金融機関449社にバイオマス発電融資の持続可能性確認でアンケート実施

国際環境NGO FoE Japanは、このたび、国内金融機関に対して、融資の際のバイオマス発電の持続可能性の確認に関するアンケートを実施し、結果を公表しました。

金融庁に届出のある主要な金融・保険企業、計449社を対象に、2020年12月から2021年1月にかけて実施し、59社より回答がありました(回答率13%)。

バイオマス発電は、地球環境に対して負荷の少ないとされる再生可能エネルギーとされていますが、特に大規模バイオマス発電所は、海外からのパーム油、パーム椰子殻(PKS)、木質ペレットの輸入に依存し、燃料生産地における生態系破壊や森林減少・劣化、人権侵害など多くの環境・社会課題を抱えています。こうした背景から、本アンケートは、金融・保険企業の投融資における、バイオマス発電事業の持続可能性や環境社会影響の確認に関する方針を明らかにすることを目的に実施しました。

回答のあった59社のうち、バイオマス発電事業に融資・出資の実績もしくは予定がある企業は9社でした。なお、これまでの報道資料等から、発電事業への出資を明らかにしている金融・保険企業に関しては、そのほとんどから回答が得られませんでした。

バイオマスに限らず、融資にあたっての持続可能性や環境社会影響評価に関するガイドラインを有する企業は、全59社のうちわずか3社にとどまりました。うち2社がバイオマス発電事業への融資実績のある企業でした。ガイドラインを有する3社のうち2社は、ガイドラインにGHG排出や森林減少・劣化評価に関する内容を含んでいると回答しています。

投融資の実績がある企業8社すべてが、投融資に際して、燃料調達計画を確認しており、7社が、投融資後も燃料調達の状況を確認していることも明らかになりました。また、5社が、環境影響評価(自主的なものも含む)が実施されていることを確認していると回答しました。一方で、投融資の際に、燃料の第三者認証(FSC等)の取得確認については、5社が「確認していない」と回答しています。

FoE Japanは、今後、金融機関などとの対話を通じて、大規模に燃料を輸入するバイオマス発電事業の問題点などについて共有し、投融資にあたっての気候変動・生物多様性・人権等の持続可能性や環境社会基準の策定などを働きかけていきたいと考えています。


アンケート調査結果の概要 >PDF版

実施目的:金融・保険機関のバイオマス発電の持続可能性に関する意識および投融資方針について明らかにする。
実施主体:国際環境NGO FoE Japan
協力:一般財団法人地球・人間環境フォーラム、バイオマス産業社会ネットワーク、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、プランテーション・ウォッチ
実施期間:2020年12月7日〜2021年1月8日

実施対象と回答状況:

送付回答
銀行120社4社
金庫255社54社
生命・損害保険66社0社
その他(リース等)8社0社
1社(匿名)
合計449社59社

結果概要

1.バイオマス発電事業もしくはバイオマス発電事業者に対する融資・出資の実績と予定について
59社のうち8社が「実績がある」、2社が「予定がある」(うち1社は実績もあり)と回答した。

2.融資にあたっての持続可能性や環境社会影響評価に関するガイドラインの有無
回答のあった59社のうち、ガイドラインを有する企業は3社、ガイドラインがない企業は55社、未回答が1社だった。なお、バイオマス発電事業・事業者に対する融資・出資の実績もしくは予定のある企業9社のうち、ガイドラインを有していたのは2社のみだった。

3.(ガイドラインを有する企業のみ対象)ガイドラインのGHG排出評価について
ガイドラインがある企業3社のうち、2社が「GHG排出評価を行い、事業者に削減を求めている」と回答、1社は「GHG排出評価は行っていない」と回答した。

4.(ガイドラインを有する企業のみ対象)ガイドラインの森林生態系への配慮について
ガイドラインがある企業3社のうち、2社が「森林減少・劣化に関する評価を行い、事業者に森林減少・劣化を生じさせない等の配慮を求めている」と回答、1社は「森林伐採事業を新興国で行うお客様に対し、FSC、PEFC認証確認等を実施」と回答した。

