伊エニは「ガスの呪い」を継続するための支援者を求めている(モザンビーク、コーラル・ノースFLNG事業)
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日本の国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などの公的金融機関、複数の民間銀行団が、モザンビークの北部カーボデルガード州で計画されているモザンビークLNG事業を支援しています。しかし、同事業を巡っては人権侵害等が多数報告されており、国際的にも問題視されています。開発が行われている地域では2017年以降、慢性的な貧困や社会不満等から治安が悪化し、2021年4月には事業会社である仏トタル・エナジーズが「不可抗力宣言」を発出し、事業は現在にいたるまで再開されていません。現地では、事業施設の警備にあたる部隊による一般市民に対する暴行が多数報告されています。また、住民に対し適切な補償が未だ行われていないなど多くの問題を抱えています。
そのような状況であるにもかかわらず、日本の官民は、モザンビークで「コーラル・ノースFLNG」という洋上LNG施設の建設に乗り出しています。この事業に関して、JOGMECは既に2024年10月6日に事業会社の伊エニとの間で、日本にLNGを安定供給するために日本の金融機関の支援を促進する覚書を締結しています。1モザンビークLNGが抱える課題は、この事業に固有のものではなく、構造的な原因や現地の情勢なども関わっています。つまり、モザンビークLNGにみられるリスクや問題は、コーラル・ノースFLNGでも繰り返される可能性が高いと言えます。気候危機も深刻になる中、日本の官民は新たなLNG施設への支援を行うべきではありません。
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コーラル・ノースFLNGについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
(以下の記事は、イタリアの環境市民団体ReCommonがコーラル・ノースFLNG事業についての問題点、市民社会団体の動きなどについて執筆したものを、FoE Japanが日本語に翻訳したもの)
記事:Eni seeks backers to continue the “gas curse” – StopMozGas
伊エニは「ガスの呪い」を継続するための支援者を求めている
世界の約50の金融機関が、モザンビーク沖の「コーラル・ノース洋上浮体式天然ガス生産施設(以下コーラル・ノースFLNG)」と呼ばれる新たなガス採掘・液化基地の建設のための資金援助を決定する可能性がある。
マプト(モザンビークの首都)に利益がもたらされるかについては強い疑問が残るが、カーボデルガード州の生態系に不利益がもたらされるのは確かである。
事業を主導するイタリアの多国籍企業エニは、できるだけ早く契約を締結しようとしているが、それは海洋環境に壊滅的な影響を与え、気候変動を引き起こす温室効果ガス排出を促し、モザンビーク経済に損害を与えるインフラに資金を提供することを意味する。これは、このターミナル事業が、事業地であるモザンビークではなく、事業を提案する企業に主に利益をもたらす契約構造となっているからだ。さらに、すでに飽和状態にある液化ガスの世界市場での供給を増やすことになるため、このインフラは不要であると考えられる。
ガスに「ノー!」と言おう
これらが、銀行や輸出信用機関が事業から撤退すべき主な理由である。さらに、この事業は、現在政治的に不安定な局面を迎えているモザンビークに負担をかけるのみならず、近年残忍な武力紛争の舞台となっているカーボデルガード州に建設される。これら全ての議論は、世界各地の市民社会団体からなる「モザンビークのガスにノー!を言おう(Say No! to Gas in Mozambique)」が、コーラル・ノース事業に投資する可能性のある金融機関に昨年12月に送付した書簡の中で指摘している。この事業は、同じくエニが 2022年に建設した、姉妹LNG施設であるコーラル・サウスFLNGから10キロメートル離れた場所に建設される予定である。コーラル・サウスFLNGは、ロブマ盆地の広大な化石ガス田で現在稼働している唯一のLNG施設であり、2006年からモザンビークに進出しているエニによって大部分のガス田が発見されている。
誰が撤退し、誰が残る可能性があるのか
最初の計画(コーラル・サウスFLNG)を支持した銀行の中には、ユニクレジットも含まれるが、今回は独自の規則に反するため参加しないと明らかにした。同州にあるモザンビークLNGターミナルに関与する英国、オランダ、米国の輸出信用機関は、コーラル・ノース事業への融資には関心がない。フランスの商業銀行BNPパリバとオランダのABNアムロも、NGOから送付された書簡に対し、この事業に資金提供しないことを表明した。
しかし、化石ガスの採掘や液化のような、気候や地球に多大なダメージを与える事業の進行を妨げるための約束を十分にしていない金融機関は多い。たとえばインテーザ・サンパオロ銀行は書簡に回答していないばかりか、近年は米テキサス州沿岸のガスの貯蔵・輸出ターミナルに資金提供するなど、液化ガス生産に大きく賭けている。ドナルド・トランプ新米国大統領はすでに、米国の天然ガス輸出に新たな弾みをつけると約束しているが、その発表はエネルギー市場の分析に逆行している。少なくともこの3年間、国際エネルギー機関(IEA)などの機関は世界規模での液化天然ガスの供給過剰のリスクについて警告してきた。
