首都圏CCS事業の現場を訪問ー臨海工業地帯から九十九里へ
11月12日、FoE Japanは千葉県内の団体・市民などとともに首都圏CCS事業の現場を訪問しました。
「首都圏CCS事業」とは、日本製鉄君津製鉄所から発生するCO2を、パイプラインを通して木更津市、袖ヶ浦市、市原市、長柄町、茂原市、白子町、九十九里町と千葉県を横断して運び、九十九里町沖の海底地下に貯蔵するというものです。将来的には製鉄所だけでなく、広く京葉臨海工業地帯からCO2を回収する計画です。
事業の概要については、こちらもご覧ください(2025年8月公開記事)
千葉県を横断する大規模CCS事業が誰も知らないうちに計画中!? | 国際環境NGO FoE Japan
こちらが、CO2 パイプラインが通るルートの大まかなイメージです。
すでに詳細なルート案がありますが、説明会での配布などに限られており、ウェブサイトなどには公開されていません。

パイプラインは、私有地ではなく、すでに建設されている道路の下を通ることとなっています。全長80kmのうち、開削工法(道路下約1.2~2.0メートル深にパイプラインを埋設)が60㎞、シールド工法部分が20㎞と計画されています。
今回の訪問では、その大まかなルートといくつかのポイントを視察し、事業の全体像を把握することができました。
●日本製鉄 東日本製鉄所君津地区

「首都圏CCS事業」は、最初の段階においては、日本製鉄君津製鉄所から発生するCO2を回収することになっています。そのため、ツアーは排出源である内房の日本製鉄東日本製鉄所を対岸から眺めるところからスタートしました。
製鉄は排出対策が難しいセクターでCCSが必要だと主張されますが、CCS付き製鉄所は世界にほとんどありません。
日本製鉄は石炭をベースとした高炉に水素を注入して排出量を減らし、残りの排出をCCSなどで削減するとしています。製鉄産業の脱炭素化を働きかけるNGO「スティールウォッチ」によると、これらの方法は石炭の使用を長引かせ、本来鉄鋼メーカーが目指すべきニアゼロ・エミッションでの生産にはつながらないと指摘しています。世界的に、脱炭素のため電炉がすでに普及しており、例えば米国では鉄鋼生産の約7割を電炉が占めています。君津で分離・回収されたCO2は、ここからパイプラインを通じて外房へと運ばれることになります。
●パイプライン開削工法が行われる予定の道路

外径73センチのパイプラインは全長80km、農道や山道を通って敷設されます。
道路を必要な深さ(1.2メートル)掘ってパイプラインを敷設したら埋め戻す開削工法が約60km、パイプラインを通したい前後に立坑を設け、その間の地中に埋設していくシールド工法が約20kmと予定されています。
開削工法は、道路の片側を交通規制しながら工事します。
シールド工法は、河川や鉄道横断部など開削が不可能な場所や交通量が多い交差点等で用いられます。立坑部においては、数千㎡の広さで民有地を長期間借りて工事をするとのこと。
曲がりくねった山道の部分も多く、バスでは通れないところも多くありました。袖ヶ浦市内では一部高校の通学路を通る部分もあります。
●天然ガスとヨード採掘のまち茂原市
パイプラインが通る予定の茂原市は、天然ガスとヨードが採れる町として知られていて、道中でも天然ガスを貯める大きなタンクが散見されました。
昭和10年ごろから採掘が始まり、地域の家庭や工場などで燃料として小規模に使用されていました。昭和30年代始めには化学工業用に利用するために多くのガス井戸が掘削され、全国有数の水溶性天然ガス生産地となりました。それによって地域経済は潤いましたが、活発なガス井戸開発によって、昭和30年代後半から地盤沈下が顕在化しました。

茂原地域を中心とする九十九里南部では昭和44年から地盤沈下の観測が始まり、白子町から茂原市街地にかけては年間5cmの沈下がありました。東葛・千葉地域と比べると沈下量は小さかったものの、沈下が進む傾向にあったため、国と千葉県により昭和45年から、かん水(地下の水に溶けた状態で存在する天然ガスと、それを回収する際にくみ上げられる高濃度の塩分を含む地下水)の採取規制措置が実施されました。
しかし、その後も沈下は進み、昭和48年に千葉地域で年間20cm、九十九里地域では年間10cmを超える沈下が観測されました。これを受けて、千葉県は九十九里地域の天然ガス採取会社10社とそれぞれ「地盤沈下の防止に関する協定」を結び、以後数回に渡ってに規制の見直しなどを行ってきましたが、その影響は未だに解消されていません。

