【プレスリリース】JICA債引受・保有39機関にバングラデシュ・インドネシアの石炭火力発電の支援停止働きかけを求める要請書を送付
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ
12ヶ国の29団体は、国際協力機構(以下、JICA)の支援が見込まれるバングラデシュのマタバリ石炭火力発電事業フェーズ2(600MWx2基)(以下、マタバリ2)及びインドネシアのインドラマユ石炭火力発電事業(1,000MWx1基)(以下、インドラマユ)について、支援停止に向けたエンゲージメントをJICAに対して行うことを求める要請書を、JICA債発行主幹事及びJICA債を保有している金融機関39社に送付しました。
要請書全文はこちら(PDF)
バングラデシュにおいて、JICAはすでにマタバリ石炭火力発電事業フェーズ1(以下、マタバリ1)に融資をしているのに続き、マタバリ2発電所の建設に向けた準備調査の実施を支援しています。インドネシアでは、インドラマユの基本設計などにJICAが融資を続けており、本体工事への融資も見込まれています。
欧州の研究機関であるクライメート・アナリティクスによれば、気候変動対策の国際的な枠組みであるパリ協定の1.5度目標を達成するためには、先進国では2030年までに、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があります(※1)。そのため、新規に石炭火力発電所を建設するマタバリ及びインドラマユ両事業がパリ協定の目標と整合しないことは明らかです。この他にも、両国における電力の供給過剰状態の深刻化及び財政負担の増加や、再生可能エネルギーのコスト低下に伴う経済的合理性の欠如、両事業がJICAの「環境社会配慮ガイドライン」を満たしていないことなど、両事業に関して様々な問題が指摘されています。
JICA債は国連の持続可能な開発目標(以下、SDGs)の達成に貢献する目的で発行され、「SDGs実施指針改定版」(2019年12月改定)ではSDGs達成に向けた日本政府の具体的施策の一つとして位置付けられています。しかし、前述の2事業は、SDGsの目標13(気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る)に逆行し、目標16(持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する)も、ないがしろにしています。
2021年2月には在バングラデシュ中国大使館がバングラデシュ財務省宛てに書簡で「炭鉱や石炭火力発電事業など大気汚染を招く事業への投資は検討しない(※2)」との意向を伝えたことが明らかとなりました。昨年行われた環境省の記者会見では、小泉進次郎環境相が政府の石炭火力輸出支援の4要件について「私は、今までこの4要件の話の中でさんざん聞いてきた一つのロジックというのは、日本がやらないと中国が席巻すると、そういったことも聞いてきました(※3)」と発言しています。しかし、マタバリ2においては「日本がやらないと中国が席巻する」という構図は成立せず、そもそもそうした構図を日本政府が検討材料にしているとすれば、気候対策の観点からはナンセンスです。いずれにしても、中国が明らかにした方針を念頭におき、日本政府もバングラデシュの大気汚染や気候対策を真剣に考えるべきです。
同要請書では、JICA債発行主幹事及びJICA債を保有している金融機関に対し、JICAに対して以下のエンゲージメントを行うよう要請しています。
●マタバリ2及びインドラマユへの支援を行わないこと。
●マタバリ1及びインドラマユの工事に伴い、すでに生じている問題を解決し、JICAの「環境社会配慮ガイドライン」を遵守すること。
●上記2点が適切に対処されない場合は、JICA債への投資から撤退すること。
なお、債券の調査を専門とするシンクタンクの Anthropocene Fixed Income Institute (AFII) は、今年3月にJICA債をダイベストメント(投資撤退)推奨リストに入れています(※4)。AFIIはJICAを追加した理由について、「JICAが支援しようとしているバングラデシュ及びインドネシアのギガワット規模の石炭火力発電事業は、明らかにパリ協定と整合しない以上に、他の環境問題及び社会問題にも関連している」と述べています。
脚注
(※1)https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/
(※2)https://www.ft.com/content/30840645-58d2-4da5-be05-f476623677d2
(※3)https://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0121.html
(※4)https://anthropocenefii.org/afii-ides-of-march
JICA債発行主幹事:第44回(2018年4月13日)〜 56回(2020年8月3日)国際協力機構債券(国内財投機関債)発行時の主幹事
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
SMBC日興証券株式会社
大和証券株式会社
野村證券株式会社
みずほ証券株式会社
しんきん証券株式会社
東海東京証券株式会社
BNPパリバ証券株式会社
岡三証券株式会社
株式会社SBI証券
JICA債保有金融機関(2021年2月時点、各種公開資料や金融データベース等からProfundoが調査)
<本リリースに関する問合せ先>
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
プログラムディレクター 田辺有輝
tanabe@jacses.org
(※)インドネシア・西ジャワ州インドラマユ石炭火力発電事業
200万kW(100万kW ×2基)の超々臨界圧石炭火力発電所を建設(275.4 haを収用)し、ジャワ-バリ系統管内への電力供給を目的とする。1号機(100万kW)に国際協力機構(JICA)が円借款を検討予定(インドネシア政府の正式要請待ち)。すでにJICAは2009年度に協力準備調査を実施し、基本設計等のためにエンジニアリング・サービス(E/S)借款契約(17億2,700 万円)を締結(2013年3月)。現在もE/S借款の支払いを続けている。E/S借款は「気候変動対策円借款」供与条件が適用されたが、2014年の第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)では、同石炭火力事業を気候資金に含んだ日本政府の姿勢が問題視された。