5.(バイオマス発電事業・事業者に投融資の実績がある企業のみ対象)投融資の際の燃料調達計画の確認について
投融資の実績がある企業8社すべてが、投融資に際して、燃料調達計画を確認していた。

6.(バイオマス発電事業・事業者に投融資の実績がある企業のみ対象)投融資後の燃料調達状況の確認について
投融資の実績がある企業8社のうち、7社が投融資後に燃料調達の状況を確認していた。

7.(バイオマス発電事業・事業者に投融資の実績がある企業のみ対象)投融資の際の環境社会影響や持続可能性の確認内容について
投融資の実績がある企業8社は、環境社会影響や持続可能性について以下の内容を確認していたことがわかった。
・事業のライフサイクルにわたるGHG排出・・・2社
・燃料生産にあたり、森林減少・劣化や生物多様性の減少が生じないこと・・・2社
・人権侵害を伴っていないこと・・・1社
・食料との競合が回避できていること・・・0社
・汚染物質の拡散を伴わないこと・・・2社
・環境影響評価(自主的なものも含む)が実施されていること・・・5社
・地域住民に十分な説明が行われていること・・・3社
・その他(重油消費の95%を木質熱に代替できること。CO2削減効果、間伐材の利用が進み、森林の成長が促進されること。)
・その他(エクエーター原則適用案件は、案件に応じて必要な項目を全て確認)

8.(バイオマス発電事業・事業者に投融資の実績がある企業のみ対象)投融資に際の燃料の第三者認証(FSC等)の取得確認について
投融資の実績がある企業8社のうち、1社が「第三者認証を取得している燃料を調達することを確認した」、5社が「確認していない」、1社が「その他(木質チップの規格を事業における木質チップの売買契約書にて確認)」、1社が「その他(事業者にて確認)」と回答した。

9.バイオマス発電の持続可能性を担保するために必要とされること
投融資の実績や予定のない企業からの担当者からも様々なコメントを頂いた。
・バイオマス発電は、廃棄部や植物を原料にした燃料を使って発電するものだが、植物を育てる段階で石油などの燃料を使うと、結局、排出されるCO2が上回ってしまうことが問題である。
・植物を耕作するために山や熱帯雨林などを切り拓いて土地を作っており、本当に地球に優しい発電かどうか、やや疑問。
・発電燃料を確保するために、必要以上の環境悪化につながらないように配慮され、世界の人類が事態を共有していなければいけない。
・バイオマス発電普及の推進が食料難や環境破壊に拍車をかけては意味がない。原料及び廃棄物のトレーサビリティには注視したい。
・温室効果ガス等の排出や汚染物質の量をいかに最小限に留めることができるか。
・地球温暖化に対する一般市民レベルでの危機意識および改善意識を醸成することが必要。
・バイオマス発電は第一次産業との関連性も強く、雇用創出効果もあることから、地域の活性化に資する可能性がある。一方で、コストの問題やバイオマス燃料製造の際に多くの化石燃料を必要とする等、環境負荷の問題があり、こうした問題の解決が求められる。
・環境社会影響評価の定量的な基準や融資先の取引先にも理解を得られるようなガイドラインが必要。
・バイオマス発電は、国内において間伐材や未利用材を有効活用して行う限りは、地域活性化や林業者の所得向上に資する取組みである。
・「純国産」、「資源循環型」のバイオマス発電がビジネスとして成立し、持続するためには、林業の担い手確保や資金面でのサポートも必要。
・事業全般コストがかかる事業であり、不測の事態に耐えうる体力のある企業であること。
・利益に固執しない企業の考え方を国が方針を出すべき。従った企業に銀行は貸出しを行うべき。
・環境保全に繋がる持続可能な取組支援策のひとつとして捉えている。今後更なる波及を目指すには、より正確で分かり易いデータ・実績の蓄積や認知が必要。

関連動画

関連資料

見解:バイオマス発電は「カーボン・ニュートラル(炭素中立)」ではない
「バイオマス発電をめぐる要請書 FIT法の目的である『環境負荷の低減』の実現を」
「バイオマス発電に関する共同提言」
何が問題? H.I.S.のパーム油発電Q&A
声明:FITバイオマス発電に温室効果ガス(GHG)排出評価を!――学識者ら276人

 

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