東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A

原発2022.5.18

パンフレット(B5版4ページ PDF

最近テレビや新聞で報道されている、福島第一原発で増え続ける「処理水」の問題。

敷地が満杯となり、政府の委員会が、海洋放出の利点を強調した報告書を出しましたが、本当のところどうなのでしょうか? よくある質問に対する回答をまとめました。

Q:そもそも「処理水」って何?

汚染水発生のメカニズムとALPS処理汚染水 (出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書)

A:福島第一原発のサイトでは、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水が混ざり合うことで発生した汚染水を多核種除去装置(ALPS)で処理し、タンクに貯蔵しています(図)。これがいわゆる「処理水」です。タンクはすでに979基で、貯蔵されている処理水は119万m3となりました(2020年3月12日時点)。

正確に言えば、「ALPSで処理されたが、放射性物質を含む水」というところでしょうが、長いので、ここでは「処理水」に統一します。

Q:「処理水」には何が含まれているの?

A:東京電力の試算では、約860兆ベクレルのトリチウムが含まれています。2010年、福島第一原発からは2.2兆ベクレルのトリチウムが海に放出されていたので(注1)、その約390倍の量となります。

ALPSではトリチウム以外の放射性物質を取り除くことができるとされていました。このため、東京電力や経済産業省は、「トリチウム水」と呼んでいました。しかし、2018年8月の共同通信などメディアのスクープ(注2)により、ヨウ素129、ルテニウム106、ストロンチウム90などそれ以外の核種も基準を超えて残存することが明らかになりました。その後の東電の発表により、現在タンクにためられている水の約7割で、トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が全体として排出基準を上回っており、最大で基準の2万倍(注3)となっています(図)。東電は海洋放出する場合は二次処理を行い、これらの放射性核種も基準値以下にするとしています。

Q:トリチウムって何?

A:水素の同位体である「三重水素」で、陽子1個と中性子2個から構成されます。半減期12.32年の放射性物質で、ベータ崩壊をし、ヘリウムに変わります。

放出するエネルギーは小さく、最大で18.6keVで、セシウム 137 の最大値512keVの30分の1程度です。トリチウムは自然界にも水の形で存在しますが、核実験や原発施設からの放出によって増加しています。

Q:トリチウムは安全?

A:トリチウムの影響については専門家でも意見が分かれています。政府は、「水と同じ性質を持つため、人や生物への濃縮は確認されていない」としています。

しかし、トリチウムが有機化合物中の水素と置き換わり、食物を通して、人体を構成する物質と置き換わったときには体内に長くとどまり、近くの細胞に影響を与えること、さらに、DNAを構成する水素と置き換わった場合には被ばくの影響が強くなること、トリチウムがヘリウムに壊変したときにDNAが破損する影響などが指摘されています。(注4)

Q:海洋放出しか現実的な手段はないのでは?

A:政府は2022年夏頃に原発敷地内でタンクが設置できる空き地がなくなるとしています。

しかし、海洋放出が唯一の選択肢というわけではありません。プラント技術者も多く参加する民間のシンクタンク「原子力市民委員会」の技術部会は、「大型タンク貯留案」、「モルタル固化処分案」を提案しています。(注5)

Q:大型タンクに保管するというのは、どういうメリットがあるの?

A:大型タンク貯留案は、ドーム型屋根、水封ベント付きの約10万m3の大型タンクを建設する案です。建設場所としては、7・8号機予定地、土捨場、敷地後背地等から、地元の了解を得て選択することを提案しています(図)。800m×800mの敷地に20基のタンクを建設し、既存タンク敷地も順次大型に置き換えることで、新たに発生する処理水(日量150m3)約48年分の貯留が可能になります。大型タンクは、石油備蓄などに使われており、多くの実績をもっており、現在のタンクよりも堅牢です。
大型タンクに保管することにより、トリチウムの減衰効果も期待できます。

東電福島第一原発の構内図

Q:「モルタル固化処分案」とはどのようなもの?

アメリカのサバンナリバー核施設で、モルタル固化処分された汚染水
出典:Savannah River Remediation LLC (SRR)

A:「モルタル固化案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、巨大なコンクリート容器の中に処理水をセメントと砂でモルタル固化し、半地下の状態で処分するというものです(写真)。利点としては、放射性物質の海洋流出リスクを半永久的に遮断できることです。更に、固化された処理水は同様に減衰していくので将来のコンクリートやモルタルの劣化に対しても十分に安全です。ただし、セメントや砂を混ぜるため、容積効率は約4分の1となります。それでも800m×800mの敷地があれば、約18年分の処理水をモルタル化して保管できます。経産省タスクフォースのオプションの中にも「固化・地下埋設案」として採り上げられていましたが、いつの間にか検討対象から外れ、最も安価な海洋放出案一本に絞られているのが現状です。

Q:敷地は本当に足りないの?

