脱原発・エネルギーシフトに向けて
【開催報告】
ウクライナ取材報告会「低線量汚染地域における健康管理と保養」
12月11日、参議院議員会館にて、ウクライナの学校現場を2週間取材したOurPlanetTVの白石草さんを招いて報告会を開催しました。多くのメディア関係者、関心のある市民のほか、国会議員や厚生労働省からもご参加いただきました。
チェルノブイリ原発事故の事例を学ぶため、ウクライナの低線量汚染地域(年間0.5mSv~5mSv)での被ばく防護策や子どもたちの暮らしを取材。学校の授業時間の短縮、卒業試験・大学入試の免除や優遇制度、学校給食について紹介されました。
また、年に1度専門医による健康診断が実施され、異常が見つかれば州の診断センターで精密検査が受けられること。校医さんによれば、事故直後のようにガンで亡くなるようなケースは減っているものの、子どもたちの慢性疾患が増えていること。そのため子どもたちの健康状態に応じて、体育の授業はグループ別に行われ、なかには体育の授業が免除になる場合もあることなどが報告されました。
コロステン市(事故時は毎時10μSv超、現在毎時0.06~0.1μSv、事故後25年間の積算線量は平均15~25mSv)外来病院の小児科医や心臓疾患の専門医によれば、先天性の障害が増えており、大人も子どもも健康レベルの低下がみられ、心疾患が増えているそうです。原因がよくわからない症状も多く、現場の医師たちは悩みながら真剣に子どもたちと向き合っています。
そうした中で重視されているのが保養です。1997年の保養に関する閣議決定により、汚染地域の被災者認定された子どもには無料の保養制度があります。日数は21日間(当初は28日)で、学校の看護師などが関与し、小学3年生までは親は休暇を取り同伴します。
保養先の選定委員会があり、そこに保養情報が一元化され、委員会が子どもの健康レベルにあわせて保養先を選定します。疾患がある子どもは、学期中にも2,3回保養に行き、保養先で治療も行われます。
ウクライナでは、1986年から保養を実施していました。5月中に学校単位で避難した子どもたちは3ヶ月間、保護者が独自に避難させた場合は1年以上避難していたそうです。1986年夏には「首都キエフから子どもがひとりもいなくなった」といわれたくらいです。以来27年間、夏の間はすべての子どもたちを保養させ、今は半数くらいの子どもが参加しているそうです。
白石さんはまとめとして、次の点を強調しました。
・ウクライナでは、学校・地域が軸となり、子どもの健康管理(診断、保養など)に取り組んでいる。
・25年間の積算線量が20mSvのエリアで疾病率増加。したがって健康診断は年間1mSvではなく0.5mSvで行うべき。
・疾病が多岐にわたるため、原発事故との因果関係を証明するのは極めて困難。ただし汚染地域の居住リスクについては、どんな学者や首長も否定せず。
・移住と線量基準については意見が分かれるものの、健康診断と保養プログラムについては全ての人が重要性を指摘。
さらに取材後の所感として、100ミリ以下は安全論での政策は極めて危険、「汚染地域の居住リスク」を認めることがまず重要、汚染地域の子どもを守るためには学校を軸とすべき(学校検診の拡充は有効:我孫子市のケース、保養プログラムは国が責任持って真剣に構築すべき、保健の先生などの関与も大切)、健康診断の考え方として、触診、問診、血液検査が必須、福島県立医大頼みは危険、専門病院が必要、避難政策はコミュニティ形成と就労支援が重要、とまとめました。
●報告を聞いて―参加者からのコメント
小宮山泰子衆議院議員は、「国会議員の中には風評被害を問題視する声もあるが冷静にこういう事例を学んでいただきき、子どもたちに安心な環境を与えるのが政治の役割。現場の方々と連携していきたい」とコメントしました。
川田龍平参議院議員は、「『子ども・被災者支援法』第13条(医療・健診)をどうやってしっかりやっていくか。国会議員もまだまだ認識不足。間違った認識で、国会や国で決めていくべきものが進むというのがこれまでの経過。ぜひこういった議員の認識を皆さんと共に正していきたい」と述べました。
大森直樹東京学芸大学准教授は、教育現場からのコメントとして、「ウクライナと日本の共通点は、汚染地で多くの子どもが生活することを余儀なくされていること。違う点はどういう施策を打っていくのかという点。日本の教育界はほとんどやれていない」として、今改めて必要とされている取り組みについて提言を行い、その具体化に立場を超えて力を尽くす必要性などについて述べられました。
伊達市の宍戸仙助元校長は、「福島では保養という言葉も言えない。そこで生きるしか、暮らすしかない。だから、これ以上不安にさせないで、保養とか移動教室とかいいんです、と言うが、福島のお母さんが不安を持っていないわけではない。移動教室には素晴らしい教育的価値があり、結果的に放射性物質を減らすのに役立つ、でいいのでは。放射線量が高い地域に暮らす親子に関心と励ましを寄せて頂いていること、本当にありがとうございます」とお話されました。
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