声明:原子力規制委員会による東電・福島第一原発処理汚染水海洋放出に関する計画承認に抗議する
2022年7月22日
国際環境NGO FoE Japan
本日、原子力規制委員会は、東電・福島第一原発汚染処理水の海洋放出設備の設置に伴う実施計画の変更申請を認可した。私たちは、①放射性物質は集中管理が原則であり、環境中に放出すべきではないこと、②モルタル固化処分等有効な代替案が提案されていること、③漁業関係者や市民から強い反対の声が上がっていること、海洋放出方針決定以降、公聴会・説明会等が開催されていないなど合意形成プロセスに問題が多いこと――などの理由で以前より処理汚染水の海洋放出に反対してきた。
今回の認可は、主として以下の点において大きな問題がある。原子力規制委員会は規制機関としてその役割を果たしていない。
1.何がどれくらい放出されるのか不明
現在、タンクの中に約126万m3(2022年3月時点)の処理汚染水が貯められているが、この中には、トリチウム以外にも、ストロンチウム90、ヨウ素129などが残留し、7割近くの水で告示濃度比総和1を超えている(基準超えとなっている)。これらの放射性物質の総量は示されていない。東京電力は3つのタンク群についてのみ、64の放射性物質(ALPS除去対象核種62核種およびトリチウム、炭素14)を測定しているが、その他の多くのタンク群については現段階では測定していない。東電は基準超えを起こしている水については、順次二次処理を行い、放出前に測定するとしている。しかし、放出期間は30年以上とみられており、放出が終了するまでは総量は不明ということになる。
また、トリチウムについても、タンク内に780兆ベクレル(2021年5月時点)存在することが示されているが、デブリや建屋内には未だ大量のトリチウムが存在している。地下水の流入をとめない限り汚染水は増え続けるため、放出総量については不明である。
何がどれくらい放出されるのか極めて重要なデータが示されないまま、審査が行われたことになる。
2.64核種以外の放射性物質の検証、放出前の測定核種選定は先送り
東京電力は、64(ALPS除去対象核種62、トリチウム、炭素14)の放射性物質を監視対象核種としていたが、原子力規制庁はそれ以外の核種が残留しないことの根拠を説明することを求めていた。しかし、結局、東京電力の説明は従来の説明にとどまり、何ら新たな検証は行われていない。東電は今後、この点について検証を行い、これを踏まえて放出前の測定対象となる放射性物質についても示すと説明している。つまり、規制委は東電が今後行うであろう「検証」や、放出前の測定対象となる放射性物質について具体化する前に、計画を承認してしまったことになる。
なお、現在、東電が放射線影響評価でソースタームとして示している3タンク群の放射性核種および濃度の測定は、攪拌してから測定したものではない。すなわち、タンク底部に沈殿している物質を捕捉し損ねている可能性がある点も留意すべきである。
3.海洋放出が「リスク低減および最適化をはかるものである」ということが示されていない
規制委は審査結果として、「特定原子力施設全体としての将来的なリスク低減および最適化が図られている」とした。
しかし、リスク低減および最適化は福島第一原発の敷地内のみで達成すればよいというものではなく、海洋環境も含めて評価すべきものである。
また、「海洋放出が全体のリスク低減および最適化をはかるものである」ということを示すためには、他の代替案が検討されていなければならない。
原子力市民委員会などが提案している、堅牢な大型タンクでの保管案、モルタル固化処分案について東電は十分検討を行ったとはいえない。
東電は、大型タンク案については漏洩リスクをあげているが、大型タンクには、石油備蓄で長年の実績があり、防液堤の設置など、十分な対処策がすでに技術的に確立している。むしろ、現在のタンクでの貯留は脆弱であり、計画されている海洋放出期間が30年以上であることを考えれば、漏洩リスクが高い。また、モルタル固化処分案については、水和熱で水が蒸発することを指摘しているが、これについても、対策が可能である。
こうした代替案について提案者の意見をきかずに、東電の見解のみを踏まえて審査を行うことは、不適切である。
4.抜本的な止水対策を優先すべきである
汚染水の主要な発生源となっているのは、建屋内への地下水の流入である。巨額の費用で建設された凍土壁は、地下水の流入を十分止めることができていない上、仮設の施設でしかない。水を通しやすい地層の下限にまで届いていないという指摘もある。地質の専門家により既存技術を使った広域遮水壁の建設が提案されているが、東京電力・政府はこれらの提案を真剣に検討し、抜本的な止水対策を優先すべきである。
以上