エネルギー安全保障のレトリック
イタリアでは、2022年のウクライナ侵攻に伴うロシアに対する最初の制裁以来、エネルギー安全保障の論調が、新たなガス供給源の探索を後押ししてきた。欧州が米国のタスクフォースからLNGを受け取る契約に署名したが、その後マッテイ計画(注2:メローニ政権が推進する対アフリカ政策。「アフリカのためのマッテイ計画」)で言及されているイタリアとアフリカの数か国との合意も同じ方向性を指し示している。計画を支配しているのは、アフリカ大陸で2番目に大きな石油・ガス生産者であるエニである。同社は利益の半分以上をアフリカ大陸から生み出している。しかし、コーラル・サウスから採掘されたガスは全て英国の化石燃料会社BPに販売され、主にアジア市場に輸送される計画のため、イタリアに届くのはごく一部である。したがって、新規のコーラル・ノース事業がイタリアやヨーロッパにガスを供給するため、あるいはエネルギー安全保障を確保するために使われると考える余地はない。
一方、この新事業はモザンビークにとっても有益ではない。昨年12月、モザンビーク総合政策センター(CIP)は、退任するフェリペ・ニュシ政権に、モザンビーク経済にとって重要な2つの条項を削除することで、コーラル・ノースのガス採掘に関する新契約を締結するようエニが圧力をかけたのではないかと非難した。この見解をエニは否定している。
モザンビークが直面している損失と経済的リスクは、既存のコーラル・サウスFLNGの事例から既に具体的に評価することができるが、これらの負の側面は姉妹事業であるコーラル・ノースFLNGにおいても繰り返されるだろう。本質的には、事業に関連する政府契約は企業に有利になるよう前倒しで進められているため、モザンビークは最初の数年間、収益の大半を確保できない。さらに、投資保護条項及び投資家と国との間の紛争解決(ISDS)手続では、政府が事業の収益性に影響を与える規制や財政の変更を提案した場合、エニのような投資家は補償を求める権利があると規定されている。
危険に晒される海(と漁師)
沖合でのガス採掘設備の設置は、その地域の住民にとって、漁業に関係する生計手段の喪失も意味する。新しいコーラル・ノース事業の環境影響評価(EIA)には多くの欠陥があると、モザンビークのNGOであるJustiça Ambiental! (JA!)と南アフリカの団体、南アフリカ自然正義 (South Africa Natural Justice)が昨年6月に発表した。この報告書は、海洋動植物への影響を十分に考慮しておらず、掘削の影響と必要な緩和措置の適切な評価、採掘中の原油流出とガスコンデンセートの予測、そして比較的手つかずの状態が保たれている海洋地域に、既存の施設に加えて2基目の施設を建設した際の累積的な影響について考慮していないとしている。本質的に、この環境影響評価はモザンビーク憲法の規定にも、国連海洋法条約(UNCLOS)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、パリ協定などの国際的な取り決めにも準拠していない。
モザンビークの失敗
2010年以降、アフリカで3番目の埋蔵量(2兆8千億立方メートル)を誇る天然ガスの開発が、大手化石燃料企業を惹きつけてきたが、モザンビークに経済成長や工業化はもたらされていない。それどころか、国の負債は増大し、貧困率と不平等の割合は高まっている。さらに、2017年以来カーボデルガード州では暴力的な紛争が激化しており、これは現在まで続いている。また昨年10月9日の選挙結果に対する抗議活動が続いていることとも相まって、紛争は激化している。
もしコーラル・ノースFLNGが承認されれば、モザンビークに「資源の呪い」が戻ってくるだろう。この地域で新たなガス事業が開始されても、石油・ガス大手の財源以外が潤されるという議論は今のところない。
2024年11月、モザンビークと世界各地の市民社会団体は、金融機関に対しコーラル・ノースFLNGの計画に伴うリスクを警告し、以下を求める書簡を送付した。
- コーラル・ノースFLNGへの資金提供を行わないことを公約する
- モザンビークにおける他のいかなるガス事業に対しても、直接融資を行わないことを約束する
- 銀行の融資を、地球温暖化による気温上昇を1.5℃未満に抑えるという野心的な目標に沿わせ、新たな石油・ガス開発事業に携わる企業への支援を除外する
- JOGMEC「伊Eni S.p.Aとガスセキュリティ強化及びLNG供給・調達多角化に向けた協力覚書を締結」2024年10月7日 https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_08_00053.html ↩︎
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)「イタリアがガスの脱ロシア依存へ、アルジェリアと関係強化」2023年2月3日 https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/02/d91766b48b05654d.html ↩︎