何が問題? G-Bio石巻須江バイオマス発電所

バイオマス2023.12.6

作成:2022年4月21日
更新:2023年12月6日

事業中止を求める地元住民によるスタンディング

宮城県石巻市須江地区で着工されようとしているG-Bio石巻須江バイオマス発電所。出力102,750キロワットで、液体燃料を使うものとしては国内最大規模です。しかし、近くに小学校や保育所があり、大気汚染や燃料用タンクローリーなどの交通量増大の懸念から、地域住民は猛反対。地元自治体も事業への懸念を示しています。
事業者の燃料をめぐる説明は二転三転しています。2017年、パーム油を燃料としてFIT認定を取得、その後、住民には、モザンビーク産のマメ科植物からとれるポンガミア油を使う、パーム油は使わないと説明してきました。しかし、2023年、経済産業省の指導を受け、パーム油を使用するという前提で環境影響評価を修正し、説明会を実施しました。

概要

名称:G-Bio石巻須江バイオマス発電所
事業者:合同会社 G-Bio石巻須江[1]
事業地:宮城県石巻市須江地区
規模:出力102,750kW(液体燃料を使うバイオマス発電としては最大規模)
燃料:パーム油かポンガミア油かで二転三転している。

経緯

2017年2月事業者がパーム油を燃料としてFIT認定を取得
2018年12月宮城県環境影響評価条例に基づき、県に方法書を提出。燃料としてマメ科植物ポンガミア油を前提とした。
2021年2月地元住民団体(「須江地区保護者の会」など)、事業中止を県に要望。反対署名9,751筆を提出。>参考記事(河北新報2021.2.11「石巻・須江地区バイオマス発電計画 地元住民、県に中止要望」)
2021年3月石巻市、本事業に関して、地域住民の理解を得ることを義務化すべきという趣旨の意見書を可決
2021年4月地元住民が事業に抗議してスタンディングを実施
2021年6月地元住民団体、FoE Japanなどの環境NGOが、経済産業省にFIT認定取り消しを求める要請書を提出
2021年7月事業者が開催した説明会で住民らの反対意見が相次ぐ。事業者は燃料として、モザンビーク産のマメ科植物ポンガミア油を使用すると説明。
2021年8月住民3団体、事業撤回を求め、石巻市長に申し入れ 
参考記事)河北新報021年8月21日「須江の液体バイオマス発電所 住民3団体、市長に計画撤回求め要望書
2021年10月宮城県、再生可能エネルギー発電施設に関して、地域との合意形成を明確に位置付けるなどの法整備を求める意見書を可決
2021年11月経済産業省バイオマス持続可能性ワーキンググループ第13回にて、ポンガミアは、燃料としては認められないことが資料に明記される
2022年3月地元住団体、本事業の環境影響評価のやり直しおよびFIT認定取り消しを県および経済産業省に要請
2022年3月環境影響評価書が公開・縦覧に(3月29日~5月8日)。ポンガミア油が前提。
2022年8月着工予定
2022年10月11日住民説明会実施。2023年3月の着工、26年5月という案が示される。住民側反発。※参考)2022年10月19日「石巻・須江バイオマス発電所 事業者「来年3月着工」 住民側、撤回求める」(河北新報)
2023年2月28日経済産業省、G-Bio社に改善命令。FITの認定取得時は燃料をパーム油としていたが、環境影響評価の手続きや住民への説明ではポンガミア油を使用するとしていたため、以下の改善措置を求めた。
①認定された燃料(パーム油)の安定調達に関する計画の策定及び体制の構築に関する措置、②認定燃料による事業実施を前提とした環境影響評価手続、住民説明会の実施及びHP 等における掲載内容の変更など
2023年7月7日G-Bio社、改善命令をうけた修正版環境影響評価の公告を開始。パーム油を前提としつつ、ポンガミア油がFITで認められれば使用することを示唆。2024年1月頃着工、2027年4月頃の運転開始を計画。
2023年8月26日燃料輸送車の試験走行を実施。走行ルートとして想定する石巻工業港と須江地区の建設予定地付近を、大型トレーラー2台が2往復。走行したのは、全長14メートル、積載20トンの大型トレーラー。積載部分は空の状態で走らせた。※参考記事2023年8月29日「石巻・須江バイオ発電計画 燃料輸送車2台、工業港から試験走行 安全性を検証」河北新報
2023年9月9日、10日修正版環境影響評価に基づく住民説明会。「本当はポンガミアを使いたいが経産省に言われたのでパーム油を使うと言わざるを得ない」という趣旨の説明をした。住民からは反対意見相次いだ。

