【鉱物資源ウェビナー】脱炭素の名の下に進むリチウム開発の負の実態~アルゼンチンでは今~の開催報告

(リチウム開発の脅威にさらされるパト川の様子ーFoEアルゼンチン提供)

2026年4月16日に、アルゼンチンで進められているリチウム開発事業の様々な影響について、Tierra Nativa(FoEアルゼンチン)のメンバーと、リチウム採掘により生活に影響が出ている地域住民の方にお話を伺いました。

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日本と南米大陸は、地球の反対側に位置しており、物理的にとても遠い場所にありますが、私たちが普段使用しているリチウムイオンバッテリーの原料となるリチウムの一部は、アルゼンチン北西部やチリ北部、ボリビア南東部を含むアタカマ・プーナ地域の塩湖で採取したものが輸入されています。

エネルギートランジションの文脈の中で、リチウムやニッケル、コバルトや銅などは重要鉱物と指定され、各国がその確保に向け競争をしています。また、地政学的リスクを避けるため、供給先の多角化も行われており、アルゼンチンで採掘されるリチウムもその多角化戦略の一つです。

このブログでは、ウェビナーでお二人にお話しいただいた内容と、時間の制限によりウェビナー中に回答ができなかった質問をいくつか取り上げ回答します。

Tierra NativaのNataliaさんのお話

私たちの国で起きていることに関心を持っていただきありがとうございます。今年3月にFoEアルゼンチンが発表した報告書 “Violaciones de derechos humanos y ambientales en la minería de minerales críticos en Argentina: Los casos de Glencore y Rio Tinto(仮訳:アルゼンチンにおける重要鉱物採掘に伴う人権および環境権の侵害:GlencoreとRio Tintoのケース)” の内容について簡単にお話しをします。ラテンアメリカ全体で共通して言えることですが、私たちにはグローバル市場における資源の「供給者」という役割が与えられています。単純に供給するだけがグローバルサウスの役割であるべきではなく、エネルギートランジションのための私たちのポジションについて再考する姿勢が必要です。

チリ、ボリビア、アルゼンチンにまたがる、世界の約68%のリチウム資源が埋蔵されていると言われるリチウムの三角地帯は有名ですが、ここ数年でリチウムやレアアースの急激な需要増加が予想されています。私たちは、集中資本主義、不平等や緑の採掘主義(green extractivism)推進に基づいた商業ベースのリチウム生産が、自分たちの領土で行われていることを懸念しています。この需要は、地政学的にも重要性を帯びており、特にアルゼンチンのこれらの資源は米国や中国、EUなどの利益のため重要鉱物調達に係る規定に基づき、各国の産業を担保するために用いられています。現在緊張状態が生じていますが、これらの国に共通しているのは、アルゼンチンはただの資源供給国としての位置づけでしかないことです。私たちにはリチウムを含む資源の産業化を選択する機会が与えられていません。私たちにあるのは、多国籍企業による集中的な採掘のみです。

アルゼンチンには、不安定な電力へのアクセスを含む、広範囲の構造的な不平等が存在しています。特に電気料金に関しては、極右のJavier Milei政権下の2年間で611%も上昇しました。これによりすでに家計に問題を抱えている一般市民が、さらに深刻な影響を受けています。企業に利益が集中している状況は変わらず、コストは外部化されているのです。

リチウム採掘の事業が集中しているのは、アルゼンチン北西部のフフイ州、サルタ州、カタマルカ州です。環境や社会の問題に加えて、経済や主権の問題についても注目しなければなりません。鉱山事業に関与する企業は、アルゼンチンのものも複数ありますが、大部分が外国の企業です。その結果、これらの領土は主権を失い、国外の大企業に奉仕する構造になっています。実際、これらの大企業は発展途上やグローバルサウスの国よりも経済力を有している場合があります。

