バイオマス発電所視察@福岡 ~視察で感じた地域住民の力強さ~
7月5〜6日に地球・人間環境フォーラム主催の福岡県北九州市を中心としたバイオマス発電所の視察へ参加した。
現状の把握と現地の人々の意見を伺うために、計6つのバイオマス発電所の視察を行うとともに、現地でのセミナーやバイオマス発電所の撤退を求めている地域住民との会合へ参加し、住民の方からお話を伺った。
地方自治や政策が地域住民の生活にもたらす影響の大きさや住民の力強さを実感する視察となった。
(中根杏)
今回訪れたバイオマス発電所(抜粋)
発電所名 | 響灘(ひびきなだ) 火力発電所 | 苅田(かんだ) バイオマス発電所 | 田川バイオマス発電所 |
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稼働時期 | 2026年4月頃~ 現在建設中 | 稼働中 | 未定 |
出資者 | 大和ハウス工業 | レノバ 住友林業 九電みらいエナジー 三原グループ | 南国殖産 |
発電容量 | 112,000kW | 75.0MW | 1,999kW |
燃料 | 東南アジア産の 木質ペレット ※FCSやPEFC認証取得済み | ペレット:不明 PKS:インドネシア産 チップ:北部九州産 | 田川郡周辺または福岡県内で収集された未利用材 |
ストック方法 | サイロ | サイロ 屋外(PKSのみ) | チップヤード |
土地柄 | 1つ1つの工場の敷地面積が広い工場地帯 | 北九州空港近くの埋め立て地 | 田園の中 住宅地の近く |
特徴 | サイロが大きい | PKSの山が隣接 その他2つのバイオマス発電所が近くにあり | 人々の生活圏が近い 熱利用も考慮した施設設計 |
1日目
響灘火力発電所
北九州市に到着して、初めに訪ねたのは響灘火力発電所(画像①)だ。
ハウスメーカー大手の大和ハウスグループにより2026年の4月から事業が開始される予定で、従来の石炭とのバイオマス混焼のための設備からバイオマス専焼の設備へと移行すべく、現在建設中の発電所である。

5月に入職して以降、バイオマス問題についての知識を深めてきたものの、実際に発電所自体を見たことがなかったため、初めてバイオマス発電所を目にした感想は「サイロ(燃料の保管庫)の大きさが想像以上だ」ということ(画像①右側)。
日本ではサイロによる木質バイオマス燃料の保管において、火災が起こった事例もある。
それは、木質ペレットの特徴として、酸化や発酵が進むことで可燃性のガス[1]が発生してしまうことが一因として挙げられる。
上記の写真でもわかるように、サイロは縦型に長い建築物であるため、火災が一度起こるとなかなか原因である燃料を取り出すことができず、長時間燃え続けてしまう。
視察中は管理の大変さに思いを馳せながら、火災が起こった際の対応方針が明確であることに期待を寄せていた。
公開セミナー
北九州市の北部から内陸部の小倉へ戻り、実施された公開セミナー(主催:地球・人間環境フォーラム)では、林業従事者や福岡で市民運動を行っている方々など10名以上が参加し、バイオマス発電の基礎から福岡におけるバイオマス発電の現状まで多様な情報共有に加え、質疑応答を行った。

内容としては、バイオマス発電にて実際はCO2が排出されている現状や燃料生産国で起こっている天然林の伐採および加工の際の大気汚染、日本のバイオマス発電所での爆発事故などバイオマス燃料に関する多様な問題の共有があった。
質疑応答では、バイオマス発電所が日本で最多の福岡県に住んでいる一県民として、「何ができるのか」や林業従事者の方からは、現在取り組んでいる事業の説明から「今後どのようなビジネスを展開すべきか」など生活に直結する深いお話をお伺いすることができた。
また、ある林業従事者の方から、ビジネスとして利益を得ながら、どのようにして現在の顧客の悩みを解決できるかに重点を置き、よりよい地域社会の構築に貢献できるようなビジネスを展開する方法を模索しているという主旨の発言があった。
私自身は利益を追求すること自体に強い関心はないが、ビジネスのあるべき姿を直接感じることができ、その真摯な想いに胸が熱くなった。
2日目
苅田バイオマス発電所
北九州空港のすぐ近くにある苅田バイオマス発電所(画像③)。
ここは異なる企業の出資により、3つのバイオマス発電所が集まっている場所でもある。
いずれも大規模な発電所のため、敷地や発電所本体、燃料の保管庫の大きさに圧倒されたが、最も目を引いたのは発電所の向かいにあったPKS(パーム椰子殻)[2]の山だ。

このPKSの山はコンクリートの塀により視界が遮られていた(画像④)ため、全貌は見えないものの、広い敷地内に山積みに置いてあると仮定すると、2m以上の塀を追い越していることから、相当な量が集積されていることが推察できた。
この1か所でさえ、膨大な量のPKSが毎日のようにインドネシアやマレーシアから運ばれていることが見て取れたため、日本全体では想像できないほどの量のPKSが輸入されていると想像することもできた。
また、発酵により特徴的な臭いを発するPKSの山の近くに住宅地がないことに安堵するものの、雨風にさらされる状態で管理されていることから劣化しやすい状態ではあるため、PKSの山からボイラーへ運ぶまでの過程においても安全性の確保が必要不可欠であるとも考えた。