茂原市に住む東條さんは、地盤沈下が今も進行していること、またその影響によって水害が悪化する懸念をお話しくださいました。
天然ガスは、石炭よりもCO2排出量が少ないとして再生可能エネルギーが普及するまでの「繋ぎのエネルギー」として推進されていますが、化石燃料に違いはありません。ガスの主成分であるメタンは二酸化炭素の80倍以上の温室効果を持つ強力な温室効果ガスです。気候変動だけでなく、地盤沈下という形でも採掘地周辺の方々の暮らしに打撃を与えていることを痛感しました。
●海と温泉とテニスのまち白子町
白子町にはいると、道路上で測量をしていました。また少し行くと、道路工事のようなことをしているところがありました。開削工法のルートです。
看板を見るとまさに、首都圏CCS事業の「埋設物調査」の現場でした。測量もその関係でしょう。

説明会での資料によれば、ちょうど今頃、パイプライン埋設予定道路の一部を試掘して調査することになっています。
道路わきには「海と温泉とテニスの町、白子町」という看板も立っています。テニスの全国大会も開かれ、その時期には多くの人で賑わうそうです。
九十九里浜のすぐ近くで、パイプラインは直角に曲がって北上し、九十九里漁港の付近が、圧入地点となっています。
●九十九里浜
9月17日、経済産業省が九十九里沖で貯留可能性調査のための試掘事業の公募を開始しました。以下が試掘特定区域の図です。九十九里町から匝瑳市に至る範囲の沿岸地域で今後掘削が行われることになります。一度特定地域に指定されたら個別の試掘の許可を取る必要はなく、さらに選定された特定事業者は環境影響評価を行うことも義務付けられていません。

今回の訪問では、時間の関係で九十九里町まではいけなかったのですが、白子町から南に少し下った一宮町の釣ヶ崎海岸に立ち寄りました。
ここは、穏やかな白波が立ち、サーフィンが盛んな場所です。
私たちが訪問した際にも、サーフィンをしている人がいました。
この海の下にCO2を埋設?!漁業や観光、マリンスポーツ関係者への説明は、どの範囲でどのように行われているのでしょうか?

●天然ガス採掘の現場も通過して帰路へ
東京方面への帰路につく最後に、道の駅むつざわに立ち寄りました。
ここは、2019年9月に道の駅リニューアルとともに、環境共生型の住宅や温泉施設とあわせた「むつざわスマートウェルネスタウン」としてオープンしています。
千葉県産の天然ガスによるコジェネレーションや太陽光発電で電気や熱を供給しています。
また近くにガスタンクやガス井もあり、千葉県の天然ガス事業の一端を見ることができました。
同行したスタッフやボランティアからも感想をもらいました。

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袖ヶ浦市民が望む政策研究会の方々が、バスでの移動中に熱量をもって現状を伝えてくれる姿が印象に強く残っています。「黙っていると通っちゃう」という言葉通り、住民が知らぬ間に(知るすべもないまま)試掘が進み、気づいたときには着工ーーそんな状況があり得そうで、素直に怒りが湧きました。地元住民に情報が届いていないという実情や東京オリンピック2020のサーフィン会場にもなった穏やかな外房沖を目にして、さまざまな問題を抱える首都圏CCS事業に改めて強い疑問を抱きました。(総務・木次和歌)
住民への説明が不十分と言われる中、既に一部道路では工事が始まっていて驚きました。生で見、お話を伺うと実感が違い、その他いろいろな実状をも知ることができました。中身の濃い充実したツアーでした。(ボランティア・上條陽子)
首都圏CCS現地訪問ツアーに参加し、特に印象に残ったのは、このプロジェクトが十分に住民へ周知されていないことです。CCSのパイプラインは道路下を通る計画であるにもかかわらず、地域の多くの住民がその存在すら知らないという状況を知り驚きました。企業による説明会は開催されているものの、その周知は十分でなく参加者も少ないと聞き、住民理解が得られたとは言えないのではないか、と感じました。また、コストや進捗が十分に公開されていない点にも問題意識を持ちました。(インターン・中村千博)
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今回の視察では、袖ヶ浦市民が望む政策研究会のみなさんに、下見やルート選定などで多大なご協力をいただきました。富樫孝夫さんや柴崎翔平さんには、詳細な道案内や地域の案内もしていただきました。心より感謝申し上げます。
事業者による事業化判断は2027年3月に行われることになっています。
説明会では一応「事業性、収益性が見込める必要がある」との説明もありました。これほど大きな事業が、地元でもごく一部の人にしか知られていない状態で決定されることはあってはなりません。
FoE Japanでは、引き続き首都圏CCS事業について引き続きウォッチし、発信していきます。
「気候変動を考える東京湾の会」でも最新情報などを発信しています。
気候変動を考える東京湾の会 | 東京湾岸の石炭火力発電所の問題に取り組む市民グループ
(吉田明子、深草亜悠美、轟木典子)
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