2011年1月5日
2010年11月、サハリンのNGO「サハリン環境ウォッチ」が『よき隣人―ある抵抗運動の続く物語』 “The Good Neighbor” Or The Continuing Story of One Resistance Movement というレポートを発表、JBIC・民間銀行に提出しました。
レポートでは、サハリン南部のプリゴロドノエにあるサハリンIIのLNGプラントから半径1.2kmに位置する場所周辺で、野菜や果樹の栽培を行っている住民の状況について記しています。
>レポート(英語)はこちら[PDF]
同事業に融資を行っている国際協力銀行(JBIC)および民間銀行は、レポートで書かれているような事項について、素早く事実関係の確認を行うべきだと考えます。
以下は、レポートの要旨をFoE Japanがまとめたものです。
レポート『よき隣人―ある抵抗運動の続く物語』 要旨
・ロシア語で“Dacha(ダーチャ)”と呼ばれる菜園は、ロシアの人たちにとって重要な意味を持つ。夏の間に果物や野菜を育てることで、経済的な負担を減らせるだけでなく、都会の喧騒を離れた静かな場所でくつろぎ、家族や友人同士の交流の場を生み、農作業を通して健康やお年寄りの尊厳を回復するといった社会的・文化的な意味をも併せ持っている。
・ サハリンIIのLNGプラント操業以降、プリゴロドノエのLNGプラントから半径1.2kmに位置するDachaで、果物や野菜の収穫量が著しく減少している。LNGプラント操業との因果関係ははっきりしないものの(事業者や当局による大気サンプリング調査では許可基準値以下)、Dacha所有者は、他の諸条件に変化がないことから、収穫量減少はLNGプラントから排出される汚染物質が原因ではないかと疑っている。
・ 当初、サハリンIIの「技術・経済的フィージビリティ・スタディー」(訳注)では、汚染物質の影響を被るため居住できない地域“Sanitary Defense Zone”(衛生保護地域)が、LNGプラントから半径3.5 km以内と提案され、Dachaは影響地域であることが当局により承認された。しかしその後、衛生保護地域は半径1km以内に変更になり、Dachaは移転対象から外された。一方、衛生保護地域変更後も、事業者は調査会社に委託してDachaの査定を行い、希望する住民には補償を提供した。
・2004年6月、 事業者から、新しいDachaを与えられる(あるいは別の場所で新しいDachaを購入するための補償が与えられる)だろうと説明を受けていた住民の中には、耕作を放棄した人も多かった。このため査定が行われた時点(2006年4~6月)では、Dachaの市場価値が下がっていた可能性がある 。
2006~2007年の間、同地域の不動産価格は2~3倍に高騰し、補償の支払いが行われても(07年1月・7月)新しいDachaを買えた人はごく僅かであり、補償額だけでは足りず自費で随分賄った住民もいる。また査定額は、同地域の他の物件に比べても低く見積もられている。
・結局、この時補償を受け取った住民28人のうち、実際に新しいDachaを買うことができたのは2人だけだった。残りの住民42人のうち4人は自費でDachaを買い、元のDachaを既に離れてしまった。現在では37人のDacha所有者が、移転もしくは同等のDachaを買える補償を求めて、元の場所に残っている。
(訳注)ロシア連邦法「資本投下により実現されるロシア連邦内での投資活動について」等を根拠に、事業者が天然資源省に提出し、承認を得るもの。 |