【プレスリリース】国際協力銀行に対しLNGカナダ事業への融資を拒否するよう求めるレターを提出 - 先住民族の深刻な権利侵害と気候危機に加担しないで


先住民族による抗議の様子 (写真: Michael Toledano)

本日、日本・カナダの市民団体とカナダの先住民族グループは国際協力銀行(以下、JBIC)に対し、JBICが融資検討中のLNGカナダ事業に対し融資をしないよう求める要請書を提出しました。

LNGカナダ事業は三菱商事やロイヤル・ダッチ・シェルが出資し、液化プラントと輸出ターミナルを建設する事業です。ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)北東部モントニーで採掘したガスを670 kmのコースタル・ガスリンク・パイプラインで運搬し、キティマット港の同液化プラントで処理してアジア市場にLNGを輸出する事業です。

ガスが採掘される地域やパイプラインが通過する予定の地域では、事業への強い反対の声や開発による累積影響を懸念する声が先住民族や市民社会からあげられています。
また、国際エネルギー機関が5月に発表したレポートでは、2050年ネットゼロ社会を実現するためには2021年以降新規の石油・ガス事業支援も止めるべきであるとしました。

先住民族Wet’suwet’enのGidmit’en Clan・Cas Ykhハウスグループの再占拠地であるGidimt’enチェックポイントのスポークスパーソンであるMolly Wickham(Sleydo’)は「コースタル・ガスリンク・パイプラインは、LNGカナダにガスを供給するものであり、BC州北東部のフラッキングによるガス採掘と合わせて一つのプロジェクトとして評価する必要があります。LNGカナダ事業はパイプラインと切っても切り離すことができず、ひいては私たちの土地、生活様式、人々にもたらす破壊とも切り離すことはできません。私たちはパイプライン事業のために土地を明け渡してはいません。」とコメントし、LNGカナダ事業と不可分一体であるパイプライン事業が先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(以下、FPIC)を得られていないことを指摘しています。

FoE Japanの深草亜悠美は「先住民族のFPICは国際水準として認識されているものですが、FPICの取得に問題のあるLNGカナダ事業に融資すれば、JBIC自身のガイドラインにも違反することになります。現在JBICが融資を検討しているスコープには追加のパイプライン建設も含まれますが、それに関しては環境許認可証がJBICのウェブサイトに公開されているだけでJBICのガイドラインで求められている環境影響評価書などの開示がありませんでした。こうしたJBICガイドラインの明確な違反は、JBICが環境社会配慮を欠いていることを端的に示しています。JBICは融資を行うべきではありません。」とコメントしました。

詳しくは要請書をご覧ください。

プレスリリースはこちら
脚注を含む要請書はこちら


2021年8月6日

国際協力銀行
代表取締役総裁 前田匡史 様

国際環境NGO FoE Japan
Cas Yikh (Gidimt’en Clan, Wet’suwet’en Nation)
Wilderness Committee
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
メコン・ウォッチ

要請書
LNGカナダ事業への融資を行わないよう求めます

 貴行が融資を検討しているLNGカナダ事業に関し、私たちは先住民族の人権侵害や気候変動リスクなど重大な問題があると認識しており、貴行に対し融資を行わないよう求めます。

 LNGカナダ事業は、ブリティッシュ・コロンビア州(以下、BC州)モントニーで採掘したシェールガスを、670キロメートルに及ぶパイプラインでキティマットまで運び液化し、アジア市場に対し輸出を行う計画で、貴行はモントニーで行われるガス開発にもすでに融資を行なっていると理解しています。現在融資を検討しているキティマットにおけるLNGカナダ事業と不可分一体であるガス開発およびパイプライン開発の影響も融資検討の際にしっかりと考慮する必要があります。以下に述べる懸念について丁寧にレビューを行い、真摯にご判断いただくようお願いします。

先住民族の権利侵害

1 パイプライン

 LNGカナダターミナルにガスを運ぶためのコースタル・ガスリンク・パイプライン事業は、先住民族Wet’suwet’enの土地を通過する計画ですが、Wet’suwet’enの伝統的酋長らは同パイプライン事業に合意していません。

 これまで、Wet’suwet’enは一度も土地の権利を手放したことはなく、「Unceded Land(譲渡契約が未承認の土地)」であると主張しています。実際、土地の権利に関しては1997年に、カナダ最高裁判所が土地の所有権及び利用権は先住民族に属すると判決を下している例があり、これにはWet’suwet’enの土地も含まれます(Delgamuukwケース)。