A:敷地の北側には、現在土捨て場になっているエリアがあり、この土に含まれている放射性物質について、東電は「数Bq/kg~数千Bq/kg」と説明しています。

経済産業省のもとに設置された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」でも敷地が本当に足りないかどうか議論になりました。委員からは、「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」「土捨場となっている敷地の北側に、現在と同程度のタンク群を設置できるのではないか」「土捨て場の土を、中間貯蔵施設に運び出すことができるのではないか」などといった意見がだされましたが、政府はいずれも「地元の理解を得るのが困難」としています。(注6)
これに対して、今年1月22日、衆議院議員会館で開催された処理水の処分をめぐる集会にて 、大熊町町議の木幡ますみさんは、「大熊町民でも反対の声が強い。『汚染水を流すぐらいだったら自分の土地を使って置いておけばいい 』という声もある」としています。

福島県新地町の釣師浜漁港にて

Q:漁業者は何と言っているの?

A:福島県漁連の野崎哲会長をはじめ、地元漁業者は繰り返し反対の意思表示をしています。「復興に向けて、せっかくここまできたのに、万が一のことがあったら漁業は壊滅的となります」。小名浜機船底曳網漁業協同組合理事の柳内孝之さんはこう述べています。「海洋放出は長期的に禍根を残すでしょう。先が見えず設備投資をすることもできません」。

茨城沿海地区漁業協同組合連合会も2020年2月、処理水を海に放出しないように求め、県知事に対して要請を行いました。これを受けて、茨城県の大井川和彦知事は、海洋放出が現実的という審議会の結論に対して「白紙の段階で検討し直してほしい」と述べています。

Q:もう一度、冷却水に使えないの?

A:建屋で発生している汚染水の一部は、塩分とセシウム、ストロンチウムを取り除いた水を再度、冷却水として使っています。 水の収支バランスを考えれば、建屋には地下水が流れ込んでいるので、その分の水量は取り出し、処理水としてタンクにためることになります。

Q:福島県の世論は?

A:朝日新聞と福島放送が、2020年2月に福島県の有権者を対象に共同で行った世論調査によれば、「処理水」を薄めて海に流すことに対して57%が「反対」としています(「賛成」は31%)。(注7)

Q:トリチウムの規制はないの?

A:トリチウムは、排出濃度の基準として6万ベクレル/リットルが設けられています。

年間の排出目標値は原子力施設ごとに定められており、原発事故前の福島第一原発の場合、年間22兆ベクレルです。原発事故後、この目標値は使われていませんが、仮にこの目標値を守るとすると、860兆ベクレルのトリチウムを放出するためには数十年かかることになります。

サブドレン、地下水バイパスからの水を放出する際、東京電力は、敷地周辺の被ばく線量の法的限度(1ミリシーベルト/年)から、トリチウムの放出限度を1500ベクレル/リットルとしています。

飲料水のトリチウムの濃度基準には大きな幅があり、WHOは10,000ベクレル/L、カナダは 7,000ベクレル/L(オンタリオ州飲料水諮問委員会の勧告は20ベクレル/L)、アメリカ合衆国は740ベクレル/L、EUは100ベクレル/Lとなっています。これはトリチウムの健康リスクに関して、意見が分かれていることに由来するものかもしれません。東電や経済産業省がよく引き合いにだすWHOの基準は、カナダやアメリカ、EUと比して高い基準となっています。

>関連情報:学習会:ALPS処理汚染水について知っておきたいこれだけのこと


注1)経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第16回)」資料4
注2)共同通信「基準値超の放射性物質検出/トリチウム以外、長寿命も」2018年8月19日配信
注3)経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第10回)」資料3
注4) 北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏は、トリチウムがDNAに取り込まれる危険性についてたびたび指摘しています。たとえば以下をご参照ください。
「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」説明公聴会
『トリチウムの健康被害について』(市民のためのがん治療の会)
その他たとえば以下のような資料があります。
馬田 敏幸「トリチウムの生体影響評価」(『産業医科大学雑誌』Vol.31 No.1 (2017) p.25)
Ian Fairlie, A hypothesis to explain childhood cancers near nuclear power plants, Journal of Environmental RadioactivityVolume 133, July 2014, Pages 10-17
上澤千尋「福島第一原発のトリチウム汚染水」(「科学」2013年5月)
Tim Deere-Jones (Marine Radioactivity Research & Consultancy: Wales: UK),Tritiated water and the proposed discharges of tritiated waterstored at the Fukushima accident site

注5)原子力市民委員会「ALPS 処理水取扱いへの見解」
注6)第13回、第14回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
注7)朝日新聞「福島第一の処理水、海放出「反対」57% 県民世論調」


※参照資料

経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」報告書・資料

原子力市民委員会「ALPS 処理水取扱いへの見解」2019年10月3日

2020年1月22日 「学習会:ALPS処理汚染水のこれから ー置き去りにされた陸上保管案」資料

東京電力ホールディングス株式会社「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について」(2020年3月24日)


※このQ&Aの取りまとめにあたっては、以下のみなさんのご協力をいただきました。御礼申し上げます。
大沼淳一さん(原子力市民委員会、元愛知県環境調査センター主任研究員)
川井康郎さん(原子力市民委員会、元プラント技術者)
伴英幸さん(原子力資料情報室)
水藤周三さん(高木仁三郎市民科学基金)

作成・問い合わせ先:
国際環境NGO FoE Japan

 

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