どうしてこのような事態が起きているか、何故多国籍企業がここまでこの領土に入ってきているのかを明白にするのも重要です。90年代から新自由経済主義が台頭し、特に鉱山事業に至っては、鉱物採掘に伴う源泉徴収などの税金は僅か3%であるなど、企業に優位な鉱業法が30年間有効でした。アルゼンチンに入ってくる利益がどれだけ少なかったか、この数字から分かります。90年代から30年が経ちましたが、鉱業法はさらに悪く、さらに採掘を推進するようなものに変わってしまい、2025年に承認されました。例えば、現政府が承認した悪法の1つに、RIGI(大型投資奨励制度)が挙げられます。大規模投資を保護し、鉱山企業にさらに利益をもたらすものです。源泉徴収3%の完全削除もこの中に含まれます。企業による私たちの領土への投資が、自動的に人びとに富をもたらすという誤った前提のもと進められているのです。この誤りを数十年前から私たちは確認しています。また、氷河の保護を目的としていた「氷河法」は、アンデス山脈の水源、氷河を鉱山開発から守っていましたが、ここ数か月で改悪されてしまいました。

(発表資料より。FoEアルゼンチン作成)

鉱山事業はプーナ生態地域で展開されています。この地域は非常に乾燥し、特に高原は4,000m程と標高が高く、年間100mm以下と降水量が極端に少ない場所です。その環境下で、主にアタカマ(Atacameños)やコジャ(Kolla)の先住民族コミュニティのメンバーにより構成される地域住民にとって、水資源はとても重要です。水資源は高山の氷やアンデス湿地、塩湖に保存されています。これらの極度に乾燥した地域では、水の問題は根本的な生存の問題に直結しています。

このような繊細な地域にRio Tintoのような鉱山企業が入ってきています。当企業はリンコン事業の近くに位置する、フェニックス事業にも関与しています。この事業はサルタ州の南のカタマルカ州のAntofagasta de la Sierraという場所で行われています。Rio Tintoは過去にインドネシア、マダガスカル、セルビア、ニューギニア等複数の国で告発されており、地域住民はそのような企業による操業をかなり心配しています。水資源が脆弱な場所で複数の事業が同時に行われていますが、多くの場合個別事業ごとに環境影響評価を行うため、地域全体の真の累積影響が評価されていないことが心配されています。「氷河法」の改悪は、各州が各氷河に特化して評価するというこの傾向を受け継いでいます。脆弱性の高い生態系に関する累積影響を評価しないため、環境評価分析の断片化が脅威を増加させています。

リチウム採掘には大量の水消費が伴います。例えばフェニックス事業のデータでは、事業による年間水消費量が、14万1,000人の年間使用量に相当しています。この地域には約2,000人が住んでいるので、比較的人口が少ない場所で企業の使用可能量がここまで多いという、水資源の獲得競争に関して大きな矛盾の状況が見えてきます。事業操業の結果、生態系にとって非常に重要であり、地域コミュニティにとっては畜産のために肝心な水源であった、トラピチェ川が干上がってしまいました。アントファガスタの町を含む、山脈付近の町では何度も断水が起きています。この地域では人びとが非常に少ない水資源を有している一方で、鉱山企業は高地または早く水資源にアクセスできる場所で操業するため、人びとよりも先に水資源を確保しています。産業廃棄物も野外に置かれ、生態系が脆弱である場所に化学物質が置かれているため、野生生物への深刻な影響が出ています。

環境や水資源の問題は、多くの社会的な対立・紛争も生んでいます。企業が高地に辿り着くための道路の建設や、乗り物の頻繁な行きかいが地域コミュニティとの争いの原因になっています。独立した情報と市民参加の欠如や、パト川の導管建設の際の協議不足など、数えきれないほど地域住民に対する権利侵害の状況が起きています。事業側は事前に相談せずに、彼らの領土内で物事を始めるのです。また、水資源へのアクセスの欠如は生命の存続に直結しているため、集団的な基本的権利の侵害だと考えられ、報告されている中で最も深刻な問題です。コミュニティリーダーなどの、特に事業に抵抗している人びとに対する嫌がらせや犯罪化、恣意的な逮捕や脅迫なども懸念しています。鉱山企業は許可なく地域住民の居住地域に侵入し、同意なしに探査を開始、さらにその地域での行為に関する情報提供を拒否していることに対し、住民たちは憤慨しています。Vega(湿地の一種)の干上がりにより、家畜を維持することができなくなり、以前は生計手段であった小規模での畜産ができなくなっています。その結果、何世代も前からの住処を離れざるをえなくなるのです。他にも、地元警察がいつも企業側についており、家を離れたくない人びとに対する少なくとも5件の逮捕がありました。企業所有道路で警備体制が敷かれ、先祖伝来の地域における住民の自由な移動が制限され、企業による領地の制限が行われることも重大な問題です。

