、エネルギー政策に対して、国民の信頼を得ることはできない。
2.基本認識について
1)福島原発事故に関する認識
第5次エネルギー基本計画では、具体的な基本数値として、政府指示の避難区域からの避難者のみの数値をあげ、対応が必要な事項として「原子力損害賠償、除染・中間貯蔵施設事業、廃炉・汚染水対策や風評被害対策についての対応が必要」としているが、深刻な被害の認識としては極めて不十分であり、原発事故による大量の放射性物質の拡散と汚染、人々の被ばく、ふるさとの喪失や変貌、分断という深刻な被害が欠如している。東京電力は賠償に関するADRの仲裁案を拒否し続ける、復興庁は原発事故の避難者の置かれている状況把握をしようとしない、原発事故の責任を負うべき国・東京電力が原発事故被害に向き合っていないことに起因して多くの問題が発生している。さらに、環境省は大量の除染土を公共事業に使おうとしているなど、意図的な汚染の拡散も懸念される。
2)エネルギーをめぐる変化に関する認識
2014 年の第4次エネルギー基本計画策定後、エネルギー・環境をめぐる世界の情勢は大きく変化している。リスク・コストの高い原発の新増設は停滞し、再生可能エネルギーへの投資の急増と設備容量の急速な伸びが著しい。世界各国で脱原発・再生エネルギーに向けたエネルギー政策の見直しが相次いでいる。日本国内を見てみても、各地に市民や自治体を主体としてまちづくりと一体化するようなエネルギー政策やプロジェクトが生まれ、従来の大規模集中的で輸入資源に依存したエネルギー政策は大きく見直し、分散型のエネルギーシステムを構築すべき時に来ている。今次のエネルギー基本計画にはこうした認識が欠如している。
3)いくつかの誤認識
本計画案には、原発は「運転コストが廉価」である、原発は「安定供給に優れている」、原発は「準国産」、再生可能エネルギーは「火力に依存している」など、明らかに誤った認識が繰り返し記述され、原発維持・再エネの低評価につながり、ミスリーディングである。修正すべきである。これらについては後述する。
3.内容について
1)脱原発を明記すべきである
以下の理由で、脱原発の意思決定を早急に行うべきである。
・ 福島第一原発事故は継続し、甚大な、解決できない被害が続いている。
・ 原子力規制委員会による新規制基準では安全を担保することができない。同委員会による審査も甘く、通すことを前提とした審査となっている。本基本計画案では、「原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める」としているが、これは事実ではない上に、安全性を担保する責任の所在があいまいなままである。
・ 原発のコストは膨れ上がっている。本基本計画案では、「運転コストが廉価」とされている。、「基本政策分科会」における議論は、原子力のコストについて 2014(平成 27)年の発電コストワーキンググループの試算にもとづき、10.1 円~としている。しかしこの時の仮定は 原子力の事故賠償コストは「12.2 兆円」である。その後、事故賠償コストは「少なくとも 21.5 兆円」と修正され、今後も増える見込みである。さらに、原発の建設コストも急上昇している。こうした状況を踏まえれば、現段階において原子力コスト「10.1 円~」をもとに「コストが低廉」とすることは誤りである。さらに、再生エネルギーのコストが今後低下していくにつれ、相対的なコストはさらに上昇するだろう。経済産業省はコスト評価に関して見直しを行うべきである。
・ 原子力エネルギーが、「安定性に優れている」というのは誤りである。トラブルが多く、福島第一原発事故が示す通り、ひとたび事故が起これば、電力供給全体に大きく影響する不安定な電源である。反対運動や司法の判断による停止といったリスクもかかえている。
・ 核燃料廃棄物の処分については、まったく解決のめどがたっていない。核燃料廃棄物を、これ以上生み出すべきではない。
2)核不拡散の観点からも破たんしている核燃料サイクルを中止すべき
2016 年の「もんじゅ」廃炉決定で核燃料サイクルの破たんは決定的となった。多額の費 用と年月をかけていまだ実現しておらず、今後の実現も全く見込むことができない。また日 本は唯一の被爆国として、核軍縮・核不拡散の先頭に立って取り組まねばならない。プルト ニウムを取り出す核燃料サイクルの中止・撤退を宣言し、使用済核燃料は直接処分に転換す べきである。使用済核燃料を直接処分するとしても、その方法や処分地の選定については計り知れない困難が予想される。後の世代に残す負の遺産を際限なく増加させないために、まずは原発を止め、廃止を決めることが必要である。
3)原発輸出は撤回・中止すべき
日本国内の原発の事故処理や安全確保、放射性廃棄物の処理すら確立していない中で、 多額の公的資金を投じて海外に原発を輸出することは、倫理的にも、公的資金の使い道とし ても許されるものではない。原発輸出は、他国の原発依存体制を無責任に助長、温存するこ とにつながる。脱原発をできる限り早く決定し、世界の脱原発に向けて政策的にも技術的に もリードを取っていくことこそ、日本が担うべき役割である。
4)石炭火力推進はパリ協定に逆行、新増設・輸出は中止すべき
石炭火力発電は、高効率のものであってもCO2に加えて SOxや NOx、ばいじん、水銀 などの大気汚染物質を排出する。現実には、決して「最新・最高」でない技術の石炭火力 発電所も多数建設中・稼働中である。大気汚染・健康影響の観点からも、脱石炭火力を進めるべきである。
また、パリ協定の1.5度/2度目標の達成のためには、たとえ高効率のものであろうとも新規の石炭火力発電所の建設は許れない。日本がいまだに40 基近い石炭火力発電の新設計画を抱えているという状況は、完全にパリ協定での国際合意に逆行している。
アジア等への日本の石炭火力発電輸出についても、国際的にも大きな批判を浴びている。現地での人権侵害や環境影響も深刻であることから、即刻中止すべきである。さらに「高効率のものを輸出し国際貢献」と喧伝されているが、実施に輸出している技術は大気汚染物質対策技術を見ても、最高水準のものを備え付けていない。「高効率発電技術の輸出」を日本の気候変動対策や国際貢献として位置付けることは事実に反し、また倫理的にも許されない。
5)野心的な再生可能エネルギー目標を
本計画案には、「再生可能エネルギーは火力に依存しており、それだけで脱炭素化は実現できない」という記述が複数でてきている。しかし、これは誤りである。
再生可能エネルギーは特段火力に依存しているわけではない。もし、需給調整のために火力が必要とされるという意味であれば、原発も同様であるし、需給調整のためには複数の電源の組み合わせや系統間連結、需要側調整など、すでに行われてもいるし、短期的にも実現可能である。
エネルギー政策の根幹として、地域に根差した再生可能エネルギーを中心としたものにシフトしていくことが重要である。2050 年に向けて、脱原発・脱石炭火力とともに再生可能エネルギー100%の目標を掲げ、実現するための方策を自治体や企業、地域など様々なステークホルダーとともに検討しなければならない。2030年にはこれを見据え、少なくとも 40~50%の目標が必要であり、エネルギーミックスの22~24%の再エネ目標は上方修正すべきである。
6)木質バイオマスについて
「輸入が中心となっているバイオ燃料については、国際的な動向や次世代バイオ燃料の技術開発の動向を踏まえつつ、導入を継続する」としているが、輸入バイオ燃料の生産においては、環境破壊・人権侵害などが問題となっているケースも多く、エネルギー効率的にも疑問がある。また、放射性物質で汚染された木質バイオマスの燃焼に伴う放射能汚染の懸念も指摘されている。バイオマスに関しては、こうした点を考慮し、住民の健康や環境社会影響に配慮し、地産地消の持続可能なものを志向すべきである。