ベトナム・ブンアン2石炭火力発電所建設に反対ー世界127団体が日本の官民に要請書
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本日、環境NGOは、ブンアン2石炭火力発電事業の中止を求める要請書を、日本の官民に提出しました。要請書は、世界40以上の国・地域の127団体が賛同しています。提出先にはプロジェクトへの融資を検討している国際協力銀行(JBIC)や3メガバンク、出資者である三菱商事、また内閣総理大臣も含まれます。
新規石炭火力発電所の建設は気候変動を加速させるだけでなく、現地に大気汚染などの環境汚染をもたらします。すでに事業予定地では、既存の工場や発電所に起因する環境汚染や健康被害が報告されています。詳しくは下記要請書をご覧ください。
国際環境NGO FoE Japanの深草亜悠美は「ブンアン2は日本で建設されている発電所に比べ大気汚染物質の排出濃度が数倍高いことがわかっています。事業者が作成した環境影響評価(ESIA)報告書に様々な問題点があることもEnvironmental Law Alliance Worldwide (世界法律家連盟、ELAW)による分析調査で指摘されています。影響住民の適切な参加・協議が確保されていない、石炭にかわる代替案が検討されていない等の点は、JBICや日本貿易保険(NEXI)が有する環境社会配慮ガイドラインや世銀グループの国際金融公社(IFC)パフォーマンススタンダードの違反にあたり、日本の民間銀行が採択している赤道原則にも違反しています。」とコメントしました。
気候ネットワークの国際ディレクターおよびClimate Action Network Japanの代表である平田仁子氏は「ブンアン2のプロジェクトは、日本が官民ともに石炭火力発電事業になお固執し続けていることを象徴する悪しき事業です。プロジェクトに関わる民間銀行や事業者は、新規石炭火力事業からは撤退する方針を掲げながらも、本案件を進めており、矛盾を極めています。気候変動へ向き合い、かつベトナムの人々の持続可能なクリーンエネルギーへの転換を支援するために、本事業の実施を見過ごすことがあってはなりません。」とコメントしています。
The Asian Peoples’ Movement on Debt and Development (APMDD)やDemand Climate Justice (DCJ)のコーディネーターを務めるリディ・ナクピル氏は途上国における日本の海外支援について「大型サイクロン・アンファンがベンガル湾を襲い、バングラデシュやインドの多くのコミュニティが生計手段や家屋を失った他、命までも落としています。これは、途上国の貧困層が気候危機の中でどのような影響を受けるのかを如実に示しています。石炭への支援はさらなる困難と危機しかもたらしません。日本は石炭支援をやめ、再エネや公平性の担保された気候変動対策を支援すべきです。」と指摘しました。
化石燃料に対する政府の補助金について調査し提言を行なっている米国のNGO、Oil Change Internationalのブロンウェン・タッカー氏は「我々の調査によると、パリ協定以降、日本政府は再エネに比べ化石燃料に対し7倍もの補助金を投入しています。日本政府も新型肺炎からの回復策に巨額の公的資金を投じていると思いますが、公的資金は、化石燃料からの脱却や、レジリエントで再エネ中心の社会への移行に振り向けられるべきです。さらに日本政府は石炭火力発電の輸出に関し、公的支援の要件見直しを行っていますが、単に厳格化するのではなく、石炭火力発電所や関連施設への支援をやめるべきです。」とコメントしています。
世界的な気候変動に関するダイベストメント運動をすすめる国際環境NGO 350.org 日本支部の渡辺瑛莉は「ブンアン2に融資を検討中の民間銀行4行は各それぞれ石炭火力発電所向けの融資を原則行わないポリシーを採用しています。これらのポリシーには重大な抜け穴が含まれており、ブンアン2は例外扱いされる可能性が高いと言われています。しかし、パリ協定の1.5度目標を達成し、壊滅的な気候崩壊を免れるためには、銀行が自ら掲げるポリシーの例外を安易に適用すべきではありません。また、国連責任銀行原則への署名金融機関として、パリ協定との整合性の確保に責任を果たし、座礁資産化のリスクを回避するためにも、早期に石炭火力から完全にフェーズアウトすべきです。」と述べました。
以上
詳細は以下の本文(脚注と全署名団体を含めた本文はこちらのPDF)をご参照ください。
2020年5月26日
内閣総理大臣 安倍晋三様
財務大臣 麻生太郎様
外務大臣 茂木敏充様
経産大臣 梶山弘志様
環境大臣 小泉進次郎様
国際協力銀行 代表取締役総裁 前田匡史様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田篤郎様
三菱商事 代表取締役社長 垣内威彦様
中国電力株式会社 代表取締役社長 清水希茂様
三菱UFJ銀行 取締役頭取執行役員 三毛兼承様
みずほ銀行 取締役頭取 藤原弘治様
三井住友銀行 頭取CEO(代表取締役) 高島誠様
三井住友信託銀行 取締役社長 橋下勝様
要請書:日本の官民に対しベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業からの撤退を求めます
