バンコク会合
レポート
2009.10.08 | 2009.10.07 | 2009.10.05
2009.10.08 途上国における森林減少対策(REDD)に関する交渉進捗
途上国における森林減少対策の(REDD)議論では、コペンハーゲンで交渉に使われるテキストの土台となる議長テキスト案が発表されました。テキスト案の作成にはNGOも傍聴できる公開会合1回と数回の非公開会合を経て作成されました。
このテキスト案はコペンハーゲン合意の成否を大きく左右する非常に重要なものですが、実際の内容はとても憂慮すべきものとなりました。問題点は以下の3つです。
一つ目は、REDDを実施する際のドラフトに記載されていた「天然林を人工林へ転換することの防止」という予防措置(セーフガード)が、最終テキスト案からは一切削除されたこと。
REDDの目的は途上国における熱帯雨林(原生林など保護価値が最も高い森林)の減少を抑制することですが、このセーフガードの削除は、熱帯雨林を伐採して更地にし、紙パルプ生産のための単一樹種の人工林に転換することを意味します。しかも“森林面積”は減らないため、これが森林減少対策とされること、つまりREDDが骨抜きになることを意味します。
二つ目は、REDDを適切に行うためにはセーフガードが必要不可欠ですが、もとのテキスト案にあったセーフガードを「確保する」という記載が、「促進する」という弱い表現に書き換えられたこと。
途上国における森林減少の背景には、森林ガバナンスの弱さ(森林法の施行レベルの低さや森林行政の汚職・腐敗・非効率性など)が挙げられますが、森林ガバナンスの透明性の確保や熱帯雨林の転換の防止、さらには生物多様性の保護、社会的便益の向上などは、REDDを実施する上での重要なセーフガードです。これらのセーフガードの欠如はREDDのみならず森林保護政策全般において致命的です。
三つ目は、同テキスト案の作成プロセス。今回の作成作業は、既存の個々の表現は削除せず、重複箇所の整理・統合・文章量削減が目的であったにもかかわらず、セーフガードなど重要項目の削除や変更がありました。
これに対し、削除・変更部分の復活・訂正を10カ国以上の途上国やスイス・ノルウェーなど一部の先進国が改善を要求(日本は発言しませんでした)。議長は一旦その要求に応じる姿勢を示しましたが、議論を先に進めたいEUや、経済発展には大規模な森林伐採が必要だとするアフリカ諸国等により改善要求は却下され、ドラフト案が採択されてしまったのです。
コペンハーゲンのREDDにおける合意が中身のあるものとなるには、熱帯雨林を人工林へ転換するインセンティブにしっかり対処し、これを防ぐことのできる文書を作成すること、また途上国の森林ガバナンスを向上させ、持続可能な森林管理を実現させる内容とすることが必要不可欠です。
途上国の熱帯雨林の破壊的な伐採・転換が、先進国に木材や紙パルプ、農作物を供給するだけでなく、見せかけの“排出削減クレジット”を供給するような事態は、REDDにおいて絶対に避けなければなりません。
2009.10.07 気候変動資金メカニズムに関する交渉進捗
国連気候交渉において、途上国の気候変動対策を支援する資金に関する議論は、コペンハーゲン合意の鍵となる重要な要素のひとつです。
気候変動枠組条約作業部会(AWG-LCA)の下に設置された、資金について話し合うグループでは、バンコク会合2週目の初め、これまでの議論が反映され、さらに各国/グループが提案した資金メカニズム案のオプションが並ぶ新しい文書が配布されました。この中には直前に提出された米国の提案とオーストラリアの提案も含まれました。
第2週目は、特に新文書のメカニズムのオプションの部分に関して、米国とオーストラリアからの説明と、いくつものオプションに対しての各国からの意見を聞く形で議論が進められています。
G77+中国(途上国グループ)は、気候変動枠組条約の下に設置され、先進国が義務として公的資金より拠出し、新規の追加的で予測可能な資金メカニズムを提案しています。背景には、既存の気候変動資金メカニズムにおける不信感;途上国にとって資金にアクセスしづらいこと、必要とされる額が集まらないこと、途上国の意見が反映されにくいしくみであること等の問題点があります。
一方、米国提案などを含む途上国が受け入れられないと主張する提案は、GEF(Global Environment Facility)や世界銀行等既存の機関をコーディネートするようなメカニズムであったり、途上国(後発途上国を除く)を含む全世界が拠出する、公的資金と民間資金を利用した形の提案です。
日本は、明確な提案を提出していませんが、スムーズかつ迅速な資金の流れが必要であり、新規のメカニズムを構築する負担を減らし、既存の制度や機関を見直すべきだと主張しています。
会場では、時に途上国が先進国の歴史的な責任を訴えて感情的に発言する場面もありながら、途上国と先進国のそれぞれの主張が繰り返されています。
28日に開幕した気候変動枠組条約と京都議定書の特別作業部会。前回のボン会合(8月)に続き、各国の提案を含んで膨大な量となった交渉文書を絞り込む作業が進められています。
1週目前半は、主要な交渉要素に分かれたコンタクトグループごとに、どのように絞り込んでいくかを議論し、後半は文書に沿って各国の意見を取り入れながら絞り込んでいく作業に入りました。先週金曜日に行われたプレナリー(全体会議)では、気候変動枠組条約、京都議定書の下での作業の進捗状況がそれぞれ報告されました。
どのコンタクトグループにおいても、途上国と先進国の対立は膠着状態です。12月のコペンハーゲン会合まで11月にバルセロナで開催される最後の作業部会を入れても、作業期間は残り11日(2日時点)しか残されていないにも関わらず、未だ議論すべきことは山積みであると苛立ちを隠せない国もありました。
しかしながらプレナリーの翌日の土曜日には、気候変動枠組条約のほとんどのコンタクトグループでは、事務局から1週目の議論に基づいて大幅に簡素化されたノンペーパーが配布されました。2週目は、この新しいペーパーに沿っていよいよ内容の交渉が始まります。
一方、一部の先進国の京都潰しの試みにより、京都議定書は存続の危機に面しています。議長は、破壊的な気候変動影響を避けるために必要とされる削減値と先進国の掲げる削減目標値に大きな乖離があることについて強い懸念を表しました。
日本の新しい中期目標は、途上国やNGOを含む世界中から歓迎を受けました。しかしながら、本当の日本の貢献は、今後の交渉の中で評価されていくことになります。