FITバイオマス発電事業者にアンケート実施ー持続可能性の説明責任に課題
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国際環境NGO FoE Japanは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の認定を受けた主なバイオマス発電事業者に対し、バイオマス燃料の持続可能性に関するアンケートを実施し、その結果を公表した。
アンケートは、FITの認定を受けた発電出力1万kW以上の主な発電設備(187設備)を有する発電事業者154社を対象に2022年5月19日から2022年6月10日にかけて実施し、56社(61設備)から回答を得た。56社が利用しているもしくは利用予定の燃料の内訳は、輸入木質ペレットもしくは木質チップが36社、PKS(パーム椰子殻)が30社、国産木質チップが21社、その他が2社であった。
輸入木質ペレットもしくは木質チップを現在利用している、もしくは利用予定と回答した発電事業者36社のうち、原産国を回答した事業者は8社のみであった。また、36社のうち、森林認証制度によって持続可能性及び合法性の確認をしていると回答した事業者は17社で、認証制度の名称と認証の種類を具体的に回答した企業は7社のみであった。持続可能に森林が管理されていることを証明する、森林管理(FM)認証材のみを利用すると回答したのは1社のみで、管理材のみ(2社)やFM認証材と管理材(2社)のほか、「FM認証材が中心」や「森林由来」と明確な回答を避けた事業者が2社あり、持続可能性及び透明性に課題がある。森林認証制度を利用していても、管理材等のFM認証材以外の原料は、原料の木材が切り出される森林の持続可能性を証明するものではない。アメリカ・カナダ等の木質バイオマス燃料の生産国において、燃料生産による森林破壊事例が報告されている中、持続可能性が確認されていない輸入木質バイオマス燃料が多く使われている可能性がある。これを改善するため、FITの事業計画策定ガイドラインを早急に見直す必要がある。国の再生可能エネルギー推進策であるFIT制度が、海外の森林減少・劣化及び生物多様性破壊を起こすようなことがあってはならない。
PKS(パーム椰子殻)を現在利用している、もしくは利用予定と回答した発電事業者は30社あった。稼働済みの発電設備を有する18社のうち、第三者認証を取得した燃料を利用し、かつ認証の識別番号を回答した企業は4社のみであった。PKSを利用する事業者は、持続可能性及び合法性の確認のために第三者認証を取得し、その名称と使用量、認証燃料の識別番号を自社ホームページ等に公開することが求められている。認証未取得の場合は、自主的に持続可能性及び合法性の確保に取り組み、その内容と燃料発生地点の情報を公開することを条件として、認証取得の期限が2023年度末まで猶予されている。アンケートでは、30社のうち3社(1社は一部認証取得済み、2社は未取得)が情報を公にしていないと回答した。
また、FIT認定を受けた後、所管する経済産業省資源エネルギー庁等から持続可能性及び合法性の確保状況について確認があったか尋ねたところ、一度も確認がなかったと回答した事業者が8社あった。
これらの回答は、ガイドラインの遵守状況を確認し、問題のある事業者を是正する体制の早急な構築が必要であることを示している。FIT制度を利用する発電事業者は、FIT制度の原資を担う消費者への説明責任があることを忘れてはならない。
バイオマス燃料の生産国における森林破壊を懸念する声が世界的に高まりつつある今、国のFIT制度が認定するバイオマス発電事業が、海外の森林生態系を破壊し、気候変動を悪化させることのないよう、資源エネルギー庁はガイドラインの改善及び監督体制の構築をしていくことが求められている。また、発電事業者は、自らの事業が、気候や生物多様性に与える影響に関する説明責任を負い、情報公開が求められている。FoE Japanは、日本のバイオマス発電による燃料輸入が、森林減少・劣化などの環境社会影響の原因にならないよう、調査及び提言を継続していく。
アンケート調査の結果概要
【目的】
前年に実施したアンケート調査及びヒアリング等より、バイオマス発電の燃料の持続可能性の確認方法が発電事業者によって異なり、現行の事業計画策定ガイドラインが定める要件及び事業者の調達実施状況では、バイオマス発電が森林の減少・劣化を引き起こすおそれがあることが明らかになりつつあります。こうした背景から、バイオマス燃料の持続可能性とトレーサビリティの実態と課題を把握することを目的に実施しました。
【期間】
2022年5月19日から2022年6月10日(提出期限以降の回答も受理)
【方法】
郵送もしくは電子メールにてアンケート用紙を送付し、回答を依頼した。
【対象】
経済産業省資源エネルギー庁の事業計画認定情報(2021年12月31日時点)に公開されたバイオマス発電設備のうち、自治体や清掃局及びリサイクル関連事業を除く、発電出力1万kW以上の発電設備(187設備)を所有する発電事業者154社。
【回答状況】
56事業者(61設備)から回答を得た。そのうち、32設備が現在稼働中、27設備が未稼働(建設中もしくは計画中)、2設備が中止もしくは中止予定であった。
【結果概要】
1. 基本情報
回答状況
発電設備数 | 発電事業者数 | |
回答 | 61 | 56 |
無回答 | 126 | 98 |
合計 | 187 | 154 |
回答率 | 32% | 36% |
回答のあった発電設備の稼働状況
発電設備数 | |
稼働中 | 32 |
建設中・計画中 | 26 |
中止・中止予定 | 2 |
無回答 | 1 |
合計 | 61 |
回答のあった設備の専焼・混焼の内訳