 また、パイプラインの影響を受けるWet’suwet’enのハウスグループCas Yikhは貴行に書簡を提出しており、その中で、パイプラインに使用される予定の土地の管轄権は放棄しておらず、かつ事業が先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)に違反していると明確に指摘しています。<
 コースタル・ガスリンク・パイプライン社が2018年に起こした裁判の中間判決において、BC州の最高裁は先住民族等の抗議行為により企業側に損失が生じると認めコースタル・ガスリンク・パイプライン事業の続行を認めましたが、前述のように、過去の判例ではWet’suwet’enがこれまで一度も土地の権利を手放しておらず、土地に係る権利は伝統的にWet’suwet’enにあることが認められています。さらにパイプライン建設に反対し平和的に抗議行動を行う先住民族らに対し、武装した警察が弾圧を行い、カナダ全土で連帯を示すストライキが起きたこともありました。

2 ガス開発

貴行はすでに三菱商事のモントニーでのガス開発に関する権益取得に対して融資を行なっています。事業の所謂上流部門にあたるモントニーシェールガス鉱区の地域では先住民族であるBlueberry Riverが訴訟を起こしており、カナダ国王と先住民族との間に結ばれた条約(番号付きインディアン条約、この場合はTreaty 8)に基づいて保証されていた伝統的な土地利用への権利が侵害されていることが裁判所でも認められました。BC州は同地域での新規の石油・ガス開発への許認可発行を行わないよう命じられています。またBC州政府は控訴しないとしています。

実際、先住民族らが指摘するように、開発の累積的影響により、同地域では深刻な環境破壊や先住民族の狩場の破壊などが生じていることが報告されています。

また、今回の貴行による融資検討の対象に含まれているガス開発現場とコースタル・ガスリンク・パイプラインを繋ぐ追加のパイプライン敷設事業もBlueberry Riverの伝統的な土地利用への権利が認められている地域での建設とみられ、先住民族の権利を侵害する可能性があります。

3 サイトCダム

LNGカナダ事業の各トレインは天然ガスタービンで駆動し、それ以外の施設はBC Hydro社から電力の供給を受ける計画です。

BC Hydro社は、BC州北西部のピース川で、1,100メガワット(MW)の発電容量を持つサイトCダム開発を進めています。事業者のウェブサイトによると2014年12月に建設を開始し、2024年に完成予定です。BC Hydro社がどの発電所からの電気をLNGカナダに供給するかは明らかにされていませんが、ダムが完成すれば、サイトCダムが供給した電力がLNGカナダ事業やガス開発・コースタル・ガスリンク・パイプラインといった不可分一体の事業でも使用される蓋然性は高く、実際にガス開発のためにサイトCダムの建設が進められていると指摘されています。

サイトCダムの計画は30年以上前から持ち上がっていますが、コストの面や環境影響などを理由にこれまで2度も計画が拒否されてきました。サイトCダムの建設が進めば、先住民族West Moberlyの土地を水没させ、生物多様性豊かな土地や湿地(tufa seeps)が失われます。そのため、環境保護団体や先住民族らから強い反対の声が上がってきました。

また、事業が行われる地域の地盤の安全性についての懸念も大きく、先住民族West Moberlyは、BC Hydro社やBC州政府に対し安全性に関する文書等を公開するようBC州の裁判所に申し立てており、2021年5月、BC州の最高裁は先住民族側の訴えを認め、BC Hydroと州政府に文書を公開するよう命じました。

さらに、先住民族Blueberry Riverの伝統的な土地利用への権利が認められている地域とサイトCダムの建設地も重複しており、前述の判決がサイトCダム事業に影響を与える可能性もあります。

国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)は2019年12月13日付けで、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(free, prior and informed consent)」(以下、FPIC)が得られるまで、コースタル・ガスリンク・パイプライン事業、トランス・マウンテン・パイプライン事業、サイトCダムの建設を即時停止するよう連邦政府に求める決議を発表しています。

『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(以下、ガイドライン)では、検討する影響のスコープとして「不可分一体の施設の影響」も含むとしています。繰り返しになりますが、LNGカナダ事業はガス開発やコースタル・ガスリンク・パイプラインなしには成り立ちません。また現状、サイトCダムでの発電がLNG事業実施の前提とされていることも否定できません。貴行はLNGカナダ事業の環境レビューにおいて、ガイドラインに則り、上述の不可分一体の各事業における環境・社会・人権配慮についても十分な確認を行い、融資可否の意思決定を行うべきです。

特にガイドラインでは、先住民族の土地及び資源に関する権利について、「先住民族に関する国際的な宣言や条約の考え方に沿って尊重されるとともに、十分な情報が提供された上での自由な事前の合意が得られていなければならない」と規定しています。国連人種差別撤廃委員会において、LNGカナダ事業と不可分一体の事業でFPICが得られていないことが明確に示されていることからも、貴行はガイドラインの要件を満たさないLNGカナダ事業への融資を行うべきではありません。

また、今回の融資検討対象であるガス開発現場とコースタル・ガスリンク・パイプラインを繋ぐパイプライン敷設事業については、現状、環境許認可証明書が公開されているのみで、環境社会影響評価報告書(以下、EIA)は公開されていません。ガイドラインで要件とされている先住民族計画に相当する文書やEIAに相当する文書が貴行に提出されておらず、また貴行によって公開されていない以上、この点についてもLNGカナダ事業はガイドラインに違反していると言えます。