調査により、以下の考察と提言が導き出されました。
・流域や生態系で繋がっている広範囲の場所で複数の事業が行われていますが、それらの事業による累積的な環境影響評価が欠如しています。各事業で独立して行われているので、全体の被害状況が分からず、さらなる事業誘致を可能にしてしまいます。
・企業による支配により、国の制度や公聴会を含む民主的メカニズム管理が弱体化されています。伝統的な生き方を続けようと地域で抵抗運動を行う人びとがいますが、国は企業ではなく、人びとの味方であるべきです。市民の参加やILOの169条項(先住民族の権利)を保証し、公聴会の不実施を含む人々の許可を得ずに行われている事業は無効化するべきです。民主主義的な過程を尊重せず、むしろ妨害する企業と利益相反する地方公務員等を引き離すべきです。
・地方の経済を優先することが重要です。これらの領土では他の経済活動の方法はなく、鉱山活動を行い人びとを犠牲にすることが唯一の代替方法であるという政府の支配的な主張は間違っています。すでにこの領土内では農業、観光など様々な形態の経済が発展しており、企業はこの歴史的に形成されている地域経済を尊重し、発展をサポートするべきです。

地域住民のElizabethさんのお話

リチウム開発の負の影響を受けているElizabethさん

私はアタカマ高地のコミュニティに住んでおり、この8年間自分たちの領土保護、防衛のために活動してきました。鉱山企業が来てから、私たちの土地で様々な問題が起こっています。

私たちの領土には、Rio Tintoの他にも様々な多くの鉱山企業が入ってきています。鉱山企業は採掘活動を行うにあたり、事前協議や公聴会などを設けていますが、それらは全て「偽り」のものであると言わざるを得ません。コミュニティの意見や領土を尊重せず、多くの権利を侵害しています。そこで交わされる偽りの約束を通して、企業に悪い開発の責任があると私たちは考えています。しかし彼らだけではなく、地区、州、国政府にも責任があるのです。コミュニティに何も利益がもたらされないにもかかわらず領土を売ることについて、政府は自分たちには関係ないと思っています。

何もしていないのに理由が捏造され、複数の家族が逮捕されています。コミュニティの人びとの不当な逮捕が行われ、多くの暴力が振るわれました。人権は尊重されていません。コミュニティにとって、とても大変な出来事でした。採掘事業が進めば進むほど、川や水資源が干上がり多くの動物を殺しています。そして、Hombre Muertoのお墓にいる私たちの先祖の権利も侵害されています。事業者は鉱山までの道路を建設するためにお墓を破壊しようとし、それに対して私たちは告発を行いました。企業側には、私たちに対する尊重の意は全く存在しません。ここにいるのは全て多国籍企業であり、他国の発展のために採掘活動に従事しています。それは私たちの犠牲、動物の喪失の上で成り立っています。私たちは、収穫や畜産、手工芸品の制作などで生きていますが、鉱山企業の多くの人間や乗り物、機械が入ってきて、踏みつぶされているようです。6、7年前までは本当に静かで平穏なコミュニティの中人びとは暮らしていましたが、今はそのような生活はできません。企業が何か損害を与えても罪に問われず、逆に彼らの行いが称賛されます。コミュニティの若者に仕事はありません。いつも企業は雇用や発展が地元にもたらされると約束してきますが、全ての利益は企業に入ります。

何が起きているかを全て説明するのは難しいですが、他国の人びとのサポートには感謝しています。自分たちの領土を含む場所でのリチウムや他の鉱物資源の開発は、日本を含むグローバルノースの経済のために行われていると知っています。しかしそれに伴い、領土、コミュニティ、生物多様性が大量に破壊され、水資源が干上がっています。私たちにはもう水資源は残っていません。雨も雪も降らず、寒さは年々厳しくなっています。私たちに何の利益もありません。電力についても、太陽光発電はリチウムによって支えられていますが、私たちが供給するにもかかわらず、その資源へのアクセスはありません。政府にとっては、1,800~2,000人ほどの小さい村にリチウムバッテリーを投資するには費用が高すぎるためです。これまで金やリチウムの採掘が行われてきましたが、カタマルカ州はアルゼンチンの中でも特に貧しいままです。発展も、利益も未来もありません。私たちの未来の世代を殺しているということが、一番悲しいです。私は今ここに住めていますが、次の世代は安全な環境で暮らすことができないのです。
このような現状を是非多くの方に知っていただき、問題を可視化してほしいと思います。

