三菱商事への株主提案は否決:三菱商事は情報開示と気候変動対策の強化を
国際環境NGO FoE Japan
マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
マーケット・フォース、気候ネットワークおよびFoE Japanに所属する個人株主が、三菱商事に対して共同で提出した株主提案は、6月24日の株主総会にて、可決に必要な3分の2の株主の支持を得ることはできませんでした。しかし、どの程度の票を得られたかは現時点で不明なため、評価については速報値が開示された時点で追って判断致します。
本日の年次総会で議案として採決された株主提案は、パリ協定目標と整合する中期および短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定開示(第5号議案)、および新規の重要な資本的支出と2050年ネットゼロ達成の道筋との整合性評価の開示(第6号議案)を求めたものです。
三菱商事は、本提案提出後の5月10日に、「中期経営戦略2024」を発表しましたが、同社が掲げる事業計画やリスク管理プロセスが、表明している気候目標に沿ったものであると投資家が判断するには不十分なものでした。とはいえ、これまでの対話および本株主提案を通して、三菱商事の気候変動対策において前進が見られたことは、意義のあることと言えます。
三菱商事が残された課題の解決に向け、一層の方針強化を目指していくことを期待します。
三菱商事に求められる方針強化
- 2050年までのネットゼロ目標達成に向けて十分な目標値を開示しておらず、特にスコープ3排出量については目標が設定されていない。2050年ネットゼロに沿った事業を進めているかを評価するために、短期の排出削減の目標を策定・開示する。
- 新規ガスプロジェクトの推進は2050年ネットゼロに整合しないので、事業の撤回、あるいは何らかの形で制限する。
- 中期排出削減目標は、現時点で実証されていない水素・アンモニア混焼などの新技術や資産売却に依存したものとなっている。新技術等に関する前提条件を開示し、ネットゼロ達成に向けた道筋をより明確にする。
- 2050年までの自らのネットゼロの約束に沿うよう、資本配分の枠組みを検討する。
本提案の提案者は、総会での結果につき、以下のようにコメントしています。
マーケット・フォース代表のジュリアン・ヴィンセントは、「本日の株主総会では、気候変動リスクへの懸念が三菱商事の株主の関心を集めていることが明らかになりました。三菱商事は、パリ協定目標と整合しないシナリオに基づいてビジネス上の意思決定を続けてますが、この問題は今後数年間で深刻化するでしょう。残念なことに、三菱商事は株主総会前に受領した議決権行使結果を一切表示せず、会場にいる株主や出席できなかった株主に対して配慮の欠ける対応をしました。三菱商事の経営陣に対する反対票が10%を超えることはほとんどないことを考えれば、これは株主の反発をその日のニュースの一部に取り上げられたくないからではないか、と思わざるを得ません。今日は、三菱商事の事業戦略のリスク回避の取り組みにおいて重要な瞬間でしたが、透明性と株主の権利行使の観点からは残念な結果でした。」と述べました。
FoE Japanの気候変動・エネルギー担当 深草 亜悠美は、「三菱商事は2050年のネットゼロ目標を掲げていますが、その内容は不明瞭で不十分なものでした。気候変動目標と現状の企業経営のギャップ、対策のあるべき姿について、対話を通じ互いの理解を深めることがある程度できたと感じていますが、必要とされる行動とスピード感がまだまだ足りていません。気候危機は社会全体に影響を及ぼしており、企業自体もその影響を受けます。引き続き、対話やさまざまな手法を通じ、企業に対し行動変容を求めていきたいと思います。」と述べています。
気候ネットワークのプログラム・コーディネーター 鈴木康子は、「三菱商事は、パリ協定に整合するGHG削減目標を策定・開示していますが、国内外で多岐にわたる事業を展開する商社が、どのように目標を限られた時間内に達成するかは企業価値に大きく影響します。企業の資産、抱えるリスクを評価するには情報の開示は不可欠なので、今回の議決権行使にとどまらず、株主としての対話を続けていきます。」と述べました。
昨年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で、温室効果ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力発電所の新規建設中止などを盛り込んだ脱炭素に向けた声明が出されたのに続き、今年5月末に開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、2035年までに電力部門を脱炭素化することも含めたコミュニケ(合意文書)が採択されました。三菱商事にも一層の気候変動対策の強化が求められます。