【声明】韓国電力公社のベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業への参入決定に抗議・日本の官民も事業から撤退を
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本日、韓国電力公社(KEPCO)の理事会において、KEPCOのベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業への出資が決定されました(1)。国際的に批判を受け、多くの問題が指摘されてきた事業にKEPCOが出資を決定したことに対し、強く抗議の意を示すとともに、改めて日本および韓国の官民が事業から撤退するよう求めます。
ブンアン2石炭火力発電事業はベトナム・ハティン省に600メガワットの超々臨界圧の発電設備を2基建設するものです。当初は三菱商事とともに、香港に拠点を置く電力会社CLPホールディングスが出資を行う予定でしたが、CLPは昨年12月に脱石炭方針を発表し、同事業からの撤退を決定しました。また融資を検討していた英国のスタンダード・チャータード銀行、シンガポールのOCBC銀行およびDBS銀行も銀行団から撤退しました(2)。さらにEPC(設計・調達・建設)で参画が見込まれていたGE(ゼネラル・エレクトリック)も今年9月21日に石炭火力発電事業から撤退する方針を発表しています(3)。
新規に石炭火力発電所を建設することは、パリ協定のもとで定められた世界全体の気温上昇を2℃よりはるかに下回る水準に抑え、1.5℃に抑える努力を追求するとする目標に反するものです。つまり、すでに新規の石炭火力発電所を建設する余地はなく、既存の石炭火力発電所も世界全体で2040年までに閉鎖していく必要があります。
また、KEPCOの事業参加検討に際し、政府系シンクタンク韓国開発研究院(KDI)による予備妥当性評価も実施されていますが、その結果、KEPCOが関与することになる事業期間中(2020年〜2048年)に発⽣する⽀出と収益の現在価値を⽐較した場合、事業全体では約1億5,800万ドル、うちKEPCOの損失分は約7,900万ドル、つまり全体の損失額は⽇本円にして約170億円、うち KEPCO分は約86億円になることが判明しています(4)。事業には経済的なリスクだけでなく、地元の環境やコミュニティへの重大な影響も懸念されます。事業者が作成した事業に関する環境影響評価(ESIA)報告書も、環境への影響が十分に考慮されていないなど、様々な問題点があることが専門家から指摘されています(5)。
先月、米国のエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が発表した分析(6)では、売電先のベトナム電力公社(EVN)の財政リスクが指摘されており、その要因の一つとして、石炭火力IPP(独立系電気事業者)に対する一定額の支払いを保証する電力購買契約が挙げられています。EVNは電力料金の値上げによって債務リスクを抑えることが可能かもしれませんが、それによって最終的な負担を課せられるのはベトナムの消費者です。日本と韓国は、安価でクリーンな再生可能エネルギーという選択肢を考慮せぬまま、高コストで汚染源となる石炭火力をこれからベトナムに建設すべきではありません。
気候変動、環境経済、の観点からブンアン2石炭火力発電事業が推進されるべきでないことは明らかです。事業に出資する三菱商事および検討中の中国電力に対して、改めて事業撤退を求めます。日本の国際協力銀行や日本貿易保険、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行ら民間銀行も、同事業への融資を目下検討中ですが、気候変動を加速させる事業への融資をすべきではありません。東京海上、MS&AD、SOMPOに対しても、事業への保険引受を行わないよう求めます。
以上
注釈:
1 “[단독] 한전, 베트남 화력발전 투자 '확정’…한숨 돌린 발전업계”(【独占】韓国電がベトナム火力発電に投資「OK」…発電業界安堵), 韓経, 2020年10月5日 https://www.hankyung.com/economy/article/202010054983i
2 「声明:ベトナム石炭火力事業で三菱商事が孤立、大手海外銀行や共同事業者らの相次ぐ撤退で – 日本の官民も脱石炭への舵きりを」、2019年12月20日https://www.foejapan.org/aid/jbic02/va/191220.html
3 “GE to pursue exit from new build coal power market”, GE Press Release,2020年9月21日https://www.ge.com/news/press-releases/ge-pursue-exit-new-build-coal-power-market
4 「緊急声明: 韓国政府系機関の調査でブンアン2石炭火力発電事業はマイナス収益と判明~損失が明らかな事業の推進には日本企業・銀行への訴訟リスクも~」2020年6月12日 https://www.foejapan.org/aid/jbic02/va/200612.html
5 Evaluation of the 2018 Environmental Impact Assessment (EIA) Report For the Vung Ang II Thermal Power Plant Project”, ELAW, 2020年4月 https://elaw.org/VN_VungAngII_2018EIAReview
6 “Vietnam’s new power development plan must optimize renewables and avoid fossil fuel lock-in”, IEEFA, 2020年9月22日 https://ieefa.org/ieefa-report-vietnams-new-power-development-plan-must-optimize-renewables-and-avoid-fossil-fuel-lock-in/
【ブンアン2石炭火力発電事業】
ベトナム中部ハティン省の経済区に建設が予定されている石炭火力発電所。2007年に事業会社が設立されたものの建設には至っておらず、その間にベトナムでは再生可能エネルギーが拡大した。コロナ以前の事業者の予定としては、2020年に建設開始、2024年に稼働開始。
事業規模:1,200メガワット、超々臨界圧
総投資額:22億ドル(約2,500億円)
事業者:Vung Ang 2 Thermal Power Company(VAPCO)。 VAPCOは、OneEnergy Asia Ltd.が100%出資する特別目的事業体(SPV)。
融資機関(見込み):三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、国際協力銀行(JBIC)