質問へのTierra Nativa(FoEアルゼンチン)による回答

Q1.政府による統制が必要というお話があったあとに、「恣意的な逮捕も行われている」というお話がありましたが、警察は (悪徳的な) 企業側についてしまっているということなのでしょうか?

A1.はい。残念ながら、私有財産や外国投資の保護は、公共財、公共資源、そして一般市民の権利よりも優先されます。そのため、法執行機関はしばしば権力者の側に有利な行動をとります。これは、当局が先住民族コミュニティに対して抱く人種差別的な態度が一因となっています。

Q2 . アルゼンチンの水利権は、法的にはどうなっているのでしょうか?

A2. アルゼンチンでは水資源への人権は認められていませんが、環境に関する広範な法制度が整備されており、その始まりは憲法第41条に持続可能性の概念と、すべての住民が健全な環境を享受する権利が明記されている点にあります。生命の保護は地域社会の義務であるだけでなく、公的機関の責務でもあると強調されています。

アルゼンチンにおける水資源の環境管理に関する法律第25,688号(2002年)は、河川流域を含む水資源の保全、利用、および合理的使用に関する最低予算を定めています。この法律は、持続可能な管理を保証し、地表水および地下水資源を保護し、流域委員会の設置を促進することを目的としています。

カタマルカ州レベルでは、州水法第2577号が公共水域を規制しており、第4条で「水は公共財であり、最大限の利益を得るために合理的に利用されなければならない」と定義しています。 第6条は、水資源の利用に関する優先順位を示しており、1番目には人びとへの供給と書かれています。

Q3. 2011年の国連指導原則が採択されて以来、サプライチェーン、地域社会の人権に与える悪影響を防止・軽減し、尊重する責任を指す「ビジネスと人権」の観点から企業を追求できないのでしょうか?

A3. 国連グローバル・コンパクトは、多国籍企業が人権を尊重するための原則を定めたイニシアチブです。2011年に、人権侵害を保護、尊重、是正するための枠組みとして「指導原則」が策定されました。現在、これらの原則は、国家と企業双方にとって、ビジネスと人権に関する事実上の基準となっています。しかし、これらの原則は人権そのものではなく、世界人権宣言や人権条約に既に明記されている人権を指しています。

これらの原則によれば、企業は国際的に認められた人権に悪影響を与える行為を控える必要があります。指導原則は法律や義務ではなく、法的拘束力を持たない「ソフトロー(Soft Law)」に分類され、遵守は任意です。この点が、アンダルガラ(Andalgalá)をはじめとする鉱山採掘の被影響コミュニティにおいて、企業の行動を正当化する根拠として利用されています。グローバル・コンパクトは、12,500社以上の企業と3,000の非企業団体の署名を得ています。Rio Tinto社は2020年から署名していますが、4カ国から非難を受けています。

多国籍企業の現状は、人権、コミュニティの権利、そして環境に対する尊重という基準を満たすには程遠い状況です。そのため、私たちは現在国連で策定中の拘束力のある条約のイニシアチブを支持します。


前回(2025年7月、ウェビナーはこちら)に引き続き、今回のウェビナーにも多くの方にご登録/参加いただきました。ウェビナー中にご質問も多く寄せていただきありがとうございました。
私たちに直接関係がある問題であるにもかかわらず、残念ながら日本語による情報も少なく、問題が広く認知がされていないというのが現状です。是非、今回のウェビナーを機に周りの方にも情報共有を行っていただき、対話の機会にしていただきたいと思います。今後もこのような場を通して、「公正」なエネルギートランジションや、有効な気候変動対策実現のために私たち一人ひとりがどう向き合い、行動していけるかをみなさんと共に考えていきたいと思います。

 

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