10月にモザンビークからNGOのメンバーが来日——モザンビークLNG事業について各機関と対話

脱化石燃料
事業に融資を決定している国際協力銀行(JBIC)の前でのフォトアクションの様子

10月最終週にモザンビークのNGO、Justiça Ambiental (JA!)/ FoEモザンビークのスタッフ3名が来日し、日本の官民が深く関与をしているモザンビークLNG事業(事業の概要はこちら)についてその問題点を訴えるため、関係金融機関への訪問や記者会見を行いました。

モザンビークLNG事業とは、モザンビーク北部のカーボ・デルガード州で開発されているLNG事業で、2010年にガス田が発見されてからこの地域で進められている4つのLNG事業のうちの一つです。この事業では、海底2,000~3,000mからガスを採掘し、40kmの海底パイプラインでガスを陸上に運んだ後、アフンギLNGパークで処理を行います。

日本からは、三井物産と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の合弁企業であるMitsui E&P Mozambique Area 1Ltd.が事業に対し20%の出資を、公的機関としては国際協力銀行(JBIC)が計35億ドル以上の融資、日本貿易保険が20億ドルの付保を決定しています。他にも三菱UFJ、みずほ、三井住友などをはじめとする各民間銀行が金融支援を行い、ガスの運搬船やLNG施設の設計にも日本の企業が多数関わっています。東京ガス、東北電力、JERAがガスの購入者として契約を結んでおり、全体の生産量の30%が日本に輸入される予定です。

現地では、2017年から事業地周辺の治安が悪化しており、2021年3月にパルマ町で起こった大規模な襲撃に伴い、事業会社である仏トタル・エナジーズ社がその翌月に「不可抗力宣言」を出し事業が一時中断しています。その後事業再開の示唆は何度かされているものの、2025年12月時点で正式な再開の日程は発表されていません。

事業地の地図(Solutions for Our Climate提供)

現地では、ガスの採掘、生産に伴う環境、社会、人権、経済的な問題が次々と起こっています。今回のモザンビークNGOメンバーの来日では、これらの様々な深刻な懸念を、事業に関与している日本の官民に直接伝えるという目的の下行われました。

話の中では、事業により土地を追われ移転を強いられた人びとが、未だに約束されていた補償や代わりの農地を受け取れておらず、食物の生産が困難になっていることが伝えられました。また、これまで海や海岸で自由に漁や採取をしていた人びとが、海から遠い場所に移転させられ、事業者により海までの往復の交通手段が用意されても、決まった限られた時間で漁をするのは難しいという現状があります。このように、生計維持に必要な農業や漁業といった活動に大幅な制限がかかることで、地元の方々が食料を十分に確保することが難しくなっています。

現地では、治安情勢も悪化の一途をたどっています。その背景にあるのは、人びとが感じざるをえない不平等感や職や食料が手に入らない無力感、慢性的な貧困状態など、その多くが普段の生活に根ざしたものです。生計手段が影響を受ける一方、事業による雇用は外部の地域から来た人びとにもたらされ、地域の人びとが排除されているという側面も、注視すべき事実です。治安維持のために日本のODA[1]を含む多くの支援が、現地の軍事力強化、治安回復のために投入されていますが、これらの根本的で構造的な部分を解決しない限り暴力の連鎖が生まれてしまいます。ただ平和に暮らすことを願う人びともこれらの衝突に巻き込まれ、日々命のリスクが高い中、生活を送っています。

また、事業者はこの化石燃料事業によりモザンビークの経済に利益がもたらされると主張していますが、不平等な契約などが多く、構造的にそれが実現されることはかなり難しいことも訴えられました。元々サプライチェーンの中にモザンビークの関与が少なく、治安悪化などにより事業が遅延した場合にモザンビーク政府がその補償を行うなど取り決められた「投資家と国との間の紛争解決(ISDS)」などが採用されていることもその要因の一つです。モザンビーク政府に支払われるべき税金も、アラブ首長国連邦に設置された特別目的事業体(SPV)を経由することにより回避されています。さらに、トタル・エナジーズ社は事業遅延により発生した約45億ドル(約6700億円)の追加コストをモザンビーク政府に負担するよう求めてもいます[2]。

LNGなどのガスは、再生可能エネルギーに移行するまでの「つなぎ」のエネルギーとして推進されることが多いですが、化石燃料の一つでありメタンや二酸化炭素の排出量が非常に多いエネルギー源です。元々最小限のエネルギーで、自然と寄り添い暮らしてきた人びとの大切な生活の場所は奪われ、豊かな生態系は破壊され、日本をはじめとするグローバルノースの国々の強力な資本主義の下営まれている現生活の維持、さらなる発展のために資源は輸出されます。「緑の植民地主義」と呼ばれるように、未だグローバルノースからグローバルサウスへの人びと、資源に対する搾取の構造は変わっていないのです。

れいわ新選組の阪口議員と対談する様子

12月初めには、イギリスとオランダの輸出信用機関が、事業に伴う人権侵害を含む様々な問題点を考慮した結果事業からの撤退や、人権侵害状況の調査報告書[3](報告書はこちら)を発表しました。日本の関係機関は責任ある主体としてこの抜けた穴を埋めることなく、現地の住民や市民社会の声を聞き、人権リスクを含む事業に係る様々なリスクを改めて評価し、同事業からの撤退を行うよう強く求めます。

注釈
[1]外務省 モザンビーク共和国に対するオファー型協力「サプライチェーン強靭化のためのカーボデルガード州安定化」メニュー案の公開 2025年8月22日 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/cap3/pageit_000001_02321.html
[2]「トタルエナジーズは、どんな犠牲を払ってでもモザンビークLNGを再開する予定である——ただし、その犠牲を払うのはモザンビークの人びとである」2025年10月28日
https://foejapan.org/issue/20251028/26433/
[3]CRU Report “Human rights violations by Mozambican security forces in Cabo Delgado in the context of the Mozambique LNG project”. Clingendael, Netherlands Institute of International Relations. November 2025. https://www.clingendael.org/sites/default/files/2025-12/Mozambican%20security%20.pdf



 

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