田川バイオマス発電所
工場地帯や住宅地から離れた場所に建設されていた上記2箇所のバイオマス発電所とは異なり、人々の生活圏が近くにある田園地帯に建設されていたのが、この田川バイオマス発電所(画像⑤)である。
この発電所が目と鼻の先にある星美台区区長の花石さんの案内のもと、美しい田園地帯の中に発電所が建設された経緯や現在の行政および企業の対応について解説をしていただき、建設中のバイオマス発電所を視察した。

冒頭の表で示したように、田川バイオマス発電所は熱利用の検討もしていることから、これまで見てきた発電所とは形が異なり、パイプが入り組んでいる設備が建っていた(画像⑤右上)。
また、この発電所に隣接したバイオマス燃料をストックする保管庫があり、ガレージのような造りであることが確認できた。
つまり、屋根はついているものの、雨風にさらされやすい状態での燃料の保管が予想され、木質チップの酸化や発酵による火災などの事故が起こらないように対策が必要であると感じた。
このバイオマス発電所が建設された発端として、花石さん曰く、事業者と地元の有力者により、公式な住民への情報提供がないままバイオマス発電所の建設が急速に進んだことが語られた。
さらに、発電所前の看板に記載のある問い合わせ先に連絡した際に、今後はこの問い合わせ先は使用しないように担当者から連絡があったことをはじめ、地域住民に対する企業側の不誠実な対応が何度もあったことが伝えられた。
そして、この発電所が通学路に面していることから、トラックでの燃料の輸送をはじめ、子どもたちの安全性に関して不安をぬぐえない住民もいるとのことも共有していただいた。
住民の皆さんとの会合
日本において企業の不誠実な対応が続いていることへの驚きを抱えながら、福岡視察のフィナーレとして田川の住民の皆さんとの会合へ参加した。
この会合では、上記の区長さんだけでなく、「田川バイオマス発電所を考える会」(以下考える会)のみなさんや議員の方々など約20名により、今後の方向性について様々な議論が交わされた。
この考える会は発電所に対する建設反対運動を行う組織であり、現在も月に2回行われているスタンディングを続けながら、これまで署名活動や住民説明会の開催を求める要望書の提出など、様々な活動をされている。

田川バイオマス発電所の建設における現状として、これまでバイオマス発電所の建設実績がない企業と組んだがために、正確なリスクがわからぬまま進めてしまい、誰も責任も取れない状態であることや、当初予定していた最大100名程度の雇用創出や発電所近隣にビニールハウス農園を作ることで排熱を利用可能にする計画の実現の見通しが立たず、稼働時期が未定の「建設中」で保留状態に陥ってしまっていることが整理された。
参加者共通の目的の達成に向けて、それぞれがどのように動くべきか、役割分担が明確化され、住民や議員の方々の連携に力強さを感じるとともに、NGOによる様々なアウトプット方法に関して学ぶことができた大変貴重な機会となった。
一方で、最優先されるべき、その地域を生活拠点としている住民が蔑ろにされながら、バイオマス発電所の建設が進んでしまったという事実に、バイオマス問題に関わる自分は何ができるのか、様々な住民の声を聞きながら考えていかなければならないと強く感じた。
視察を経て…
2日間、福岡に住む様々な方のお話しを伺いながら強く感じたのは、住民の地元愛の深さである。
特に、田川バイオマス発電所を案内してくださった花石さんの解説の中で、最も印象に残っている言葉がある。
「私は星美台区から見える田園風景が好きでここに家を買ったが、今ではこの通り、真ん中にバイオマス発電所が建っている。」
過去に海外で家建築のボランティア活動をした経験のある私にとって、プライバシーを守りながら、家族が安心して過ごすことができる居場所がどれだけ大切か、身をもって経験しているつもりだ。
その一方で、世界を見渡すと、政治的な理由や経済的な理由からプライバシーが確保された部屋にさえ住むことができない人々がいる。
つまり、家は誰もが確保することができるわけではない貴重な居場所であり、日本においても一生に一度の買い物である家を建てる決め手となったお気に入りの場所が失われていく経験はどれほど辛いことだろうか、想像に難くない。
また、考える会のメンバーの中には、高齢にも関わらず、安心して住むことができる田川市を取り戻すために、現在も活動に従事している旨をお話しされていた方もいらっしゃった。
それぞれの生活がある中でどれだけの時間を割いて、準備や活動に従事されてきたのだろうと考えると、自分にできることは微々たるものだと打ちのめされながらも、これからもバイオマス問題に関係する現地住民の方の声を直接聞くことで、私たちにできることを考え、実行に移していきたいと思った。
注釈
[1]Wood Pellet Association of Canada(2024), 日本バイオマス安全性ワークショップ バイオマスの取り扱いハンドリングと貯蔵:火災と爆発の防止
https://pellet.org/wp-content/uploads/2024/05/2024-japan-silo-workshop-presentation-japanese.pdf
[2]PKS(パーム椰子殻):アブラヤシの実から油(いわゆるパーム油)を搾取した後の種の殻を乾燥させたもの(以下画像参照)