貴行によるモニタリングが続けられている(2021年7月現在)モントニーでのシェールガス開発事業についても、そもそも2012年に貴行が融資を決定する前、つまり環境レビュー時に公開されていた資料はBC州の石油ガスコミッションにより発行された環境許認可証明書のみで、EIAにあたる文書も先住民族計画にあたる文書も公開されていませんでした。貴行はEIAの内容に相当する情報について個別に当局等に確認を行って審査を行ったとしていますが、ガイドライン上、カテゴリA案件で求められる貴行による情報公開の要件に明らかに違反していたと言えます。

シェール開発による環境影響

 シェールガスの採掘による環境影響も看過できません。ガスの多くは地下にある砂岩に貯留していますが、シェールガスは数百から数千メートル地下にある頁岩層に含まれ、その採掘のために頁岩層まで掘削を行い、岩に割れ目(フラック)を作り高圧で水を注入し破砕する必要があります。その工法は水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれ、高い環境負荷が生じます。地震誘発リスク、フラッキングのために注入する水による水質汚染、大気汚染リスク、メタン排出による地球温暖化リスクなどがあり、これらリスクのため、2011年にフランスで水圧破砕法(フラッキング)が禁止され、2012年にはブルガリアも禁止するなど、世界的にフラッキングの禁止が広がっています。モントニーでもフラッキングによる採掘が行われており、過去にフラッキングが誘発したと見られる地震を理由にモントニーの一部で操業の一時的停止措置がとられています。

 貴行はモントニーにおけるガス開発について、上述のとおり、EIAに相当する文書を公開せずにモニタリングを続けていますが、これまで及び今後のフラッキングによるガス開発に伴う環境社会影響について、またそれら影響の回避・低減策と実施状況について、十分な精査を行うとともに、ステークホルダーへの説明責任をしっかりと果たすべきです。また、ガス開発に伴う環境社会影響への適切な配慮がなされていない場合には、借入人に期限前償還を求めることを含む、ガイドラインに則った適切な対応をとるべきです。

気候変動対策に逆行

 気候変動に関する国際条約であるパリ協定は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力目標を掲げており、これを達成するためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要があります。つまり新たなガス田の開発や採掘、ガス関連施設を建設することは、新たな温室効果ガスの排出を長期にわたり固定することに繋がり、パリ協定の目標とも合致しません。LNGカナダ事業は2024年度中から40年の稼働が計画されており、計画通り進めば2050年を越えてLNG生産が行われることになります。

 日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを宣言しています。同事業から得られるガスは主に日本を含むアジアの市場で売買される計画です。日本国内でもガスの需要を2050年に向けて減少させ、最終的にはフェーズアウトする必要があるにもかかわらず、新規のガス事業の実施を公的資金で支援することは日本政府の政策とも乖離します。

財務リスク

 気候変動対策の観点から、今後ガスを含む化石燃料への規制や使用抑制が進めば、今後ガス関連のアセットについても座礁資産と化する可能性が指摘されています。  先住民族たちの反対や訴訟、COVID-19の蔓延による工事の遅延などで、すでにパイプライン事業やダム事業ではコストが増大しています。コースタル・ガスリンク・パイプライン事業ではすでにコストオーバーランを引き起こしており、。サイトCダムは当初88億カナダドルと見積もられていた建設費が倍の160億カナダドルに膨れ上がっています。

 グローバル・エナジー・モニターのレポートによると、COVID-19の蔓延前から日本のLNG事業はリスクに晒されており、2020年に各商社が発表した資料を基に計算すると、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、双日のLNG関連事業では、合わせて前年比6億2,500万米ドルの減益が生じています。

 日本の公的資金を、こうしたリスクに晒すべきではありません。

 以上のように、JBICガイドラインに規定されている先住民族や情報公開等に係る要件が現状遵守されておらず、また気候変動リスク、財務リスクも抱えるLNGカナダ事業に対し、貴行が融資を行わないよう求めます。

以上

CC:
国際協力銀行 代表取締役副総裁 林信光様
国際協力銀行 代表取締役専務取締役 天川和彦様
国際協力銀行 常務取締役 橋山重人様
国際協力銀行 常務取締役 大石一郎様
国際協力銀行 常務取締役 田中一彦様
国際協力銀行 取締役(社外取締役)小泉愼一様
国際協力銀行 取締役(社外取締役)川村嘉則様
国際協力銀行 常勤監査役 角谷講治様
国際協力銀行 監査役(社外監査役)土屋光章様
国際協力銀行 監査役(社外監査役)玉井裕子様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田篤郎様
三菱商事株式会社 代表取締役社長 垣内威彦様
総理大臣 菅義偉様
外務大臣 茂木敏充様
財務大臣 麻生太郎様
経済産業大臣 梶山弘志様
環境大臣 小泉進次郎様

 

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