問題点

本事業において、とりわけ懸念されるのは、住民の強い反対、パーム油の国際価格の上昇や変動、認証パーム油の入手困難性など、事業リスクが非常に高いのにもかかわらず、事業者が強引に着工しようとしていることである。このままでは、事業地周辺の自然を壊し、地域住民の暮らしを脅かし、燃料生産地にも事業地にも大きな負の影響をもたらしたあげく、発電所の廃墟を残して事業者がいなくなるという事態も起こりえる。

1.以下の理由から、住民が強く反対している

通学路。この見通しの悪い道を燃料運搬トレーラーが一日33台通る。道路幅は狭く、ダンプと普通車がすれ違えない状況。
  • 住宅地のほぼ中心にあり、地区全土に影響が及ぶ
  • 小学校、中学校、保育所のすぐそばである
  • 見通しの悪い通学路を燃料運搬トレーラーが一日に33台も通る。
  • 排気ガス(SO2、ばいじんなど)の影響が懸念される
  • 土砂災害危険地区に隣接する

2.燃料が二転三転

2017年2月、G-Bioは燃料をパーム油としてFIT認定を取得したが、その後、住民には燃料としてモザンビークで生産するポンガミア油を使う、パーム油は使わないと説明してきた。

2023年、経済産業省の改善命令を受け、パーム油を前提として環境影響評価を修正し、住民説明会を開催した際は、「本当はポンガミア油を使いたいが経産省に言われたのでパーム油を使うと言わざるを得ない」という趣旨の説明を行った。

同社は、ポンガミア油については「継続審議中」と認識しており、ポンガミア油を「制度対象外」と報じた河北新報社記事に対して訂正を求めている(2023年9月13日付G-bioウェブサイトより)。

バイオマス持続可能性ワーキンググループは、食料競合の観点から、農産物系の燃料については、「非可食かつ副産物」と整理している。ポンガミアは農業主産物であるため、燃料としては認められないと位置づけている(2021年11月22日第13回ワーキンググループ資料p.5参照)。

3.燃料生産段階の環境社会影響

アブラヤシ・プランテーション開発のために、伐採された山
(マレーシア・サラワク州)©FoE Japan

パーム油を使うにしても、ポンガミア油を使うにしても、環境社会影響は大きい。

パーム油を使う場合は、もしフル稼働するとすれば、年間推定約20万トンものパーム油を燃やすことになる。これは日本のパーム油輸入量(2022年66万トン)の3割程度となる。

パーム油の原料となるアブラヤシ生産のための農園拡大は、東南アジアにおいて熱帯林減少の最大の要因として指摘され続けてきた(詳しくはこちら)。

熱帯林や泥炭地の開発による、生物多様性の減少や温室効果ガスの発生に寄与し、影響が大きい。

ポンガミアを使う場合は、モザンビークの広大な土地を日本の発電用燃料生産のために囲い込むことになる。FoE Japanはポンガミアの栽培場所や栽培計画に関して問い合わせたが、G-bioは回答しなかった。

4.事業性が見通せない

近年、国際価格が上昇し、パーム油を燃料としたバイオマス発電所は全国で停止している。(※朝日新聞「パーム油発電、全国で停止中 「話にならない」と各社が嘆く理由」2022年7月)

FIT事業計画策定ガイドラインでは、事業者に対して、RSPOなど持続可能性認証を受けたパーム油の使用を義務付けているが、その供給量には限界がある。

RSPO IP/SGの認証調達に関しては、各社とも2022年3月現在で調達が困難な状況が継続しており、発電所は稼働停止している(株式会社エナリス、神栖パワープラント合同会社、ゼロワットパワー株式会社)。
発電用に大量の認証パーム油が燃焼されれば、従来の食品などでの用途に認証油を使うことができなくなる。

参考

G-Bioイニシアティブは宮城県角田市のパーム油発電所の計画に携わり、同発電所を旅行大手エイチ・アイ・エスが出資するH.I.S. SUPER電力に譲渡した[2]。しかし、同発電所が大量のパーム油を燃料として燃やすことなどから、内外の環境NGOなどから「熱帯林を破壊する」として批判の声があがった。H.I.S. SUPER電力は事業を進めたが、パーム油の調達価格の高騰などもあり、同発電所は運転開始後まもなく停止した[3]。2022年10月、エイチ・アイ・エスは九州おひさま発電にH.I.S. SUPER電力を譲渡した[4]。その後も発電がほとんどできていない状況が続いている。


[1] 代表者は、G-Bioイニシアティブ(東京都千代田区)。

[2] 日刊建設新聞2019年2月1日「石巻でバイオマス発電 21年度から発電所建設へ (G-bio石巻須江)

[3] RIMマーケットニュース2021年5月25日「パーム油発電=エナリスなど稼働停止相次ぐ、燃料価格の高騰で

[4] 河北新報2022年11月3日「HIS、宮城・角田のバイオマス発電所を譲渡 燃料のパーム油高騰で

 

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