私たち以下に署名する団体(127団体)は、事業に関与する日本の官民に対し、ベトナム中部ハティン省で計画が進められているベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業からの撤退を求めます。新規石炭火力発電所の建設は気候危機を加速させるばかりでなく、脱炭素社会への移行を遅らせ、国際的な目標であるパリ協定の目標達成を困難にしてしまいます。建設予定地では既存の発電所や工場による深刻な環境汚染や健康被害が報告されており、新たな石炭火力発電所の建設はこれらの問題を一層悪化させるだけです。事業に出資や融資を検討している民間企業・銀行、そして日本の公的機関はブンアン2石炭火力発電事業から撤退すべきです。
プロジェクトの問題点
・パリ協定の長期目標との不整合性
ブンアン2石炭火力発電事業は、660メガワットの超々臨界圧の発電設備を2基建設するものです。高効率と言われる超々臨界圧であっても、石炭火力は他の発電方法に比べ、最も多くの二酸化炭素を排出します。
気候変動の影響はますます深刻になり、多くの人々の命が危険にさらされています。これ以上の気候変動による被害を食い止めていくために私たちに残された時間はわずかしかなく、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電から一刻も早く脱却する必要があります。
新規石炭火力発電所の建設がパリ協定の1.5℃目標に整合しないのは明らかです。今、新規の建設を許せば今後数十年に亘り大量の温室効果ガスの排出を固定してしまいます。OECD諸国に対しては2030年、その他の国に対しても2040年までの脱石炭が求められている中 、日本の官民は分散型再生可能エネルギーなどパリ協定に整合する持続可能なプロジェクトを推進すべきです。
・建設予定地域での環境汚染
ブンアン2建設予定地域では、過去に大規模な環境汚染事故が発生しています。2016年に発生したフォルモサ社の製鉄工場からの汚染物質流出は、ベトナムの歴史上最も深刻な環境災害と言われており、 沿岸部200㎞にも及ぶ広範囲を汚染し、周辺海域での漁業に深刻な影響を与えました。
また、2011年に国際協力銀行(JBIC)、三菱UFJ銀行(MUFJ)、三井住友銀行(SMBC)が融資を行なったブンアン1石炭火力発電所はすでに稼働しており、同発電所由来とみられる粉塵の被害や、稼働後の健康被害等が報告されています 。さらに、ブンアン2石炭火力発電所は、日本で建設されている発電所に比べ大気汚染物質の排出濃度が数倍も高いことが指摘されています。エネルギー・クリーンエア・リサーチセンター(Centre for Research on Energy and Clean Air)の分析によれば、事業による大気汚染物質の予測排出値が日本の水準に比べ5~10倍高いことが判明しています 。
・環境影響評価の問題点
事業者が作成したブンアン2石炭火力発電事業に関する環境影響評価(ESIA)報告書には、様々な問題点があることが指摘されています 。Environmental Law Alliance Worldwide (世界法律家連盟、ELAW)による独立した分析調査によると、同ESIAは、
1. 環境への影響を最小化するために石炭火力以外の代替案が検討されていない
2. 不適切な大気汚染物質拡散モデルを用いたため、大気質への影響予測が無意味なものになっている
3. 国際的な排出基準よりも低い基準と比較している
4. 国際的なガイドラインに反する石炭灰の処理方法を提示している
5. 国際的なガイドラインを逸脱する温排水の排出を提示している
6. 海洋生物種への影響に関するアセスメントが適切に行われていない
など深刻な問題を抱えており、ESIA報告書を拒否すべきであるとしています。
さらに、現地政府が2019年10月の会合で、金額が不明であるにも関わらず、住民に対し農地を売る契約に署名するよう促したり、ブンアン1の建設により移転を余儀なくされた世帯が、ブンアン2の事業計画により再び非自発的住民移転の対象となるのか知らされていないという報道があり、住民に対する適切な情報開示や合意形成が行われていない可能性があります 。
石炭火力発電以外の代替案が検討されていない、また、住民移転や生計手段の喪失に係る対策の立案において影響住民の適切な参加・協議が確保されていない等の点は、JBICや日本貿易保険(NEXI)が有する環境社会配慮ガイドラインや国際金融公社(IFC)パフォーマンススタンダードの違反にあたり、日本の民間銀行が採択している赤道原則にも違反しています。
・座礁資産化のリスク
2019年9月に英シンクタンクのカーボントラッカーが発表したレポートによれば、ベトナムにおいても早くて2022年には既存の石炭火力発電の操業コストより太陽光発電の新設コストのほうが安価になるため、石炭火力発電所は新設への投資に限らず既存の経済性も問うべきとされています 。
現在ベトナムでは建設中や計画中の石炭火力発電事業の進行は大幅に遅れているものも多く見受けられます。さらに新型コロナウィルスの影響による遅延も発生しています 。遅延によるコストアップと合わせ、再生可能エネルギーのコストダウンが進むことによって、ブンアン2は座礁資産になるリスクがあると言えます。
・再エネ中心のGreen Recoveryを
現在、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、多くの人が深刻な影響を受けています。新型コロナウイルスがもたらす打撃からいかに回復するかは世界的な喫緊の課題ですが、気候変動も喫緊の課題です。気候変動はさらに長期的な影響が懸念される大きな課題であり、コロナからの回復策は気候変動対策にも資するものでなければなりません。
