アンモニア混焼を進める日本〜JERA石炭火力発電所の視察から(2025年版)〜

2025年11月初旬、愛知県碧南市の南部にあるJERAの碧南石炭火力発電所を視察しました。
去年に続き、今年も国内最大の石炭火力発電所の見学に参加しました。前回と大きく異なる点としては、2024年3月に予定されていた(実際に実施されたのは4月)アンモニア実証実験後の視察である事、そして2024年にリニューアルされたJERA MUSEUMが完成した点になります。
JERAが、次世代のエネルギー源として掲げる「アンモニア」の転換技術の確立に向けた取り組みが着実に進んでいることが強くアピールされていました
2024年の視察の様子はこちら https://foejapan.org/issue/staffblog/2024/02/28/staffblog-18532/
JERAによるアンモニア利用のポジティブキャンペーン
碧南石炭火力発電所の新たなランドマークとして以前の電力館から新しくリニューアルされた「JERA MUSEUM」は、アンモニア混焼やJERAの取り組みを推奨するキャンペーンの大きな役割の1つとして併設されています。体験型ミュージアムと銘打ち、巨大円型スクリーンで「ゼロエミッション2050」に関する動画が見れたり碧南火力発電所の3Dプロジェクションマッピングが展示されていました。展示ではアンモニア利用におけるメリットやビジョンを数多く紹介しています。

ビジョンシアターや3Dプロジェクションマッピングなど全てのエリアに最新の技術が至る所に採用されており、「より良い未来のために、自然のために、私達の社会のために」というポジティブイメージを色濃く出そうとしていると感じました。施設内に充実したキッズルームや絵本や本の読めるライブラリーなど設けたりと、石炭火力とは、普段関わりの少ない一般の方にもアンモニア混焼技術のクリーンなイメージを積極的に周知している様子でした。ライブラリーにも展示されていたプロ野球球団や映画館のスポンサーを務めたり、積極的に広告を打ったりと、より多くの人々にJARAの活動や名前への認知度を高めようとしているように見受けられました。
アンモニア混焼実証実験について
発電所施設の見学前に、動画をみながら係の方から説明を聞きました。JERAは「CO2を排出しないゼロエミッション火力発電」の実現に向け、アンモニアの燃焼利用に取り組んでおり、2024年の4月から6月に実施した4号機(発電出力100万kW)での燃料の20%を石炭からアンモニアに転換する実証実験を行いました。
さらに2030年代前半には50%以上の燃料を転換、2040年代には100%へと段階的に高めて行く予定であり、「CO2排出ゼロ」を目指すとしています。

(写真:実証実験に使われたアンモニアタンク)
アンモニア混焼の懸念点
燃焼時にCO2を排出しないという理由で注目されているアンモニア発電技術ですが、懸念点もあります。
まず混焼時に大量のアンモニアを必要とする点です。現在流通するアンモニアは化石資源由来のため、製造や輸送の過程で多くの温室効果ガスを排出するのにも関わらず、今回、実証実験では3万トンのアンモニアを使用したそうですが、今後燃料の20%をアンモニアに転換して商業運転する場合、年間50万トンが必要になるとのこと。現在、日本全体で消費するアンモニアの量が年間108万トンということなので、その半量にあたります。さらに現在日本で生産できるアンモニアの量は80万トン。そのため、これだけ莫大な量のアンモニアは当然、日本国内で調達できないため、海外から輸入しなければなりません。石炭もアンモニアと同様にインドネシアやオーストラリアなどの海外から輸送船で2〜3日に一回のペースで大量に輸送されています。見学の日もインドネシアから運ばれた石炭が荷揚げされている最中でした。
ちなみに、2021年世界で生産されたアンモニアの量は1億8千万トン。そのうち7割が肥料のために使われています。ほとんどが地産地消されていて、全体の1割程度しか市場で取引されていません。この約2億トンのアンモニア製造から出る排出は世界の温室効果ガス排出の1%にあたります。
混焼実験に使われたアンモニアは三井物産が海外から輸入したものです。
見学施設の展示には、Yaraといったノルウェーの肥料大手や、米国のCFインダストリーズとのパートナーシップについて説明されていました。YaraもCFインダストリーズも米国・ルイジアナで低炭素アンモニアの開発を行っています。JERAで今後燃焼されるアンモニアも米国から輸入される可能性が高いでしょう。一方、米国ではアンモニアに関連する産業事故が相次いでおり、汚染や健康被害への懸念から住民らによる反対運動も相次いでいます。(詳しくはこちら)
案内してくださった方によると、今後5号機で50%混焼の実証実験も行うそう(パンフレットによると2028年から開始予定)。
大量のアンモニアを貯蔵する為に、4万トンx4基の専用受け入れ貯蔵タンクを建設する必要があります。碧南では実際にアンモニア貯蔵専用タンクが4基建設中でした。
それの建設の為の広大な土地も必要になります。

(写真:建設中のアンモニアタンク)
必要なのは石炭火力のフェーズアウトだが…
気候危機をくい止めるため、私たちは化石燃料の利用・開発を段階的に廃止する必要があります。とくに温室効果ガスの排出量が大きい石炭火力については、廃止の動きが広まっています。
2024年にイタリアで開催されたG7気候・エネルギー・環境相会合において、石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することが合意されました。パリ協定の1.5℃目標達成のためには、本来であれば先進国は2030年までに石炭火力を廃止する必要があります。しかし日本は、今もなお電力の30%以上を石炭火力に依存しており、廃止の道筋はありません。
さらに、日本政府は、「よりクリーンで高効率・次世代型」の石炭火力発電は維持し、非効率石炭火力の早期(2030年までに)フェードアウトを進めるとしています。
その1つとして碧南石炭火力発電所のようなアンモニア混焼への転換による脱炭素化を促進させています。
一方、お隣の韓国では、石炭・アンモニア混焼計画の放棄が検討されています。
今年10月の韓国国会の気候・エネルギー・環境労働委員会で、金成煥(キム・ソンファン)気候・エネルギー・環境相が「アンモニア混焼は、炭素削減に大きく寄与する事は無く、石炭火力発電所での混焼を停止するのが正しい」と述べています。(ただし、水素と天然ガスの混焼計画については継続されるとも述べています。)
さらに11月17日には、ブラジル・ベレンで開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で、石炭火力発電の段階的廃止を目指す国際的枠組みである「脱石炭国際連盟(PPCA)」への参加を韓国政府が表明しました。アジアでは、シンガポールに続き2カ国目の加盟国となります。
韓国は、イ・ジェミョン政権が今年7月に発足し、再生可能エネルギー発電容量の拡大に一層力を入れており、政府は2040年までにすべての石炭火力発電所を段階的に廃止する方針であり、これは事実上、今後10年以降のアンモニア混焼を排除することになります。
こういった動きは、石炭火力の段階的移行戦略としてアンモニア混焼技術を維持・拡大している日本とは、明らかに対照的です。
日本は、現段階で2030年までに石炭火力で20%混焼を目指し、長期的にはアンモニア専焼技術(100%燃焼)の確保を目指すことを掲げています。
日本は2050年カーボンニュートラルを目指していますが、コスト的に難しく、ただただ従来型の火力の一時的な延命措置としての役割でしかなく、実質的に世界に取り残されている現状が浮き彫りになってきています。このまま時代に合わないアンモニア混焼技術を継続せず、化石燃料と共に段階的廃止が望ましいという思いを強くしました。
(上野森羅・深草亜悠美)