発電設備数 | |
バイオマス専焼 | 43 |
バイオマス・石炭混焼 | 16 |
合計 | 59 |
回答のあった発電事業者55社(59設備)が利用・利用予定のバイオマス燃料
発電事業者数 | 稼働状況別の発電設備数 | ||||
合計 | 稼働中 | 建設・計画中 | 無回答 | ||
輸入木質ペレット・チップ | 36 | 39 | 17 | 22 | 0 |
PKS | 30 | 30 | 18 | 12 | 0 |
国産木質チップ | 21 | 21 | 16 | 4 | 1 |
その他 | 2 | 2 | 2 | 0 | 0 |
2. 輸入木質ペレット・チップ
原産国
輸入木質ペレット・チップを利用もしくは利用予定と回答した発電事業者36社のうち、原産国を回答した事業者は8社のみであった。原産国は、アメリカ(1社)、インドネシア(1社)、ベトナム(6社)、カナダ(2社)、オーストラリア(2社)、ロシア(1社)、南アフリカ共和国(1社)であった。
持続可能性・合法性の確認方法
- 輸入木質ペレット・チップを利用もしくは利用予定と回答した発電事業者36社のうち、持続可能性・合法性の確認方法について回答した事業者は20社であった。そのうち17社が森林認証制度による確認をしているもしくは確認予定と回答したが、森林認証制度の名称を回答した事業者は8社のみだった。
- 森林認証制度のほかに、団体認定を利用している事業者は1社であった。
森林認証制度の名称を回答した8社が利用・利用予定の認証制度の名称と原料詳細
認証制度名称(事業者数) | 原料詳細(事業者数) | |
FSC(7) | FM認証材 (1) FM認証材、ミックス、管理材 (1) | 管理材 (4) 主にFM認証材 (1) |
PEFC(4) | FM認証材(1) Controlled Sources (1) | 認証材、管理材 (1) 森林由来 (1) |
GGL(1) | 森林由来 (1) |
参考
- FIT制度の事業計画策定ガイドラインは、発電事業者に対してバイオマス燃料の持続可能性及び合法性の確認を求めているが、具体的には、林野庁の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(以下、林野庁ガイドライン)を参照することとしている。 林野庁ガイドラインでは、1)森林認証制度及びCoC認証制度を活用した証明方法、2)森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法、3)個別企業等の独自の取組による証明方法が示されている。1)の留意事項には、「合法性、持続可能性とは、森林認証を取得した森林から生産された木材・木材製品がCoC認証と連結し」と、FM認証材でなければならないいことが明記されているが、FM認証材以外の原料を調達する事業者もある。
- FM認証材とは、持続可能な森林管理がされていることが認められた森林に由来する木材のことである。たとえば、FSCの場合は、10原則・70基準・200指標で厳格に定められている。一方で、管理材(FSCのコントロールド・ウッドやPEFCのコントロールド・ソース)は、それぞれの認証団体が回避すべきとする特定の条件を満たした木材のことで、森林の持続可能性を証明するものではない。
3. PKS
燃料にPKSを利用もしくは利用予定と回答した発電事業者は30社あり、稼働中の設備が18、建設もしくは計画中の設備が12あった。
原産国
PKSを利用もしくは利用予定と回答した発電事業者30社のうち20社が原産国を回答した。インドネシアとマレーシアの2カ国から輸入する事業者が12社、インドネシアが6社、マレーシア2社であった。
持続可能性・合法性の確認方法
- PKSを利用する発電事業者は、指定の第三者認証(RSPO2013、RSPO2018、RSB、GGL、ISCC Japan FIT)を取得したPKSを調達し、第三者認証制度の名称、使用量と認証燃料の識別番号を自社のホームページ等で公開することが定められている。ただし、2022年3月31日までに認定された設備については、持続可能性及び合法性の確保のために事業者が自主的に取り組みを行い、その取り組みの内容と燃料発生地点の情報を自社のホームページ等で公開することを条件として、2023年度末までに第三者認証を取得が猶予されている。
- 稼働済みの発電設備を有する18社のうち、第三者認証を取得した燃料を利用し、かつ認証の識別番号を回答した企業は4社のみであった。利用している第三者認証は、RSB(2社)とGGL(3社)であった。
- PKSを利用もしくは利用予定と回答した発電事業者30社のうち、ガイドラインが定める持続可能性・合法性に関する情報公開をしていないと回答した事業者が2社、社内に掲示していると回答した事業者が1社あり、これら3社は明らかにガイドラインに反している。
【FIT制度における確認体制】
輸入バイオマス燃料の持続可能性及び合法性の確保に関して、所管する経済産業省資源エネルギー庁等から事業者に確認があったかどうか尋ねたところ、25事業者から回答があった。そのうち、8社が一度も確認はなかったと回答した。11社が不定期的、6社が定期的に確認があったと回答した。
【政策に関する要望やバイオマス発電全般についての意見(抜粋)】
以下の意見があった。
- バイオマス燃料の合法性及び持続可能性について、書面での認証の確認に加え、商社・サプライヤーのヒヤリングや現地訪問を行い、継続的に確認することが必要。
- 供給する電気の安定性と使用する燃料の持続可能性を評価し、今後制度を整えてほしい。
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