現在、世界人口の10人に一人が電力へのアクセスがないと言われています 。そして貧困対策のために電力アクセスの確保が必要であり、したがって石炭火力発電所が必要だという主張がありますが、電力へのアクセスがない農村部は、電力網に繋がっていない場合が多く、むしろ分散型再生可能エネルギーのほうが対策として優れています 。
ベトナムでは電化率はすでに99%を超え、ほとんど全ての人が電力へのアクセスがある状態です。一方で、すでに電力網があっても、将来も現状維持がよいとは限りません。世界各国では、グリーンニューディール政策の議論も進んでいます。環境や人権を中心に据えた社会へと転換しつつ回復をはかるため、石炭火力発電事業をこのまま推し進めるべきではありません。また、大気汚染が新型コロナの致死率に影響するとの研究報告も出ています 。ベトナムの人々の健康や現地での脱炭素化を考えれば、再エネ中心の社会へともにあゆむべきです。
要請
日本政府・公的金融機関(JBIC、NEXI):
日本政府および公的金融機関であるJBIC、NEXIはブンアン2石炭火力発電事業への支援を行うべきではありません。
日本政府は、今年6月に予定されている次期インフラシステム輸出戦略骨子策定に先立ち、海外の石炭火力発電への公的支援に関する4要件の見直しについて、関係省庁で議論を行なっています。すでに日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において「海外におけるエネルギーインフラ輸出を、パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」と定めています 。海外の新規石炭火力発電事業への公的支援を停止する方針を打ち出すべきです。
さらに、ブンアン2には上記に述べたように、代替案が検討されていない、また、住民移転や生計手段の喪失に係る対策の立案において影響住民の適切な参加・協議が確保されていないなど、JBIC・NEXIの環境社会配慮ガイドライン違反も見られるため、融資・付保の決定をすべきではありません。
民間銀行(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行):
邦銀4行はいずれも、新規石炭火力発電所への融資に原則として取り組まないと明確にコミットした与信ポリシーを採用しており、本事業は融資の対象とすべきではありません。いずれのポリシーにも重大な抜け穴が指摘されていますが、そうした例外規定の乱用はESGポリシーが骨抜きであることを露呈することに他なりません。三菱UFJフィナンシャルグループ(FG)および三井住友信託銀行は「当該国のエネルギー政策・事情等」「国際的ガイドライン」「他の実行可能な代替技術等の検討」「個別案件ごとの背景や特性等」を踏まえて対応する場合があるとしています。また、みずほFGは支援表明済みの案件は例外としており、三井住友FGも改定前より支援している案件については慎重に対応を検討する場合がある旨を公表していますが、英スタンダード・チャータード、シンガポールOCBC、DBSが新しい脱石炭ポリシーの採用を理由に本案件から撤退しており、邦銀だけができないとの正当化は成り立ちません。
また、4行とも国連責任銀行原則(PRB)に署名しており、署名銀行は「SDGsおよびパリ協定に事業戦略を整合させる」ことを約束しています。本案件がパリ協定と整合しないことは明らかであり、自らの公約を破る行為は国際社会および投資家からの信頼性を大きく損なうことになるでしょう。
さらに、上述の数々の問題点は気候変動対策へのコミットメントだけでなく、4行が署名している赤道原則にも違反することは明らかです。したがって本件の融資検討を即刻やめるべきです。
三菱商事、中国電力:
三菱商事は、「ESGデータブック2018」の改訂版(改訂版の発表は2019年)の中で、原則、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を表明していますが、例外として「既に当社として開発に着手した案件」の継続を認めており、ブンアン2を進めています。しかしこれは気候変動対策として不十分であると言わざるを得ず、現時点で未着工であるベトナムの2案件(ブンアン2およびビンタン3)については、可及的速やかに撤退の決断を下すべきです。
気候変動とその影響への懸念が高まる中、化石燃料関連企業からのダイベストメント(投資撤退)が世界的に進んでいます。特に石炭火力発電事業および炭鉱開発事業については、石炭火力関連事業に関する与信ポリシーを変更する金融機関、保険会社も増えています。 2019年4月にはノルウェーの政府系ファンドが石炭火力関連株を売却。すでにその中には中国電力も含まれています 。石炭火力をとりまくビジネス環境は、ESG投資やパリ協定の観点から今後さらに厳しくなるでしょう。
三菱商事および中国電力は、同事業から撤退すべきです。
以上
CC:
官房長官 菅義偉様
外務副大臣 若宮健嗣様
外務副大臣 鈴木馨祐様
財務副大臣 遠山清彦様
財務副大臣 藤川政人様
経済産業副大臣 牧原秀樹様
経済産業副大臣 松本洋平様
環境副大臣 佐藤ゆかり様
環境副大臣 石原宏高様
国際協力機構 理事長 北岡伸一様
駐ベトナム社会主義共和国日本国特命全権大使 山田滝雄様